学位論文要旨



No 115722
著者(漢字) 朴,南燮
著者(英字)
著者(カナ) パク,ナムソブ
標題(和) ダイナミックサブグリッドG方程式火炎片モデルによる乱流予混合燃焼流れのLESに関する研究
標題(洋) STUDY FOR LES OF TURBULENT PREMIXED COMBUSTIONFLOWS BY USING DYNAMIC SUBGRID G-EQUATION FLAMELET MODELS
報告番号 115722
報告番号 甲15722
学位授与日 2000.11.16
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4820号
研究科 工学系研究科
専攻 機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小林,敏雄
 東京大学 教授 松本,洋一郎
 東京大学 教授 荒川,忠一
 東京大学 助教授 加藤,千幸
 東京大学 助教授 谷口,伸行
内容要旨 要旨を表示する

 乱流予混合燃焼の解析は,高効率燃焼器の開発において非常に重要である.環境保存の観点から,ガスタービン燃焼器の低NOx化が進められている.その方法として希薄予混合燃焼方式が採られることが多い.乱流燃焼場を数値解析する場合,解法の選択肢としてDNS、LES、RANSが挙げられる.しかし,DNSは比較的簡単な燃焼場に限定されており,工学上重要な実用燃焼機器内の高レイノルズ数流れ場における燃焼の非定常挙動を解明するには,現在の計算機の能力を考慮するとLESが最適と思われる.また,実用燃焼器内の予混合乱流燃焼LESに適用可能な燃焼モデルとしては火炎片モデルに基づき火炎面の伝播を表すG方程式が挙げられる.最近ではG方程式のLESにおける高精度なモデルとしてダイナミックサブグリッド燃焼モデルが提案されているが,まだ複雑な実用燃焼場には適用されていない.このような背景から本研究では,ダイナミックサブグリッドG方程式モデルを用いた実用燃焼器内の乱流予混合燃焼流れのLESにおける適切な燃焼モデルの検証と開発を目的としている.

 予混合燃焼には,火炎面がそれに垂直な方向に伝播していくという性質があり,この特性は次のG方程式によって表現できる.(Kersteinら,1988)

 反応進行度Gは0から1の範囲の値で,G=0が未燃気体,G=1が既燃気体を表わす.式(1)の右辺は,火炎面に垂直な方向に火炎が伝播することを示しており,その伝播速度は層流燃焼速度SLである.

 乱流燃焼場をLESによって近似的に解析する際には火炎伝播項に対して乱れの影響を適切にモデリングする必要がある.すなわち,LESでは乱流変動によって細かくしわ状になった火炎面を空間平均により滑らかに近似するため火炎面の見かけの面積が減少し,G方程式においてはフィルター操作を施した|∇G|が過小に評価される.その効果は,たとえば,次のようにサブグリッド・スケールの乱流火炎速度,STを導入し,フィルターを施した式で表現することができる.(Menon1996)

ここで, u'はサブグリッドスケール(SGS)変動速度の二乗平均,α,nはモデル係数であり,モデリングする必要がある.しかし,現状のST(u')に関する理論解析と実験データは必ずしも一致せずSTにおける普遍的なモデルが求められていない.そのなか最近ではImら(1997)よって燃焼場におけるモデル係数を動的に決定するダイナミックSGS燃焼モデルが提案されている.

 本研究ではまずチャンネル内予混合乱流燃焼流れにおいてダイナミックサブグリッド燃焼モデルを適用して数値解析を行うことでそのモデルの有効性について検討している.また実用燃焼器内の複雑な乱流予混合燃焼流れのLESに対するダイナミックSGS燃焼モデルの適用可能性を検証するのため保炎器廻りとバックステップ背後の流れにおいて安定化された予混合燃焼流れのLES解析を行い,実験結果と比較することでそのモデルの有効性を確認した.

 チャンネル内予混合乱流燃焼流れに対する燃焼モデルの有効性については,予測された乱流火炎速度を燃焼反応速度にアレニウス型モデルを用いたBruneauxのDNSの計算結果と比較することで示す.シミュレーション結果より,従来のG方程式における研究ではcuspsによる数値的な不安定さが問題視されたが,LESにおいてはG方程式のSGSフラックスがcusps問題を抑制する効果があることがわかった.

 保炎器廻りの予混合燃焼流れのLES解析では,Sjunessonによるチャンネル内三角柱形状の保炎器により安定化された予混合火炎の実験体系を解析対象とする.入口から流速40[m/s],温度600[k],当量比0.6のプロパン,空気予混合気体が供給される.レイノルズ数は31,300である.本研究では低Mach数近似を施した質量保存式,運動量保存式,エネルギー保存式および火炎伝播を表わすG方程式を用いる.基礎変数のフィルタリングにはFavre平均を用いている.LESにおけるG方程式は次式となる。

 (4)式を解析するには右辺のSGSスカラー流束γjSGSとSL|∇G|はモデリングしなければならない.G方程式の火炎伝播項SL|∇G|に対しては、Imのサブグリッド・スケールモデルを用いて以下の定式を与えている.

 ここで、nはモデル係数で,本計算では1とした.qとQはグリッドフィルターとテストフィルターにおける各々のサブグリッド・スケール乱流強度である.ただし,()はテストフィルターを示す.

 (6)式を用いた乱流予混合燃焼場のLES解析では,サブグリッド・スケールの乱流火炎速度を求める時にサブグリッド・スケールの乱流強度をモデリングする必要があり,ImはBardinaのスケール相似モデルを用いて与えている.しかし,そのスケール相似モデルは実用燃焼器内燃焼LESに有効ではあるが,高解像度な格子分割が必要とされることから,より普遍的な乱流火炎速度モデルが望ましいと思われる.そして,本研究ではサブグリッド・スケール乱流強度を用いる代わりに層流火炎厚みとサブグリッド乱流拡散を導入して物理的な導出がより容易な新たな乱流火炎速度モデルを提案し,さらにそのモデルの保炎器廻の予混合燃焼流れへの有効性を確認している.その新たな乱流火炎速度モデルは以下の定式を与えている.

ここで,lFは層流火炎厚み,D、sgs、はサブグリッド乱流拡散で,本研究ではD sgs 〜Δ2|S|としてモデル化する.指数m=0.5とした.

 計算条件に関しては,計算コードはデカルト座標系にstaggered格子を用いて,対流項と拡散項の空間差分に2次精度中心差分,時間差分には2次精度Adams-Bashforthスキームを用いた.圧力の解法にはHSMAC法を用いた.計算格子数は25h×3h×1.2h(保炎器の高さh=0.04m)の解析領域に対して120×60×16の格子点を用いた.壁面近傍ではspalding則による人工的壁面速度境界条件を採用した.流出部では対流流出境界条件,スパン方向には周期境界条件を用いた.解析は,Imの燃焼モデルを用いた検証計算においては乱流モデルにおけるモデル係数Csを0.1,0.18として与えた場合とダイナミックモデルで求めたの場合の3ケースに対して行った.また,新たなSGS燃焼モデルの検証計算においては乱流モデルにダイナミックモデルを適用して計算を行った.その結果として以下のような知見を得た.

 (1)両方のダイナミックサブグリッド燃焼モデルは温度および速度分布をよく再現しており、実用燃焼器内燃焼LESにおける燃焼モデルとして,定性的,定量的に有効であることを確認した.

 (2)ダイナミックに計算された燃焼モデル係数は火炎面上で一定な値に収束し,燃焼モデル係数における不安定性の問題は無かった.

 (3)流れ場解析に関しては、本計算でのダイナミックモデルによるモデル係数はブラフボデイ下流で0.18〜0.2程度であることから非燃焼せん断流で従来推奨される0.1〜0.12より大きく評価するのが望ましいと考えられる.

 バックステップ流れにおける予混合燃焼流れのLES解析では,Pitzら(1983)による実験体系を解析対象とする.入口から流速13.3[m/s],温度293[K],当量比0.57のプロパン,空気予混合気体が供給される.出口圧力は0.1[MPa]である.レイノルズ数は22,100である.計算格子は12.24h×2h×2h(ステップの高さh=0.0254m)の解析領域に対して251×52×20の格子点を用いた.壁面近傍でno-slip条件を用いた.解析は非燃焼の場合と燃焼の場合のそれぞれに対するLES計算を行い,両方の流れの構造を比較した.解析結果では速度および乱流強度分布また燃焼場での温度分布等が実験結果をよく再現し,バックステップ流れにおける乱流予混合火炎の構造を捕えることができた.

 一方、乱流予混合火炎の構造を定量的に表わすものとして、近年フラクタル次元が実験的に評価され、乱流予混合火炎構造が明らかにされつつある。本研究では、LES燃焼モデルに乱流予混合火炎のもつフラクタル特性を導入した燃焼モデルを評価することをもうひとつの研究目的とする。Gouldin(1987)は、乱流火炎のフラクタル特性を応用して、乱流燃焼速度のフラクタルモデルを提案している。Gouldinのモデルでは、フラクトル上限スケールを乱流積分スケール、フラクタル下限値をKolmogrovスケールとして与えている。しかし、LES版のフラクタルモデルにおいてはフラクタル下限スケールが未知である。本研究ではフラクタル下限スケールをLESにおいてモデリングしたKolmogrovスケールとして表現し、それに伴うモデル定数を動的に決定するダイナミックSGSフラクタルモデル提案する。モデルの評価は、保炎器廻りの予混合燃焼流れに対するLES検証計算を行い、そのモデルの有効性を確認した。

 本研究では,実用燃焼器内の乱流予混合燃焼LESに適した燃焼モデルの評価と開発を目的とし,G方程式燃焼モデルによる乱流予混合燃焼流れのLESは実用燃焼器内の燃焼流れの解析に有効な手法であることを示した.2つのタイプの燃焼モデル,Imのモデルとフラクタルモデルを検証及びその改良を行った.Imのモデルに対しては,物理的な導出がより容易なモデルを提案し,フラクタルモデルに対しては,フラクタル下限スケールをダイナミックに決定するモデル提案し,その有効性を示した.LESにおける乱流火炎速度の決定にモデル定数を動的に算出するダイナミックモデルを適用した.本研究で用いたLES解析手法は、実用燃焼器内の予混合燃焼流れの数値解析に有効であると考えられる.

Figure. Snapshots of predicted instantaneous temperature distribution by LES (a) turbulent prmixed flame around bluff bady (b) turbulent premixed flame over backward-facing step

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「STUDY FOR LES OF TURBULENT PREMIXED COMBUSTION FLOWS BY USING DYNAMIC SUBGRID G-EQUATION FLAMELET MODELS(ダイナミックサブグリッドG方程式火炎片モデルによる乱流予混合燃焼流れの LES に関する研究)」と題して,実用燃焼器内の乱流予混合燃焼流れへのLarge Eddy Simulation(LES)の適用を考慮したG方程式火炎片モデルにおけるダイナミックサブグリッド燃焼モデルの検証と開発を行い,保炎器廻りとバックステップ背後の安定化された乱流予混合燃焼流れに適用してその有効性を検討したものである.

第1章では研究の動機,背景および目的が述べられている.ここで論文提出者は,乱流予混合燃焼手法が確立されていない現状を認識し,G方程式火炎片モデルを用いたLESに着目して燃焼場におけるモデル係数を動的に決定するダイナミックサブグリッド燃焼モデルによる解析手法を確立することの重要性を指摘している.

第2章では乱流予混合におけるflamelet(火炎片)モデルの概念について言及するとともに,それに基づき火炎面の伝播を表すG方程式燃焼モデルについての概要が述べられている.

第3章では燃焼流れの解析における支配方程式の定式化と乱流予混合燃焼流れのLESによる定式化について論じている.乱流場の解析において,非圧縮性流れのLESにおけるサブグリッド渦粘性モデルが低Mach数近似をほどこした燃焼流れ解析に適用できることを指摘し,ダイナミックサブグリッドモデルの定式化を行うとともに,G方程式燃焼モデルのダイナミックサブグリッドモデルの導出過程について言及している.

第4章では,燃焼LESにおける高精度なモデルとしてダイナミックサブグリッド燃焼モデルが未だ複雑な実用燃焼場には適用されていないことに着目し,チャンネル内予混合乱流燃焼流れにおいてダイナミックサブグリッド燃焼モデルを適用して数値解析を行うことでそのモデルの有効性について検討している.その有効性については,予測された乱流火炎速度を燃焼反応速度にアレニウス型モデルを用いたBruneauxの直接シミュレーションの計算結果と比較することで示している.この時,サブグリッドモデルに含まれるモデル係数の決定については,ダイナミックサブグリッドモデルを応用することで,LES解析手法の複雑な乱流燃焼場への適用性を高めている.従来のG方程式における研究ではcuspsによる数値的な不安定さが問題視されたが,論文提出者は,LESにおいてはG方程式のサブグリッドフラックスがcusps問題を抑制する効果があることを併せて確認している.第5章では,複雑な乱流予混合燃焼流れへのダイナミックサブグリッド燃焼モデルの適用可能性を広げるため,保炎器廻りの予混合燃焼流れのLES解析を行い,実験結果との比較をすることでそのモデルの有効性を確認している.さらに,論文提出者は,Imのダイナミックサブグリッド燃焼モデルおけるサブグリッド・スケール乱流強度のモデリングに採用されたスケール相似モデルは実用燃焼器内燃焼LESに有効ではあるが,高解像度な格子分割が必要とされることから,より普遍的な乱流火炎速度モデルの提案が望まれることを指摘している.そして,サブグリッド・スケール乱流強度を用いる代わりに層流火炎厚みとサブグリッド乱流拡散を導入して,物理的な導出がより容易な新たな乱流火炎速度モデルを提案し,さらにそのモデルの保炎器廻り予混合燃焼流れへの有効性を確認している.また,燃焼流れのLESでは,サブグリッドモデル定数値の局所性が顕著であるのでダイナミックモデルが有効であることを指摘している.

第6章では,バックステップの背後の流れにおいて安定化された乱流予混合燃焼流れに対してダイナミックサブグリッドG方程式燃焼モデルを適用して実験結果と比較することでの有効性を再確認している.

第7章では,乱流予混合火炎の構造を定量的に表わすものとして,フラクタル次元と乱流予混合火炎構造の関連性が明らかにされつつあることに着目し,LES燃焼モデルに乱流予混合火炎の持つフラクタル特性を導入した燃焼モデルを提案している.論文提出者は,乱流燃焼のLESにおいてフラクタル特性を用いる場合は格子スケール以下のフラクタル下限スケールを決定する必要があり,それに対する適正な評価はまだ存在しないことを指摘し,ダイナミックモデルの考え方をしわ状層流火炎のフラクタルモデルに導入してフラクタル下限スケールを動的に評価するダイナミックサブグリッドフラクタル火炎片モデルを提案し,保炎器廻りの予混合燃焼流れに適用することによってそのモデルの有効性を確認している.

第8章においては全体の結論が述べられている.

以上を要約すると,本研究は,提案したダイナミックサブグリッドG方程式火炎片モデルが乱流予混合燃焼LESにおいて有効であることを示している.このモデルを用いたLES解析により実用燃焼器内の乱流予混合燃焼場における流動,燃焼に関して多くの知見を与えており,工学の進展に寄与するところが大きい.したがって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格であると認められる.

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