No | 115732 | |
著者(漢字) | 松原,麻理 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | マツバラ,マリ | |
標題(和) | 自己末梢血幹細胞移植における予測指標の検討 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 115732 | |
報告番号 | 甲15732 | |
学位授与日 | 2000.12.20 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第1685号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 内科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1. 研究の背景と目的 同種骨髄移植が本格的に臨床応用された1970年以降,難治性血液疾患等に対する治療成績も飛躍的に伸びていったが,最近になると造血幹細胞収集源は必ずしも骨髄に求めずとも良いことが判ってきた。すなわち,ある条件下において造血幹細胞が末梢血からでも十分採取し得ること,さらに臍帯血にも豊富に存在することが明らかになり,これらの異なった起源の造血幹細胞を用いた移植治療が既に国内外にて行われ一定の成果を上げつつある。 1980年代後半に臨床応用が開始された自己末梢血幹細胞移植;auto-PBSCT (peripheral blood stem cells transplantation)は自家骨髄移植に比べ,移植後の造血回復が速やかで移植関連死率が低いことなどの利点から1990年代に入り急速に普及してきている。しかし移植に先立つ末梢血幹細胞採取において,未だ採取時期および量を予測する適切な指標がないという問題点が残っている。末梢血中CD34陽性細胞数が理想的な指標とされているものの,採取開始時期を即断をしなければならないこと,測定に必要なフローサイトメーターの再現性の問題等から実地臨床上活用が困難で,代わりに白血球数を幹細胞の採取開始指標としている施設が多い。ただし白血球数を指標とした場合幹細胞量の予測までは困難なため,アフェレーシスを行っても目標値に届かないケースも多い。 本研究の目的は,PBSCH(peripheral blood stem cells harvest)における末梢血幹細胞の産生能を,アフェレーシス開始以前に簡便に推測するシステムの確立である。そこで私は,特にPBSCH以前の末梢血血算データに着目し採取液CD34陽性細胞量との相関関係を統計解析することで,一般で日常的に行われている末梢血血算データからPBSC採取の指標を導くことができるかを検討した。 一方,移植後の造血回復の速さは患者の生命予後を左右する大きな要因である。顆粒球数回復時間については移植されるCD34陽性細胞量と相関関係があるという見解でほぼ一致しているが,血小板数の回復時間については未だ統一的見解が得られていない。本研究ではこの血小板数回復時間の予測指標を検討するため,PBSC採取液を用いた巨核球コロニーアッセイを行い,血小板数の回復までの時間との相関についても解析を行った。 2. 研究材料・方法 I. 対象症例 東京大学医学部附属病院における自己末梢血幹細胞移植併用大量化学療法目的の症例47名。化学療法後の造血回復期にPBSCを動員,採取した症例全てとし,病名,治療歴,年齢等の違いは問わないものとした。 II. 末梢血幹細胞採取(アフェレーシス)方法 無菌治療部,輸血部,主治医三者間合意のプロトコールにより,各疾患ごとの治療計画に基づいた化学療法後の造血機能回復期に(対象者に対してはG-CSF併用投与),PBSCが採取された。PBSC採取はnadir経過後,G-CSF併用の場合末梢血白血球数が5000ないし8000/μlまで回復した時点で,G-CSF併用しない症例では末梢血白血球数が1000/μlを超えた時点で開始され,原則として2日ないし4日間連日実施された。CD34陽性細胞採取目標値は1-2×108/kgBW以上とされた。 III. 採取検体の評価 採取された末梢血単核球中の造血幹/前駆細胞の評価については,フローサイトメトリー法によってCD34陽性細胞数が測定され,PBSC採取数とされた。具体的には大塚アッセイ研究所に対し,PBSC検体中CD34陽性細胞数の測定が依頼された。なお,検体使用にあたっては各症例とも文書にて同意を得た。 IV. 迅速・簡便な末梢血中造血幹細胞数モニター法の試み 以下に掲げた各指標およびPBSC検体中CD34陽性細胞数との相関を調べた。 i ) 単純白血球数;アフェレーシス施行当日早朝の白血球数。 ii) 当日白血球数/前日白血球数;アフェレーシス時の白血球数の増加率を表わす指標として設定し,便宜上<βvalue>と名付けた。 iii) (当日自血球数/前日白血球数)×当日白血球数;白血球数の増加率に総白血球数を加味した指標で,便宜上<αvalue>と名付けた。 iv) Left Shift index(LSindex)<末梢血自血球分画のスコアー化> アフェレーシス時の末梢血白血球分画において,左方移動の度合が強いほど動員されるCD34陽性細胞数が多い,との仮説の元にスコアー化を試みた。すなわち,分画の成熟度により係数を決め,各分画百分比率(%)に掛け合わせた値の総和を求めLeft Shif tindexと名付けることとした。 またLeft Shift indexに関しては,ROC曲線:receiver operating characteristic curve受診者動作特性曲線を描き,アフェレーシス施行の是非に対するcut-off pointの設定も試みた。 V. 巨核球コロニーアッセイ法 凍結保存されたPBSC検体を使い,rhTPOを加えたメチルセルロース半流動培地による巨核球コロニーアッセイ法を行った。 VI. PBSC採取検体中の巨核球コロニー数との相関関係の有無について以下に掲げた各指標との相関を調べた。 i ) 単純血小板数;アフェレーシス施行当日早朝の血小板数 ii) PBsc検体中CD34陽性細胞数 iii) 移植後血小板数回復日数;PBSCT開始日をday0とし血小板数が輸血なしに50×109/μ以上になるまでの日数 3. 結果 I. 対象症例 総症例数47例(男33例,女14例),年齢中央値39(15-63)歳であった。うち33症例は化学療法後1から4日目までのアフェレーシスにて目標とするCD34陽性細胞量が得られたが,14症例は目標値に達しなかった。 II. アフェレーシス開始以前に末梢血幹細胞の採取量を簡便に推測する方法 i ) 単純白血球数;PBSC検体中CD34陽性細胞数との間に相関関係はみられなかった。 ii) βvalue;PBSC検体中CD34陽性細胞数と正の弱い相関関係が認められた(r=0.39,P<0.0001)。各症例初日に限るとかなりの相関が認められた(r=0.50,P=0.0001)。 iii) αvalue;PBSC検体中CD34陽性細胞数と正の弱い相関関係が認められた(r=0.31,P=0.0010)。各症例初日に限るとかなりの相関が認められた(r=0.52,P=0.0002)。 iv) Left Shift index;LSindex係数設定に関する検討の結果,各分画に対する係数はmyeloblast;10, promyelocyte;8, myelocyte;6, metamyelocyte;4, stab;2, seg;0が最適と考えられ,CD34陽性細胞数と正の強い相関関係が認められた(r=0.77,P<0.0001)。迅速な造血回復に必要とされるCD34陽性細胞数1ないし2×106/kgBWを1日ないし4日で割った値である0.25×106, 0.5x106, 1.0×106/kgBWの3通りの値を,1回のアフェレーシスにて採取されるCD34陽性細胞数の目標量として設定しROC曲線を描くと,いずれの採取目標値においてもcut-off値が<50>となった。なお各目標値に対するcut-off値での感度は各々58.9%,76.7%,93.8%,特異度は95.7%,100%,93.5%であった。 III. PBSC採取検体中の巨核球コロニー数の臨床的意義の検討 1) 巨核球コロニーの形成 rhTPO希釈濃度系列アッセイでは0-10ng/mlの範囲で濃度依存性にCFU-MK数および大きさが増加し10ng/mlでplateauに達した。 2) PBSC採取検体中巨核球コロニー数との相関関係の有無について i) 単純血小板数;相関は認められなかった。 ii) PBSC検体中CD34陽性細胞数;強い相関関係が認められた(r=0.90,P<0.0001)。 iii) 移植後血小板数回復日数;強い相関関係が認められた(r=0.74,P=0.091)。 4. 考察 本研究では迅速かつ簡便に末梢血中の造血幹細胞数を予測する方法の検討を行った。まず「アフェレーシス時の白血球数の増加率が大きいほど誘導されるCD34陽性細胞の割合が高い」という仮説を,αvalue,βvalueという指標を用い検証した。さらにPBSC液中CD34陽性細胞量は白血球分画と強い相関関係にある可能性に着目し,分画をスコアー化した<Left Shift index>という指標を提案した。αvalue,βvalueも採取されたCD34陽性細胞数との弱い相関がみられたものの,LSindexにおいては強い正の相関関係を示した。このLSindexを用いることにより幹細胞採取量の予測が可能となり,さらにcut-off値(今回の検討では50)を設定することで簡便に採取時期および是非をも決定できるものと考えられる。これまでCD34陽性細胞採取量を予測する簡便な指標は報告されておらず,本研究におけるLSindexは臨床上極めて有用な指標となる可能性が強く示唆された。 また移植関連死にかかわる重大な原因の一つである血小板抑制からの回復に関しても,これまで定まった指標は報告されていない。本研究で行った巨核球コロニーアッセイは移植後血小板数回復時間と相関が認められ,移植患者の予後を予測する因子として臨床上有用となる可能性が示されたが,より適切な指標の設定は今後の課題である。 | |
審査要旨 | 本研究は,主として大量抗癌剤治療後の造血障害の軽減目的に近年急速に普及してきている自己末梢血造血幹細胞移植において,特に問題となる幹細胞採取および移植後の造血回復に関し, 1) アフェレーシス開始前に,末梢血幹細胞の産生能を簡便に推測する方法(特に末梢血血球分画に着目) 2) 移植後の血小板数回復の予測指標としての巨核球コロニーアッセイの検討を行ったもので,下記の結果を得ている。 1)-1. 末梢血白血球数,単球数,網赤血球数,血小板数は採取CD34陽性細胞数との相関は認められなかった。 1)-2. アフェレーシス時の白血球数の増加率を考慮して設定した,当日白血球数/前日白血球数,および(当日白血球数/前日白血球数)×当日白血球数は,採取CD34陽性細胞数とかなりの相関が認められた。 1)-3. 末梢血白血球分画に注目し,構成細胞が幼若であるほど動員されるCD34陽性細胞が多いとの仮定のもとに各分画に係数を設定,スコアー化を行いLeft Shift lndex(LSindex)と名付けた。各分画の係数設定については、相関・簡便さ・cut-off値の設定などの点を考慮し,係数をmyeloblast;10, promyelocyte;8, myelocyte;6, metamyelocyte;4, stab;2, seg;0とした。結果、LSindexと採取CD34陽性細胞数間には正の強い相関が認められた。またcut-off値を50とした場合、特異度,陽性反応的中度がそれぞれ90%、100%となり、幹細胞採取時期の決定に極めて有用な指標となる可能性が示された。 2)-1. 末梢血幹細胞採取液による巨核球コロニーアッセイでは,サイトカインとしてrhTPOのみを用いた場合、バックグラウンドが小さく、また濃度依存性にコロニーの形成数が増加した。 2)-2. 末梢血幹細胞採取液による巨核球コロニーアッセイでの巨核球コロニー数は採取液中CD34陽性細胞数と強い相関関係が認められ,これらはともに移植後血小板数が回復するまでの日数と強い相関が認められた。 以上,本論文は自己末梢血造血幹細胞移植における幹細胞の採取量の新たなる予測指標として,末梢血白血球分画に着目したLeft Shift Indexを提案した。これまで多くの施設では採取の指標として末梢血白血球数が用いられており,幹細胞採取の予測には不十分であったが,LeftShiftIndexにより無用なアフェレーシスを回避できる可能性がある。実地臨床において極めて有用な指標となりうるものと考えられ,学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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