学位論文要旨



No 115738
著者(漢字)
著者(英字) JABLONSKI,MARK,KENNETH
著者(カナ) ジャボロンスキー,マーク,ケンネス
標題(和) 超局速光ファイバ伝送システムにおける三次分散補償用複合共振器オールパスフィルタの研究
標題(洋) The Realization of Allpass Filters for Third-Order Dispersion Compensation in Ultra-Fast Optical Fiber Transmission Systems
報告番号 115738
報告番号 甲15738
学位授与日 2001.01.18
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4826号
研究科 工学系研究科
専攻 電子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 菊池,和朗
 東京大学 教授 保立,和夫
 東京大学 教授 中野,義昭
 東京大学 助教授 土屋,昌弘
 東京大学 助教授 山下,真司
 東京大学 助教授 多久島,裕一
内容要旨 要旨を表示する

 超高速光ファイバ伝送システムでは、光ファイバの三次分散と非線形効果の相互作用が伝送性能を劣化させる最大の要因となる。ビットレートと伝送距離を現在の限界を越えて大きくするためにには、光ファイバの三次分散補償を行うためのデバイス開発が必須である。この目的のために、本論文では、光ファイバの三次分散を補償するためのデバイスとしてLOTADEと呼ぶ複合共振器オールパスフィルタを提案し、素子の設計法を確立するとともに、素子の試作、評価によりその有効性を実証している。

 まず序論では、超高速光ファイバ伝送システムにおける三次分散の影響について述べたのち、これまで提案されている三次分散補償デバイスのまとめを行っている。次ぎに第2章では、これらを比較することにより、複合共振器型オールパスフィルタが三次分散補償デバイスとして優位性を持ち得ることを指摘している。さらに、オールパスフィルタを用いたフィルタの設計法の概要と、これまで報告されている二次分散補償用デバイスとしてのオールパスフィルタの応用例について述べている。

 第3章では、三次分散の補償を目的とした複合共振器オールパスフィルタの設計法について述べている。補償帯域が与えられた時、三次分散補償量を最大にするためのアルゴリズムを開発し、具体的な素子設計を行った。このフィルタを用いて光ファイバの三次分散と逆の符号の三次分散を発生できること、複合共振器構造を用いることにより分散補償量を大きく増大できることが示された。さらに設計された複合共振器構造を、SiO2とTa2O5の1/4波長膜で近似的に実現する方法を明らかにした。

 第4章では、複合共振器構造をSiO2とTa2O5の1/4波長膜で実現した場合、作製誤差がフィルタの特性にどのような影響を与えるかを明確化した。さらに、作製誤差の影響を最も受けにくい共振器構造を提案し、設計されたデバイスの作製が現在の薄膜形成技術により可能であるとの見通しを得た。この解析に基づいて次章以降のデバイス試作を行った。

 第5章では、誘電体多層膜バンドパスフィルタと全反射ミラーから構成される二重共振器型オールパスフィルタを用いて、三次分散補償の原理確認を行った。測定された分散特性は設計とよく一致し、三次分散補償デバイスとしての複合共振器型オールパスフィルタの有効性が示された。三次分散補償帯域は1.2nmから3.6nmまで可変であり、この時分散量は-15.5ps3から-2.0ps3まで変化した。また、中心波長も8nmにわたって可変であった。

 第6章では、二重共振器構造をすべてSiO2とTa2O5の1/4波長膜で実現したデバイス(Layered Optical Thin Film All pass Dispersion Equalizer:LOTADE)の試作結果について述べている。3章の設計に基づき、三次分散量1ps3、帯域3nmのLOTADEの試作に成功した。さらにこの三次分散補償デバイスを用いて、波長1.55μm、パルス幅1.6psの光パルスを、分散シフトファイバ60kmにわたって伝送させることに成功し、三次分散補償デバイスとしての有効性が実証された。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は「The Realization of Allpass Filters for Third-Order Dispersion Compensation in Ultra-Fast Optical Fiber Transmission Systems(超高速光ファイバ伝送システムにおける三次分散補償用複合共振器オールパスフィルタの研究)」と題し、英文で執筆され、7章からなる。

 光ファイバ伝送システムにおける波長チャンネルあたりの符号伝送速度は、近年上昇の一途をたどっている。すでに40Gbpsのシステムが実用化に近づき、160Gbpsのシステムの検討が開始されている。このような超高速光ファイバ伝送システムでは、光ファイバの三次分散と非線形効果の相互作用が伝送性能を劣化させる最大の要因となるため、伝送路中で光ファイバの三次分散を周期的に補償することが必要である。この目的のために、本論文では、光ファイバの三次分散を補償するためのデバイスとして複合共振器オールパスフィルタを提案し、素子の設計法を確立するとともに、素子の試作、評価によりその有効性を実証している。

 第1章は序論であり、超高速光ファイバ伝送システムにおける三次分散補償の重要性について述べたのち、これまで提案されている三次分散補償デバイスのまとめを行っている。

 第2章は「Basic theory and existing applications of allpass filter structures」と題し、オールパスフィルタを用いたフィルタの設計法の概要と、これまで報告されている二次分散補償用デバイスとしてのオールパスフィルタの応用例について述べている。

 第3章は「Coupled-cavity allpass TOD compensation design theory」と題し、三次分散の補償を目的とした複合共振器オールパスフィルタの設計法について述べている。補償帯域が与えられた時、三次分散補償量を最大にするためのアルゴリズムを開発し、具体的な素子設計を行った。このフィルタを用いて光ファイバの三次分散と逆の符号の三次分散を発生できること、複合共振器構造を用いることにより分散補償量を大きく増大できることが示された。さらに設計された複合共振器構造を、SiO2とTa2O5の1/4波長膜で近似的に実現する方法を明らかにした。

 第4章は「Layer error analysis」と題し、複合共振器構造をSiO2とTa2O5の1/4波長膜で実現した場合、作製誤差がフィルタの特性にどのような影響を与えるかを明確化した。さらに、作製誤差の影響を最も受けにくい共振器構造を提案し、この解析に基づいて次章以降のデバイス試作を行った。

 第5章は「CCAP filter experimental verification」と題し、誘電体多層膜バンドパスフィルタと全反射ミラーから構成される二重共振器型オールパスフィルタを用いて、三次分散補償の原理確認を行った。測定された分散特性は設計とよく一致し、三次分散補償デバイスとしての複合共振器型オールパスフィルタの有効性が示された。

 第6章は「Practical realization: LOTADE」と題し、二重共振器構造をすべてSiO2とTa205の1/4波長膜で実現したデバイス(Layered Optical Thin Film Allpass Dispersion Equalizer: LOTADE)の試作結果について述べている。3章の設計に基づき、三次分散量1ps3、帯域3nmのLOTADEの試作に成功した。さらにこの三次分散補償デバイスを用いて、波長1.55μm、パルス幅1.6psの光パルスを、分散シフトファイバ60kmにわたって伝送させることに成功し、三次分散補償デバイスとしての有効性が実証された。

 第7章は本論文の結論である。

 以上のように本研究では、超高速光ファイバ伝送システムの伝送性能を劣化させる主要因となる光ファイバの三次分散を補償するデバイスとして、複合共振器オールパスフィルタを提案した。フィルタの設計法を確立するとともに、誘電体多層膜を用いてフィルタの試作を行い、光パルス伝送実験によってその有効性を実証した。本論文は、将来の超高速光ファイバ伝送技術に大きく寄与すると考えられ、電子工学への貢献が大きい。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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