学位論文要旨



No 115741
著者(漢字) 郭,黎莎
著者(英字)
著者(カナ) カク,リサ
標題(和) 低酸素下肺血管循環に対するheme oxygenaseの役割について : 遺伝子導入法を用いた検討
標題(洋) The Roles of Heme Oxygenase in the Pulmonary Circulation under Hypoxia : An Analysis Using Gene transfer technique
報告番号 115741
報告番号 甲15741
学位授与日 2001.01.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1687号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大内,尉義
 東京大学 教授 永井,良三
 東京大学 助教授 森田,寛
 東京大学 助教授 重松,宏
 東京大学 講師 平田,恭信
内容要旨 要旨を表示する

 (背景および方法)低酸素下では肺血管抵抗が上昇しそれが多くの慢性および急性疾患の病態を悪化させる要因となっている。heme oxygenaseは低酸素や酸化ストレス等により多くの細胞において誘導されることが明らかになっている。Heme oxygenaseはhemeを分解してCO(一酸化炭素)を生成する。このCOはNOと同様にcGMPを上昇させ。その経路を介して血圧降下作用、血管拡張作用を有すると考えられている。本論文における研究において急性低酸素血症における肺血管の抵抗上昇に対するheme oxygenaseの役割をラットに対して遺伝子導入を行うことにより検討した。

 ラットHeme oxygenase-1遺伝子を組み込んだアデノウィルスベクターをラット気管より注入heme oxygenaseを発現させて5日後に実験を行った。麻酔下においてレスピレーター管理下でnormoxia、およびhypoxia(O2 10%)における肺血圧、体血圧、心拍出量をモニターした。

 またラット肺動脈を摘出しex vivoにおいて遺伝子導入を行い、肺血管のphenylephrineに対する発生張力をoxygenation(O2 95%,CO25%)およびhypoxia (O2 1%,N2 94%,CO25%)の条件にて検討した。

 (結果)adenovirusの遺伝子の気管支内注入により肺の小血管まで及ぶ遺伝子の導入が可能であることをLacZを用いた検討で確認した。Heme oxygenase 1 virus vectorの導入によりこの蛋白の肺における高度の発現をwestern blottingおよびactivity assayにて確認した。

 麻酔呼吸器管理下においてコントロールラット(Null adenovirusもしくはLacZ adenovirus)の肺血管抵抗は低酸素下で倍増し、肺体血圧比は上昇、心拍出量は下降した。一方heme oxygenase1の遺伝子導入ラットでは低酸素下での肺血管抵抗の上昇および、肺体血圧比の上昇が抑制され心拍出量の下降も認めなかった(Fig1,2)。

 Heme oxygenase-1の酵素活性の阻害薬である zinc protoporphyrinの前投与はheme oxygenase1 adenovirus vectorの遺伝子導入の効果を抑制した。以上よりin vivoにおける低酸素下の肺血管抵抗の上昇に対してheme oxygenase-1は抑制的に作用していることが明らかになった。(Fig1,2)

 ラットの摘出肺動脈の発生張力はoxygenation下では LacZ Virusとheme oxygenase-1の遺伝子導入群との間には意差はなかったが、hypoxiaにおいてはheme oxygenase-1の遺伝子導入群のほうが有意に発生張力が低下していた。すなわち低酸素下ではheme oxygenase-1は肺血管の張力発生を抑制する傾向があることが明らかになった (Fig3)。

(考察および結語)

 hypoxiaは肺の血管抵抗を上昇させることはよく知られた現象である。また低酸素血症においてはheme oxygenase-1の反応性の発現はすでに報告されている。今回われわれのadenovirusを用いた検討の結果heme oxygenase-1は低酸素による肺血管の抵抗の上昇を抑制することを明らかにした。摘出血管の検討も含め、heme oxygenase-1は低酸素下の肺血管床の循環を維持する保護効果があることが明らかになり、将来的に低酸素などによる肺高血圧症および多くの慢性、急性疾患の予防と治療に応用する可能性があることが示唆された。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は低酸素下肺血管循環に対するheme oxygenase1の役割について遺伝子導入法を用いて検討したものであり下記の結果を得ている。

1) ラットHeme oxygenase1(HO-1)およびLacZ遺伝子を組み込んだアデノウィルスベクーをラット気管より注入遺伝子を発現させその結果、目的遺伝子の肺の小血管、肺胞にまで及ぶ遺伝子の導入が可能であることを確認した。

2) 低酸素下では肺血管抵抗が上昇しそれが多くの慢性および急性疾患の病態を悪化させる要因となっているが、遺伝子導入5日後に実験を行い麻酔下においてレスピレーター管理下でnormoxia、およびhypoxiaにおける肺血圧、体血圧、心拍出量をモニターしたところコントロールラット(Null adenovirusもしくはLacZ adenovirus導入ラット)の肺血管抵抗は低酸素下で倍増し、肺体血圧比は上昇、心拍出量は下降した。一方HO-1の遺伝子導入ラットでは低酸素下での肺血管抵抗の上昇および、肺体血圧比の上昇が抑制され心拍出量の下降も認めなかった。HO-1の酵素活性の阻害薬であるzinc protoporphyrinの前投与はHO-1 adenovirus vectorの遺伝子導入の効果を抑制した。以上よりinvivoにおける低酸素下の肺血管抵抗の上昇に対してHO-1は抑制的に作用していることを明らかにした。

3) またラット肺動脈を摘出しex vivoにおいて遺伝子導入を行い、肺血管のphenylephrineに対する発生張力をoxygenationおよびhypoxiaの条件にて検討し、ラットの摘出肺動脈の発生張力はoxygenation下ではLacZ virusとHO-1の遺伝子導入群との間には有為差はなかったが、hypoxiaにおいてはHO-1の遺伝子導入群のほうが有為に発生張力が低下していた。またzinc protoporphyrinの存在下ではこのHO-1の効果は抑制された。すなわち低酸素下ではHO-1は肺血管の張力発生を抑制する傾向があることが明らかにした。

 以上の結果、本論文は遺伝子導入法を利用することでHO-1は低酸素による肺血管の抵抗の上昇を抑制することを明らかにした。摘出血管の検討も含め、HO-1は低酸素下の肺血管床の循環を維持する保護効果があることが明らかにした。HO-1の肺での誘導は将来的に低酸素などによる肺高血圧症および多くの慢性、急性疾患の予防と治療に応用する可能性があることが示唆され、将来臨床治療に貢献する知見と考えられるので、学位の授与に値するものと考えられる。

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