No | 115755 | |
著者(漢字) | 豊田,達也 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | トヨダ,タツヤ | |
標題(和) | 放射線科病棟診療における電子カルテの構築に関する研究 : 診療情報の運用に関する有用性の検討 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 115755 | |
報告番号 | 甲15755 | |
学位授与日 | 2001.02.21 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第1688号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 生体物理医学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | I.緒言 電子カルテが次第に利用される趨勢にある。医師法第24条によって、紙のカルテの5年間保存が義務づけられているが、平成11年4月22日の厚生省の通達で、一定の基準を満たすものについては、診療録の電子媒体による保存が認められた。 II.目的 東大病院放射線科病棟において1994年より電子カルテシステムが導入され、放射線治療目的で入院した患者の治療経過を電子カルテを用いて記載することとなった。この電子カルテを用いて、電子カルテを使った場合と従来の紙のカルテを使って記載した場合を、カルテを読む立場、書く立場から比較し、電子カルテの有用性の検討を行った。 III.対象および方法 1.対象 1)電子カルテと紙のカルテの比較検討の対象としたカルテは、電子カルテは1994年から1998年の期間の115件、紙のカルテは1981年から1995年の期間の85件である。放射線科病棟への治療目的の入院患者のカルテを対象とした。 2)電子カルテに完全に移行するまでは電子カルテと紙のカルテが併用されており、電子カルテに入力がある場合であっても、紙のカルテを主体に使用し、紙のカルテの記載をもとに電子カルテに後日入力を行っているケースが見られた。これらのケースは検討対象から除外した。 3)紙のカルテは電子カルテ導入以前の時期のものを対象とした。新患サマリーには、治療経過の必要事項のうちかなりの項目が記載されているため、新患サマリーの有無によって、カルテを読む時間が変化することが予想される。紙のカルテに関する調査対象期間は新患サマリーがほぼ必ず作成されている期間としたが、それ以前の期間でも新患サマリーの添付されているカルテは対象に含めた。 4)カルテが本来有するべき記載事項として、新患サマリー、本文、退院サマリー、看護記録、放射線照射録、病理報告、CTなどの検査結果の報告書、臨床検査データ、手紙などがあげられる。入院中に放射線治療を行った場合は、放射線照射録が添付され、放射線照射録には照射部位、照射方法、放射線の種類、エネルギー、照射線量などの情報が記載されている。今回の検討においては、新患サマリー、本文、退院サマリーを対象とした。 5)本文が書かれていないカルテを読む時間の計測の対象に含めると、本文がないために計測時間が短くなることが予想されるため、本文の全く書かれていないカルテを対象から除外した。 6)電子カルテの仕様 アップル社のMacintoshパーソナルコンピュータ数台がLocal Area Networkで接続されているシステムを使用して、4th Dimension(relational database)のサーバークライエントシステムで、電子カルテシステムを構築し運用した。扱う記述対象は、従来、紙のカルテに記載していた医学的記述である。その主な内容は、新患サマリー、毎日のカルテ、週間サマリー・退院時サマリーである。 2.方法 1)カルテを読む時間の計測 選び出した電子カルテと紙のカルテを対象として、放射線治療目的で入院した患者の治療経過の把握に大切な必要事項をいくつか選択し、それらの必要事項が書かれているかを確認しながら、入院カルテを読む時間の計測を行った。治療経過の必要事項として選び出した項目の記載頻度を電子カルテと紙のカルテで比較した。新患サマリーのページを開いたところから計測を開始し、新患サマリー、本文・退院サマリーの順序でカルテを読み、退院サマリーを読み終わった時点で計測を終了した。測定は筆者自身で行った。治療経過の必要事項を決めるにあたっては、放射線腫瘍学会のデータベース(放射線治療病歴記録)の項目を参考とし、原発部位、治療方法、外部照射病巣、治療効果、副作用を治療経過の必要事項として選択した。 2)アンケート調査 電子カルテを使用してきた受持医22名に対して、電子カルテに対する評価に関するアンケート調査を行い、書く立場から本システムの利便性を定性的および定量的に分析することを試みた。個々の項目について5段階選択肢から選択する方法で調査した。評価の低い段階からそれぞれの段階を-2点から2点として平均値を算出した。 IV.結果 1.カルテを読む時間の平均値は、電子カルテでは130.0秒、紙のカルテでは249.9秒であった。電子カルテと紙のカルテの間に有意な差が見られ、電子カルテの方が有意に短かった(p=0.0001)。 2.原発部位、外部照射病巣の記載は、記載頻度に有意な差は認められなかった(p=0.40,0.23)。治療方法の記載は、記載頻度は同じであった。治療効果、副作用の記載は、判定が困難なものが含まれているため、記載頻度の比較の対象としなかった。 3.アンケート調査の結果は次の通りであった。 1)紙のカルテと比較した場合の作成時間:新患サマリーの作成時間は短くなる傾向にある(平均値0.6) 2)紙への印刷:一覧性の観点からの印刷の必要性は高いと考えられている(平均値0.7) 3)紙のカルテと比較した場合の記載場所の自由度の高さ他科受診中にカルテを書くことができることは紙のカルテに比べて便利と考えられている(平均値1.2)カルテ紛失時、手元にカルテがない時にカルテを書くことができることは紙のカルテと比べて便利と考えられている(平均値1.1) 4)判読性:判読性に対する評価は高い(平均値1.7) 5)書式が統一されたこと:新患サマリーの書式の統一は便利と考えられている(平均値1.0) 6)プロブレム別の記載 プロブレム別の記載をする際、プロブレム別の経過表示は便利と考えられている(平均値0.8) 7)図、グラフ、写真を記載する機能の必要性 図を記載する機能は必要と考えられている(平均値0.7) グラフを記載する機能は必要と考えられている(平均値1.0) 写真を記載する機能は必要と考えられている(平均値0.2) 8)紙のカルテと比較した場合のカルテを読む時の便利さ 全体を把握しながらカルテを読むのは、紙のカルテに比べて不便と考えられている(平均値-1.1) プロブレム別に経過を読むのは、紙のカルテに比べて便利と考えられている(平均値0.8) 9)カルテ内容の変化 電子カルテはカルテを記載する上で助けになっていると感じる人の方が多い(平均値0.4) V.考察 1)カルテを読む時間 カルテを読む時間の計測の結果は、電子カルテの方が紙のカルテに比べて有意に所要時間は短かったが、実際の診療場面では、紙のカルテではカルテを取りだして目指す箇所を開くまでの時間が必要であるため、電子カルテと紙のカルテで時間の差はさらに広がる。カルテを読む時間は、電子カルテの方が短くなった理由として、電子カルテには短時間で全体を把握できる機能が豊富に備わっていたためであると推測される。今回のカルテを読む時間の研究は開発した著者自身が読み取る時間を測定しているため、客観性のある結果が得られているとは限らない。 2)カルテの記載内容 1.紙のカルテの内容との比較 電子カルテまたは紙のカルテで記載をされている慢性疾患を持つ患者の50例のprogress noteを評価した研究によれば、電子カルテで記載をした方が、記録が完全で、より適切な臨床判断を導いていた今回の研究では、選んだ項目のうち治療効果、副作用の記載は、判定が困難なものが含まれているため・記載頻度の比較の対象からはずしたが、残りの項目、原発部位、外部照射病巣、治療方法については両者の記載頻度に有意な差は認められなかった。 2.治療効果と副作用の記載と退院サマリーの有無 治療経過の必要事項の中で治療効果と副作用は、入院中のカルテの本文に記載がない場合、それらが出現しなかった場合なのか、出現したが記載されなかったのかを判定することは困難であった。退院サマリーでは、入院中の経過を要約を記載するため、治療効果、副作用が見られない時も何らかの記載がされていることが多いことが期待される。退院サマリーがある場合に記載頻度が上昇する場合が多かった。 3)アンケート調査 1.判読が容易であることは、記載者以外の人がカルテを読み、その内容を把握する助けとなる。 2.テンプレートを使用すると、あらかじめある決まった形式のデータを用意してそれを編集することにより入力を簡易化し、表現、項目などを標準化できるため、記述の統一化と視認性の向上を図ることが可能とされている。症候、現症、検査報告などのテンプレートを使用したデータ入力システムで狭心症の患者のデータ入力を行った研究では、入力に要した時間は手書きよりも短く、記載内容は記録としては充分な内容であったとされた。今回の検討においては、テンプレートの使用されている割合が多い新患サマリーでは、新患サマリーの書式の統一は便利と考えられており(平均値1.0)、新患サマリーの作成時間は短くなる傾向にあった(平均値0.6)。 3.全体を把握しながらカルテを読むのは、紙のカルテに比べて不便と考えられ(平均-1.1)、一覧性の観点からの印刷の必要性は高いと考えられた(平均値0,7)。外部からくる情報には紙の媒体のものが含まれるため、これらを電子カルテに入力する作業が必要である。現状では紙の方が便利な場合や、紙を使わざるを得ない場合があるといえる。 4.利便性 日常の診療で便利な機能が備わっており、紙のカルテでは実現が困難、不可能であったことが電子カルテでは可能となる。カルテを読む立場からは、カルテの記載内容を様々な表示形式の画面であらわすことが可能であり、あとで画面の変更や追加も可能である。カルテの内容を把握することが容易となる。カルテを記載する時には、補助入力を活用することにより記載時間の短縮が可能で、重要な項目に対しては、記載がなければ注意を促すことにより記載率を向上することができる。様々な入力形式をとることができ、必要に応じて改良していくことができる。記載を容易にし、短時間で記載することが可能である。カルテの検索、保存においても優れている。 VI.まとめ 1.カルテを読む時間の平均値は、電子カルテと紙のカルテの間に有意な差が見られ、電子カルテの方が有意に短かった。 2.原発部位、外部照射病巣の記載に関しては、記載頻度に有意な差は認められなかった。治療方法の記載は、記載頻度は同じであった。治療効果、副作用の記載は、判定が困難なものが含まれているため、記載頻度の比較の対象としなかった。記載内容の差の評価では、有意な差は認められなかった。 3.アンケート調査の結果、判読性について高い評価が得られた。 | |
審査要旨 | 本研究は次第に利用される趨勢にある電子カルテの有用性を明らかにするため、東大病院放射線科病棟において1994年より導入された放射線治療目的で入院した患者の治療経過を対象とした電子カルテを用いて、電子カルテを使った場合と従来の紙のカルテを使って記載した場合を、カルテを読む立場、書く立場から比較、検討を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1.放射線治療目的で入院した患者の治療経過に関する必要事項を確認しながら、入院中のカルテを読む時間の計測を行った。その結果カルテを読む時間の平均値は、電子カルテと紙のカルテの間に有意な差が見られ、電子カルテの方が有意に短かった。原発部位、治療方法、外部照射病巣、治療効果、副作用を治療経過の必要事項として選択したが、選択した記載頻度の評価では有意な差は認められなかった。 2.電子カルテを使用してきた受持医に対して、電子カルテに対する評価に関するアンケート調査を行い、書く立場から本システムの利便性を定性的および定量的に分析することを試みた。その結果、判読性について高い評価が得られた。 アンケート調査の結果は以下の通りであった。 1)紙のカルテと比較して、新患サマリーの作成時間は短くなる傾向にある。 2)紙への印刷の必要性は一覧性の観点から高いと考えられている。 3)紙のカルテと比較して、記載場所の自由度は高いと考えられている。 4)判読性に対する評価は高い。 5)新患サマリーの書式が統一されたことは便利と考えられている。 6)プロブレム別の記載をする際、プロブレム別の経過表示は便利と考えられている。 7)図、グラフ、写真を記載する機能は必要と考えられている。 8)全体を把握しながらカルテを読むのは、紙のカルテに比べで不便と考えられている。 プロブレム別に経過を読むのは、紙のカルテに比べて便利と考えられている。 9)電子カルテはカルテを記載する上で助けになっていると感じる人の方が多い。 以上、本論文は放射線治療目的で入院した患者の治療経過の必要事項を確認しながら入院中のカルテを読む時間の平均値は、電子カルテの方が有意に短かったこと、治療経過の必要事項の記載頻度の評価では有意な差は認められなかったこと、判読性について高い評価が得られたことを明らかにした。本研究は電子カルテの有用性の検討に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値すると考えられる。 | |
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