No | 115809 | |
著者(漢字) | 永崎,暁 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | エイサキ,アキラ | |
標題(和) | Two-handedジンクフィンガータンパク質に属するXSIP1はツメガエルのアニマルキャップに前方神経マーカーを誘導する | |
標題(洋) | XSIP1,a member of two handed zinc finger proteins,induced anterior neural markers in Xenopus laevis animal caps | |
報告番号 | 115809 | |
報告番号 | 甲15809 | |
学位授与日 | 2001.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(学術) | |
学位記番号 | 博総合第294号 | |
研究科 | 総合文化研究科 | |
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | Xenopusの胞胚期の外胚葉片は未分化な細胞の集団で、様々な誘導因子により分化を引き起こすことが知られている。なかでもTGF-βsuperfamilyに属するアクチビンは、外胚葉片を処理する時間と濃度に応じて腹側から背側の中胚葉組織を誘導できることができる。また高濃度のアクチビンで処理をした外胚葉片はorganizer(形成体)を模倣することが知られており、この処理をした外胚葉片を正常胚の胞胚腔へ移植することにより、2次軸をもった胚が形成される。また、アクチビンで処理をした外胚葉片を前培養時間をおいたのち、無処理の外胚葉片でサンドイッチすることにより、前培養時間に応じて頭部構造から尾部構造を形成する。この濃度でアクチビン処理したものをそのまま培養しつづけても頭部構造は形成されない。このサンドイッチする系においては、アクチビン処理後培養時間をおいたものから、頭部を形成するための何らかの因子がサンドイッチする側の外胚葉片に働きかけ、全体として頭部構造を形成すると考えられる。これにより、初期発生においてアクチビンシグナルの下流において外胚葉に対して神経を誘導できる因子の存在が考えられ、このような因子の探索を試み解析を行った。 [方法・結果・考察] いくつもの遺伝子断片が単離されたが、そのうちでWISHにより神経形成時に発現している遺伝子についてしらベた。この遺伝子の配列はmouseのSIP1(Smad interaction protein1)と相同性が非常に高い。mouseのSIP1はSmadに結合するタンパク質をtwo-hybrid法で探索することにより見つけられたものであり、今回の実験のアプローチ方法とは異なっている。機能部位の保存度も高いことからhomologueと考えられたので、XSIP1とした。このXSIP1にはisoformが2種類あり、両者の差は全アミノ酸配列中に占める割合で98%とくにN末端側の30残基に集中していた。XSIP1は約1200アミノ酸で、N末端側に3つのC2H2タイプのzinc fingerと1つのC3Hタイプのzinc fingerをもち、C末端側に2つのC2H2タイプのzinc fingerと1つのC3Hタイプのzinc fingerをもつ。また配列中にSBD(Smad binding domain)とhomeodomain like regionをもつ。他のグループによるin vitroにおける実験から、SBDはリン酸化されたSmadのMH2domainに結合するために必須の部分であり、またgelshiftによる実験でこのzinc fingerがXbra2の転写開始領域に結合することがわかっている。また、homeodomain like regionは、実際に機能するhomeodomainに必須なアミノ酸がかけている。また、XSIP1の2つのisoformのうち、アミノ酸のN末端がmouseのSIP1と相同性の高いものをXSIP1-a、アミノ酸30残基ほど違うものをXSIP1-bとした。 XSIP1の発現をステージ別のRT-PCRとwhole mount in situ hybridization法(WISH)をもちいて解析した。RT-PCRの結果、XSIP1-aは神経形成の始まるごく初期の段階から発現をはじめ、その後も神経形成を通して発現が維持されることがわかった。WISHにおいては、XSIP1-a、XSIP1-bの両者の配列の差が小さいことから、それらを区別して調べることができなかった。XSIP1-aをプローブとしてWISHを行ったところ、後期原腸胚の背側中胚葉領域において発現を始め、続いて神経板の側方に位置する神経摺、そして尾芽胚においては前脳から神経管、そして目において発現が見られた。XSIP1の正常胚での働きを調べるためにインジェクションを行った。XSIP-aを正常胚の外胚葉領域に過剰発現させてみたところ、神経胚においては神経板が拡大し、尾芽胚においては頭部領域で神経細胞が大きく占めその影響により目の形成が阻害されるなどの影響が見られた。また、背側植物極領域に過剰発現させるとdominantnegative xbraのインジェクションのように、腹側植物極領域に過剰発現させると短尾胚がみられた。XSIP1-bについてはインジェクションによる変化は見られなかった。 つぎにXSIP1-aが神経形成のごく初期の段階に発現しているので、アニマルキャップにインジェクションすることによりそのほかのproneural geneを誘導できるか、また神経のマーカー遺伝子を誘導できるかの実験を行った。Proneural geneに関しては、XATH3、XASH3、neurogenin、neuroD、zic3、oplなど誘導することはできなかった。神経のマーカー遺伝子に関してはpan-neural markerのN-CAM、前方の神経マーカーのXAG1、Xotxを誘導することはできたが、後方の神経マーカー遺伝子は誘導できなかった。また、XSIP1が同時期に発現する神経・頭部誘導因子により発現が誘導されるかどうかをみたところ、chordin、XATH3によって強く発現が誘導された。 XSIP1-aは、1)発現が神経形成のごく初期から神経の形成期を通して見られ、2)正常胚の外胚葉に異所的に発現させると神経細胞の増大を引き起こし、3)アニマルキャップに対して神経マーカー遺伝子を誘導し、4)アクチビンやchordinによって誘導される。これらの結果から、XSIP1-aは神経形成において何らかの役割を担っていると考えられる。しかし、XSIP1-aそれ自身ではアニマルキャップに対して神経細胞を誘導できないことや、他のproneural geneを誘導できないこと、mouseのXSIP1をXenopusにインジェクションすることによりxbraの発現が減少することを考えると、外胚葉における中胚葉の形成を押さえ神経の場の形成に対して働きを持ち他の因子とで神経細胞を誘導できると考えられる。また、モチーフ領域がおなじであるXSIP1-bがインジェクションによる正常胚やアニマルキャップヘの効果が見られないことから、XSIP1-aのN末端の約30アミノ酸残基を含む部分がシグナルシーケンスだと考えられる。 | |
審査要旨 | 永崎 暁君は「Two-handedジンクフィンガータンパク質に属するXSIP1はツメガエルのアニマルキャップに前方神経マーカーを誘導する」の研究を行って、下記のような優れた結果を得ている。 ツメガエルの胞胚期の外胚葉は未分化な細胞の集団で、様々な誘導因子により分化を引き起こすことが知られている。なかでもTGF-βsuperfamilyに属するアクチビンは、外胚葉片を処理する時間と濃度に応じて腹側から背側の中胚葉組織を誘導することができる。初期発生においてアクチビンシグナルの下流において外胚葉に対して神経を誘導できる因子の存在が考えられ、彼はこのような因子の探索を試み解析を行った。 その結果、いくつもの遺伝子断片を単離していたが、その中でWISHにより神経形成時に発現している遺伝子について彼は研究を行った。 この新規遺伝子の配列はmouseのSIP1(Smad interaction protein1)と相同性が非常に高く、XSIP1と名付けられた。mouseのSIP1はSmadに結合するタンパク質をtwo-hybrid法で探索することにより見つけられたものであり、彼の実験のアプローチ法とは異なっていた。違うアプローチからも同じ遺伝子が得られたということもこの遺伝子の重要性を高める大きな要素といえる。しかしXSIP1にはisoformが2種類あり、両者の差は全アミノ酸配列中に占める割合で98%とくにN末端側の30残基に集中していた。そして、XSIP1の2つのisoformのうち、アミノ酸のN末端がmouseのSIP1と相同性の高いものをXSIP1-a、アミノ酸30残基ほど違うものをXSIP1-bとした。 彼はXSIP1の発現をステージ別のRT-PCR、whole mount in situ hybridization法(WISH)、胚へのmRNAの微量注入法を用いた解析を行った。そして、XSIP1-aは 1)発現が神経形成のごく初期から神経の形成期を通して見られ、2)正常胚の外胚葉に異所的に発現させると神経細胞の増大を引き起こし、3)アニマルキャップに対して神経マーカー遺伝子を誘導し、4)アクチビンやchordinによって誘導される、といった重要な結果を得た。 このように永崎君は、脊椎動物の初期発生にとって重要な現象である神経形成ついて、非常に大きな役割を果たす遺伝子であるXSIP1を分離し、その解析を行い、面白い結果を導いた。新規遺伝子を分離するというのは非常に困難な仕事であり、彼はそれを自分で行っただけではなく、その遺伝子自身の働きとその他の遺伝子との関連に関しても、質、量ともに十分な研究が行われた。そのため、彼の研究は審査員全員に博士号の基準以上であると評価された。 よって本論文は博士(学術)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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