No | 115816 | |
著者(漢字) | 早田,匡芳 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ハヤタ,タダヨシ | |
標題(和) | ツメガエル初期中胚葉及び内胚葉形成に関わる遺伝子に関する分子的研究 | |
標題(洋) | Molecular Analyses of Genes Involved in Mesoderm or Endoderm Formation during Early Xenopus Development | |
報告番号 | 115816 | |
報告番号 | 甲15816 | |
学位授与日 | 2001.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(学術) | |
学位記番号 | 博総合第301号 | |
研究科 | 総合文化研究科 | |
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | <序論> 一つの受精卵はどのようにして一つの個体に発生していくのだろうか?その基本原理は、各動物種間でかなりの部分が同一である。例えば、ほぼ全ての動物の初期発生において、受精卵は原腸形成時に外胚葉、中胚葉そして内胚葉の3つの組織に区分けされる。外胚葉は、表皮や中枢神経系などに、中胚葉は筋肉や血液などに、そして内胚葉は消化器系及び呼吸器系などに分化する。脊椎動物の体軸形成に関する研究において、中胚葉誘導や分化の分子機構に関しては精力的に研究が行われてきたが、まだ未知の機能を持つ因子も残されているだろう。第一章では、アフリカツメガエル原腸胚の中胚葉領域に発現する遺伝子Xbra3の分子的研究を行った。一方、内胚葉形成の分子機構は最近まであまり明らかにされてこなかった。何故なら、中胚葉に比べて、分子マーカーが少なく、分子生物学的解析を困難にしているからである。そこで、第二章では、原腸胚期に発現する内胚葉に発現する新規遺伝子Mig30を単離し、その胚発生における役割について解析した。 (1)中胚葉に発現する新しいT-box転写因子Xbra3 T-box遺伝子はT-boxと呼ばれるDNA結合ドメインを持つ転写因子をコードする。Xenopusの初期発生においては、中胚葉形成に関わるBrachyury(Xbra)、Eomesodermin in及び中胚葉と内胚葉の両方に関わる、Antipodean(Xombi/Brat)などのT-box遺伝子が知られている。私はこれ以外にも中胚葉あるいは内胚葉形成に関わる未知のT-box遺伝子があるのではないかと考え、新規T-box遺伝子の単離を試みた。その結果、Xbraに相同性の高い遺伝子である、Xbra3を同定した。アミノ酸配列全体では73%の相同性、T-boxでは90%の相同性があった。Xbra3は原腸胚の帯域に背側から腹側にかけて勾配を持って発現していた。神経胚では、中軸中胚葉(将来の脊索)と後方の中胚葉に発現していた。尾芽胚になると、脊索の後方と尾芽に発現していた。 Xbra3 mRNAをXbra3が発現しないような外胚葉になる領域(動物極)に注入すると、胚は前後軸が正常に進展しなかったり、尾のような突起を異所的に誘導した。Xbra3を発現させたアニマルキャップ(予定外胚葉)の遺伝子発現を調べると、中胚葉の遺伝子マーカーであるMix.1、Xnot、Apodが誘導された。このことは、Xbra3は中胚葉の遺伝子発現を誘導することを示している。 Xbra3が胚で発現するために必要な細胞外シグナルを調べた。Xbra3は中胚葉で発現するが、中胚葉誘導に関わっている因子としてActivinやbFGFが知られている。そこで、それぞれのシグナルを遮断するドミナント・ネガティヴ型受容体のmRNAを胚に注入し、Xbra3の発現を調べた。Activinシグナルを遮断した場合も、bFGFシグナルを遮断した場合もXbra3の発現は消失していた。このことは、Xbra3の発現はActivinとFGFのシグナルの両方を必要とすることを示唆している。 次に内在性のXbra3の機能が胚発生に必要であるかどうかを調べるために、ドミナント・ネガティヴ型 Xbra3を作製した(Xbra3-EnR)。Xbra3-EnR〜mRNAを胚の背側に注入すると、背側の前後軸の伸長が 著しく妨げられた。腹側に注入すると、腹側および後方の軸が湾曲した。このことは、Xbra3が体軸の伸長に関与していることを示唆している。Xbra3-EnRの効果は、Xbra3あるいはXbraのmRNAの注入で 回復されたことから、Xbra3-EnRはXbraおよびXbra3の両方の機能を抑えている可能性がある。 Xbra-EnRの効果を遺伝子レヴェルで調べた。中胚葉のみに発現するXbraとXnotの発現は消失した。内胚葉領域にも発現するようなMix.2と、Apodの内中胚葉領域での発現は完全には消失しなかった。Xbra3はアニマルキャップにこれらの遺伝子発現を誘導することができるが、内胚葉にも発現するような遺伝子の発現には必ずしも必須ではなく、中胚葉にのみ発現する遺伝子発現には必須であることを示している。つまり、Mix.2やApodの発現を、他の因子がXbra3よりも優先的に活性化していることを示唆している。 以上のことから、Xbra3は原腸胚の中胚葉に発現し、中胚葉誘導能を持つことが示された。 (2) Mig30はシュペーマンオーガナイザーの前方内中胚葉に発現する分泌蛋白質で、形体形成運動を負に制御する Mixerは原腸胚の内胚葉領域に発現し、内胚葉の発生に必要不可欠なホメオボックス遺伝子である。Mixerの新規標的遺伝子を同定することにより、初期内胚葉の分子経路を明らかにすることを試みた。単離された遺伝子Mig30はインスリン様増殖因子結合タンパク質に属するタンパク質をコードしていた。Mig30はアミノ末端に疎水性に富んだシグナルペプチド、それに続くシステインリッチドメイン(CRD)と免疫グロブリン様ドメイン(IGD)を持つ。Mix30 mRNAを卵母細胞に注入すると、培養液にMig30タンパク質が検出されたので、Mig30は分泌タンパク質であることが示された。 Mig30転写産物は、原腸胚のシュペーマンオーガナイザー領域の前方中内胚葉に強く発現していた。また、原口より下の内胚葉細胞にも発現していた。尾芽胚では、咽頭、前脳と後脳の脳室側基底部、脊髄、耳胞、心臓そして肝臓という様々な器官に発現していた。 Mig30の生物学的活性を調べるために、Mig30 mRNAのXenopus胚への注入実験を行った。Mig30mRNAを腹側に異所的に発現させても、形態形成への影響は見られなかったのに対し、背側に過剰発現させると、頭部が小さくなる表現型(microcephaly)が観察された。松果体及び眼の分子マーカーであるXotx5の発現を調べると、眼の消失にともない、Xotx5の眼での発現は消失するが松果体での発現は維持されていた。このことから、Mig30を注入したmicrocephalic胚の松果体部分までは形成されていることが示唆された。 Mig30のドメイン解析を行ったIGDがmicrocephalyを引き起こす強い活性を持っていたのに対し、CRDはmicrocephalyを引き起こさずに、背側の軸をわずかに湾曲させ、網膜色素形成パターンに影響を及ぼした。なお、CRDの効果は野生型のMig30を共注入することにより、レスキューされた。この結果から、Mig30はIGDを介してその機能を発揮していると考えられる。 Mig30はどのようにして、microcephalyを引き起こすのか?一つの可能性として、頭部誘導因子の活性を阻害しているという可能性が考えられる。そこで、Mig30と他の頭部誘導因子との関係を調べるために、二次的頭部誘導アッセイを行った。Mig30はこれまでに知られている頭部誘導因子の活性を不完全に抑えた。 近年、分泌因子Xwnt11が原腸胚の細胞の集合伸長運動(convergent extension movement)を制御することが示された。ゼブラフィッシュのWnt11突然変異体はmicrocephalyを示す。この現象は、集合伸長運動が正常に行われなず中軸中胚葉の伸長が遅れることによって引き起こされる。集合伸長運動とは、背側中胚葉の細胞が、胚の横軸に沿って扁平な形になり、正中線に向かって集合し、お互いに挿入しあい、胚全体の前後軸を伸長させるという運動である。Wnt11突然変異体の表現型がMig30 mRNAを注入した胚のそれと似ているので、Mig30はXwnt11の活性を阻害して、microcephalyを引き起こしている可能性が考えられたが、Mig30はXwnt11の活性は阻害しないことがわかった。 次に、集合伸長運動とMig30の関係を調べた。アニマルキャップ外植体をアクチビンで処理すると、アニマルキャップは伸長する。この運動は原腸胚の背側中胚葉細胞に起こる集合伸長運動を模倣している。Mig30 mRNAを注入したアニマルキャップをアクチビンで処理しても、この伸長はみられなかった。また、Mig30はアクチビンによる中胚葉誘導自体は阻害しなかった。Mig30と細胞系譜マーカーとしてβ-gal mRNAを胚に共注入し、細胞の挙動を調べた。β-gal mRNAのみ注入した胚では、B-galを発現する細胞は正中線に向かって集合し、胚の前後軸が伸長した。一方、Mig30を共注入すると、その細胞は、横軸にそって幅広く分布し、前後軸の伸長が妨げられた。以上のことから、Mig30を過剰発現させると、集合伸長運動が阻害されることが示された。 Mig30は前方内中胚葉および内胚葉に発現し、背側中胚葉に引き起こされる集合伸長運動を抑えることが示された。今後はMig30の結合タンパク質を同定し、原腸胚形成時のMig30の役割について詳細に調べることを計画している。 | |
審査要旨 | 早田匡芳氏は「ツメガエル初期中胚葉及び内胚葉形成に関わる遺伝子に関する分子的研究」において下記のような優れた結果を得ている。 早田氏は、大きく分けて二つの成果を得ている。一つは、中胚葉形成に関わる新規遺伝子Xbra3の機能に関する分子生物学的解析であり、もう一つは、シュペーマンオーガナイザーと内胚葉領域に発現する新規遺伝子Mig30の機能に関する分子生物学的解析である。 アクチビンによって誘導されて中胚葉や内胚葉形成に関わる新規遺伝子を探索した結果、T-box型転写因子をコードする遺伝子Xbra3を同定した。Xbra3はアミノ酸レベルでXbraと73%の相同性を持っていた。Xbra3は、原腸胚の帯域領域(予定中胚葉)で発現し、神経胚や尾芽胚では、脊索領域に発現していた。Xbra3の生物学的機能を調べるために、Xbra3 mRNAを胚にインジェクションした結果、低濃度では、尾のような構造を誘導し、高濃度では、体軸の湾曲を引き起こした。次に、Xbra3が中胚葉の遺伝子発現を誘導できるかを調べた結果、Mix.1、Apod、Xnotの発現を誘導できたが、Eomesの発現は誘導できなかった。Xbra3の遺伝子発現を制御しているシグナル分子を調べるために、ツメガエル胚に阻害型アクチビン受容体あるいは阻害型FGF受容体のmRNAをインジェクションし、Xbra3の発現を調べた結果、Xbra3の発現が消失した。つぎに、内在性Xbra3の機能の必要性を調べるために、阻害型Xbra3を作製し、胚にインジェクションした結果、胚の背側軸が伸展しなかった。阻害型Xbra3をインジェクションした胚の中胚葉遺伝子の発現を、in situ hybridization法で調べると、中胚葉だけに発現するXbra、Xnotの発現は消失したが、中内胚葉領域にも発現するようなApod、Mix.2の発現は完全には消失しなかった。以上のような結果から、早田氏は、Xbra3は原腸胚の中胚葉に発現し、中胚葉の形成に関わっている遺伝子であることを明らかにした。 2番目に、シュペーマンオーガナイザーおよび内胚葉に発現する新規遺伝子Mix30の機能解析を行った。内胚葉に発現するMixerによって誘導される遺伝子として単離されたMix30はインスリン様増殖因子結合タンパク質ファミリーに属するタンパク質をコードしていた。Mig30 mRNAを卵母細胞に注入すると、培養液にMig30タンパク質が検出されたので、Mig30は分泌タンパク質であることが示された。Mig30転写産物は、原腸胚のシュペーマンオーガナイザー領域の前方中内胚葉に強く発現していた。また、原口より下の内胚葉細胞にも発現していた。尾芽胚では、咽頭、前脳と後脳の脳室側基底部、脊髄、耳胞、心臓そして肝臓という様々な器官に発現していた。Mig30の生物学的活性を調べるために、Mig30 mRNAのXenopus胚への注入実験を行った。Mig30 mRNAを腹側に異所的に発現させても、形態形成への影響は見られなかったのに対し、背側に過剰発現させると、頭部形成が阻害された。Mig30と他の頭部誘導因子との関係を調べるために、二次的頭部誘導アッセイを行った。Mig30はこれまでに知られている頭部誘導因子(Xwnt8、Cerberus、Frzb、Dkk-1)の活性を不完全に抑えた。つぎに、集合伸長運動とMig30の関係を調べた。アニマルキャップ外植体をアクチビンで処理すると、アニマルキャップは伸長する。この運動は原腸胚の背側中胚葉細胞に起こる集合伸長運動を模倣している。Mig30 mRNAを注入したアニマルキャップをアクチビンで処理しても、この伸長はみられなかった。Mig30と細胞系譜マーカーとしてβ-gal mRNAを胚に共注入し、細胞の挙動を調べた。β-gal mRNAのみ注入した胚では、B-galを発現する細胞は正中線に向かって集合し、胚の前後軸が伸長した。一方、Mig30を共注入すると、その細胞は、横軸にそって幅広く分布し、前後軸の伸長が妨げられた。以上の結果から、Mig30は前方内中胚葉および内胚葉に発現し、背側中胚葉に引き起こされる集合伸長運動を抑えることを明らかにした。 このように早田氏は初期中胚葉形成に関与する新規遺伝子Xbra3の機能解析を行い、また、シュペーマンオーガナイザーと内胚葉に発現する新規遺伝子Mig30が細胞運動を阻害することを明らかにした。審査員全員から高い評価を得た。 よって本論文は博士(学術)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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