No | 115914 | |
著者(漢字) | ||
著者(英字) | Baioumy,Hassan,Mohamed | |
著者(カナ) | バイヨミ,ハサン,モハマド | |
標題(和) | エジプトにおける後期白亜紀の堆積性燐酸塩鉱床の起源 | |
標題(洋) | Origin of Late Crefaceous phosphorite in Egypt | |
報告番号 | 115914 | |
報告番号 | 甲15914 | |
学位授与日 | 2001.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(理学) | |
学位記番号 | 博理第3958号 | |
研究科 | 理学系研究科 | |
専攻 | 地球惑星科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | エジプトの燐灰石鉱床は、中東から北アフリカにかけての地域において白亜紀後期から古第三期に形成された燐灰岩地帯の一部をなし、その埋蔵量は地質時代を通じて最大である。しかし、エジプトの燐灰石鉱床の起源については、未だ明らかではなく、過去の研究例の大部分は自生的に形成されたものとしている。エジプトの燐灰岩の起源と堆積環境を考察するために、我々は詳細な記載岩石学的、鉱物学的・化学的分析を行った。 エジプトの上部白亜系から下部第三系の堆積シーケンスは広範囲に分布しており、東部砂漠、ナイル渓谷、西部砂漠、シナイに及ぶ。シーケンスは非海成層であるNubia層とQusseir層から始まる。これら非海成層は燐灰石鉱床を含む浅海性のDuwi層に覆われ、その上にはDakhla層、Esna層、Tarwan層、Thebes層が順に累重する。 カンパニアン後期からマーストリヒシアン前期のDuwi層は、中期カンパニアン期の非海成層で多色性の頁岩から成るQuisser層を波打つ浸食面をもって覆う。Duwi層は、中期マーストリヒシアンの有孔虫を多産する頁岩から成るDakhla層によって整合に覆われる。Duwi層はその岩相と粒度から、4つの部層に分けられる。下部層は、Abu-Tarturセクションでは粗粒な燐灰質砂岩で構成され、ナイル渓谷、紅海地域では基底部は石英質砂岩と珪質頁岩で構成され乱中部層は細粒なモンモリロナイトに富む頁岩で構成される。上部層は、Abu-Tarturにおいては粗粒な海緑石に富む砂岩、ナイル渓谷では燐灰質砂岩、紅海地域では燐灰質砂岩とカキの破片を主体とする石灰質砂岩で構成される。最上部層は細粒なカオリナイトに富む頁岩で構成される。燐灰石鉱床の見られる層準は2層準あり、中部層のモンモリロナイトに富む頁岩によって上下に分かれている。燐灰石鉱床はAbu-Tarturでは下部層、ナイル渓谷と紅海地域では上部層に見られる。 エジプトの燐灰石鉱床を構成する燐灰石粒子は無構造な粒子から成り、それらはこれまでの研究では、ペロイドと記載されていた。しかし我々の研究から,エジプトの堆積性燐灰石鉱床を構成する燐灰石粒子が,無構造粒子(45-62体積%)、生物性砕屑物(36-54%)、岩片(0-5%)からなることが示された。EPMA分析によると、無構造な粒子は均質で同心円状の構造がなく、これは自生的ペロイドとは考えにくい。燐灰質な岩片と無構造粒子の間の組成と見かけの類似性は、無構造粒子も堆積岩片と同様に再堆積起源であり、同様の供給源に由来することを示している。燐灰質な岩片内部に骨片が存在すること、及び燐灰質な泥で埋められた骨片内の穴の存在、及びそうした泥が岩片や無構造粒子と類似していることは骨片も同様に再堆積作用によるものであり、同様の供給源である可能性を示している。無構造粒子の割れ目表面のSEMによる観察結果から、イスラエルの白亜紀後期の自生燐灰石層やペルー沖の現生自生燐灰石層に見られるカプセル状の組織に似た構造が見られることが明らかになった。これは、無構造燐灰質粒子及び燐灰質岩片が、例えばイスラエルにおける沖合いで形成された自生燐灰岩のような自生燐灰岩を起源とし・それが侵食作用を受けて再堆積したものであることを示している。 エジプトの堆積性燐灰石鉱床とそれに伴う層の堆積相解析の結果、主要な燐灰石鉱床は生痕の発達した酸化的な陸棚上に形成された海進時ラグ堆積物に伴って見られることが明らかになった。沖合で形成された自生燐灰石層はカンパニアン前期の高海水準期に陸棚縁部の湧昇流の卓越する環境の下で形成され、その後カンパニアン中期からマーストリヒシアン前期の海退期に侵食された後、カンパニアン後期及びマーストリヒシアン前期の海進に伴い、より沿岸に近い地域に濃集・堆積したと考えられる。 | |
審査要旨 | 本論文は、エジプト上部白亜系に発達する堆積性燐灰石鉱床を対象に、堆積学的、堆積岩石学的手法を用いて、その起源と形成機構を明らかにしたものである。 後期白亜紀から第三紀初頭にかけて、モロッコからヨルダンに広がった広大な燐灰石堆積区は、顕生代最大の燐灰石を埋蔵する。エジプト上部白亜系の堆積性燐灰石鉱床は、その主部をなしており、エジプトにおける重要な鉱産資源のひとつとなっている。エジプトの資源として極めて重要であるため、その成因について多くの研究が行われてきたが、その起源や形成機構に関しては、様々な説が入り乱れており、決着がついていないのが現状である。 本研究では、こうした混乱の原因の1つが、堆積性燐灰石の堆積学的研究や記載岩石学的研究が十分なされていない事にあると考え、複数の地域の調査にもとづいて層序対比を行うと共に、野外において堆積性燐灰石層の産状を詳細に記載し、燐灰石粒子の顕微鏡下での観察と識別、ポイントカウントによる定量、SEMによる観察、EPMAによる分析を徹底的に行っている。また、燐灰石層とそれに伴う泥質岩層の鉱物、化学組成の比較も行っている。 鏡下での観察と分析から、以下の事が示された。 1) 従来、エジプトの燐灰石層中の粒子の主体を占め、自生粒子であると考えられていたペロイド粒子は、自生粒子ではなく、燐灰石質泥層が侵食・運搬・再堆積したもので、全燐灰石粒子の50%近くを占めている。 2) 従来、エジプトの燐灰石層には、ごく少量含まれているに過ぎないと思われていた海生動物の骨片やサメの歯などの生物源燐灰石粒子が、全燐灰石粒子の50%近くを占めている。 3) こうした生物源燐灰石粒子は、もともと燐灰石質泥層中に含まれていた物で、侵食・運搬過程で洗い出された物と考えられる。 4) 燐灰石層中の不純物の鉱物・化学組成は、その上下の泥岩の鉱物・化学組成と異なり、砕屑物供給源が異なる事を示唆する。 5) SEM観察によると、ペロイド粒子の表面には、バクテリア起源と考えられる微細構造が一面に見とめられ、湧昇流海域の燐灰石質泥層に見られる構造と極めて類似している、 6)更に、こうした微細組織は、イスラエルの上部白亜系から報告された自生の燐灰石質泥岩層に見られる微細構造とも酷似している。そして、イスラエルの自生燐灰石質泥岩層は、大陸棚外縁の湧昇流影響下で堆積したと考えられている。 これらの観察事実から、燐灰石層は、大陸棚外縁で形成された自生の燐灰石質泥岩が侵食・運搬・再堆積する事により形成された事が明らかにされた。 更に、燐灰石粒子がどのようなメカニズムで運搬・濃集・堆積したかについて、野外における調査、観察の結果を基に検討した。その結果、燐灰石層は2つの異なる層準に産出し、その間には黒色頁岩層が発達する事が明らかにされと。更に、堆積相解析に基づいて相対的海水準変動の復元を行った結果、2つの燐灰石層準は共に海進期初期に対応しており、ラビンメント面の直上に最も良く発達している事が明らかにされた。これらは、海水準牽動と燐灰石層の濃集・堆積の密接な関係を示唆している。 以上の結果を総合して、高海水準期に沿岸湧昇により形成された自生の燐灰石質泥岩層が、海退期に侵食され、それが次の海進期に波の影響を受ける沿岸部の陸側への前進と共に運搬され、ラビンメント面上に濃集するというモデルを提案した。 本論文は、エジプト上部白亜系の堆積性燐灰石鉱床中の燐灰石粒子が、沖合いで形成された自生燐灰石質泥層が侵食されて形成された物である事を、数々の具体的な証拠を示して初めて証明した。また、その運搬・濃集・堆積メカニズムが海水準変動と密接に関係している事を初めて示した論文でもある。これらの点は、極めて独創性が高く、地球史を通じての燐のグローバルな循環機構を理解する上でも有益な情報を与えたと評価される。 なお、本研究は、指導教官である多田隆治博士との共同研究であるが、論文提出者が主体となって、調査、分析を行い、論文をまとめたものであり・論文提出者の寄与が十分であると判断される。 上記の点を鑑みて、本論文は地球惑星科学、特に堆積学研究の発展に寄与するもの判断し、博士(理学)の学位に十分値すると判定した。 | |
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