No | 115922 | |
著者(漢字) | 塩見,慶 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | シオミ,ケイ | |
標題(和) | 「のぞみ」によるつきの極端紫外光観測についての研究 | |
標題(洋) | Observation of the Moon with the NOZOMI Exterme Ultraviolet Scanner | |
報告番号 | 115922 | |
報告番号 | 甲15922 | |
学位授与日 | 2001.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(理学) | |
学位記番号 | 博理第3966号 | |
研究科 | 理学系研究科 | |
専攻 | 地球惑星科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1. はじめに 本論文は,火星探査機「のぞみ」に搭載された極端紫外光撮像器(XUV:eXtreme Ultra Violet scanner)で初めて観測された,月の30nm極端紫外光アルベドによる撮像についての研究である.「のぞみ」で観測された,月の海と高地とのアルベドの違いを検証するために,30nmでの岩石反射率測定を初めて行った.本研究のねらいは,この極端紫外領域(10〜100nm)で固体惑星探査をする意義について調べるところにある. これまで,極端紫外領域における月の観測は,最近まで,ほとんど行われてこなかった.極端紫外光は,通常の物質や光学的に厚い大気には吸収されてしまい,技術的に観測が困難であったことと,そもそも,この波長領域で顕著に起こる気体の太陽共鳴散乱現象に着目してきたので,固体惑星探査には利用されることはなかった.火星探査機「のぞみ」に搭載された極端紫外光撮像器(XUV)は,その技術的困難を克服した観測器であり,火星大気に存在するHe,He+の太陽共鳴散乱光(それぞれ58.4nm,30.4nm)を検出することを目的にしている. アポロ計画により持ち帰られた月の石をサンプルとした地上室内実験によって,衛星で観測されたことの検証や,衛星観測では分かり得ない情報を知ることができた.けれども,サンプルは月おもて面の赤道域に限られており,月のグローバルな組成分布を知るには到らなかった.サンプルを用いた地上室内実験による研究は,リモートセンシングによるグローバルな月面探査の方向性を決定付けた重要な成果であった.その後,クレメンタイン,ルナプロスペクタといったリモートセンシング法を用いた探査機により月面全域の化学組成について詳細に調べられた。しかし,それらの観測は近紫外より長い波長(≧200nm)とX線,γ線領域(≦0.1nm)に限られており,それらに挟まれた波長領域,つまり極端紫外領域を用いた探査はまだなされていない. そこで,我々はXUVを用いて,極端紫外領域で惑星固体表面を観測する意義を研究するために,観測計画を立てて,「のぞみ」が地球周回にあるときに月面極端紫外アルベドの観測を行った.この研究は2004年打ち上げ予定のセレーネに搭載する極端紫外光望遠鏡(UPI/TEX)による月面探査につながる研究である。 2. 遠くから見た月の観測(98/9/7〜8) 月-のぞみ間距離が約80Reのときに視野内(4°×4°)を視直径約0.4°の月が横切った.その時のデータをも用いてXUVの視野方向と感度の機上較正を行った。30nmのジオメトリックアルベドはEUVEスペクトロメータの観測量0.2%を用いて衛星の軌道,姿勢から予測される観測量の見積もりを行い,観測と比較した.XUVの観測量は図の赤点,予想される観測量は青線で示されている.視野方向を設計値から0.7°下方に傾けるときに予想される観測量を緑線で示す.このことから,視野方向は設計値とは約0.7°のずれがあることがわかる.感度は,打ち上げ前の較正値とほとんど変化ないことが,確かめられた.この機上鞍正結果は,XUVの観測に反映される。 3. 30mn月面アルベドの2次元撮像観測(98/9/24月スイングバイ時の観測結果) 98/9/24に「のぞみ」は月への最接近距離4100kmの月のスイングバイを行った。そのときに,月の東面から裏面にかけて30nm月面アルベドの2次元撮像に初めて成功した.観測領域は60°E〜120°Eにかけての地域であり,危機の海(60°E,15°N)とスミス海(90°E,0°N)を含む領域であった。XUVが持っている2つのチャンネル両方で,同様の地域差を観測した.2つのチャンネルではバンドパスの幅が異なるが,太陽光に含まれる放射束を考慮すると,両チャンネルともに30nmの月面アルベドを観測したことになる.ナロウバンドチャンネルの観測結果を図に示す.左パネルが観測量の空間への投影である.赤で表現されている領域が月面の観測を示している.右パネルは点線で囲まれた領域の月面への投影である.この観測結果から,30nmでは,月の海よりも高地のほうが明るいということが明らかになった.各領域毎のジオメトリックアルベドを表に示す.しかし,この地域差を説明するような室内実験は過去に行われていないため,その検証実験を以下のように行った. 4. 地球の岩石を用いた反射率測定 XUVの観測により明らかになったジオメトリックアルベドの地域差が何によるものなのかを検証するために,室内実験を行った.サンプルに用いたのは,バサルト(月の海の代表的物質)・アノーソサイト(月の高地の代表的物質)をプレート状にしたもので,表面を研磨したものと,未研磨なものについて実験を行った.実験は,岡崎分子研UVSORの放射光を利用しておこない,波長30.4nm,入射角45°に固定して,反射率測定を行った.その結果を図に示す.この実験から,研磨したバサルトは,研磨したアノーソサイトよりも反射率が高く,観測結果とは逆の結果を得られた. 5. 結論 「のぞみ」に搭載されたXUVで30nm月面極端紫外アルベドの2次元撮像に初めて成功した.その観測結果からは,30nmでは月の海よりも月の高地のほうが明るいことがわかった.室内実験からは,観測とは逆に,アノーソサイト(月の高地)よりもバサルト(月の海)の反射率が高いという結果を得た. 6. 考察と展望 観測と室内実験の逆転現象は,バサルト中のFeOが宇宙風化作用の影響を受けて,Feに還元されている可能性が考えられる.極端紫外領域ではFeOよりもFeのほうが,反射率が低いので,その変性の影響がでている可能性がある.そのことを検証するためには,実験室でパウダーの反射率測定をできるようにし,宇宙風化作用を模擬したサンプルの測定をする必要がある.極端紫外領域が,宇宙風化作用を調べるためのウインドウになっているのなら,月周回衛星セレーネに搭載する極端紫外プラズマ撮像器で,詳細に観測する大きな意義となるであろう. | |
審査要旨 | 本論文は8章からなる。第1章は導入部で極端紫外線によるこれまでの月面の観測のレビューを詳細に行っている。第2章は、火星探査機「のぞみ」に搭載された極端紫外光スキャナーXUVの開発について論じている。第3章は、月面での紫外反射光のデータ解析について述べている。第4章は、極端紫外光スキャナーXUVの機上較正の結果・解析について述べている。第5章は、火星探査機「のぞみ」の月スイングバイの際に観測した30.4nmでの月面アルベド観測について述べている。第6章では、観測結果を説明するために行った、鉱物試料の反射率測定結果について述べている。第7章は、「のぞみ」の観測結果と実験室の測定結果の比較の議論を行っている。第8章は、結論をまとめている。 これまで、極端紫外領域における月の観測は、例が少ない。この領域の電磁波は大気に吸収されるため、固体惑星探査には利用されてこなかった。また、典型的な鉱物種の反射スペクトルのデータもほとんど無い。本論文は、火星探査機「のぞみ」に搭載された極端紫外光撮像器(XUV)による月表面の30.4nmでのアルベド測定を行い、その結果を実験室の鉱物の反射率と比較した。 まず、「のぞみ」打上後に、XUVの視野を月が横切ったときの観測データから、XUVの視野方向と感度の機上較正を行った。その結果、視野方向は設計値と約0.7度ずれているが、感度は打上前の較正値とほとんど変化がないことが確認された。 1998年9月24日に、「のぞみ」は月への最接近距離4100kmでのスイングバイを行い、そのときに、月面アルベドの2次元撮像に初めて成功いsた。観測領域は東経60度から120度にわたり、危機の海とスミス海を含む。この結果から、30.4nmでは、月の海よりも高地の方が明るいということが明らかになった。 このアルベドの地域差を検証するために、分子科学研究所UVSORの放射光を用いた、鉱物反射率測定を行った。鉄を含むカンラン石粉末ペレット試料の可視・近赤外域の反射率は、宇宙風化作用のシミュレーション(パルスレーザー照射)により波長の短いほど減少の大きいことが確認されている。これは微小鉄粒子の形成によるためである。本論文では、宇宙風化作用による反射率減少が極端紫外域まで及んでいることを世界で初めて明らかにした。これにより、海での反射率が低いことは、鉄の含有量の違い;などによる宇宙風化作用の程度の違いで説明することができる。 本論文第2,4,5章は中村正人、吉川一朗、山崎敦、滝澤慶之、平原聖文、山下廣順、斎藤義文、三宅亙、松浦恵樹との共同研究であるが、論文提出者が主体となって分析及び検証を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。 したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。 | |
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