学位論文要旨



No 115975
著者(漢字) 遠藤,暁詩
著者(英字)
著者(カナ) エンドウ,サトシ
標題(和) 植物のプログラム細胞死に伴う死細胞限定化機構 : 管状要素により分泌されるTED4タンパク質の機能解析
標題(洋) A mechanism for protection of living cells from injury caused by dying cells : Functional analysis of the TED4 protein secreted from developing tracheary elements
報告番号 115975
報告番号 甲15975
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第4019号
研究科 理学系研究科
専攻 生物科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 福田,裕穂
 東京大学 教授 長田,敏郎
 東京大学 教授 内宮,博文
 東京大学 助教授 西田,生郎
 東京大学 助教授 園池,公毅
内容要旨 要旨を表示する

 プログラム細胞死は動物と同様、植物においても正常な発生過程や、様々な外的ストレスに適応する上で欠くことのできない役割を担っている。道管・仮道管を構成する管状要素の分化においては、細胞は自らを分解し中空の構造物となることで通道要素として機能する。この管状要素の細胞内容物の分解には、液胞崩壊の後に機能するいくつかのプロテアーゼやヌクレアーゼ等が関与していることが近年の研究から明らかにされつつある。

 動物の細胞死における最終的な細胞内容物の分解は、死細胞を取り込んだ他の細胞によって成される。一方、植物ではそのような死細胞除去システムは見つかっておらず、自己分解に用いられた加水分解酵素が活性を失わずに周辺に流出している可能性がある。

 TED4遺伝子はヒャクニチソウ管状要素分化系において、管状要素に特徴的な形態変化が観察される以前から発現する遺伝子である。TED4の機能を解明するための基礎として、修士課程において私はタンパク質レベルでの局在解析を行った。その結果TED4は細胞外に分泌されるタンパク質で、管状要素や師管要素、そして繊維細胞といった死に行く細胞にそれぞれの分化の初期から強く発現することを明らかにした。TEIXはオオムギの非特異的脂質輸送タンパク質LTP2と類似したタンパク質をコードしている。近年、Jones(1995、1997)によってオオムギLTP2がプロテアーゼインヒビターとして機能することが示されたことから、TED4タンパク質が死細胞から漏出するある種のプロテアーゼの活性を細胞外で阻害していることが予想された。そこで博士課程では、ヒャクニチソウ管状要素分化系を用いて、まずTED4タンパク質のプロテアーゼインヒビターとしての機能を検証し、次に細胞外で実際に標的プロテアーゼと相互作用していることを明らかにした上で、TED4タンパク質が管状要素の細胞死の過程において周辺の細胞の生存に寄与している可能性を示した。

結果と考察

1.TED4タンパク質のプロテアーゼインヒビター活性

 ヒャクニチソウ管状要素分化系では、単離葉肉細胞から管状要素への同調的な分化が誘導される。これまでに酸性に至適pHを示すプロテアーゼのZ-Pbe-Arg-MCA分解活性が、培養細胞中で管状要素の自己分解の時期に、一過的かつ管状要素分化特異的に検出されることが示されている(図1)。そこでまず、この分解活性に対するTED4タンパク質の影響を組み替えTED4タンパク質を用いて調べたところ、20-25%の阻害効果が認められた(図2)。一般にタンパク質性のプロテアーゼインヒビターは、標的プロテアーゼと強固な複合体を形成することが知られていることから、次にTED4タンパク質をリガンドとした標的タンパク質のアフィニティー精製を試みた。得られた結合タンパク質をSDS-PAGEで分離したところ、複数のポリペプチドがTED4タンパク質に結合していることが分かった(図3A)。さらにこのTED4結合タンパク質を二次元電気泳動で分離したところ、ポリペプチドの分離パターンが植物の20Sプロテアソームと非常に類似していた(図3B)。そこで既知のプロテアソームインヒビターであるlactacystinを用いて、管状要素分化特異的Z-Phe-Arg-MCA分解活性に対するTED4タンパク質の影響を詳細に調べた(図4)。その結果、lactacystinがTED4タンパク質と同程度の阻害効果を示し(図4A)、TED4タンパク質による阻害効果がlactacystin存在下では検出されないことから(図4B)、TED4タンパク質によって阻害されていた活性はプロテアソーム由来であることが示唆された。

2.管状要素分化過程におけるプロテアソームの関与

 TED4タンパク質の標的と予想されるプロテアソームの挙動を調べるために、イネのプロテアソームC2サブユニットに対する抗体を精製した後、免疫学的解析を行った。まず、この抗体がヒャクニチソウ管状要素分化系でもC2サブユニットと考えられるバンドを特異的に認識することを示した(図5)。次に、管状要素におけるプロテアソームの蓄積を明らかにするために、ヒャクニチソウ植物体の組織切片に対する免疫染色を行った(図6)。その結果、シグナルは未成熟な管状要素の細胞質と幾つかの維管束細胞の核に認められた。続いて管状要素の二次壁肥厚が始まった時期に、プロテアソームインヒビターであるlactacystinを培地に添加して培養を行い、管状要素分化におけるプロテアソームの役割を調べた。管状要素の二次細胞壁の形成はlactacystim添加によっても遅れることなく進行するが(図7A)、72-96時間目ではlactacystinによって細胞内容物の消失が抑制されることが示され(図7B)、プロテアソームが管状要素の自己分解過程に関与する可能性が示唆された。

3.管状要素自己分解過程におけるTED4タンパク質とプロテアソームの相互作用

 プロテアソームが未成熟な管状要素に蓄積されていることとTED4タンパク質が管状要素の自己分解以前から培地に分泌されていることから、両者の相互作用は管状要素の自己分解によって細胞外にプロテアソームが流出することで成立するものと予想された。そこで自己分解によりプロテアソームを含む細胞内容物が培地に流出してくる時期の培地タンパク質から、抗体カラムを用いてTED4タンパク質およびTED4結合タンパク質の単離を試みた(図8)。その結果、抗TED4抗体カラムに結合した画分にTED4タンパク質(図8C)とプロテアソームC2サブユニット(図8B)が検出され、TED4タンパク質とプロテアソームが培地中で複合体を形成することが示された。また、TED4タンパク質が培地中でプロテアソームのインヒビターとして機能しているか調べるために、管状要素の自己分解の直前(培養56時間目)に細胞を新しい培地に移すことで培地中からTED4タンパク質が除去された状態をつくった。このような培地交換を行った場合でも管状要素の分化は通常通りに進行した(図9A)。培養60-72時間目には培地交換の有無に関わらず、管状要素から流出した細胞内容物由来と考えられるZ-Phe-Arg-MCA分解活性が培地中に検出された(図9A)。また、培地中からTED4タンパク質を除去した場合、Z-Phe-Arg-MCA分解活性の一部がlactacystinにより阻害されることから(図〜9C)、TED4タンパク質が存在しない培地中(図9B)ではプロテアソームが活性を持つことが示唆された。さらに、TED4タンパク質がlactacystinと同様の阻害効果を持つこと、このTED4タンパク質の阻害効果はlactacystinによって打ち消されることから(図9C)、TED4タンパク質が培地中でプロテアソーム活性を阻害していることが示唆された。次に、培地中に存在するプロテアソーム活性を特徴づけるために、従来からプロテアソーム活性の検出に用いられている3種類の基質を用いた活性測定を行った(図10)。その結果、TED4タンパク質の非存在下でのみ、プロテアソームのキモトリプシン様活性がlactacystinとTED4タンパク質により阻害されることが明らかとなった(図10A)。これらの結果から、プロテアソームは活性を持った状態で管状要素から細胞内容物と共に漏出し、漏出したプロテアソームの活性は培地中に蓄積されているTED4タンパク質によって阻害されていることが強く示唆された。

4.管状要素分化におけるTED4タンパク質の役割

 本来細胞内で働く加水分解酵素が、細胞外でその分解活性を発揮してしまうような状況は、周辺の細胞に有害であることが予想されることから、TED4タンパク質除去による非管状要素細胞のダメージを調べた(図11)。管状要素の自己分解の直前にTED4タンパク質を培地から除去した場合、自己分解終了後では通常の培養に比べて非管状要素細胞の死亡率が増加していた(図11A)。この死亡率の増加は、TED4タンパク質を除去した際にGST-TED4を代わりに添加しておくことで抑制された(図11A)。したがって、TED4タンパク質は管状要素分化過程において周辺の細胞の生存に寄与していることが明らかとなった。このTED4タンパク質の死亡率抑制効果が、プロテアソームの活性を阻害していることに起因するものであれば、lactacystinによっても同様の死亡率抑制効果が得られると考えられた。そこでTED4タンパク質除去の際に、新しい培地にlactacystinを添加して培養を行ったところ、lactacystinによっても死亡率の抑制が認められた(図11B)。以上の結果より、管状要素の自己分解過程において細胞内容物が漏出する際に、TED4タンパク質はプロテアソームに対するインヒビターとして機能することで、周辺の細胞を損傷から守っていることが示唆された(図12)。

まとめ

1.TED4タンパク質は、自己分解に伴って上昇する管状要素分化特異的タンパク質分解活性に対して、プロテアソームの活性を選択的に阻害することが示唆された。

2.管状要素に蓄積されるプロテアソームは自己分解過程にも関与し、その後細胞外へ漏出することが示唆された。

3.TED4タンパク質は細胞外においてプロテアソームに対するインヒビターとして機能することが示された。

4 管状要素のプログラム細胞死においてTED4タンパク質は、細胞外に漏出したプロテアソームの活性を阻害することで周辺の細胞を守る役割をしていることが示唆された。

図1.ヒャクニチソウ管状要素分化系におけるZ-Phe-Arg-MCA分解活性の経時的変化

管状要素分化(△)に伴った細胞内のZ-Phe-Arg-MCA分解活性(○)の上昇はpH5の反応液中で一過的に検出される。 Minami and Fukuda1995.Plant Cell Physiolより引用。

図2.組み替えTED4タンパク質の管状要素分化特異的Z-Phe-Arg-MCA分解活性に対する影響

培養後60時間目の細胞粗抽出液中のZ-Phe-Arg-MCA分解活性をpH5で測定した。測定直前にDHFRあるいはDHFR-TED4(A)、GSTあるいはGST-TED4(B)を横軸に示した濃度になるように添加した。

図3.培養細胞からのTED4結合タンパク質の精製

管状要素分化誘導条件下、60時間目の細胞内可溶生タンパク質をCM-Sepharoseで濃縮し、GST、GST-TED4 をリガンドとしたアフィニティー精製を行った。アフィニティーカラムを0.5M NaClを含む20mM sodium phosphate buffer(pH7.O)で十分に洗浄した後、7MUreaを含む100mM glycine-HCI buffer(pH3.0)でGSTおよびGST-TED4にそれぞれ結合していたタンパク質を溶出させた。(A)GSTおよびGST-TED4結合タンパク質のSDS-PAGEにおける泳動像。(B)GST-TED4結合タンパク質の二次元電気泳動における泳動像。

図4.LactacystinとTED4タンパク質の、管状要素分化特異的Z-Phe-Arg-MCA分解活性に対する阻害効果の比較

培養後60時間目の細胞粗抽出液中のZ-Phe-Arg-MCA分解活性をpH5で測定した。A、測定直前にlactacystinあるいはDHFR-TED4を横軸に示した濃度になるようにそれぞれ添加した。異なる濃度のDHFR-TED4を2μM lactacystinと共に添加して分解活性を測定した。

図5.ヒャクニチソウ管状要素分化系におけるプロテアソームの蓄積パターン

A,プロテアソーム触媒ユニットである20Sプロテアソームの模式図。C2サプユニットはαタイプのサプユニットの一つ。OsPAF1とも呼ばれる。以降の解析は、イネのC2サブユニットに対する抗体を用いて行った。B、ヒャクニチソウ管状要索分化系におけるプロテアソームC2サプユニットの蓄積パターン、管状要素分化条件下で図に示された時間培養した細胞から可溶性タンパク質を調製し、各レーン80μgでそろえてイムノブロット解析を行った。

図6.ヒャクニチソウ植物体におけるプロテアソームC2サブユニットの局在パターン

播種後2週間目の植物体の、茎頂近傍の節間(AとB)および未展開の本葉(CとD)の横断切片に対し免疫染色を行った。AとC、抗C2サブユニット抗体処理無し。BとD、抗C2サブユニット抗体処理あり、E、表皮;P、師部;X、木部;矢印,未成熟な管状要素;スケールバー50μm。

図7.管状要素分化の自己分解過程に対するlactacystinの影響

Lactacystinは培養後48時間目に培地に添加した。A,4μM lactacystin添加(○)、2μMlactacystin添加一(●)および無添加(□)の場合の管状要素(TE)率の経時的変化。エラーパーは標準誤差を示す。B、Aの各培養条件下でのliving TEs、dying TEs、hollow TEsの全管状要素に占める割合。Evan's blueで染色されずかつ細胞内容物が観察されるものをliving TEs、evan's blueで染まる管状要素をdying TEs、evan's blueで染色されない中空の管状要素をhollow TEsと区別した。無添加の培養と比較して、20μM lactacystin添加の場合培養72時間目および96時間目においてdying TEsの増加とhollow TEsの滅少が認められた(P<0.02、n=3、ニ標本t検定)。

図8.細胞外におけるTED4タンパク質-プロテアソーム複合体の検出

培養後60時間目の培地から、100kDa以上のタンパク質を回収し、抗マウス1gG1抗体(control)および抗TED4抗体(anti-TED4〕をそれぞれSepharoseに共有結合させて作製した抗体カラムに添加した。0.5MNaClを含む10mM Tris-HCl(pH7.5)で力ラムを十分に洗浄した後、100mMg glycine-HCl(pH2.5)で結合していたタンパク質を溶出させた。A、それぞれの抗体カラムから溶出させたタンバク質のSDS-PAGEによる泳動像。B、抗C2サブユニット抗体を用いたAに対するイムノブロット。C、抗TED4抗体を用いたAに対するイムノブロット。

図9.培地中でのプロテアソームの加水分解活性の検出1

A、管状要素(TE)率と培地中のZ-Phe-Arg-MCA分解活性の経時的変化。培養後56時間目において細胞を新しい培地に移して培養を継続した。B、培地中のTED4タンパク質蓄積量。通常の培養条件下で56(56)、72(72)時間目、および56時間目に培地交換を行いさらに16時間培養を継続した場合(72)の培地タンパク質に対するイムノブロット。C、TED4タンパク質を除去した培地中のZ-Phe-Arg-MCA分解活性に対するlactacystinおよびGST-TED4のインヒビター活性。通常の培養後72時間目の培地(Non-depleted)と培地交換処理を経て合計72時間培養した際の培地(Depleted)中のZ-Phe-Arg-MCA分解活性のうち、2μMlactacystinと2μM GST-TED4によって抑制された割合を縦軸に示した。「Depleted+lactacystin」はGST-TED4のインヒビター活性を測定する前に、培地サンプルに2μM lactacystinを添加してあることを意味している。「*」ではインヒビター活性が認められる(P<0.02、n=6、一標本t検定)。エラーバーは標準誤差。

図10.培地中でのプロテアソームの加水分解活性の検出2

培養後56時間目における培地交換処理を経て合計72時間培養した際の培地(Depleted)を中性pHに調製し、その培地中の加水分解活性をSuc-Leu-Leu-Va1-Tyr-MCA(A),Boc-Phe-Ser-Arg-MCA(B)、およびZ-Leu-Leu-Glu-MCA(C)を基質として測定した。「+lactacystin」、「+GST」、「+GST-TED4」はそれぞれを2μM加えてから分解活性を測定したことを示す。「a」と「b」では差が認められる〔P<0.02、n=4、二標本t検定〕。エラーバーは標準旗差。

図11.TED4タンパク質による死亡率の抑制効果

培養後96時間目において、evan's b1ueを排除できない、または構造が著しく損なわれている非管状要素細胞を死細胞とした。管状要素はすべて生細胞とした。培地交換によるTED4タンパク質の除去(Depleted〕は培養後56時間目に行った。また「+GST」、「+GST-TED4」、「+lactacystin」は培地交換の際に新しい培地にそれぞれ2μMになるように添加したことを示す。「a」と「b」では差が認められる(AとBいずれもP<0.001、n=6、二標本t検定)。エラーバーは標準誤差。A、TED4タンパク質除去による死亡率への影響。B、lactacystinとTED4タンパク質による死亡率抑制効果の比較。

図12.本研究のまとめ

管状要素の自己分解開始前(上段)、自己分解開始後(下段)での細胞外におけるTED4タンパク質とプロテアソームの拳動を模式的に表現した。TE、管状要素。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は、木部細胞分化過程で細胞外に分泌されるタンパク質、TED4タンパク質の機能をプログラム細胞死と関連づけて解析したものであり、植物プログラム細胞死過程での加水分解酵素阻害剤としての細胞外タンパク質の本質的な役割を初めて明らかにしたものである。本論文は3章からなり、第1章は、TED4タンパク質のタンパク質分解酵素阻害活性とTED4タンパク質に結合するタンパク質の解析について、第2章は、第1章で明らかになったTED4結合活性の見られたプロテアゾームの管状要素分化過程での発現解析について、第3章では、細胞外でのプロテアソームとTED4タンパク質の相互作用とその生理学的意味について、述べられている。

 プログラム細胞死は動物と同様、植物においても正常な発生過程や、様々な外的ストレスに適応する上で欠くことのできない役割を担っている。この植物の細胞死プログラムに関しては、最近多くの研究が報告されてきているが、他の生細胞との関係はほとんど明らかでなかった。道管・仮道管を構成する管状要素の分化においては、細胞は自らを分解し中空の構造物となることで通道要素として機能する。この管状要素の細胞内容物の分解には、液胞崩壊の後に機能するいくつかのプロテアーゼやヌクレアーゼ等が関与していることが近年の研究から明らかにされつつある。これらの加水分解酵素は細胞死の後、細胞外へ放出され、他の細胞に傷害を与えると予想される。しかしながら、多くの細胞では影響を受けず生存し続ける。そこで、論文提出者はこの現象の基盤は、細胞死に先立ち細胞外に加水分解酵素阻害タンパク質を分泌することであると予想し、TED4タンパク質を足がかりに、生細胞と死細胞の関連を明らかにすることを考えた。

 まず、第1章では、TED4タンパク質が、細胞死に伴い活性の上昇するプロテアーゼ活性を阻害するかどうかを確かめ、実際に阻害すること、さらにその阻害活性はラクタシスチンと拮抗することを明らかにした。この結果は、TED4タンパク質が、プロテアソーム活性を阻害していることを示唆した。また、TED4タンパク質と結合する分子をアフィニティーカラムを用いて解析したところ、プロテアソームが特異的に結合することが示された。

 第2章では、管状要素細胞死との関連が示唆されたプロテアゾームが、分化過程でどのような挙動をするかをプロテアソームのC1サブユニットの抗体を用いて解析した。その結果、プロテアソームは木部分化過程でその量を増加させ、とりわけ、細胞死前の管状要素で大量に蓄積していることが明らかになった。

 第3章では、第1章、第2章の結果を受けて、TED4タンパク質とプロテアゾームの細胞外での相互作用について解析した。まず、培地タンパク質から、抗体カラムを用いてTED4タンパク質およびTED4結合タンパク質の単離を試みた。その結果、抗TED4抗体カラムに結合した画分にTED4タンパク質とプロテアソームC2サブユニットが検出され、TED4タンパク質とプロテアソームが培地中で複合体を形成することが示された。次に、TED4タンパク質が培地中でプロテアソームのインヒビターとして機能しているか調べ、プロテアソームは活性を持った状態で管状要素から細胞内容物と共に漏出し、漏出したプロテアソームの活性は培地中に蓄積されているTED4タンパク質によって阻害されていることを強く示唆した。最後に、TED4タンパク質除去による非管状要素細胞のダメージを調べた結果、管状要素の自己分解過程において細胞内容物が漏出する際に、TED4タンパク質はプロテアソームに対するインヒビターとして機能することで、周辺の細胞を損傷から守っていることが示唆された。

 ここに得られた結果の多くは新知見であり、いずれもこの分野の研究の進展に重要な示唆を与えるものであり、かつ本人が自立して研究活動を行うのに十分な高度の研究能力と学識を有することを示すものである。よって、遠藤暁詩提出の論文は博士(理学)の学位論文として合格と認める。

UTokyo Repositoryリンク