学位論文要旨



No 115995
著者(漢字) 吉田,聡子
著者(英字)
著者(カナ) ヨシダ,サトコ
標題(和) 緑葉の老化に関与するシロイヌナズナ変異体の解析
標題(洋) Isolation and characterization of Arabidopsis mutants that exhibit abnormal leaf senescence phenotypes
報告番号 115995
報告番号 甲15995
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第4039号
研究科 理学系研究科
専攻 生物科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 西田,生郎
 東京大学 教授 東江,昭夫
 東京大学 教授 福田,裕穂
 東京大学 教授 内宮,博文
 東京大学 助教授 高橋,陽介
内容要旨 要旨を表示する

<序論>

 高等植物の葉は,加齢に伴って次第に黄色化し,やがて枯死にいたる.この現象は葉の老化と呼ばれる.老化の過程では,細胞内構成成分の分解がおこり,分解産物の多くは若い器官などへ転流され,新たな生長のために利用される.老化の進行に伴って,いくつもの遺伝子が新たに発現することが知られており,老化は死に向かう消極的な過程というよりはむしろ,植物体の生存を有利にするための積極的な過程であると考えられる.老化は遺伝的にプログラムされていると考えられ,変異体の研究が古くからおこなわれてきたが,その内容は生理学的な解析に留まっている.一方,最近では,老化過程での遺伝子発現に関する分子レベルの知見が蓄積してきたが,老化の制御に関与する遺伝子の知見はほとんど得られていない.本研究では,老化プログラムの機構を明らかにするために,分子生物学的研究および分子遺伝学的研究の双方向からのアプローチを試みた.まず,老化に伴って発現が上昇する遺伝子yellow-leaf specific gene 1-9(YLS1-YLS9)のcDNAの単離と転写産物レベルの解析をおこなうことににより,老化の分子マーカーとしての有用性を開拓した.次に,老化が早くなる変異hypersenescencel(hys1)の解析と,変異の原因遺伝子の同定をおこない,老化の進行に関与する遺伝子の単離に成功した.また,老化が遅くなる変異体4delayed leaf senscence1(dls1)を単離し,その変異遺伝子が,N末則タンパク質分解系に関与する一遺伝子であることを明らかにした.

<結果と考察>

I. 葉の老化に伴って発現が上昇する遺伝子の解析

 緑葉の老化にともなって発現する遺伝子YLS1-YLS9の全長cDNAを単離し,その塩基配列のホモロジーサーチからYLS遺伝子の機能を推定した.YLS遺伝子の葉の老化過程,および植物体の各器官での転写産物の蓄積量を解析し,老化の分子マーカーとしての特徴付けを行った。このうちYLS4,YLS6およびYLS9は老化後期の葉に顕著な蓄積を示し,以下の老化変異体の解析では分子マーカーとして有用であった.

II. 葉の老化が早くなる変異体hypersenescencel(HYS1)の解析

 修士課程において単離していた老化が早まる変異体2系統は、遺伝学的な解析の結果、アレリックな変異であることが明らかになった(hypersenescence1-1(hys1-1)およびhypersenescence1-2(hys1-2)と命名,図1)..hys1では,クロロフィル量,光化学系IIの量子収率を表すFv/Fm値,および可溶性タンパク質量のいずれもが,自然老化に伴い野生株よりも速やかに減少していた.また,上記の老化のマーカー遺伝子は,いずれも野生株に比べて早い時期に転写産物の蓄積がみられた(図2).以上の結果は,hys1が生理学的にも分子レベルでも老化の早まる変異体であることを示唆している.

 また,hys1は様々な濃度の糖を含む培地上で生育させた際に,野生株よりも低濃度の糖により胚軸の伸長が阻害されることから,外部から与えられた糖に対して高感受性を示すことが明らかになった(図3).また,糖を含む培地上で生育させたhys1の芽生えでは,光合成関連遺伝子の転写産物レベルが野生株に比べて著しく減少していた.糖による胚軸の伸長阻害と光合成関連遺伝子の転写産物レベルの抑制はいずれも糖センサーとして知られているヘキソナーゼによって制御されていることが知られていることから,hys1はヘキソナーゼのシグナル伝達に関与する変異体であることが示唆された.

 Map-based cloninng法を用いてhys1変異体の原因遺伝子HYS1の同定をおこなった.HYS1は既知の遺伝子配列とは全く相同性をもたない新規遺伝子産物(564アミノ酸残基)をコードしていた(図4).hys1では、そのうち473番目のトリプトファンが終始コドンに,hys1-2では535番目のプロリンがセリンに置換する変異が生じていた.HYS1のアミノ酸末端(N末端)側には核移行シグナルが,またカルボキシル基末端(C末端)側には疎水性アミノ酸のクラスターからなる5つの膜貫通領域が予想された(図4B).hys1-1およびhys1-2変異はいずれもC末端側に生じていたため,予想された膜貫通領域はHYS1の機能において重要な役割を果たしていると考えられる.HYS1遺伝子の転写産物は,葉の発達や老化の時期・植物体の器官によらず恒常的に蓄積しており,HYS1が恒常的な機能を担っていることが示唆された.

 HYS1の具体的な機能については現時点ではまだ明らかではない.しかし,最近,ヘキソキナーゼの過剰発現体が老化が早まる表現型を示すという報告がなされるなど,糖シグナルと老化の関係が示唆されている.hys1が糖シグナルと老化に関わる変異体であり,また遺伝子構造から核に局在することが予想されることから,HYS1はヘキソキナーゼ下流のシグナル伝達に関与する老化の抑制因子である可能性が高いと考えている.

III. 老化が遅れる変異体dls1の単離と解析老化の進行に変化が生じる新たな変異体の選抜を目的として,1,600ラインのT-DNAタグラインの種子を,暗所下における子葉の黄色化を指標にスクリーニングした.その結果,黄色化が遅くなる変異体を一系統単離し,delayed Leaf senescence1(dls1)と命名した.遺伝学的な解析の結果,dls1は一遺伝子座における劣性変異であった.dls1は暗処理によって誘導される老化および自然老化の進行が野性株よりも遅いことが分かった(図5).

 F2世代の解析から,dls1表現型とT-DNA挿入とのリンクが示唆されたため,プラスミドレスキュー法を用いて挿入T-DNA配列の近隣のゲノム配列を単離し,その塩基配列を決定した.dls1では,第5染色体上に位置するアルギニルtRNA:プロテイン アルギニルトランスフェラーゼ(以下・アルギニルトランスフェラーゼと呼ぶ)をコードするAtATE1遺伝子の第4イントロンにT-DNA挿入が生じていた(図6A).dls1におけるAtATE1の転写産物の蓄積をRT-PCR法を用いて調べたところ,正常なAtATE1転写産物の蓄積は見られなかった(図6B).さらに,AtATE1を完全に含む野生株のゲノム領域をdls1に遺伝子導入すると,T2世代の形質転換体において,老化が遅れる表現型が相補された.以上の結果は,dls1の表現型がAtATE1の欠損に由来することを示している.

 アルギニルトランスフェラーゼは・酵母・哺乳類などではN末則と呼ばれるタンパク質分解系に関与していることが明らかになっている.N末則とは,タンパク質のアミノ基末端にあるアミノ酸残基の性質によってそのタンパク質の分解速度が決まるという説である.酵母細胞内では,アスパラギン酸,グルタミン酸をN末端に持つタンパク質は,アルギニルトランスフェラーゼによってアルギニン残基がN末端に付加される・N末端のアルギニン残基は不安定残基として認識され,アルギニンを付加されたタンパク質はユビキチン/プロテアソーム系によって速やかに分解される(図7).しかし,植物におけるN末則については,その存在のみが示唆されているだけで,ほとんど研究はなされていない.そこで私は,トランジェントアッセイ系を用いてdls1におけるN末則によるタンパク質分解系の活性を調べた.ユビキチンの下流に任意のアミノ酸XをN末端荷物ルシフェラーゼを融合したタンパク質(Ub-X-LUC)をコードするキメラ遺伝子を,シロイヌナズナ葉肉細胞プロトプラスト内で発現させた.Ub-X-LUCは,プロトプラスト内では,ユビキチン特異的プロテアーゼによってユビキチンのC末端側で切断をうけ,X-LUCタンパク質を生じる.X-LUCはその後X依存的に分解される考えられる.同じプラスミド内にβ-グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子を組み込み,LUC活性をGUS活性で基準化することにより,LUCタンパク質の安定性を検定した(図8).その結果,N末端にアスパラギン酸,グルタミン酸を持つLUCタンパク質(D-LUC,E-LUC)は,メチオニンを持つLUCタンパク質(M-LUC)に比べて,野性株およびdls1株に野生型AtATE1を導入した形質転換体(dls1/ATE1g-1)では低いLUC活性を示すが,dls1では高い活性を示した(図8).この結果は,野生株およびdls1/ATE1g-1では,D-LUC,E-LUCはM-LUC,に比べて不安定なタンパク質であるが,dls1では,D-LUC,E-LUCの分解が速やかにおこなわれなくなっていることを示している.以上の結果から,植物細胞内でもアルギニルトランスフェラーゼがN末則によるタンパク質分解系に関与していること,さらに,その分解系の異常によってdls1では老化が遅れる表現型を示すことが明らかになった.老化の進行の過程でN末則によるタンパク質分解系がはたらき,何らかの老化の進行を制御する因子の分解に関わっていることは,老化分子機構研究における新規な知見であるばかりか,植物におけるN末則タンパク質分解系の生理的役割を明確にした初めての例である.

<まとめ>

1) 老化にともなって発現が上昇するYLS遺伝子の全長cDNA塩基配列を決定し,転写産物の蓄積パターンから,新たな老化の分子マーカーの有用性を開拓した.

2) 老化が早くなる変異体hypersenescence1(hys1)は糖に対して高感受性を示すことを明らかにし,HYS1がヘキソキナーゼを介した糖シグナルに関与する老化抑制因子である可能性を示した.

3) hys1変異の原因遺伝子を同定した.野生型HYS1遺伝子は核局在シグナルと膜貫通領域を持つと予想される新規タンパク質をコードしていた.また,C末端側に重要なドメインがあることが示唆された.

4) 老化が遅くなる新規変異体delayed leaf senescence1(dls1)をT-DNAタグラインから単離した.dls1は自然老化,暗処理による老化の進行が野生株に比べて遅く進行する変異体であることが明らかになった.

5) dls1の原因遺伝子はアルギニルトランスフェラーゼをコードするAtATE1であることを証明した.トランジェントアッセイの結果から,アルギニルトランスフェラーゼは酵母やほ乳類と同様に植物細胞内においてもN末則によるタンパク質分解系に関与していることが示唆された.また,老化の進行を制御するような因子の分解が,この系を通しておこなわれていることが推察された.

図1 hys変異体の表現型.

明暗周期下で生育させた発芽後36日目の野生株(左)およびhys1-1(右).hys1-1では下位葉に黄色化が見られる.白矢頭で黄色化している葉を示した.バーは1cmを示す

図2 hys1における老化遺伝子の転写産物の蓄積.

発芽後26日,36日および46日目の野性株(WT)および46日目の野生株(WT)およびhys1-1から,第5,6葉を材料にRNAゲルブロット解析をおこなった.老化時に転写産物の蓄積レベルが上昇する遺伝子(YLS4,YLS6,YLS9およびSAG12)および,減少する遺伝子(CAB)をプローブに用いた。

図3 hys1のグルコース感受性.

様々な濃度のグルコースを含む培地上で野性株およびhys1を6日間暗所で生育させ,12時間光を照射した後に,胚軸の長さを測定した.hys1では野生株に比べて低濃度のグルコースにより胚軸の伸長抑制が観察された.

図4 HYS1遺伝子の一次構造

(A)HYS1遺伝子のエキソンイントロン構造.黒い四角がエキソン領域を示す.hys1-1およびhys1-2の変異箇所を記した.

(B)HYS1の予想されるアミノ酸配列.予想された核移行シグナル,膜貫通領域をそれぞれ黄色い網かけ,水色の網かけで示した.赤文字は変異の起こったアミノ酸を示す.

図5 dls1における葉の老化の指標の経時変化.

第5葉を材料に葉が出現してからの日数をおって,葉面積あたりのクロロフィル量(上段),Fv/Fm値(中段)および葉一枚当たりの可溶性タンパク質量(下段)を測定した.dls1では野生株に比べて老化の進行が遅くなっている.

図6 アルギニルトランスフェラーゼをコードする遺伝子AtATE1の遺伝子構造と転写産物の蓄積.

(A)AtATE1のエキソンイントロン構造とT-DNA挿入位置.黒い四角がエキソンを示す.赤い矢頭はRT-PCR(B)に用いたAtATE1プライマーを,青い矢頭はTn5プライマーを示す.

(B)dls1におけるAtATE1転写産物の蓄積.AtATE1およびTn5プライマーを用いて,成熟ロゼット葉から単離したRNAよりRT-PCRをおこなった.PCR産物はDNAゲルブロット法を用いて検出した.Tn5はT-DNA上に組み込まれているカナマイシン耐性遺伝子である.

図7 酵母におけるN末則によるタンパク質分解経路.

グルタミン酸,アスパラギン酸をN末に持つタンパク質は比較的安定であるが,アルギニルトランスフェラーゼによってN末にアルギニンを付加されることにより,他の不安定残基をN末にもつタンパク質と同様にユビキチン/プロテアソーム系によって分解される.〓はタンパク質を〓はユビキチンを示す。(Varshavsky1997より改変)

図8 トランジェントアッセイ系を用いたN末則の検定.

(A)トランジェントアッセイに利用したコンストラクトの模式図.Xの位置にメチオニン(M),フェニルアラニン(F),アスパラギン酸(D)およびグルタミン酸(E)を導入した.M,Fは,それぞれ安定アミノ酸残基,不安定アミノ酸残基のコントロールとして用いた.

(B)トランジェントアッセイの結果、黒い棒が野生株を,灰色の棒がdls12を,白い棒が野生型ATE1遺伝子を導入したdls1株(dls1/ATE1g-1)を示す.LUC活性はGUS活性で基準化したものをM-LUCに対する相対値で示している.

審査要旨 要旨を表示する

 本論文はシロイヌナズナを用いた分子生物学的及び分子遺伝学的解析を通じて、緑葉の老化の進行に関わる分子メカニズムの一端を明らかにしている。第一章、第五章はそれぞれ序論と総合考察を述べ、研究の成果は三つの章からなっている。

第二章では、緑葉の老化に伴って転写産物量が増加する遺伝子の単離と解析を、第三章では、老化が早くなる変異体の解析とその原因遺伝子の解明を、また第四章では老化が遅くなる変異体の単離と解析および原因遺伝子の単離について述べられている。

 緑葉の老化は葉齢の増加によってのみではなく、様々な環境の変化によっても誘導される。老化の過程では細胞内構成成分の分解が起こることが知られており、高等植物は不利な環境に出会って十分な光合成を維持することが出来なくなると、齢を重ねた葉を積極的に老化させ、栄養分の有効利用を図る仕組みを備えていると考えられる。葉の老化の過程では遺伝子発現が必須であり、老化の進行は遺伝的にプログラムされていると考えられる。しかし、老化に関する遺伝学的な研究は不十分であり、本論文では、老化の遺伝的プログラムを分子生物学的および分子遺伝学的アプローチを用いて解明しようと試みている。

(1) 老化の分子マーカーyellow-leaf-specific(YLS)遺伝子の単離と解析

 第二章では老化の分子マーカーと成りうる遺伝子YLS1-YLS9のcDNA断片をディファレンシャル・ディスプレイPCR法を用いて単離した。さらにこれらの遺伝子の全長cDNAの塩基配列を決定し、そのホモロジーサーチをおこなうことによりその機能を推測した。また、これらの遺伝子の自然老化と暗処理、植物ホルモン処理によって人為的に誘導した老化における転写産物の蓄積パターンを調べた。その結果、自然老化と人為的に誘導した老化は分子レベルでは必ずしも一致するものではなく、老化の過程は複雑な制御を受けていることが示唆された。これらの遺伝子のうち、YLS4,YLS6およびYLS9は植物体の他の器官に比べて老化葉で顕著な転写産物の蓄積が観察されたため、次の章ではこれらの遺伝子を老化の分子マーカーとして用いた。

(2) 老化が早くなる変異体hypersenescence 1(hys1)の解析

 第三章では、老化の進行に異常が生じる変異体の単離を目的として、芽生えを暗所においたときに野生株に比べて子葉の黄色化が早い変異体および遅い変異体を選抜している。hys1変異体はEMS処理によって変異を導入したシロイヌナズナのM2種子プールから単離された。解析の結果、hys1変異体では老化の開始時期が早いこと、外部から与えられた糖に対して高感受性を示すことトライコームの形態が異常になることを発見した。また、map-based cloning法を用いてHYS1遺伝子を同定し、HYS1遺伝子がN末に核移行シグナルをC末に膜貫通領域を持つと予想される新規タンパク質をコードすることを明らかにした。さらに、本論文ではHYS1遺伝子が病原菌抵抗性獲得に関わると考えられていたcpr5変異体の原因遺伝子であることを明らかにし、老化および病原菌抵抗性の過程がHYSlを介して同一の遺伝的プログラムによって制御される可能性を提示している。

(3) 老化が遅れる変異体dls1の単離と解析

 第三章では、老化が遅くなる変異体delayed leaf senescence 1(dls1)をT-DNAタグラインから単離し、その解析をおこなっている。dls1は一遺伝子座における劣性変異で、暗処理によって誘導される老化および自然老化の進行が野性株よりも遅くなる特徴を持つ.さらに、挿入T-DNA配列をもとにしてdls1変異体の原因遺伝子を決定した。dls1変異体の原因遺伝子は,アルギニルtRNA:プロテイン アルギニルトランスフェラーゼ(以下,アルギニルトランスフェラーゼと呼ぶ)をコードするAtATE1遺伝子であることが明らかになった.

 アルギニルトランスフェラーゼは,酵母,哺乳類などではN末則タンパク質分解系に関与していることが明らかになっていたが、植物ではその機能は不明であった.トランジェントアッセイ系を用いてdls1変異体におけるN末則タンパク質分解系の活性を測ったところ、dls1変異体では確かにN末則に異常が生じていることが明らかになった。この結果はアルギニルトランスフェラーゼが植物においてもN末則に関わっていることを明確に証明するものであり、また、N末則タンパク質分解系が葉の老化の際にはたらいていることを示唆するものである。このことは,老化分子機構研究における新規な知見であるばかりか,植物におけるN末則タンパク質分解系の生理的役割を明確にした初めての例である.

 以上の結果はいずれも、葉の老化の分子機構を理解する上で新奇かつ重要な事実を証明している。また、hys1変異体の解析をとおして老化と抵抗性獲得の過程が糖シグナルの影響を受ける共通の遺伝的プログラムによって制御されるという新しい可能性を提唱している。さらに、dls1変異体の解析をとおして今まで全く生理学的な機能に関する知見の得られていなかった植物のN末則の生理学的な意義を示している。

 本論文は渡邊昭、西田生郎、伊藤正樹、Judy Callisとの共同研究であるが、論文提出者が主体となって分析および検証をおこなったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。したがって博士(理学)の学位を授与できると認める。

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