学位論文要旨



No 116004
著者(漢字)
著者(英字) Jongpradist,Pornkasem
著者(カナ) ジョンプラディト,ポーンカセム
標題(和) 軟岩の力学的挙動の含水比依存性と軟岩地山におけるトンネル掘削時の変状解析
標題(洋) Dependence of Behaviors of Soft Rock on Water Content and Analysis of Deformed Tunnel
報告番号 116004
報告番号 甲16004
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4841号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 堀井,秀之
 東京大学 教授 龍岡,文夫
 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 助教授 古関,潤一
 東京大学 講師 松本,高志
内容要旨 要旨を表示する

 軟岩地山においてトンネル掘削を行う際の問題として、一次支保が完了し、切羽が十分進行した段階での予期せぬ変形の増大、吹き付けコンクリートのせん断破壊等の変状発生が挙げられる。本研究は、そのような変状発生の要因を明らかにし、軟岩地山におけるトンネル掘削時の地山挙動を予測・再現することができる解析手法を構築することを目的とする。吹き付けコンクリート・ロックボルトのような支保は変位を抑制するのに効果的であることが知られており、解析手法はこのような支保の効果も再現できるものでなければならない。変状発生の要因としては、軟岩のクリープ破壊と力学的挙動の含水比依存性に着目する。

 変状がクリープ破壊に起因している可能性を議論するために、軟岩におけるトンネルのクリープ変形・クリープ破壊を予測できる解析手法の開発を行った。この解析手法は、クリープ構成則と進行性破壊を有限要素解析プログラムにとりいれたものである。トンネル問題の破壊面進行経路(図1)はクリープ解析で得られる応力場に基づいて、あらかじめ予測される。予測した破壊面に沿って、破壊基準が満たされた時、せん断滑りが発生するものとする。この手法により、トンネル建設時の変状の要因として考えられるクリープ破壊を再現することができる(図2)。さらに、この手法はトンネル変形を低減する支保の効果を表現することが可能である。

 強度と変形特性への含水比の影響を検討するために、人工軟岩の三軸圧縮試験を行った。実験結果より、含水比が増加するに伴って軟岩の強度が低下し、変形挙動が脆性から延性へと遷移することが分かる。実験結果によれば、図3に示すように、含水比を増加させた場合、粘着力は減少するが、摩擦角は影響を受けない。これは現実の軟岩挙動と一致する。軟岩の非線形挙動は、正規化した接線剛性を粘性とR/Dの関数(図4)として低下させることでモデル化できる。実験結果に基づき、等方性亜弾性(hypoelastic)モデルを構築し、トンネル掘削問題を解析するために有限要素法を適用した。その結果、トンネル掘削時の地山挙動に対する含水比の影響を表現することが可能となった。

 また本研究では、クリープ試験を実施し、軟岩の時間依存性における含水比の影響についても考察した。図5に示すように、軟岩のクリープ挙動は含水比の増加に対して敏感であることが示された。そして、含水比の影響を表現できるように、等価応力をR/Dで置き換えることによって、先に開発したクリープモデルを改良した。改良したモデルの妥当性を、クリープ試験結果と比較することで検討した後、トンネル掘削問題のクリープ解析を実施した。この解析手法により、地山の時間依存的な挙動に対する含水比の影響を表現することか可能となり、掘削から時間の経過した後の、トンネル変形の急増を再現することができることが示された(図6)。

 最後に、トンネル掘削を行う際の問題の原因が、クリープ破壊および軟岩強度の含水比依存性にある可能性を明らかにした。これら2つを考慮して構築した解析手法は、問題の挙動を再現することができる。このことは、軟岩内トンネル掘削が直面する問題のメカニズムを説明するものであると考えられる。これらは、軟岩内トンネルの挙動を予測するに際し、時間依存性および含水比の影響を考慮する必要があることを示している。

図1. 予測されたすべり面を含む有限要素メッシュ

Figure 1. FE mesh included predicted failure path

図2. クリープ破壊の影響

Figure 2. The effect of creep failure on increase of wall displacement

図3. モール円と破壊基準線

Figure 3. Mohr circles and associated failure envelops for different saturation degree

図4. パラメータR/Dの説明

Figure 4. The parameter R/D

図5. クリープ実験の結果(含水比の影響)

図6. クリープ解析の結果

審査要旨 要旨を表示する

 軟岩地山においてトンネル掘削を行う際の問題として、一次支保が完了し、切羽が十分進行した段階での予期せぬ変形の増大、吹き付けコンクリートのせん断破壊等の変状発生が挙げられる。本論文は、そのような変状発生の要因を明らかにし、軟岩地山におけるトンネル掘削時の地山挙動を予測・再現することができる解析手法を提案したものである。吹き付けコンクリート・ロックボルトのような支保は変位を抑制するのに効果的であるが、提案された解析手法はこのような支保の効果も再現できるものである。変状発生の要因としては、軟岩のクリープ破壊と力学的挙動の含水比依存性に着目している。

 第1章は序論である。

 第2章では、変状がクリープ破壊に起因している可能性を議論するために、軟岩におけるトンネルのクリープ変形・クリープ破壊を予測できる解析手法の開発を行っている。この解析手法は、クリープ構成則と進行性破壊を有限要素解析プログラムにとりいれたものである。トンネル問題の破壊面進行経路はクリープ解析で得られる応力場に基づいて、あらかじめ予測される。予測した破壊面に沿って、破壊基準が満たされた時、せん断滑りが発生するものとする。この手法により、トンネル建設時の変状の要因として考えられるクリープ破壊を再現することができる。さらに、この手法はトンネル変形を低減する支保の効果を表現することが可能である。

 第3章では、強度と変形特性への含水比の影響を検討するために、人工軟岩の三軸圧縮試験を行った結果を示している。実験結果より、含水比が増加するに伴って軟岩の強度が低下し、変形挙動が脆性から延性へと遷移することが分かる。実験結果によれば、含水比を増加させた場合、粘着力は減少するが、摩擦角は影響を受けない。これは現実の軟岩挙動と一致する。軟岩の非線形挙動は、正規化した接線剛性を粘性とR/Dの関数として低下させることでモデル化できる。実験結果に基づき、等方性亜弾性モデルを構築し、トンネル掘削問題を解析するために有限要素法を適用している。その結果、トンネル掘削時の地山挙動に対する含水比の影響を表現することが可能とることを示している。

 第4章では、クリープ試験を実施し、軟岩の時間依存性における含水比の影響について考察している。軟岩のクリープ挙動は含水比の増加に対して敏感であることを示している。そして、含水比の影響を表現できるように、等価応力をR/Dで置き換えることによって、先に開発したクリープモデルを改良している。改良したモデルの妥当性を、クリープ試験結果と比較することで検討した後、トンネル掘削問題のクリープ解析を実施している。この解析手法により、地山の時間依存的な挙動に対する含水比の影響を表現することか可能となり、掘削から時間の経過した後の、トンネル変形の急増を再現することができることを示している。

 第5章はまとめと結論である。

 以上のように、本論文は、トンネル掘削における変状の原因が、クリープ破壊および軟岩強度の含水比依存性にある可能性を示し、変状挙動を再現することができる解析手法を提案している。本論文は、これまで経験に依存していたトンネル工学に対して、地山挙動のメカニズムを解明・モデル化することにより、合理的な設計・施工を可能にする解析手法を導入するという、新たな展開を拓くものである。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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