No | 116005 | |
著者(漢字) | 土屋,智史 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ツチヤ,サトシ | |
標題(和) | 三次元非線形構造解析手法を用いた耐震性能評価システムの構築 | |
標題(洋) | Establishment of Seismic Performance Evaluation System Using Three Dimensional Nonlinear Structural Analysis | |
報告番号 | 116005 | |
報告番号 | 甲16005 | |
学位授与日 | 2001.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第4842号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 社会基盤工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 鉄筋コンクリートの非線形構造解析は,長年の研究と計算機の性能向上によって大幅な進歩を遂げており,信頼性と適用範囲が年々向上しつつある.構造解析手法は社会基盤の耐震設計に積極的に利用されてはいなかったが,阪神淡路大震災以降,大地震に対する靱性設計が主流となり,非線形解析の重要度が認識されるようになった.国際標準の流れの中で,社会基盤の設計体系が性能照査型設計へ移行されることも追い風となっている. 本研究では,「任意の使用材料と構造形状,および載荷経路に対して有効である非線形解析手法を用いた,RC構造物の耐震性能評価システムの確立」を目的とした.構造解析手法を活用した耐震設計と照査を定着させるには,解析手法の技術を高め,出力解に対する工学的な評価手法を確立し,社会に広く普及させていく必要があることから,数値解析手法を中心とした新しい研究成果を導出することと,その実用化を図ることの2点を命題として掲げた.すなわち,単に新技術としての非線形3次元立体解析を開発することのみならず,それを最大限活かしながら運用する社会システムを確立することが,本研究の目指すところである. 各種解析手法の現状整理と今後の設計照査法の動向を整理した上で,材料非線形モデルに立脚した完全3次元有限要素立体解析手法の高精度化と統合を目指した.集大成する過程では,単に既存の成果を寄せ集めるのではなく,有機的に結合し,不十分であるところは相互に補完することとした.その際,外力耐荷機構や最適設計/照査方法が確立されておらず,解析手法の適用と検証が不十分でもあった領域から,3つの適用事例を選択し,各々の挙動と機構の解明を目指しつつ,解析技術の高度化に取り組んだ.(1)常時偏心軸力が作用するRC柱のねじりと多軸曲げ挙動,(2)柱配筋されたRC部材のせん断挙動とひび割れ破壊面の形成,(3)高強度材料から構成されるRC部材のせん断挙動,の3種である.常時偏心軸力が作用するRC柱に,偏心軸力によるモーメントと直交方向に正負交番繰り返しねじりと曲げ/せん断を載荷した載荷実験を題材に,3次元立体解析を適用し,柱の耐荷性状と残留変位蓄積の機構について考察を行った.あわせて,本研究で採用した3次元立体解析手法の中核をなす,非直交多方向固定ひび割れ構成則と,高非線形領域における収束性・信頼性の検証を,3次元応力場で行った.対象としたRC柱は,最も複雑な多軸応力履歴を受ける1例であり,3方向以上にひび割れが導入されるため,本モデルの検証に適している. 大変形領域における精度と信頼性を向上させるため,学術的には既往の研究成果を基に簡便な鉄筋座屈モデルを3次元立体解析に導入し,技術的には状況に応じて剛性マトリックスを高めに,かつ緩やかに変化させる機能を装備した.その結果,本モデルによる3次元応答解析では,計算途中で発散することなく,ねじり力の低減,2方向曲げ変位の相互依存性と履歴,耐力をほぼ妥当な精度で,予測可能であることを実証した.これらの現象はひび割れの交差効果に大きく起因することから,少なくとも最大耐力までの変形は,独立3方向の非直交ひび割れ構成則が適用できる見通しを得た.かぶりコンクリートが剥離し,主鉄筋のはらみ出しが発生する耐力以降では,提案手法によって,解の精度向上をもたらすことができた.座屈モデルを用いた解析から,ねじりと曲げ/せん断が同時に作用し,鉄筋軸方向とコンクリートに発生する主応力方向が一致しない場合には,鉄筋座屈後の耐荷機構の低下が加速されると推定された. 常時偏心軸力と交番曲げ/せん断力だけを加えた柱には,ファイバー解析も適用し,立体解析結果と比較し,精度と適用範囲について考察を行ったところ,柱基部の角等に変形と損傷が集中するような場合には,平面保持の仮定が幾分崩れ,変位を小さく見積もる場合があることを示した.特に,部材基部の角部に厳しい変形の集中が現れる.ただし,最大耐力近傍までの曲げ卓越型の部材では,平面保持の仮定が成立しており,線材解析は十分実用的に使用することが可能であることが示された. 次に,RC梁・柱部材の側方鉄筋が,せん断破壊と寸法効果,さらにはひび割れの多元的な導入による耐荷機構に及ぼす影響について,主に付着に着目しながら,機構の解明を試みた.同時に,側方筋に対するゾーニング手法の修正と準3次元解析手法の提案も行い,解析手法の精度向上と適用範囲の拡大に努めた. せん断補強筋を有しておらず,断面寸法比をすべて統一して幾何学的な相似を極力合わせた,せん断破壊先行型の柱配筋供試体を,寸法を変化させて3体作成し,せん断破壊と寸法効果について実験的検討を行った.寸法のみを変化させた時に現れる純然たる寸法効果のみを抽出し,その定量評価を目指すためである.実験を補足する目的で,大型で非現実的な配筋を想定した仮想部材を対象とした,感度解析も同時に実施した.せん断強度に対する実験と解析両面からの検討により,断面寸法比を統一した場合には,断面寸法が大きくなるにつれて,せん断強度の低下が緩やかに,断面が小さくなった場合にも,強度の上昇が緩やかになる傾向が示唆された.実構造物や通常の供試体では,有効高さの-1/4乗に比例するものと予測された. せん断破壊をさせた後に,ひび割れ部に色素を混入した樹脂を注入して固定し,試験体を賽の目状に切断し,内部ひび割れ状況の観察を行い,側方筋が,斜めひび割れの角度とひび割れ分散性状に変化を及ぼすことを視覚的に検証した.かぶりの2倍の位置を境に,明確にひび割れ分散性状が異なることを明らかにした.側方鉄筋の存在によって外力抵抗機構が変化するとともに,曲げひび割れと同様に付着機構を介して,斜めひび割れの局所化を若干なりとも緩和し,ひび割れ破壊が分散したものである.RC柱部材のひび割れ破壊面は立体的に進展することから,せん断破壊を考える場合には,3次元的に扱う必要があることが確認された.また,経験的に指摘されていた通り,安らの提案する手法では,側方筋の付着作用領域を過大評価していたが,視覚的検証結果に基づいた準3次元解析では,実験結果をおおむね評価できた. 続いて,高強度材料からなるRC梁・柱部材のせん断破壊と寸法効果について,実験および解析の両面から検討を加え,設計耐力式の改訂を念頭に置いた議論展開を行った.あわせて,高強度材料の構成則の提案を行うとともに,鉄筋量が過小なせん断補強筋に対するゾーニング手法の精度も検証した. 4シリーズから構成されているせん断破壊実験を行い,高強度コンクリートを使用した場合の斜めひび割れ発生耐力は,既報と同じく,コンクリート圧縮強度増加に対して頭打ちとなることを確認し,現行の設計耐力式の妥当性を検証した.しかし,寸法効果が普通強度コンクリートに比べ,顕著となることが示され,設計の見直しの必要性が示唆された.また,斜めひび割れ発生以降のせん断補強筋による外力耐荷機構は,ひび割れ面が平滑となる高強度コンクリートであっても,普通強度コンクリートと同等であることが実証された.ただし,高強度せん断補強筋の全降伏を確保するためには,コンクリート強度にも配慮する必要があることが認められ,せん断補強筋の降伏強度の上限を規定する現行の設計手法には,再検討する余地があると考えられる. 高強度材料特有の力学的特性として,骨材の砕破によるひび割れ面形状の平滑化とせん断伝達機構の低減,ひび割れ発生以降の急激な応力解放の2者を取り上げ,高強度材料の数値解析手法を提案し,RC梁の変形挙動とせん断破壊を追跡できることを確認した.普通強度コンクリートのせん断伝達包絡線に,一律に低減係数を乗ずることにより,簡便に扱うことが可能であり,せん断伝達低減係数を約0.50とすれば良いことを確認した.適切な接触面密度関数を設定する厳密解法から得られた知見とおおよそ適合しているが,幾分高めの値となっている. 側方筋とせん断補強筋に着目した検討を通して,付着領域は鉄筋のひずみレベルに応じて変化しており,徐々に拡大しているとの仮説が導かれた.これを間接的に裏付ける研究成果として,要素分割を異形鉄筋の節以下にまで細かく設定した軸対称3次元ミクロ解析による,鉄筋の引き抜き試験解析を取り上げた.仮説に従い,実験ならびに解析的検討を厳密に行う必要があるが,繰り返しを含めた経路依存型材料構成則の構築を念頭に置き,物理現象と解析手法の適用性を考慮しなければならない. 以上の検討により,ゾーニング手法の検証と修正,高強度材料モデルの提案を通して,3次元非線形解析の適用範囲の拡大が達成された. 第2の命題である数値性能評価の実用化展開を行うために,様々な学外での活動を通して,長年に渡る大学での研究成果を世に送り出し,積極的な社会への還元を目指した.実構造物の設計・照査を行う現場において,日常業務の一環として使用されることを最終目標と定めた.現在障害となっているものとして,公共発注形態,技術に対する不当な評価,インセンティブの欠如を掲げ,解析手法の実用化を通して,それらを打破すべく新しい社会システムの提案を行った.本考察に基づき,新規にビジネスを創生することが可能と考えられ,大学も含めた技術展開を行う必要がある. | |
審査要旨 | 鉄筋コンクリート構造物の耐震性能を定量的に評価するシステムを構築することは,新設構造物の合理的な設計と既設構造物の耐震診断に欠くこととのできない技術課題である.社会基盤施設の設計体系が性能照査型に移行しつつある趨勢の下では,構造物の地震時応答挙動を精度良く再現するとともに,地震後の残存性能を定量化することが設計の合理化において極めて重要となる.本研究は,「任意の使用材料と構造形状,載荷経路に対して有効である非線形解析法を用いた,RC構造物の耐震性能評価システムの確立」を目的としたものである.非線形解析法の適用範囲と精度を多角的に検証し,実設計に使用する際の安全余裕度を評価し,あわせて多方向繰り返し作用を受けるRC構造の3次元解析法の開発と,高強度材料への適用を可能としたのである. 第1章は序論であり,鉄筋コンクリートの各種解析手法の現状整理を行った上で,本研究が目標とする,数値解析手法を中心とした新しい研究成果を導出することと,その実用化を図ることの意義について述べている.耐荷機構や照査方法が未整備で,3次元応答解析法の検証も不十分である構造技術事項を選択・着目し,各々の挙動と機構の解明を目指しつつ,完全3次元立体解析手法の高精度化と統合を図る意義を述べている.さらに,実務設計上の効力を正しく評価した上で公表し,普及と実用化を目指す方法を論じている. 第2章では,正負交番繰り返しねじりと曲げ/せん断を受ける,常時偏心軸力が作用するRC柱の非線形挙動に3次元立体解析を適用することで,非直交多方向固定ひび割れ構成則と,高非線形領域における収束性/信頼性の検証を3次元応力場で行った.既往の研究成果を基に,空間平均化手法による鉄筋座屈モデルを3次元立体解析に導入し,応答挙動に及ぼす影響についても検討を加えた結果,ねじり力の低減,2方向曲げ変位の相互依存性と履歴,耐力をほぼ妥当な精度で予測することを可能とした.かぶりの剥離,鉄筋のはらみ出しが発生する耐力以降の挙動では,鉄筋の局所的な大変形を考慮することで,解の精度向上をもたらすことができることを示している.さらに,数値解析を活用することにより,柱の耐荷性状と残留変位蓄積の機構について考察を行うとともに,最大耐力以降の挙動の推定,3次元骨組み解析の実務利用,3次元形状と入力をそのまま用いるRC橋脚の設計/照査法の提案を行っている.交番ねじり・せん断・曲げに対するRC部材の非線形応答を予測できる技術は,現時点で本研究以外に見当たらない. 第3章では,3次元的に導入されるひび割れ損傷の幾何構造の解明と,数値予測の精度の検証を行っている.せん断破壊に至った,側方筋を有するRC梁試験体を賽の目状に切断し,内部ひび割れ状況の観察を蛍光充填剤を用いて行った.側方筋の存在によって,ひび割れ面が多次元的に導入されることが視覚的に検証された.これは,せん断破壊の機構を考える上で,2次元解析は不十分であり,3次元的な鉄筋配置の影響を考慮する必要があることを示している.幾何構造の検証に基づいて,部材奥行方向にRC/無筋要素を重ね合わせることで3次元配筋を考慮する準3次元的解析を実施し,不安定現象であるせん断破壊であっても,軟化領域までを含め,実験結果を概ね評価できることを検証している.さらに実験および解析的検討を通して,寸法の変化に伴う純然たる効果と,断面諸元の比が異なる場合に現れる効果に分離して,せん断強度に現れる寸法効果の検討を行っている. 第4章では,4シリーズからなるせん断破壊実験を行い,高強度コンクリートを使用した場合の斜めひび割れ発生耐力に視点をあてている.コンクリート圧縮強度増加に対して部材のせん断耐力の向上は頭打ちとなり,寸法効果が普通強度コンクリートに比べ大きくなることを実験と解析両面から実証するとともに,帯鉄筋による補強効果がコンクリート強度によっては全降伏まで期待できないことを,解析的に導出することに成功した.包括的実験の遂行によって,現行の安全性照査法の一部再検討を示唆する結果が得られている.材料強度を単に大きくするだけでは,高強度コンクリートの力学的特性をすべて代表したことにならない.本研究では,ひび割れ面でのせん断伝達の低減と,ひび割れ面直交の引張応力解放率の二者に着目した高強度材料の数値解析手法を提案し,これによりRC梁の変形挙動とせん断破壊を追跡できることを示した.第2章から第4章までの検討により,3次元非線形解析の高度化が図られ,その適用範囲と精度がほぼ定量的に把握されるに至った. 第5章では,非線形応答解析をコア技術に据えた耐震設計/照査システムの提案を行うとともに,設計の観点から社会基盤施設の品質保証システムについて提言をまとめている. 本研究は,鉄筋コンクリート構造物の耐震性能評価システムの構築を通じて,新設構造物の耐震性能確保と既設構造物の耐震診断・補強計画に貢献するところが大きい.よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. | |
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