学位論文要旨



No 116007
著者(漢字) 吉田,純司
著者(英字)
著者(カナ) ヨシダ,ジュンジ
標題(和) 画像解析を用いた連続体の計測システムの構築と積層ゴム支承のモデル化への応用
標題(洋)
報告番号 116007
報告番号 甲16007
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4844号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 安部,雅人
 東京大学 教授 藤野,陽三
 東京大学 教授 小長井,一男
 東京大学 助教授 堀,宗朗
 東京大学 講師 井上,純哉
 東京大学 教授 小谷,俊介
内容要旨 要旨を表示する

 1995年兵庫県南部地震の甚大な被害を受けて,高減衰積層ゴム支承などの免震用積層ゴム支承を採用する構造物が増加してきている.積層ゴム支承により免震化された構造物は,支承の柔軟性により固有周期を長周期化することで構造物に作用する慣性力を低減し,さらに減衰性能により変位応答を減少させる.このように積層ゴム支承は動力学的効果を積極的に利用しているため,構造系全体の応答は免震支承の力学特性に大きく依存する.したがって構造物全体の応答予測を精度よく行うには,精緻な積層ゴム支承のモデルが必要となる.しかし,現時点において積層ゴム支承の力学特性を精緻に再現するモデルは存在せず,手間・費用のかかる載荷実験により支承1つ1つの性能を確認している.さらに載荷実験においても,支承のゴム部に生じるひずみが数100%以上の大ひずみであるため局所的な変形場を計測する手段がなく,これまでモデルを検証するためのデータを得られないのが現状である.

 一方,コンピュータのここ数年における発展はめざましく,従来では扱うことのできなかった高精度で大容量の画像データをパソコンレベルでも処理できるようになってきている.画像は,可視情報を精緻に計測できるため従来では観測のみに留まっていたものを定量的に把握することが可能となる.しかし,画像を用いた計測は,研究段階にあり精度の高い手法はこれまでのところ提案されていない.

 第1章では,序論として,上述の背景・既往の研究について整理するとともに,これらを踏まえ,本研究の目的として,

1)画像解析を応用し,大変形する連続体を対象とした計測システムを構築する.

2)積層ゴム支承の3軸載荷実験を行い,支承の詳細な力学特性を得る.

3)載荷実験結果で得られた支承の復元力特性を現象論的に再現するマクロモデルを構築する.

4)画像計測結果を応用しゴム材料の構成則ならびにそれを適用可能な有限要素法を構築する.

5)積層ゴム支承の有限要素モデルを応用し,実状況に即しかつ実験では再現が困難な変形場における積層ゴム支承の力学特性を把握する.

ことを掲げた.

 第2章では,積層ゴム支承の載荷実験の方法,条件および結果を示し,実験結果を基に構築した支承のマクロモデルについて説明した.本実験では鉛直荷重に加え水平2方向に加力する3軸載荷を行い,多軸載荷下における積層ゴム支承の復元力特性を把握した.次いで実験結果を基に,支承の水平1方向ならびに水平2方向の変位-荷重関係を精度良く再現できるマクロモデルを構築した.また,モデルの地震応答予測性能について検討するために,水平2方向ハイブリッド地震応答載荷実験を行い実験で得られた応答と,マクロモデルによる解析結果とを比較した.その結果,本モデルにより免震構造物の水平2方向の応答を精度よく予測できることがわかった.

 第3章では画像相関法を応用し,大変形する対象の物質点を追跡する画像計測システムを構築した.本システムでは,従来の画像相関法を高精度化するために,階層型のマッチング,テンプレートのズームを用いた収束計算,およびテンプレートの変形を考慮した手法を用いている.次に連続の式に基づき,計測対象の体積変形を考慮した計測データの補正手法を提案した.最後に大変形する対象の実計測例として,積層ゴム支承の圧縮せん断変形,円筒型鉛片の引張り変形,流体のスロッシング現象における変形場の計測を行い,本計測システムの有効性を示した.

 第4章では,ゴム材料の体系的な材料試験を行い,その結果を基にゴム材料の構成則を提案した.本構成則は,ひずみ量に依存する等方硬化則を有する弾塑性体と,経験ひずみ依存性を有する超弾性体を並列に組み合わせたモデルである.提案した構成則による解析結果と材料試験結果を比較したところ,ゴム材料の材料特性を精度良く再現できることがわかった.

 第5章では既往の混合型有限要素法を拡張し,弾塑性体などの速度型構成則で微圧縮性を有するモデルを適用できる有限要素法を構築した.本有限要素法と4章で提案した構成則を組み合わせることで,ゴム材料を応用したデバイスは,力学特性を材料レベルから予測することが可能となる.次いで,画像計測結果を応用し,材料の力学特性を定量的に把握するハイブリッド解析手法を提案した.本ハイブリッド解析手法を積層ゴム支承の画像計測結果およびゴム材料の構成則に適用し,本構成則を積層ゴム支承に適用した場合の妥当性を検証するとともにゴム材料の体積弾性係数を算出した.

 第6章では,提案した構成則および有限要素法により積層ゴム支承の有限要素モデルを構築した.積層ゴム支承の載荷実験結果と有限要素法による解析結果を比較したところ,本モデルにより支承の水平1方向復元力特性,鉛直方向復元力特性,ならびに水平2方向復元力特性を精緻に再現できた.また,本モデルを応用し実状況で現れ,かつ実験により把握が困難であるねじれ変形,回転変形などの複雑な変形場における支承の力学特性を把握した.

審査要旨 要旨を表示する

 兵庫県南部地震以降,高減衰積層ゴム支承などの免震用積層ゴム支承を採用する構造物が増加してきている.積層ゴム支承は,構造物の固有周期を長周期化,ならびに減衰性能の付与を目的としており,動力学的効果を積極的に利用している.そのため,構造物全体の応答予測を精度よく行うためには,精繊な積層ゴム支承のモデルが必要となる.しかし,現時点において積層ゴム支承の力学特性を精緻に再現するモデルは存在せず,手間・費用のかかる載荷実験により支承1つ1つの性能を確認している.さらに載荷実験においても,支承のゴム部に生じるひずみが数100%以上の大ひずみであるため局所的な変形場を計測する手段がなく,これまでモデルを検証するためのデータを得られないのが現状である.

 本研究では,画像解析を応用した連続体一般を対象とする計測システムを構築し,それを応用してゴム材料の力学特性を把握することで,ゴム材料の構成則および有限要素法を提案している.さらには提案した構成則を用いて積層ゴム支承の精緻な有限要素モデルを構築し,実状況に即した複雑な変形における支承の力学特性を把握している.

 第1章では,序論として,上述の背景を踏まえ,既往の画像計測手法,積層ゴム支承のマクロモデル,ゴム材料の構成則および有限要素法について整理し,研究の目的と方向性を明らかにしている.

 第2章では,土木構造物を対象として広く利用されている7種類の積層ゴム支承について鉛直方向に加え水平2方向に加力する3軸載荷を行い,支承の微小振幅復元力特性ならびに水平2方向復元力特性を明らかにした.これらの実験結果は,今後,交通荷重下での支承の力学特性を考慮した設計手法や,多軸免震のための設計手法を構築するための,基礎的データとなるものと予測される.

 次いで実験結果を基に,支承の水平1方向ならびに水平2方向の変位−荷重関係を精度良く再現できるマクロモデルを構築している.また,水平2方向ハイブリッド地震応答載荷実験をマクロモデルにより精度よく予測できることを示している.以上の結果から提案したマクロモデルは,従来のバイリニアモデルなどに替わり設計に利用されるものと考えられる.

 第3章では画像相関法を応用し,大変形する対象の物質点を追跡する画像計測システムを構築している.本システムでは,従来の画像相関法を高精度化するために,階層型のマッチング,テンプレートのズームを用いた収束計算,およびテンプレートの変形を考慮した手法を用いている.次に差分法ならびに有限要素法により,計測対象の体積変形を考慮した計測データの補正手法を提案した.最後に大変形する対象の実計測例として,積層ゴム支承の圧縮せん断変形,円筒型鉛片の引張り変形.流体のスロッシング現象における変形場の計測を行い,本計測システムの有効性を示した.本計測手法は,固体・流体を問わず適用可能である.今後,ミクロなレベルにおける繊維・分子などの変形の追跡への応用が期待される.

 第4章では,ゴム材料の体系的な材料試験を行い,その結果を基にゴム材料の構成則を提案した.本構成則は,ひずみ量に依存する等方硬化則を有する弾塑性体と,経験ひずみ依存性を有する超弾性体を並列に組み合わせたモデルである.提案した構成則による解析結果と材料試験結果を比較し,ゴム材料の材料特性を精度良く再現できることを示した.提案した構成則は,従来では再現できなかったゴム材料のエネルギー吸収性能,剛性劣化,残留変形などを考慮した汎用的なモデルであり,学術的に価値が高いものといえる.

 第5章では既往の混合型有限要素法を拡張し,弾塑性体などの速度型構成則で微圧縮性を有するモデルを適用できる有限要素法を構築した.本有限要素法と4章で提案した構成則を組み合わせることで,ゴム材料を応用したデバイスの力学特性を材料レベルから予測することが可能となる.次いで,画像計測結果を応用し,材料の力学特性を定量的に把握するハイブリッド解析手法を提案した.本ハイブリッド解析手法を積層ゴム支承の画像計測結果およびゴム材料の構成則に適用し,本構成則を積層ゴム支承に適用した場合の妥当性を検証するとともにゴム材料の体積弾性係数を算出した.このハイブリッド解析手法は,計測と数値解析を融合して材料の力学特性を把握する極めて独創的な手法である.

 第6章では,提案した構成則および有限要素法により積層ゴム支承の有限要素モデルを構築した.積層ゴム支承の載荷実験結果と有限要素法による解析結果を比較したところ,本モデルにより支承の水平1方向復元力特性,鉛直方向復元力特性,ならびに水平2方向復元力特性を精緻に再現できた.また,本モデルを応用することで,実状況で現れかつ実験による把握が困難であるねじれ変形,向転変形などの複雑な変形場における支承の力学特性を把握した.本有限要素モデルにより,積層ゴム支承の任意の変形における力学特性は,数値計算により予測することが可能となった.

 以上のように本研究は,免震構造物の応答解析に有用な積層ゴム支承のマクロモデルを提案するとともに,従来のひずみゲージにかわる汎用的な画像計測手法を確立している.さらにゴム材料の材料試験結果,ならびに計測と数値解析を融合したハイブリッド解析手法を角いて,ゴム材料の構成則・有限要素法を構築することで,支承の力学特性を材料レベルから予測することを可能としている.ゴム材料の速度・温度依存性の検討など,今後の課題も残されているが,経済的かつ信頼性の高い免震・設計を確立していく上で大きく貢献するものと判断される.

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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