学位論文要旨



No 116021
著者(漢字) 真田,靖士
著者(英字)
著者(カナ) サナダ,ヤスシ
標題(和) 鉄筋コンクリート造ピロティ建物の耐震設計法に関する研究
標題(洋)
報告番号 116021
報告番号 甲16021
学位授与日 2001.03.27
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4858号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 壁谷澤,寿海
 東京大学 助教授 工藤,一嘉
 東京大学 助教授 塩原,等
 東京大学 助教授 中埜,良昭
 東京大学 助教授 高田,毅士
内容要旨 要旨を表示する

 耐震壁が不連続になることによって剛性,強度が相対的に小さくなる層,いわゆるピロティ階を有する建物では,地震動入力時にピロティ階に損傷が集中し,最も危険な例では層崩壊に至ることが従来より指摘されており,近年の地震被害でも主な被害要因として注目されている.現在では,ピロティ建物を対象とした研究が実験,解析の両面から盛んに行われるようになり,とくにピロティ階が柱のみから成る建物については,地震時の応答性状が解明され,柱の設計用軸力などが提案されるに至っている.しかし,より一般的にはピロティ階は柱と壁により構成される場合の方が多く,これらは柱のみによるピロティ構造と比べ遥かに複雑な応答性状,破壊性状を有し,本質的に異なるものと考える必要がある.そこで,本研究ではピロティ階に耐震壁を有する鉄筋コンクリート造建物の耐震設計法を提案することを目的として,本構造による建物の応答性状,破壊性状を実験的,解析的に検討する.以下に本研究の内容を論文の構成に従って各章毎にまとめて示す.

 第1章「序論」では近年の都市部を中心とした地震被害により1階が弱点階となるピロティ建物の耐震性が問題化し,ピロティ建物を対象とした研究が多方面で実施されている現状について記述し,それらを一部抜粋して紹介した.その他,本研究を遂行する上で参考にした研究,とくに振動台による動的実験,フレーム解析方法の開発に関する研究を中心に紹介した.

 第2章「研究対象建物」では本研究で地震応答解析および振動実験の対象とするピロティ建物の設計過程,設計結果について記述した.まず,1階に耐震壁を有する鉄筋コンクリート造ピロティ構造の原設計建物を設計し,振動台による動的実験(第3章)を実施するため,試験体として原設計建物の1/3縮小立体フレームモデルを設計した.さらに,本構造による建物の応答性状にとくに大きな影響を与える要素として,建物高さ(階数),ピロティ階の柱,壁断面を取り上げ,これらを変動因子とする解析(第6章)を行う対象として全15棟の建物を設計した.

 第3章「動的実験」では1階に耐震壁を有するピロティ構造による6層鉄筋コンクリート造建物の1/3縮小立体フレームの動的実験について,試験体の詳細,実験方法,実験結果を中心に計画から実施までの一連の内容をまとめた.本構造を有する建物ではピロティ構面が連層耐震壁構面の応答の影響を受けて曲げが卓越する変形分布となり,建物脚部の曲げ降伏により全体降伏機構を形成する.しかし,その後1階耐震壁の損傷が進行するとともに1階に変形が集中する分布に移行し,最終的には1階耐震壁のせん断破壊により層降伏する破壊メカニズム,耐震壁と柱のせん断力負担,柱の軸力など,本構造に特有な応答性状を実験的に明らかにした.

 第4章「三次元動的非線形解析手法の開発」では筆者がこれまでに開発した三次元動的非線形フレーム解析手法について詳述した.本研究で用いる柱,耐震壁のモデル化方法について,モデルの構築方法を中心に詳細にまとめた.また,これらのモデル内で用いられる材料の復元力特性モデル,数値計算方法など,本研究の応答解析結果を分析する上で必要となる情報を掲載した.

 第5章「解析手法の検証」では本研究で用いる耐震壁モデルの妥当性を検証するため,既往の鉄筋コンクリート造耐震壁の実験結果を引用し,実験結果と解析結果を比較した.また,本モデルを用いる上で理解,注意しておくべき点を解析結果を用いて指摘した.第3章の動的実験を対象に,フレーム解析プログラムを用いて試験体を解析し,試験体の全体変形,ピロティ階の層間変形,ピロティ階を構成する部材のせん断力などについて,解析結果と実験結果が概ね対応することを示した.

 第6章「試設計ピロティ建物群の立体フレーム解析」では階数,柱,壁断面を変動因子とするピロティ建物を対象に静的解析および動的解析を行い,その応答性状について検討した.その結果,建物が全体降伏機構を形成するまでは建物高さが高いほど,柱,壁断面が大きいほど,建物全体として曲げが卓越する変形分布となるが,その後,耐震壁の損傷が進行するとともにピロティ階に変形が集中し,そのほとんどの場合にピロティ階耐震壁のせん断破壊により層降伏することがわかった.また,動的解析から本構造による建物に作用する外力分布は極端な例を除いておよそ矩形となることがわかった.さらに,耐震壁のせん断応力度分布,建物の全体変形と1階変形の関係に着目して解析結果を分析し,本構造の設計法を提案するための基礎的な資料を作成した.

 第7章「耐震壁を有するピロティ建物の耐震設計法」ではピロティ階耐震壁の設計用せん断力,ピロティ柱の設計用軸力,設計用せん断力の算定方法を提案するとともに,本構造の設計方法を考える上で最も重要となるピロティ階への変形集中を制御する方法を提案した.また,本研究で行った解析結果とこれらの方法を比較することにより,その信頼性を確認した.

 第8章「結論」では本研究で行った耐震壁を有する鉄筋コンクリート造ピロティ構造を対象とする実験,解析から得られた知見,また,その設計方法について総括するとともに,今後,引き続き検討すべき課題について記述した.

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は,『鉄筋コンクリート造ピロティ建物の耐震設計法に関する研究』と題して,ピロティ構造形式の耐震設計に関する実験的研究および解析的研究をまとめたものであり,8章により構成される。

 第1章「序論」では既往の研究成果を整理して研究目的を述べている。本研究で対象とする,いわゆるピロティ構造の建物では,耐震壁が不連続になることによって剛性,強度が相対的に小さくなるため,地震動入力時にピロティ階に損傷が集中して層崩壊に至る危険性が高いことが指摘されている。近年の地震被害でも主な被害要因として注目されており,主にピロティ階が柱のみによる場合を対象として研究が行われてきた。しかし,実際の設計ではピロティ階は柱と壁により構成されることが多く,この場合性状は複雑になり,未解明の点も多い。本研究ではピロティ階にも耐震壁を有する鉄筋コンクリート造建物の応答性状,破壊性状を実験および解析により明らかにして,耐震設計法を提案することを目的としている。ピロティ構造に関する既往の研究成果とともに,本研究を遂行する上で参照した研究,とくに振動台による動的実験,非線形地震応答解析手法に関する研究についても整理している。

 第2章「研究対象建物」では本研究で地震応答解析および震動実験の対象とするピロティ建物の設計の過程と結果について記述している。1階に耐震壁を有する6層鉄筋コンクリート造ピロティ構造を有する建物のプロトタイプを設計し,震動台による動的実験(第3章)の試験体としてプロトタイプめ1/3縮小立体フレームモデルを設計している。さらに,本構造による建物の応答性状に影響を与える要素として,建物高さ(階数),ピロティ階の柱,壁断面を変動因子とする解析(第6章)を行う対象として全15棟の建物を設計している。

 第3章「動的実験」では6層1/3縮小試験体の動的実験の計画と実施内容に関して,試験体の詳細,実験方法,実験結果を中心にまとめられている。実験では,ピロティ構面が連層耐震壁構面の応答の影響を受けて曲げが卓越する変形分布となり,建物脚部の曲げ降伏により全体降伏機構を形成するが,その後1階耐震壁の損傷が進行するとともに1階に変形が集中する分布に移行し,最終的には1階耐震壁のせん断破壊により層降伏する破壊メカニズムが得られて,大型の震働実験が計画通りに実施されたことを報告している。また,実験結果から,耐震壁と柱のせん断力負担,柱の軸力など,本構造に特有な応答性状を分析している。

 第4章「三次元動的非線形解析手法の開発」では以前より論文の著者が独自に開発してきた三次元動的非線形フレーム解析手法について記述している。本研究で用いる柱,耐震壁のモデル化方法について,モデル内で用いられる材料の復元力特性モデル,数値計算方法,構成則など,解析および解析結果の分析で必要となる手法が詳述されている。

 第5章「解析手法の検証」では既往の鉄筋コンクリート造耐震壁の実験結果および第3章の動的実験結果を解析により再現して,第4章の耐震壁モデルおよびフレームモデルなどの解析手法の妥当性を検証している。動的実験の解析では,試験体の全体変形,ピロティ階の層間変形,柱および耐震壁のせん断力,軸力などについて,解析と実験が概ね対応することが示されている。

 第6章「試設計ピロティ建物群の立体フレーム解析」では階数,柱,壁断面を変動因子とする15棟のピロティ建物を対象に静的解析および動的解析を行い,応答性状について検討している。建物が全体降伏機構を形成するまでは建物高さが高いほど,また,柱,壁断面が大きいほど,全体として曲げが卓越する変形分布となるが,その後耐震壁の損傷の進行とともにピロティ階に変形が集中し,多くの場合大変形では耐震壁のせん断破壊により層降伏に至ることを明らかにしている。また,動的解析から外力分布がおよそ矩形となることを前提にして,耐震壁のせん断応力度分布,建物の全体変形と1階変形の関係に着目して解析結果を分析し,本構造の設計法を提案するための基礎的な資料を得ている。

 第7章「耐震壁を有するピロティ建物の耐震設計法」ではピロティ階耐震壁の設計用せん断力,ピロティ柱の設計用軸力,設計用せん断力の算定方法を提案するとともに,ピロティ階への変形集中を制御する方法を提案している。また,解析結果を用いて設計方法を検証し,その妥当性を確認している。

 第8章「結論」では本研究で行った耐震壁を有する鉄筋コンクリート造ピロティ構造を対象とする実験,解析から得られた知見,提案した設計方法について総括するとともに,今後の課題に言及している。

 以上のように,本研究は,ピロティ構造に関して貴重な震動実験とともに地震応答解析にもとづいて一般的な耐震設計法の提案にまで展開したものであり,耐震工学および構造技術の発展に大きく貢献している。よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク