学位論文要旨



No 116026
著者(漢字) 張,賢在
著者(英字)
著者(カナ) チャン,ヒョンジェ
標題(和) 居住空間における自然換気併用型ハイブリッド空調方式に関する研究 : オフィスビルを中心として
標題(洋)
報告番号 116026
報告番号 甲16026
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4863号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 村上,周三
 東京大学 教授 加藤,信介
 東京大学 教授 橘,秀樹
 東京大学 教授 鎌田,元康
 東京大学 教授 坂本,雄三
内容要旨 要旨を表示する

 本研究は、自然換気併用型ハイブリッド空調方式の開発に関するものである。この自然換気併用型ハイブリッド空調方式とは窓などの室内の自然換気口の開放による自然換気と、機械冷房を合理的に併用することで室内温熱環境や空気質環境を快適に保ちながら省エネを達成することを目的としたシステムである。

 オフィスの省エネルギー的な冷房方式としてこれまで、外気の室内への直接導入による空調(外気冷房)や窓の開放による自然換気が提案され実際に用いられてきた。しかしながらこれらは主に中間期(春、秋など)や空調停止時の熱負荷除去等を目的とするものである。一般に窓開放による外気の直接導入は流入外気の温度や風量などが制御されずに室内へ入り込むため、室内温熱環境が必ず快適範囲にとどまる保証がなく、またその利用可能な時間数も限られる場合が多い。

 本研究では室内の空気分布、温度分布に関し従来の室内の完全混合空調から脱却し室内における温度分布、空気質分布を前提とするタスク&アンビエント空調の考えを導入する。これはオフィス室内のタスク域(作業域)から発生する熱や汚染質は窓の開放等によるアンビエント域(非作業域)の自然換気により屋外へ排出し、タスク域に対しては自然換気だけでは足りない熱負荷除去分を空調で補うというものである。必要最小限の外気量しか導入しない通常のオフィスに比べ、自然換気併用型ハイブリッド空調方式は、自然換気利用時に外気導入量が飛躍的に増え、室内空気質が大きく向上することも期待できる。

 この自然換気併用型ハイブリッド空調を実際の室内環境に適用するには利用可能な自然換気の換気量予測の他、自然換気空気と室内空調空気の混合・拡散性状を知ることが重要となるが、現状ではこれらの点を考慮した室内環境の予測・評価手法はほとんどない。本研究ではこれら予測・評価手法を開発するとともにその設計資料を整備する。

 本研究ではまず、自然換気される室内性状を実測により解析した。自然換気される体育館での実測を行い、自然換気の冷房効果と換気方式の違いによる室内空気質の変化に関する基本的な検討を行っている。また、自然換気されるドーム内部の換気性状や温熱環境に関する風洞実験並びにCFD(Computational Fluid Dynamics)解析を行いその換気性状を分析するとともに、本研究での主たる研究ツールとなるCFD解析の境界条件について検討した。更に、オフィス空間を対象に自然換気を直接導入する際に利用可能な外気条件を換気回路網解析により検討している。

 これらの基礎的な検討を土台として、自然換気併用型ハイブリッド空調の特徴の解析及びその設計資料を整備している。すなわち、補足

 (1)CFDによる室内のミクロな熱・空気の混合拡散現象

 (2)室内温熱環境及び換気効率性状

 (3)タスク域とアンビエント域の熱移動現象

 (4)省エネルギー効果(年間にわたる室内負荷削減、空調機ファン動力削減)

を詳細に検討し、自然換気併用型ハイブリッド空調の温熱環境と空気質環境の改善効果及び省エネルギー効果を具体的に検討した。CFD解析に際し、計算領域に固定された境界条件を与えて室内の性状は成り行きで計算されることが多いが、本研究ではオフィスモデルのタスク域(作業域)の平均温度が設定温度(26℃)となるよう空調システムに関する境界条件を計算過程で変更する連成解析を行っている。

 最後に本研究の検証として、自然換気併用型ハイブリッド空調方式が適用された都心のオフィスビルでの温熱環境や換気性状に関する実測を行い、その有効性を確認している。

本論文は以下に示す7章より構成されている。

 第1章は、序論として自然換気併用型ハイブリッド空調方式の概念と必要性について述べている。

 第2章では、自然換気される体育館の実測により自然換気の冷房性能と換気方式の違いによる室内空気質の変化に関して検討している。

 第3章では、本研究の基礎理論である流体の数値解析手法と人体温熱生理モデル、及び換気効率指標(SVEs)に関して概説している。

 第4章では、自然換気されるドーム内部の夏季の温熱環境に関する風洞実験とCFD解析結果を示し、自然換気による冷房効果と、風洞実験とCFD解析の境界条件との対応関係に関して検討している。

 第5章では、典型的なオフィス空間を想定し自然換気併用型ハイブリッド空調を行った場合の、様々な外気条件(温度、湿度、風量)や室内条件(自然換気流入口の位置や大きさ、奥行き、発熱負荷)、及び空調方式の変化による室内のミクロな温熱環境及び換気性状に関して行ったCFDによる解析結果を示している。

 第6章では、自然換気併用型ハイブリッド空調方式が適用されたオフィスビルにいける換気性状や温熱環境に関する実測結果を示している。

 第7章は、結語として全体のまとめを行っており、本研究の成果及び今後の課題について総括している。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、自然換気を利用して室内の温熱環境調整と空気質改善を効果的に行う手法を検討するものである。論文は特に空調が前提とされるオフィスビルに対して自然換気を利用する際の諸問題を検討している。中間期を対象として、外気を直接通風により室内へ導入すると同時に通常の空調システムを併用する自然換気併用型ハイブリッド空調による室内温熱環境調整と空気質改善及び省エネルギー効果について検討している。

 オフィスビルにおける従来の自然換気の利用は主に中間期等の空調停止時を対象として自然換気により室内の熱負荷除去及び外気導入を行うものであり、その室内温熱環境調整は「成り行き」の側面があった。自然換気併用型ハイブリッド空調方式は自然換気と空調を合理的に併用することにより、省エネルギーを達成しながら常に室内を温熱環境制御目標に保つ新たな発想に基づいた室内温熱環境調整法である。同方式は自然換気を大いに利用して温熱環境調整を行うため、必要最小限の外気しか導入しない従来の空調方式に比べて外気導入量が飛躍的に増え、その室内空気質は大きく向上する。

 自然換気併用型ハイブリッド空調方式を活用するには、利用可能な自然換気量の予測の他、自然換気空気と空調空気の室内混合性状を知ることが重要となる。しかしながら現状は、これらを考慮した室内環境の予測・評価はほとんどなされていない。本論文は温度、湿度、流入風量などの外気条件及び室形状、空調方法などの室内の建築的、設備的条件を様々に変化させて、オフィス室内における自然換気空気と空調空気の混合特性や温熱環境性状及び空気質環境についてCFD(Computational Fluid Dynamics)を用いて詳細に検討している。本論文はまた、自然換気併用型ハイブリッド空調方式が適用されたオフィスビルの実測を行い、同方式の有効性を検討している。

 本論文は、第1章の序論以下、次の6章より構成される。

 第2章では、自然換気によって冷房される体育館の実測により、室内における自然換気の冷房効果と換気方式の違いによる室内空気質の変化に関して検討している。

 第3章では、本研究の基礎理論となる流体の数値解析手法(CFD)と人体温冷感及び換気効率指標(SVEs)に関して概説している。

 第4章では、自然換気によって冷房されるドーム内部の夏季の温熱環境に関する風洞実験とCFD解析結果の比較からCFDの境界条件の設定方法を検討し、本研究の主要なツールとなるCFD解析の精度に関して考察している。

 第5章では、室内オフィスモデルを対象として自然換気併用型ハイブリッド空調を行った場合の温熱環境及び換気性状に関してCFD解析により詳しく検討している。ここではまず、中庭を持つ中高層のオフィスビルを対象に、外部風により生じる自然換気量を換気回路網解析により検討している。この検討結果に基づき、そのオフィスビルの一室に典型的なオフィス空間を設け、自然換気併用型ハイブリッド空調方式を検討している。自然換気併用型ハイブリッド空調は、タスク・アンビエント型空調方式としている。すなわち室内のタスク域は空調により自然換気の補完として、常に一定状態の環境制御がなされる。アンビエント域は自然換気により多少「成り行き」的に環境制御が行われる。この場合の外気条件(温度、湿度、風量)や室内条件(自然換気流入口の位置や大きさ、奥行き、発熱負荷)、及び空調方式の変化による室内の温熱環境及び空気質環境に関するCFD解析を行いその結果を示している。解析結果から、オフィスモデルのタスク域を空調目標温度26℃に保つための空調投入熱量を求め、自然換気を併用せず空調のみを行った場合と比較してその省エネルギー効果を検討している。

 第6章では、自然換気併用型ハイブリッド空調方式が適用されたオフィスビルの実測結果を示し、同方式の有効性を確認している。

 第7章では、本論文の結語として全体のまとめを行っており、本研究の成果及び今後の課題について総括している。

 以上を要約するに、本論文は自然換気併用型ハイブリッド空調方式をオフィスビルに適用した場合の、室内における自然換気と空調空気の混合特性を詳細に分析し、同手法による室内温熱環境性状の特性とその省エネルギー効果及び室内空気質の改善効果に関して検討している。同手法を実際の設計に反映する際に必要とされる外気条件や室内条件などの様々なパラメータに関し、その影響を詳細に検討している。これらは今後の自然換気併用型ハイブリッド空調の設計に有用なデータを提供するものであり、建築環境工学に寄与するところが大である。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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