学位論文要旨



No 116039
著者(漢字) 原田,達也
著者(英字)
著者(カナ) ハラダ,タツヤ
標題(和) 圧力センサ分布ベッドを用いた体動計測に関する研究
標題(洋)
報告番号 116039
報告番号 甲16039
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4876号
研究科 工学系研究科
専攻 機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 佐藤,知正
 東京大学 教授 土肥,健純
 東京大学 教授 石川,正俊
 東京大学 教授 中村,仁彦
 東京大学 教授 廣瀬,通孝
内容要旨 要旨を表示する

1 緒論

 高齢化者社会の到来に伴い、家庭でも利用可能な人を見守るシステムへのニーズが高まっている。見守る必要のある人の多くはベッドに一日中いることがあり、ベッドでの体動を定量的に評価出来れば、健康管理、リハビリの評価などに役に立つ可能性がある。しかしながらベッド上の人の生理量を無拘束に捉える研究[1、2]はあるが、部位位置の推定や関節動計測まで体動をトータルに計測できるものはない。そこで本研究の目的を、重篤ではない成人を対象に、ベッド上での細かい体動から大きな体動まで人を拘束することなく計測可能なシステムの構築とする。

2 体動

体動

 本研究では体動を大きさにより分類することにする。目で見て明らかに分かるような大きな体動を”粗動”、目を良く凝らしてみないと分からないような小さな体動を”微動”と分類する。粗動は主に骨格筋から生み出される動きが含まれ、微動は主に横紋筋、心筋や内臓筋から生み出される動きが含まれる(図1参照)。

3 体動計測システム

 体動計測システムの必要機能を以下の3つの機能が必要となる。1)無拘束計測機能:重篤でない人を対象とする場合には、計測対象者に精神的、肉体的な負担を与えないために体動を無拘束に計測できなければならない。2)粗動計測機能:粗動には存在の有無、姿勢、関節動が含まれ、これらの動きを計測できなければならない。3)微動計測機能:微動には、呼吸、心拍、筋肉の痙攣などが含まれるが、特にバイタルサインとして重要である呼吸、心拍を計測できる機能が必要となる。

 無拘束に微動から粗動まで計測するためには、環境側に圧力センサを多数敷き詰めるのがよいと考えられる。なぜなら圧力値の高低によりベッド面に垂直な動作を計測可能であり、圧力を感知しているセンサの位置によりベッド面に水平な動作も計測可能になると考えられるからである。図2左に本研究で作成した圧力センサ分布ベッド示す。このベッドには210枚の圧力センサがアレイ状に並んでいる。使用時にはこのベッド上に布団を敷く。システムはベッド上の人の状態(図2(a))を圧力の高低を示す圧力分布画像として計測し(図2(b))、この圧力分布画像を用いて第4章で説明する粗動計測、第5章で説明する微動計測などを行なう。

4 粗動計測

 粗動は必要機能でも述べたように、大きく分けて存在の有無、姿勢、関節動に分類することが可能であり、ここではそれらの計測手法について述べる。

4.1 存在の有無の判定

 一般的な在床判定手法は重さで判定する場合が多く、ベッド上に布団を重ねた場合などに誤認識する可能性がある。そこでここでは人と物との判別に主眼を置くことにする。

 人は呼吸や心拍などにより常に動いているため、動きの大きさを定量的に評価すれば、人と物との判別が可能と考えられる。そこでベッド上の動きの大きさの指標として行動活性度を導入する。行動活性度は圧力分布を基にベッド上の運動エネルギーを推定することで求められる指標であり、式1のように与えられる。

ここでEa(t)は時刻tでの行動活性度、Pi(t)はi番目の圧力センサの出力値を示す。この行動活性度の大きさは圧力センサの特性や布団の特性に影響を受けるので、安静仰臥位時の行動活性度との比をとり対数Kact=log10〓で表現することにする。ここでKactは比行動活性度、Emes, Eave はそれぞれ計測した行動活性度、安静仰臥位時の行動活性度を示す。この比行動活性度を利用した人と物との判別実験を行なった。実験では本を読みながら座った場合、60Kgの重りを置いた場合、何も置かない場合、呼吸や目線などの動作を制限した場合の10秒間の平均値を利用した。実験結果は、物を載せている場合は安静時や本などを読んでいる場合と比べて、行動活性度が一桁小さく人と物との判別は可能であることが示された。しかし極度の動作制限時と物の場合を比べるとほぼ桁が等しく判別は困難であることが分かった。これは行動活性度は圧力値の微分をとるため瞬間的な動作には敏感であるが、ゆっくりな動作には感度が悪いためだと考えられる。

 そこでゆっくりとした動作の指標として、センサ出力値を周波数分析し数秒間の低い周波数領域パワーの全周波数領域パワーに含まれる割合を求め、これを用いて人と物との判別を行なうことにした。この実験結果を表1に示す。この表には約6秒分と約26秒分の圧力データ中に含まれる0.8[Hz]以下の低い周波数領域のパワーの割合の平均値と標準偏差を載せている。動作制限を行なっている人でも、低い周波数成分の割合は重りと比べて大きく、考慮するデータ長が長いほうがその差が大きくなっているのが分かる。この結果より行動活性度では判別が困難である動作制限をした人と物との判別も、周波数分析するデータ長を(時間の長さ)長くし、低い周波数領域の含まれるパワーの割合を見ることで判別が確実になることが分かる。

4.2 姿勢の認識

 姿勢認識アルゴリズムでははじめに簡易人体モデルの関節を一定の角度毎に動かした圧力分布テンプレート群を作成する。モデルの関節角度の刻み幅は各テンプレートが重なり合わないように決定した。この準備後、圧力分布の計測を開始する。人の外形を抽出するために計測した圧力分布を線形補間した後二値化する。次に圧力分布から頭部位置を推定し、圧力分布テンプレート群を推定頭部位置に一致するように平行移動させる。そして、推定頭部位置に移動した圧力分布テンプレート群と二値化圧力分布との相関値を計算し、最大相関値が得られたテンプレートを現在の姿勢と判断し、人体とベッド面との接触部位位置を仮推定する。

 姿勢決定に重要な部位は骨突起部となっており、この部位は圧力分布画像に店力ピークとして表現される。そこで精度向上のためにテンプレート上での部位位置の周囲の圧力分布の重心を計算し、この重心を部位位置と確定する。被験者にいろいろな姿勢で寝てもらい、姿勢認識可能か検証する実験を行った。図3に認識の結果を示す、この結果より姿勢が正確に認識可能であることが分かる。

4.3 関節動の追跡

 関節動追跡アルゴリズムでは色々な体型の人に対応するために人体表面形状モデルと骨格モデルを分けておく。追跡対象の人に適合する人体表面形状モデルを読み込み、これを骨格モデルに割り付けることで骨格の並進.関節角パラメータを変更するだけで表面形状も変形可能な全身モデルを作成する。

 体動を追跡するために、追跡対象の圧力分布画像とモデルベースの圧力分布画像との誤差とモデルの位置エネルギーが最小になるようにモデルの並進量や関節角度を決定する。この誤差の関数を以下のように定義する。

ここでwiはモデルから計算される圧力、miは追跡対象となる圧力分布のセンサiの出力値、zjは骨格モデルのj番目ノードのベッド面からの高さ、gは重力加速度、Epは誤差に対する重み付け、Egは位置エネルギーに対する重み付けを示している。圧力センサの特性や布団を弾性体と仮定することで、圧力センサには圧力センサと人体との最短距離の自乗に反比例する力が働くと考えることが出来るため、センサと人体との距離のみ分かれば圧力分布wiが計算可能である。この目的関数Eallを最小にするパラメータを求めるために逐次的に計算することを考える.つまりパラメータの更新量を〓で求めて行くここでXkはκ番目の骨格モテルの並進量、関節角パラメータである。さらに更新量を離散系に書きかえ、フレームtにおける収束計算回数nにおける離散時間更新量としてΔXk(t,n)と書くことにする。次にこの更新量に対して収束を速めるために慣性項を追加する。慣性項を追加した更新量をΔX'k(t,n)とするとこれは以下のように表現できる。

ここでαは慣性項に対する重み付けで0から1の値をとる。

 追跡を行なった動作は、足の開閉、足の上げ下ろし、上体の上げ下ろし、上体の捻り、膝の曲げである。この実験結果の一部を図4に示す。これらの実験の結果から以上に挙げた動作の追跡が可能であることが分かる。

5 微動計則

ここでは必要機能で述べたように呼吸数と心拍数の計測手法について述べる。

5.1 呼吸数計測

 [呼吸曲線は計測部位により逆位相となるために、圧力総和をとると[呼吸曲線はお互いに打ち消し合い呼吸の計測は困難になる。そこで行動活性度を利用することを考える。安静時は呼吸が体動中で大きな割合を示し、運動エネルギーも呼吸運動が支配的になるため、行動活性度により呼吸数をカウント可能と考えられる。時の行動活性度を計算した結果を示す。

ここでBiはセンサ出力の直流成分、Aiは呼吸の振幅、ωは呼吸の角速度、φは位相差を示している。この手法で計測される呼吸曲線は、呼吸の角速度がωから2ωと二倍になっているため、一呼吸に対して行動活性度からの呼吸曲線は頂点が二つあることになる。この実験結果を図5に示す。この図では安静仰臥位時の行動活性度を基準として比行動活性度を計算した結果を載せている。この結果より2回のピークが1呼吸に相当することが分かり、比行動活性度より簡便に呼吸数を計測可能であることが示された。

5.2 心拍数計測

 心拍は呼吸に比べ小さな動きであり、いかに心拍計測可能センサを時間と共に選択するかに計測の正否が関わる。以下に心拍を計測する手法について述べる。

 はじめにセンサ出力値の周波数分析を行なう。就寝時の心拍の周波数は約1.0[Hz]前後なので、0.6[Hz]から3.0[Hz]の間で最大パワーを出力している周波数を計算する。センサ番号iの時刻nにおけるこの周波数をfi(n)と書くことにする。

 最大値を示した周波数のパワーの0.6[Hz]から3.0[Hz]のパワーに占める割合Ri(n)を計算する。最大のRi(n)を出力しているセンサを求め、この時のRi(n)の最大値を出力したセンサ番号をIとする。RI(n)がある閾値以上なら、RI(n)を出力したセンサの周波数fI(n)を心拍の周波数とする。またRl(n)がある閾値よりも小さい場合には、fl(n)が信頼のないものとしてfl(n)を破棄し、単位時間前のfl(n-1)を現在の心拍の周波数と仮定する。

 以上の手法を用いて心拍を計測した。計測した結果を図6に示す。この実験結果より本手法で心拍数を計測可能であることが分かる。

5.3 臨床における実験

微動計測手法が臨床で利用可能かを調べるために、実際に病院のICUに導入し実験を行なった。男女3名ずつ合計6名の被験者を対象に、全身麻酔時における呼吸数、心拍数や圧力センサの出力を同時に計測することにより検した。実験の結果を図7に示す。左図が呼吸数計測、右図が心拍数計則の結果である。この図からも分かる通り臨床においても本手法で呼吸数や心拍数が計測可能であることが示された。この図からも分かるとおり臨床においても本手法で呼吸数や心拍数が計測可能であることが示された。

 また、麻酔鎮静時にどの程度の体動の大きさの低下があるのかの評価を行なった。図8に実験結果を示す。図の横軸が脳波より推定される麻酔鎮静度を示し値が大きいほど覚醒していることを示す。右縦軸は覚醒時の体動を基準とした比行動活性度である。この図には体動を見て鎮静度を主観的に評価するCommand Scaleも載せている。Command Scaleも値が大きいほど覚醒していることを示す。この実験結果より鎮静されるほど体動が小さくなることが分かり、手術可能な鎮静度では覚醒時に比べて運動エネルギーが二桁ほど小さいことが分かる。

6 統合

 微動・粗動計測がお互いに補完して計測の頑健化を図るためにこれらの統合を行なった。

 粗動計測も微動計測もベッド上の人は横になっているという仮定で行なっていたが、常に横になっているわけではない。そこでベッド上の人のステータスを”不在”、”座る”、”横になる”の3ステータスに分類し、これを判別することにした。判別は状態遷移図を考え、現在最も発生確率の高いステータスを現在のステータスとして採択することで行なった。ステータスの認識結果を図9に示す。この実験は、何もいない、物を載せる、人が座る、横になるといった一連の動作を認識させたものである。これらの結果を見ることにより、ベッド上の3ステータスが判別可能であることが分かる、

 ステータスの判別で”座る”または”横になる”と判別された場合は人と物との判別を行なう。ここで人と判別され、かつ”座る”の場合、着座位置の検出に移り、高圧力のセンサの重心で座る位置を検出する。”横になる”の場合は姿勢認識に移る。

 生理量の計測は人と判断された場合に必ず計測され、姿勢認識が可能である場合には、胸腹部位置を利用して検出の精度を向上させる。姿勢認識との組み合わせにより、胸部の呼吸曲線の自動計測を行なった例を図10に示す。呼吸曲線の計測は胸部と腹部の位置を推定し、胸部と腹部の推定位置の圧力値を計測することで実現する。図では医療用呼吸計測バンドとの比較結果を示している。途中曲線が平らになっているのは呼吸停止を意味している。これにより統合により呼吸曲線が計測可能であることが分かる。

関節動追跡では初期姿勢が不明では追跡は不可能であるので、まず姿勢認識時の相関値を取得・評価し、認識できていると判断した場合は推定姿勢を初期姿勢として関節動追跡を行なう。関節動追跡の評価は、計測圧力分布とモデルから計算される圧力分布との正規化相関値を利用して行なう。関節動追跡が失敗していると判断したときは姿勢認識データを取得することで局所解に陥ることを防いでいる。以上の一連のプロセスにより微動から粗動までトータルに計測が可能となった。

7 結論

 本研究では体動についてまとめ、体動を大きく分けて微動と粗動に分類した。さらにベッド上での粗動や微動を無拘束計測可能なシステムの提案と実現を行なった。これを実現するために以下の成果や知見を得た。

 ベッド上での物の運動エネルギーは安静時と比べ一桁小さくこれを利用することで人と物との判別は可能である。この手法で判別が不可能な場合でも低い周波数領域に着目することで、確実に人と物との区別も可能である。姿勢決定に重要な部位は圧力ピークとして表現されるために、圧力ピークの位置がどの部位位置かを特定することで姿勢認識は可能である。布団が弾性体と仮定できる場合にはセンサ面に表現される圧力はセンサと身体との距離に反比例した力が働くことを示し、質量を含まない表面形状モデルのみからでも圧力分布が計算可能である。また、ベッド面に水平な動作だけではなく、上体の上下動やねじりなどのベッド面に垂直な動作であっても追跡が可能な手法を示した。

 呼吸計測においては運動エネルギーを推定することで圧力分布から確実に呼吸が計測可能である。心拍計測では、心拍計測可能センサを時間変化と共に追いかけることで確実に計測可能な手法を示した。さらに本研究で提案した手法が臨床でも利用可能であることを実証した。また手術可能な麻酔鎮静時の体動の運動エネルギーは覚醒時よりも二桁ほど小さいことを示した。

 体動計測の統合では、人の有無、座っている、寝るのステータス管理により、本研究で示した粗動から微動までの計測手法がお互いの弱点を補い合うことによりトータルかつ無拘束に体動計測が可能であることを示した。

参考文献

[1] Alihanka J., et al.,"A New Long-term Monitoring of Ballistocardiogram, Heart Rate, and Respiration,"J Physiol., Vol.240,pp.384-392,1981.

[2] T.Tanura,et al.,"A Bed Temperature Monitoring System for Assessing Body Movement during Sleep,"

Clin. Phys.Physiol. Meas.,Vol.9,No.2,pp.139-145,1988.

表1:低い周波数領域のパワー割合を用いた人と物との判別。平均(標準偏差)。

図1体動の分類

図2圧力センサ分布ベッドと圧力分布画像

表1:低い周波数領域のパワー割合を用いた人と物との判別。平均(標準偏差)。

図3姿勢認識結果

図4:関節動追跡実験結果

図5:比行動活性度から計測される呼吸曲線

図6:圧力分布から計算される心拍数

図7:全身麻酔時の圧力センサから計測される呼吸数、心拍数

図8:麻酔鎮静度と体動の大きさとの関係

図10:胸部から計測される呼吸曲線

図9:ベッド上の“不在”、“座る”、“横になる”の3ステータス認識結果

審査要旨 要旨を表示する

 本論文では、成人かつ重篤でない人を対象にベッド上での関節動やねじりなどの大きな体動から呼吸や心拍などといった小さな体動までトータルに無拘束計測可能なシステムの提案と実現を行なった。これを実現する過程で得られた成果と知見は以下のようにまとめられる。

 第1章では本研究の背景と目的について述べ、従来研究と比較により本研究の位置づけを明らかにした。

 第2章では体動について整理し分類した。ここでは体動を大きく分けて微動と粗動に分類した。分類の基準は、骨格筋が主に働いて生み出される動作を粗動とし、横紋筋や心筋や内臓筋の動きの支配が大きな動作を微動とした。体動の中でもっとも大きなレベルを人の存在の有無とし、その下のレベルを人の姿勢、姿勢より細かいレベルでは関節の動きとした。さらに細かくなると呼吸運動や心拍などとなる。関節動以上の動きは骨格筋の働きが支配的であるので粗動、呼吸より細かい動きは横紋筋や心筋や内臓筋の動きの支配的となるので微動とした。

 第3章では体動計測システムについて述べた。本論文では重篤でない成人を対象としているため、軽度の人や健常者を対象とするには、計測対象者に精神的、肉体的な負担を与えないように、環境側に埋め込んだセンサ群により計測する機能が必要となる、また体動として計測される対象は、位置、四肢の動作、呼吸、心拍がメインであるのでこれらを計測できる必要があり、これらの必要機能を満たすために圧力センサを多数敷き詰めた体動計測システムを構築した。

 第4章では粗動計測について述べた。一般的な健康な成人男性安静時の運動エネルギーはオーダー的には同じであり、これを基準とするとベッド上に人以外の物体を載せると運動エネルギーは一桁小さいことを示した。これよりベッド上での運動エネルギーを見積もることで人と物体との判別が可能なことを示した。ただし頭部の運動や目線の運動や呼吸運動なども抑制させた場合は、人と物体との判別は困難であることも示した。このような場合でも、人は非常にゆっくりとした動きをしており、この動きを観察すれば判別が可能であることも示した。人の姿勢を決定する重要な部位は骨突起部になっており、この部位は高い圧力のピークを示すため、圧力のピークと部位との対応を推定することでベッド上の人の姿勢が決定できることを示した。圧力センサ分布面と身体との間の布団などの中間層が弾性体と仮定できる場合には、圧力センサ面で計測される圧力はセンサと身体との距離に反比例することを示した。これにより身体の表面形状モデルを利用することで圧力分布面の圧力は計算可能であると述べた。さらに計算される圧力分布と計測される圧力分布との誤差を利用することで寝ている人の関節の動きを追跡可能であることを示した。

 第5章では微動計測について述べた。ベッド面で計測される呼吸曲線は計測部位により位相が異なるため、単純なセンサ同士の圧力の総和をとると呼吸曲線が相殺されてしまうが、安静時には呼吸運動が身体運動の中で支配的になるために、圧力分布から運動エネルギーを推定することで、呼吸曲線を相殺することなく計測が可能であることを示した。胸部や腹部の圧力分布上での位置が分かれば、その位置の圧力センサの出力をみることで呼吸曲線が計測可能であることを示した。心拍の振幅はノイズの振幅レベルとオーダー的に同じであっても周波数領域が異なれば計測可能である。さらに、本論文で提案した手法が麻酔時でも計測可能であることを示し、臨床でも利用可能であることを実証した。また麻酔深度と体動の大きさとの比較を行ない、完全覚醒時の体動の運動エネルギーは麻酔深度が深くなるにつれて小さくなることが示され、手術を行なえる麻酔深度の体動の大きさは覚醒時の運動エネルギーを基準とすると二桁ほど小さくなることを示した。

 第6章では粗動と微動の統合計測について述べた。姿勢認識だけでは人と物体との判別ができずに誤認識を起こすが、ベッド上での運動エネルギーなどをみることでこの誤認識の可能性を減らすことができる。また関節動追跡の成否は追跡の初期位置に依存しているが、姿勢認識との組み合わせで初期位置を推定可能であり、この問題を回避可能になる、微動計測は、粗動計測の結果を利用しなくても計測可能であるが、胸腹部の位置が推定できればその位置のセンサ出力のみを考慮するだけでよく計測精度の向上が望めることを示した。

 第7章では本研究での知見をまとめ、また将来どのように本研究を展開していけばよいのかについて述べた。

 以上の成果や知見は機械工学に貢献するものである。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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