No | 116041 | |
著者(漢字) | 雷,康斌 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ライ,コウヒン | |
標題(和) | ダイナミック・サブグリッド・スケール・モデルに基づくFunll Way Coupling 法による固気混相乱流のラージ・エディ・シミュレーション | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 116041 | |
報告番号 | 甲16041 | |
学位授与日 | 2001.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第4878号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 機械情報工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1.緒言 乱流中に固体粒子が混入する系は、粉体輸送や燃焼器、化学反応器内の流れ、汚染物質の大気や海洋中での拡散、血液の流れなど、流体工学、環境工学、生体工学など広い分野に関連する間題である。その流れ場の微細構造における固体粒子と乱流渦間の相互作用による乱流変調や粒子の滞留時間、乱流拡散、堆積量と粒子の半径、形状、密度分布などの複雑非定常現象の解明は、将来のあらゆる方面での貢献が期待される。しかしながら、実用的な数値計算のほとんどすべてがRANSに基づいたk-εモデルを適用したものであり、これらにはそれぞれの実験条件に即した相互作用モデルや解析手法が提案されているものの、物理的な根拠の乏しい実験式・経験式も含まれており、必ずしも普遍的な詳細解析を展開していくには適していない。本研究では、これらの混相乱流モデルの欠点を克服し、実用的な非定常、高レイノルズ数の固気混相乱流予測の工学要請に応えるため、ラージ・エディ・シミュレーションに注目して、流体と粒子のGS成分およびSGS成分の相互作用を考慮するダイナミック固気混相乱流モデルを構築した。さらに粒子間衝突の影響も考慮する普遍性の高いFull Way Coupling を新しい固気混相乱流ラージ・エディ・シミュレーション予測手法として提唱した。これらの数値解析法を用いて、粒子の乱流拡散や乱流の粒子運動による変調などの特徴的な現象についてLESの視点から系統的に検討し、媒質と分散相のGS成分、SGS成分および粒子間衝突の間の相互作用を明らかにした。 2. Dynamic Random Walk SGSモデルの提案 固気混相流のLES 数値解析において気相の流れ場は直接にはGS成分でしか与えられないため、気相でモデル化されている SGS 成分からの影響を如何に固体粒子の運動へ与えるかという問題が生じる。この問題を解決するために本研究では流体乱れ成分が局所等方性および正規分布の統計特性をもつと仮定して、流体SGS成分の運動エネルギーKsを正規乱数によりラグランジュ的にスケーリングし、LES計算における流体SGS成分uiに対して局所的な渦スケール強さを表現し得るLagrange型Dynamic Random Walk(DRW)SGS Couplingモデルを以下のように提案した。 式(1)の次元解析長さスケールに関係する係数CVT/CEは流れ場高周波の相似性を利用するGermano's Dynamic Procedure(1991)によって次のように定められる。 LGaussian は標準偏差〓でスケーリングした正規乱数で、本研究ではBox and Mullar法で与えた。 提案したモデルの効果を検証するために、DNSデータ(Rouson & Eaton, 1997)と比較した計算結果70μm Copper 粒子の主流方向速度分布を図1に、50μm Glass 粒子の主流方向乱れ強度分布を図2に示す。提案したモデルによるLES計算結果は壁近傍においてDNSの結果に近付き、改善されていることが分かる。また乱流のSGS成分から固体粒子運動への影響について調べた結果、固体粒子の運動に及ぼすSGS成分の影響は粒子の緩和時間によって選択的に働くなどの新しい知見を得た。 3. Dynamic Two Way Coupling SGS モデルの提案 Two Way Coupling による乱流変調について、粒子からの作用を粒子の流体から受ける抗力の反力として評価し、固気混相乱流LESにおける粒子の影響を考慮した非圧縮性流体の運動方程式が次式のように導かれる。 また、式(3)の中に現れるSGS応力Tτijについては、湯ら(1997)により提案された粒子運動の影響を考慮した渦粘性SGSモデルの欠点を改良し、普遍性、実用性を有するダイナミックTwo Way Coupling SGSモデルを以下のように提案した。 Kulick & Eaton(1994)の実験条件を参照して提案したSGSモデによりLES解析を行い、乱流の粒子による変調について、Kolmogorov長さスケールより小さな粒子を混入することにより流れ場の乱流強度が減少し、その減少の度合は粒子のストークス数、質量混入比および壁からの距離に依存するという実験結果が数値解析でも定性的に再現されたが、実験現象の定量的な再現ができないなどを確認した。 4. 固気混相乱流のLESにおけるFull Way Couplingによる定式化の構築 固気混相乱流の直接数値解析(DNS)に対しては、流体運動から粒子運動への影響を片方だけ考慮するOne Way Couplingと、粒子による乱流の変調に関わる流体と粒子両方の相互作用を考慮するTwo Way Coupling、および粒子間衝突の影響をも考慮するFour Way Couplingと分類されている。ここで、固気混相乱流のLESに対しては、流体と粒子の両方とも空間フィルター操作によってGS成分とSGS成分に分けられるため、流体と粒子の相互干渉は図3に示すようにDNSより一層複雑になり、GSとSGSの両方による粒子拡散と乱流変調をそれぞれ議論する必要がある。 本研究においては流体と粒子のGS成分のカップリングおよび粒子間衝突を考慮するだけではなく、本研究で開発したダイナミックSGSモデルにより流体と粒子のSGS成分のカップリングをも考慮した新しいFull Way Coupling解析手法を提案した。ここでは、乱流GS成分による粒子の拡散運動をラグランジュ追跡法によって計算し、乱流SGS成分による粒子の拡散運動を本研究で提案したダイナミックRandom Walk Modelを用いて解析する。また、粒子のGS成分による乱流変調は直接的に数値解析によって予測され、粒子のSGS成分による乱流変調は本研究で提案したダイナミック・カップリングSGSモデルを用いて評価される。さらに粒子間の衝突による粒子の拡散運動は力学の運動量保存則に従い、決定論的な方法によって直接計算(DNS)される。 Full Way Coupling によるLES検証解析については、粒子の拡散運動および乱流の変調に対してDNSデータや実験データにみられる特徴をほぼ再現することが検証された。しかし、Kulick & Eatonら(1994)の実験結果で報告された粒子運動による乱流強度の大幅減衰や、粒子平均速度の粒子質量混入比に対する依存性は再現できなかった。また、粒子間の衝突について、粒子の局所濃度のみならず、緩和時間にも支配される。すなわち、局所的な粒子数密度が大きくとも、ある程度緩和時間の小さい粒子(Kolomogrov 時間スケールに基づく粒子ストークス数Stk<10-2の粒子)はほとんど衝突しないことが数値シミュレーションによって予測された。これらの知見から、固気混相乱流のDNSにおいて粒子・流体の相互作用としてElghobashi(1994)により示された分類を、LESモデリングの観点からより詳細に表わし修正したものとして、図4を得ることができる。 5.結論及び研究展望 (1) 固気混相流のLESにおける流体・粒子相互作用を考慮するダイナミックSGSモデルを提案した。 (2) それらによって、更に粒子衝突を入れたオイラー・ラグランジュ法による固気混相乱流のLESに おけるFull Way Coupling 解析手法(定式化)を構築した。 (3) 乱流中の固体粒子の拡散や固体粒子による乱流変調について、固気混相乱流のLESにおけるGS成分、SGS成分及び粒子間衝突の働きを系統的に考察して、従来の研究結果が数値解析により確認され、また幾つかの新しい知見も得た。 (4) 本研究で提案した固気混相乱流のDynamic SGSモデルに基づくFun Way Coupling LES解析手法は、将来エンジン噴霧燃焼器、微粉炭焼却炉、粉体空気輸送、固気二相旋回分離、大気塵埃汚染などの複雑な固気混相乱流場への適用を想定している。これらの解析手法を、より複雑な形状を持つ流れ場(バックステップ流れ、噴霧燃焼器内流れなど)や、工業的な問題にしばしば現れる高レイノルズ数の固気旋回流、石炭ガス化炉の微粉炭流等に試みる必要がある。 図1 70μm Copper粒子の主流方向平均速度分布 図2 50μm Glass粒子の主流方向乱れ強度分布 図3 固気混相乱流数値解析におけるDNSとLESのカップリング 図4 本研究で提案した固気混相乱流の数値解析分類 | |
審査要旨 | 本論文は、乱流中に固体粒子が混入する系において粒子と乱流現象との相互作用をラージ・エディ・シミュレーションに基づき正確にモデル化し、このようなタイプの乱流場に広く適用しうる数値解析法を確立することを目的とした。微粒子固気混相流は、粉体輸送や燃焼炉などの工学装置において、また、汚染物質の大気拡散などに現れる現象であり、その予測制御は工学的に重要な課題となっている。従来より、主に時間平均(RANS)モデルに基づいた数値解析の試みが行われてきたが、その多くは物理的根拠の乏しい実験式・経験式に基づいており普遍的な詳細解析に展開するには必ずしも適していない。また、粒子と乱流の相互作用の直接数値解析(DNS)やラージ・エディ・シミュレーション(LES)の試みも少数なされているが、低レイノルズ数に限定されていたり、大規模渦の相互作用だけが考慮されるなど、部分的な考察、検証にとどまっていた。これに対して、本論文では、粒子と乱流の相互作用をラージ・エディ・シミュレーションの概念に基づき、グリッド(格子解像)スケール、サブグリッドスケールの各々に対して評価し、また、粒子衝突の影響の考慮をも加えた Full Way Coupling 法を新たに提案し、粒子径と粒子密度の異なる微粒子固気混相流における様々な現象をより詳細に予測できることを示した。 本論文は9章よりなり、第1章序論で上記の研究課題を概観した後、まず、本論文で採用する数値解析モデルとして、第2章で乱流に対するラージ・エディ・シミュレーション法を、第3章で粒子運動に対するLagrangian法について紹介している。第4章では、乱流から粒子への影響を考慮するOne way Coupling法について考察し、乱流のサブグリッドスケール変動効果をDynamic SGSモデルに基づき局所的に評価して与えるDynamic Random Walkモデルを新たに提案した。次に、第5章では、粒子による乱流変調を考慮したTwo Way CoupIing法を導入し、その際のサブグリッドスケール効果をより普遍的に表すために湯らのモデルをDynamic SGSモデルの概念で改良した新しい固気混相乱流SGSモデルを提案した。さらに、第6章では、上記モデルを粒子間衝突をも考慮したFull Way Coupling 法に展開して、壁面近傍など粒子密度の集中する領域でのより正しい予測を与えることを数値検証した。これらの成果を総合して、第7章では固気混相乱流の普遍的なSGSモデルとしてFull Way Coupling 法を提案し、鉛直チャンネル乱流に適用して様々な粒子乱流統計量を従来モデルよりも正確に評価できることを検証している。また、第8章では、上記のFull Way Coupling法による数値シミュレーション結果から、粒子分布の不均一性や乱流構造の粒子により変調など、従来、直接シミュレーションや実験観察などで個別に指摘されていた現象が適切に予測されることが検証された。第9章結論として、本論文で提案されたFull Way Coupling 法の特徴が要約され、予測精度、適用範囲および今後の研究展望が示された。 以上のように、本論文では、今世紀の課題とみられるエネルギー・環境問題において共通かつ重要な工学対象である固気混相乱流の予測に対して、ラージ・エディ・シミュレーション法による数値解析モデルを最新の研究成果を導入しつつ完成させたところに大きな功績があると考えられる。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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