学位論文要旨



No 116061
著者(漢字) 新城,淳史
著者(英字)
著者(カナ) シンジョウ,ジュンジ
標題(和) 空力加熱下の溶融物体表面の流体力学的不安定に関する研究
標題(洋) Research on Surface Melting Instability due to Aerodynamic Heating
報告番号 116061
報告番号 甲16061
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4898号
研究科 工学系研究科
専攻 航空宇宙工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 久保田,弘敏
 東京大学 教授 森下,悦生
 東京大学 教授 安部,隆士
 東京大学 教授 藤井,孝蔵
 東京大学 助教授 田村,普昭
 東京大学 助教授 鈴木,宏二郎
内容要旨 要旨を表示する

 航空宇宙工学の発展に伴って高速流れの研究が盛んに行われるようになると興味深い現象が観察されるようになった。それは、高温気流中に物体を置いたときに物体表面に溶融や昇華・気化によって特有のパターンが形成されるという現象である。その代表例がテクタイトとクロスハッチングである[1,2]。テクタイトは隕石の一種で、主成分はガラスであり、地球大気に突入した際の空力加熱により表面が溶融し淀み点を中心とするリングウェーブと呼ばれる同心円状のパターンが形成されている。また、クロスハッチングも同様の環境で観察される現象であるが、観察される物体の形状は鈍頭物体ではなく主に円錐やくさびなどの相対的に平面状のものであり、流れが超音速かつその下流部で表面粗さがあると発達しやすい傾向にあることがわかっている。

 これらの現象は、古くから知られている界面不安定性と関連付けられて考察されてきた。界面での流体力学的不安定性の研究の歴史は長く、Kelvin-Helmholtz不安定性に代表される密度の異なる界面での不安定性の研究として実験や理論解析が行われてきた。空力加熱による溶融パターンの形成メカニズムについてはいくつかの説があるが[2]、古典的な水−空気系のような単純なケースとは異なり、高温環境・材料特性も関係する複雑な現象であることから部分的な説明しかなされてこなかった。また初期には解析手法として線形理論しか存在しなかったこと、また、実験でも気流の実現や気流条件の測定が難しい場合もあって、はっきりとしたことはわかっていないのが現状である。

 近年、計算機ハードウェアと計算技術の向上により数値流体力学(CFD)が飛躍的に発展し、複雑流れの解析が多く行われるようになっている。そして徐々にその妥当性も確認されてきている。CFDでは従来の研究手法である実験や飛行試験では実現しにくい条件の設定ができることや、パラメータを変化させた多くのケースの解析ができることが利点として挙げられる。空力加熱による表面パターン形成現象もまた、実験を行うには困難を伴うことが多いものの範疇に入る。高温流環境を地上で模擬しかつその気流条件全てを同時に正確に測定することが難しいからである。

 本論文では、新たな解析ツールとしてCFDを採用し実際にこの問題に対して適用して形成メカニズムを解明し、CFD技術としての有効性を示すことが目的になる。そのために、新たにこの現象に適用できる計算コードを開発し、パターン形成の支配的なメカニズムを解明していく。

 空力加熱による物体表面パターン形成現象には大きく分けて2種類ある。昇華・気化が主体になるもの、および溶融が主体になるものである。昇華や気化が起こる場合は、気体側の圧力場と温度場の影響を受けるものと推測される。一方、溶融が主体になるものでは、相対的に温度場の影響が小さいものと推測される。モデル化の観点で言えば、気化プロセスを含む場合は格段に難しい。そこで、本論文ではいたずらに現象が複雑になることを避けるため、溶融が主体になるように条件を設定する。このことにより、現象として何が起こっているのかを見極めやすくなる。

 本論文では外部の気流とその気流中に置かれた物体との干渉を扱うため、従来のCFDのように気流だけを解くだけでは結果が得られない。そこで、本論文では多相を扱えるようにCIP-CUP法を主体にした計算コードを用いる。熱および高レイノルズ数流れを扱うために境界層解像にも留意し、重合格子を用いた計算の形態をとることにする。扱う物質は熱力学データ等の物性データが比較的豊富に与えられている金属類とし、その中でも密度が低く融点の低いアルミニウムを採用することにする。このことは計算がより容易に行えることを意味する。また、アルミニウムは加工性にも優れ、実験しやすいこともその一因である。

 線形理論による考察[2,6]、およびCFDによる計算結果から、2次元・3次元形状に対して溶融パターンの再現およびその支配的なパラメータが示される。これにより溶融パターン形成のメカニズムが示される。本手法により、熱防御系で起こっている現象を説明することが可能になり、その設計に有用な示唆を与えることができる。

 本論文第1章では、まず過去の実験や実飛行での観測結果が示され、溶融パターン形成の現象についての整理がなされる。次に、本論文の研究目的が示される。本論文では、新たな解析ツールとしてCFDを採用し実際に溶融によるパターン形成問題に対して適用できることを示し、形成メカニズムを解明することが目的になる。

 本論文第2章では、現象の支配方程式とモデル化手法が示される。支配方程式は流体の質量・運動量・エネルギーの式である。状態方程式に関しては、空気は完全気体として扱い、アルミニウムは半経験式を与えた[3]。構成方程式は、空気にはニュートンの粘性則を与え、アルミニウムは粘弾塑性体[4]として扱った。アルミニウムは、応力が小さいうちは弾性変形、降伏応力を超えると塑性変形が起こる。また、ヤング率・降伏強さとも温度特性、すなわち高温になると小さくなる性質を与え、高温になるほど軟らかくなりやすいことを表現する。クリープの効果はマクスウェルモデルで与えてある。なお、オーダー比較により表面張力の効果は無視してもいいので本計算コードには含まれていない。また、化学反応も含まれていない。

 本論文第3章では、計算手法の説明がなされる。本研究では固体・液体・気体の状態を同時に解くために、計算手法としてはCIP-CUP法[5]を基に計算コードを構築した。衝撃波の捕獲のためには従来のTVD法を用いた。用いた格子系は2つの格子から構成される。固定直交座標ではCIP.CUP法で相変化計算や物体界面の追跡をする。空力加熱の推算のためには物体近傍の境界層の解像が必要なため、別に物体適合移動格子を用いてTVD法で計算する。この適合格子は計算の各ステップで表面形状に合わせて再構成される。両格子は解強制置換法により情報を交換して計算を進めていく。計算コードは2次元および3次元のものを作成した。

 本論文第4章では、検証計算の結果が示される。検証に用いた問題は(1)衝撃波管問題、(2)相変化を伴う伝熱問題、(3)重力場での静定問題、(4)固体内波動伝播問題、(5)界面追跡問題である。それぞれ(1)衝撃波捕獲、(2)相変化と伝熱、(3)弾性域での金属の静的性質、(4)弾塑性域での金属の動的性質、(5)界面の正確な追跡、ができるかどうかを見ている。それぞれの問題に対して妥当な結果を得ており本計算コードの妥当性が確認された。

 本論文第5章では、本題の表面溶融不安定性の計算が行われる。まず、線形理論による予測が示される。ここでは表面液層の不安定性問題にアルミニウムの構成方程式を組み込んで解析を行う。仮定として、流れは2次元平行、擾乱は微小とする。その結果、波の増幅率に関しては

波長に関しては

という関係が得られる。準備段階としてこの妥当性を確認するために2次元平行流の計算を行った。この場合、増幅率は場所によってほぼ同じと考えられるので波長ファクター(2)についてのみ比較される。この結果、線形理論とCFDで良好な一致をみた。

 これを踏まえ、、曲率を持つ流れを計算する。2次元計算では、円柱周りの流れ場を計算する。計算条件は、一様流の圧力1[atm]、温度300[K]、速度1500[m/s](マッハ4.3)、物体初期温度450[K]、物体直径0.01[m]である。まず流れ場の様子として等圧線と流線を図1に示す。物体の前方に離脱衝撃波ができ衝撃層が形成される。次に物体表面熱流束の分布を図2に示す。いくつかの局所ピークが見られる。図3で物体形状を見てみると、表面に波が立っているのがわかる。従って、この変形により熱流束などに局所ピークが生じていたことがわかる。波の増幅率にあたる式(1)を描いたのが図4である。ただし、圧力の平均値は近傍の平均で置き換えることにする。この図から、実際に波が観察される領域(淀み点からの角度が約30-80度付近)において増幅率が高く、この値が波面形成現象を記述していることがわかる。増幅率は、圧力変動・空気摩擦力が大きいほど、また物体粘性が小さいほど大きくなることがわかる。波面の形状と圧力、空気摩擦力の様子を図5に示す。圧力変動は波面形状と、摩擦力は波面勾配とほぼ同期していることがわかる。

 次に、パラメータを変化させた計算結果を示す。一様流圧力、温度、速度をそれぞれ変化させてみた。まず、一様流圧力を変化させた結果を示す。このときは式(2)から推算されるように圧力の上昇に伴って波長が小さくなることが期待される。実際、実験では圧力と波長にのみ注目すると

という結果が得られている。本計算でも、同様のデータ整理(圧力のみに注目して)を行うと

と近い結果を得た。ただし、実際には式(2)の中の摩擦係数などは定数ではないので圧力だけの影響ではないと思われる。数値計算では式(2)を直接計算できる利点があるのでその計算を行うと、平行流ではない場合でも実際に式(2)に極めて近い関係が成立していることがわかった。ただし、淀み点からの角度が約40-60度付近では振幅がある程度大きいのでこの関係から若干はずれてきている。これは線形性の破綻と考えられる。一様流温度を変化させたとき、流入熱流速の差から温度などの立ち上がり時間に変化はあるが実際の形状への影響は少ない。これは実験事実[1]に一致する。また、一様流速度を変化させても(1500[m/s]と2000[m/s])式(2)の値があまり変わらず、実際の形状もこの範囲ではさほど変わらなかった。

 以上の結果から、表面波の形成メカニズムが明らかにされる。まず、高温空気層からの熱流入によって風上側の表面が溶融する。風下側は温度上昇が大きくないのでそもそも溶融が起こらず、変形も起こらない。風上側では、表面の溶融層にはたらく圧力変動と摩擦力によって形状擾乱の増幅が起こって波面を形成していく(図6)。初期段階の増幅は式(1)が支配しており、波長は式(2)が決定している。しかし、波の振幅が大きくなると次第に線形理論の結果からははずれていくようになる。CFDでは線形・非線形を意識しなくても解けるため、従来の線形理論に比べて適用範囲は広い。軸対称計算(つまり球まわりの流れ場)でもほぼ同様の結果を得ている。

 次に、3次元計算でクロスハッチングの起こる理由を考察した。ここでは半頂角30度のくさびを超音速流中に置いてその形状変化を見る。主流条件は、2次元と同じである。まず、一様流に陽に擾乱を与えない計算を行った。このときは、さきの2次元計算と同じメカニズムで2次元的な波面、つまり流れに垂直方向の波面が形成された。次に、流入一様流に陽に擾乱を加えてみる。加えるのは周期擾乱とする。このときの表面形状を図7に示す。このときは加えた擾乱によってマッハコーンが形成され、その圧力場が変わり、2次元状からクロス状の模様パターンへ変化する。

 この結果から、クロス形状が形成されるには、表面粗さなどの擾乱が重要な役割を演じていることがわかる。実際の実験でも、クロスの出始めには表面粗さが効いていることがわかっている。ただし、実際の現象では乱流が関係しているとも言われ、お互いの擾乱で打ち消し合いや重なり合いの結果から最も不安定なモードが出てくる過程はこの計算でも再現できていない。しかしながら、最も不安定なモードを陽に与えるとそれによってクロス状になることがわかり、表面に形成されるパターンは圧力や摩擦力など流れ場の様子に依っていることがわかる。

 このように2つの現象のメカニズムは基本的に同じであることがわかった。

 本論文第6章では、これまでの結果を踏まえ、結論が述べられる。本論文では空力加熱による溶融表面においてパターンが形成される現象について数値計算コードを作成し解析した。その結果、CFDによって波面形成の再現に成功した。線形理論の結果は初期の実際の現象とよく一致していたがCFDによる計算のほうが少ない制約でより広い範囲をカバーできる。結果として、波面形成の支配的なパラメータと現象のメカニズムを示すことができた。

 付録として、アルミニウム棒を用いた実験の結果も示される。アルミニウムを材質にした実験は過去に行われていないのでここで行った。しかしながら、加熱に用いたプラズマジェット装置では気流の条件を完全に測定できないため、定性的な比較にとどまった。気流温度、熱流束は計算とほぼ同じである。圧力のオーダーは計算と同じと推定されている。図8に、2次元円柱を気流中に入れたときの結果の例を示す。淀み点部には波面は形成されないが肩の部分に波面が形成されることがわかり、定性的には計算結果と一致する。また、これにより溶融層の表面張力は大きくないこともわかり、計算で表面張力を入れていないことが正当化される。

<参考文献>

[1] Chapman,D.R.and Larson,H.K.,“The Lunar Origin of Tektites”,NASA TN D-1556,1963

[2] Swigart,R.J.,“Cross-Hatching Studies-A Critical Review”,AIAA Journal,Vol.12,No.10,pp1301-1318,1974

[3] Eliezer,S.,Ghatak,A.,Hora,H.and Teller,E.,“An Introduction to Equations of State”,Cambridge Univer-sity Press,1986

[4] Wilkins,M.L.,“The Calculation of Elastic-Viscous-Plastic Effects in Materials”,Shock Waves and the Mechanical Properties of Solids,ed.John J.Burke and Volker Weiss,Syracuse University Press,pp65-72,1971

[5] Yabe,T.,“Interface Capturing and Universal Solution of Solid,Liquid and Gas by CIP Method”,ISAC High Performance Computing on Multiphase Flows,1997

[6] Gold,H.,Probstein,R.F.and Scullen,R.S.,“Inelastic Deforation and Crosshatching”,AIAA Journal,Vol.9,No.10,ppl904-1910,1971

図1 等圧線図と流線

図2 熱流束分布

図3 表面形状

図4 増幅率の分布

図5 表面形状と圧力・摩擦力の分布

図6 波の形成メカニズム

図7 擾乱を与えたときの表面形状

図8 実験結果

審査要旨 要旨を表示する

 修士(工学)新城淳史 提出の論文は「Research on Surface Melting Instability due to Aerodynamic Heating(空力加熱下の溶融物体表面の流体力学的不安定に関する研究)」と題し、本文6章および付録1項から成っている。

 宇宙輸送システムは宇宙活動の重要なインフラストラクチャであるが、その要素技術として、高速高温流中での過酷な空力加熱を防御する熱防御系の構築が必須である。従来、有力な熱防御系はアブレーション冷却系によるものであり、世界の宇宙計画の多くはこのシステムによって支えられてきた。アブレーション冷却系は、飛行体表面物質の溶融や昇華による潜熱を有効に利用して飛行体内部に流入する加熱量を低減させるものであるが、このような高速高温気流中では、飛行体表面の溶融によって特有のパターンが生成することが観察されていた。宇宙空間から再突入したと見られるテクタイト(tektite)の同心円状の溶融パターン(リングウェーブ)や、くさびや円錐形状物体表面に生じるクロスハッチングがその代表的な例である。これらの現象は、Kelvin-Helmholtz不安定と関連づけて、密度の異なる場での界面不安定性によるものと説明されてきた。しかしながら、古典的な水一空気系のような単純な場合とは異なり、高温でかつ材料特性の関係する複雑な場に対する説明としては不十分である。また、初期には線形理論による解析のみが可能であったため、現象の把握が十分でなかったきらいがある。

 このような観点から、著者は、近年発達の著しい数値流体力学(CFD)を用いることによって、この現象のメカニズムを解明することを試みることとした。このような問題では、外部の気流と気流中に置かれた物体との干渉を扱わねばならないため、従来のように、気流側だけの取り扱いでは現象を把握できない。著者は、多相の状態が共存する場を包括的に扱うことのできるCIP・CUP(Constrained Interpolation Profile、あるいはCubic Interpolation Propagation-Combined Unified Procedure)法をこの解析に適用することにより、二次元円柱および三次元くさび物体表面の溶融パターンを再現し、熱流体力学的不安定性のメカニズムの解明に成功した。このことは、実際のアブレーション物質の溶融パターンの定量的説明を可能にし、将来型宇宙輸送システムの熱防御系の設計に有用な示唆を与えることができる。

 第1章は序論で、テクタイトのリングウェーブやくさび・円錐状物体のクロスハッチングの現象の観察と過去の実験等から、この溶融現象を説明し、本論文の目的と意義を明確にしている。

 第2章では、高速気流中にアルミニウムを材質とする物体を置き、気流と金属アルミニウムを同時にCIP・CUP法で解くという設定のもとに、流体に対しては質量、運動量、エネルギーの保存を記述する支配方程式を構成し、アルミニウムの状態方程式は半経験式から与えた。また、アルミニウムは粘弾塑性体としてその構成方程式を構築した。アルミニウムは溶融するが気化はせず、気流と溶融アルミニウムは混合しないというモデル化を行っている。

 第3章では、計算手法の説明を行っている。特に、固体・液体・気体の状態を同時に解くCIP・CUP法を主体に構築した計算コードについて述べ、物体近傍の境界層の解像度を確保するために用いた物体適合移動格子について説明している。

 第4章では、本論文で用いた計算モデルの妥当性を、衝撃波問題、相変化を伴う伝熱問題、重力場での静定問題、固体内波動伝播間題、界面追跡問題の5種の計算を行うことによって検証している。

 第5章では、まず、直径1 cmの二次元円柱まわりのマッハ数4.3の流れについて、数値解析によって物体外部の流れ場、物体形状変化および物体表面熱流束を得るとともに、物体表面において溶融物質が形成する波の増幅率を線形理論を応用して予測した。溶融物質の波の増幅率は気流による摩擦力、圧力変動および物体材質粘性をパラメータとしてあらわされ、気流による摩擦力および圧力変動が大きいほど、また物体材質粘性が小さい程大きくなる。同様に、波の波長は物体粘性と空気摩擦力の比に依存する。このことから、実際に顕著な表面溶融パターンが観察される領域(よどみ点から30-80度の領域)で波の増幅率が大きくなることが説明される。さらにCFDでは非線形の方程式系を解いているため、これらの結果を利用し、非線形領域の現象も予測し得る。

 次に、半頂角30度のくさび物体表面に起こるクロスハッチングの現象が、二次元物体と同じ気流条件のもとでの計算によって生じることを示した。この際、そのような現象が生じるためには初期の擾乱(表面粗さ)が影響しており、擾乱が打ち消し合う領域および重畳する領域が存在することがクロスハッチングのパターンを形成することが示された。

 第6章は結論で、上記各章における考察の総括を行い、溶融表面における波面の形成が著者の提案する線形理論による増幅率と波長で説明できることを示しており、実際の再突入物体の溶融パターンの現象の説明が可能であることを示唆している。

 付録ではアルミニウムの二次元円柱をプラズマジェット気流に置いた時の実験結果を示し、定性的に解析結果と一致することを述べ、数値解析の妥当性を強調している。

 以上要するに、本論文は固体・液体・気体の領域を同時に解析することのできるCIP-CUP法を用いた数値解析によって、高速高温気流中の飛行体表面に生成する同心円状の波(リングウェーブ)や三次元のクロスハッチングパターンの形成メカニズムを解明したものであり、流体力学に新しい知見をもたらすとともに、アブレーション法を用いる宇宙輸送システムの熱防御系の設計に重要な指針を与えるもので、航空宇宙工学に貢献するところが大きい。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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