学位論文要旨



No 116066
著者(漢字) 植田,喜延
著者(英字)
著者(カナ) ウエダ,ヨシノブ
標題(和) プラズマ合体を用いた球状トーラスの高性能化
標題(洋)
報告番号 116066
報告番号 甲16066
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4903号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 小野,靖
 東京大学 教授 桂井,誠
 東京大学 教授 小田,哲治
 東京大学 教授 日高,邦彦
 東京大学 助教授 大崎,博之
 東京大学 助教授 藤井,康正
内容要旨 要旨を表示する

 核融合開発研究はトカマク方式を中心に進められており、現在プラズマの「核融合三重積(ntTi)」が約1021[keV・m-3・sec]程度まで得られ、零出力炉(Q=1)の条件が満たされる段階まで到達した。また国際熱核融合実験炉計画(ITER)等における物理、工学研究によりこれまでの実績の外挿による核融合炉実現も十分に展望できる。しかしながら現状のトカマク方式を用いた核融合炉では、十分な核融合出力を得るためには非常に大きくならざるを得ず、経済的であるとは言えない。外部コイルによる磁場をあまり必要とせず、よりコンパクトでかつ閉じ込め性能も高い方式が必要とされている。その要求に応え得る核融合磁気閉じ込め配位として球状トーラスが注目されている。球状トーラスは球状トカマク、スフェロマック、低アスペクト比逆磁場ピンチ、逆転磁場配位などの低アスペクト比内部電流系配位の総称であり、各配位毎に特徴、到達パラメータや課題は様々であり、これらの統一的な理解も必要である。

 トーラスプラズマを軸対称に合体させると、磁束の保存からポロイダル磁束は二つのプラズマの持つポロイダル磁束の大きい方の値となり、トロイダル磁束は両者の和となる。このことからプラズマ合体をトロイダル磁束量の調整に適用できると考えられる。また、合体に際し古典抵抗拡散を遥かに上回る速度で磁力線の繋ぎ変わりが生じ、失われる磁気エネルギーが熱エネルギーに変換されることからプラズマの加熱手法としても有力である。本研究では、軸対称合体を球状トーラスに適用し、磁束(電流)駆動および加熱効果を実証した。またこれらの効果を利用して各種球状トーラスの安定性、閉じ込め時間の向上を試み、さらにより大型装置での合体実験の有効性を示す磁場スケーリング作成を行った。

 プラズマ合体を用いたトロイダル磁束注入実験ではスフェロマックや低アスペクト比逆磁場ピンチといった安全係数の低いプラズマで問題となるダイナモ現象の発生を抑制し、ダイナモに起因する低次トロイダルモードの低下を確認した(図1)。急速加熱実験では、合体(磁気リコネクション)によりプラズマのイオンが選択的に加熱されること、イオン温度上昇は安全係数の低いプラズマ程高いこと、加熱に要する時間と熱エネルギー増加量から、平均の加熱パワーにして最大20[MW]得られることなどが明らかになった(図2)。

 合体加熱された球状トーラスのトロイダル電流分布を計測すると、従来の磁気軸でピークを持つ分布から磁気軸周辺で電流密度の低下するホローな分布に変化することが分かった。また、球状トカマクではプラズマ電流のポロイダル成分がつくり出すトロイダル磁場の常磁性成分も低下する。これらの特徴は配位の高ベータ化(ベータ=プラズマ熱圧力/磁気圧)に寄与し、体積平均ベータ、ポロイダルベータ共に2-3倍上昇することが分かった。

 合体により生成した高ベータ配位を用いてプラズマが高ベータ化した際に問題となる圧力駆動型の電磁流体力学的不安定性であるバルーニングモードの検証を実験および数値解析により行った。実験からは合体後長時間維持されるケースと、プラズマ端部に局所的に大きな磁場揺動を伴って早く消滅するケースが観測された。各々の圧力勾配を比較すると、早く減衰するケースの方が強い圧力勾配を持っていることが分かり、バルーニング不安定の発生が示唆された。両者の圧力分布を数値計算によって解析した結果、寿命の長いケースはバルーニングに対し安定であり、崩壊するケースは広範囲でバルーニング不安定性を示すことが確認された。

 スフェロマックの異極性合体によって生成される逆転磁界配位はベータ値が非常に高く、さらに後から外部トロイダル磁場を印加した球状トカマクはプラズマ内部のトロイダル磁場が外部トロイダル磁場よりも小さくなる反磁性を示し、交換不安定性の安定化に有利な絶対極小磁界配位を形成することからバルーニング第二安定化を実現する可能性が高い。本研究では数値解析により反磁性球状トカマクが実際に第二安定化領域に存在していることを実証し、常磁性球状トカマクよりもその安定領域が拡大していることを見出した。

 より大型の装置への適用性を検討するために合体加熱の磁場スケーリングを評価した。スフェロマックの異極性合体実験において、初期スフェロマックの磁気圧を0.6-4[kPa]の間で変化させた結果、合体後生成される逆転磁界配位のイオン温度は10-100[eV]の範囲で磁気圧に応じて変化した。プラズマ合体による電子温度、密度の変化はほとんど見られないことを考慮すると、合体後の熱圧力は合体前の磁気圧にほぼ比例して上昇する。これは1[T]の磁場を持つ球状トーラスを軸対称合体することで10[keV]のイオン温度を持つ配位が生成され得ることを意味する。

 以上、球状トーラスにプラズマ合体を組み合わせることで経済的な核融合炉心プラズマとして魅力的な配位の候補となることを実験、数値解析を組み合わせて実証した。

図1:(a)低アスペクト比逆磁場ピンチ、(b)スフェロマック、(c)球状トカマクのトロイダルモードの磁場強度。ダッシュは合体を行った場合。

図2:熱エネルギーの時間変化。(a)スフェロマック、(b)低qST、(c)高qST。実線は合体、破線は単一生成の場合。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「プラズマ合体を用いた球状トーラスの高性能化」と題し、プラズマ合体・磁気リコネクシヨンの持つ磁束注入効果とプラズマ加熱効果がそれぞれ球状トーラスのダイナモ現象抑制と急速加熱に応用できることを実験及び計算機解析によって立証したものであり、全体で6章から構成されている。

 第1章は、序論であって、核融合磁気閉じ込め研究の現状と経済性の向上を目指した球状トーラス研究の必要性と各方式の問題点が述べられている。q値が高い順に、球状トカマク、スフェロマック、逆転磁場ピンチ、逆転磁場配位が紹介され、それらのキーとなる間題として、第1に閉じ込めを悪化させるダイナモ現象の解決、第2に経済性の向上のための高べータ化が必要であることが述べられている。そのための新アイデアとして、プラズマ合体・磁気リコネクションの利用して、電流分布が制御できるポロイダル電流駆動やメガワット以上の大きな加熱を行うことができれば問題解決に有用であることが紹介されている。研究の目的はプラズマ合体を用いた効率的に閉じ込め配位の電流分布制御と高べータ化を目指すことである。

 第2章は「TS-3プラズマ合体実験装置」と題され、本研究に用いた球状トーラスプラズマ合体実験装置とその計測装置について述べられている。球状トカマクから逆転磁場配位までの5種類の球状トーラス配位を単一の装置で生成する手法やそのための実験セットアップが述べられている。プラズマ計測法として磁気プローブを用いた2次元磁場計測やトロイダルモード計測、磁場揺動計測の原理が述べられ、ラインスペクトルのドップラー幅を用いたイオン温度計測や、静電プローブを用いた電子密度、電子温度計測などが紹介されている。

 第3章は「プラズマ合体効果の検証」と題され、6つの実験から成っている。第3.1章は「単一生成球状トーラスの相互比較実験」と題され、5種類の球状トーラスを各々生成して相互比較を行ない、q値が大きくなるほど、磁場揺動が小さくなり、磁場減衰時間も長くなる現象が明らかにされている。第3.2章は「プラズマ合体を用いたポロイダル電流駆動実験」と題され、プラズマ合体を用いたポロイダル電流駆動をオーム加熱コイルでトロイダル電流駆動中の各球状トーラス配位に適用すると、ポロイダル、トロイダル両電流がバランスした駆動効果により磁場揺動が30-50%に低減でき、磁場減衰時間も延長できることを結論している。第3.3章は「プラズマ合体加熱効果の実験的検証」と題され、球状トーラスの合体を用いると、それに伴う磁気リコネクションのイオン異常加熱により、小型実験でもメガワットオーダーのプラズマ加熱パワーが得られることが述べられている。加熱パワーはq値が下がるほど大きいなど、その加熱特性が解析されている。第3.4章は「合体加熱の球状トーラスの高べータ平衡」と題され、合体により急速加熱された球状トーラスがその高べータ状態を維持できるかを実験的に解析している。球状トーラスのq値が高いほど、加熱後の熱エネルギー損失が少なく、高べータ状態を安定に維持できることを結論している。第3.5章は「球状トカマク合体を用いた第2安定化実験」と題され、球状トカマク同士の合体の急速加熱により(バルーニング不安定に対する)第2安定状態にある高べータ球状トカマクを作る試みについて述べている。徐々に圧力勾配を上昇させると磁場揺動の急増と磁場配位の急速な減衰を招く現象が見出され、安定解析計算機コードにより解析を行った結果、平衡がバルーニングモードが不安定な領域に踏み込んだためであることが結論されている。第3・6章は「反磁性球状トカマクによる第2安定化」と題され、スフェロマックの異極性合体により生成された逆転磁場配位に後からトロイダル磁場を印加することにより、第2安定領域の高べータ球状トカマクを生成できることを述べている。

実験結果と安定解析コードによる解析の比較により、この手法による高ベータ球状トカマクが確かに第2安定領域に存在しているものの、その圧力勾配を低減するとバルーニング不安定領域に入ってしまうことが、実験、計算の双方によって結論されている。

 第4章は「計算機シミュレーション」と題され、3次元電磁流体シミュレーションにより、第1にコンパクト逆転磁場ピンチのダイナモ現象、第2に高ベータ球状トカマクの電流駆動型不安定の解析を行っている。初めて生成したコンパクト逆転磁場ピンチ配位の解析では、ダイナモ現象の原因となる不安定がトロイダルモードn=3、4等となって従来の逆転磁場ピンチに比べてモード数が大幅に低いことを述べている。

また、高べータ球状トカマクの解析では、圧力駆動型の不安定が電流駆動型のそれよりも成長率が高いことを結論し、実験結果を説明している。

 第5章は「プラズマ合体の将来性」と題され、第1に現実の大型核融合炉向けのポロイダル電流駆動法として想定される入射プラズマの磁束変化を用いた炉心球状トーラスの電流分布制御実験、第2にプラズマ合体を用いた急速加熱に関するスケーリング則の検証実験について述べている。入射プラズマの磁束を変化させることにより、ターゲットプラズマのq分布がほぼ理論通り制御できることを明らかにするとともに、磁気リコネクションのイオン温度上昇は理論通り、磁場の2乗に比例することを実験的に証明している。その上でプラズマ合体を用いた電流分布制御と高べータ化の将来性について述べている。

 第6章は「まとめ及び結論」である。

 以上を要するに、本研究は、球状トーラス合体のポロイダル電流駆動効果およびプラズマ加熱効果を実験的に見出し、さらにそれらを用いて次世代核融合の課題である球状トーラス磁気閉じ込め配位の電流分布制御とダイナモ現象の抑制、および急速加熱と超高べータ化を、実験と計算機解析の両面から立証したものであり、電気工学、プラズマ理工学、核融合工学に貢献するところが多い。

 よって、本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認める。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/1826