No | 116087 | |
著者(漢字) | 譚,小地 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | タン,ショウジ | |
標題(和) | セキュリティホログフィック光メモリの研究 | |
標題(洋) | Optical Secure Holographic Storage Systems | |
報告番号 | 116087 | |
報告番号 | 甲16087 | |
学位授与日 | 2001.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第4924号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 物理工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | デジタル機器、ネットワークの急速な発達に伴い、大容量記録かつ高速データ転送速度を実現するメモリへの要求が高まっている。さらに近年、記録データの違法コピーが社会的問題になり、データ保護も重要な課題である。ホログラフィック光メモリは、光のもつ空間並列性、高速性を利用して、二次元データの大容量記録と高速読み出しを可能にするという特長をもつ。 本研究では、ホログラフィック光メモリに光暗号化技術を導入し、高いデータ保護機能を有する光メモリシステムの研究を行った。これまでに記録データへのアクセスを制限するため参照波符号化の研究は行なわれているが、記録画像そのものを暗号化する方法は本研究がはじめてである。光暗号化法は、光波のもつ物理量(振幅、位相、偏光、波長)を変調することにより、原信号をランダム信号に符号化するものである。光暗号化法は、簡単でありながら非常に高い安全性(計算量的安全性)を保証することができる。ホログラフィック光メモリにおけるデータ表現に用いられる物理量として、光の振幅、位相、偏光、波長がある。本研究で開発したセキュリティホログラフィック光メモリシステムでは、振幅または位相、偏光表示された各二次元データに対して、入力面とフーリエ面に置かれた2枚の二次元ランダム変調マスクにより白色雑音化した後、ホログラムとして記録する。再生時には、位相共役波再生により、記録時に用いた変調マスクを用いた場合にのみ原信号が再生される。変調マスクの情報を持たない場合、可能なマスクの全数は膨大であるから、全てを検査することは事実上、不可能である。これは計算量的安全性を保証するものである。 主な研究内容は、 (1)位相入力物体を用いたセキュリティホログラフィックメモリシステムの開発 (2)ランダム偏光マスクを利用したセキュリティホログラフィックメモリシステムの提案 (3)二重ランダム位相マスク法を用いた角度多重ホログラフィックメモリの記録容量の向上 である。以下に各研究項目についてその概要を記す。 1)位相入力物体を用いたセキュリティホログラフィックメモリシステムの開発 本研究では位相物体を用いた二重ランダム位相マスク法による光学的暗号化法をホログラフィックメモリに利用することにより、実用的に安全なメモリシステムの構築を試みた。これまでに位相入力物体を用いたホログラフィックメモリに関する研究はほとんどない。原画像は位相表示された後、入力面、フーリエ面に置かれた2枚のランダム位相マスクにより白色雑音化される。この白色雑音化された信号を平面波参照光と干渉させ,ホログラムとしてフォトリフラクティブ結晶中に記録する。 参照光の角度を変えながら多重記録を行なう。再生時には参照光の位相共役波を用いる。この位相共役波再生により、記録時と全く同じ2枚のランダム位相マスクが挿入された場合にのみ元の位相情報が再生される。振幅入力の場合は、再生時には入力面のランダム位相マスクは不要であるが、位相入力では再生に2枚のランダム位相マスクが必要となるため、鍵情報を持たない人に対して、解読の困難なシステムになる。本システムでは再生された位相情報を強度情報として検出するために干渉計を用いた。原理確認実験として、3枚の位相入力画像を記録し、正しいマスクを用いた場合にのみビットエラーレート0で再生することを確認した。また数値計算により、ランダム位相マスクのセキュリティ度を評価した。その結果、(1)フーリエ面に置かれたランダム位相マスクの全面積の3%に当たる部分で再生した場合のビットエラーレートは0.25であった。ビットエラーレート0.25は十分安全なデータ保護が行なわれていると考えられる。画素数512×512のランダム位相マスクの3%部分の位相分布の全数は少なくとも107,864以上であり、十分高い安全性を保証する。また、(2)暗号化時のランダム位相マスクがわずかに変形した場合の再生像のビットエラーレートを算出した。ビットエラーレート0.25になる場合の復号用マスクと暗号化時のマスクの規格化相互相関ピーク値は0.2であった。復号用マスクは正しいマスクと非常に高い相関値をもつことが要求されることがわかった。以上の数値計算により、位相入力信号を用いた二重ランダム位相マスクによる暗号化メモリは十分安全であることを確認した。 2)ランダム偏光マスクを利用したセキュリティホログラフィックメモリシステムの提案 近年、偏光入力を用いたホログラフィック光メモリが提案されている。偏光情報を使うことで記録・再生と同時に簡単な論理演算などの情報処理も行なうことができる。本研究では二重ランダム偏光暗号化法を考案し、それを光メモリシステムに応用することを試みた。二重ランダム偏光暗号化法では、入力画像は二次元偏光分布として表示され、入力面、フーリエ面に置かれた2枚のランダム偏光マスクにより元の偏光情報がランダムに暗号化される。ランダム偏光マスクの各画素は,主軸方向と進相軸、遅相軸の位相差が任意変調可能な複屈折媒質である。二次元偏光変調マスクの全数は、二重ランダム位相マスク暗号化法よりも大きくなるため、より安全性の高い光暗号化技術である。復号時には物体光のベクトル位相共役光を再生し、記録時に用いた2枚の変調マスクを再び通過することで元の偏光情報が再生される。実験では,ベクトル位相共役光の再生のためバクテリオロドプシンを用いた。ランダム偏光分布に暗号化された2枚の入力画像に対して正しく再生されることを確認した。 3)二重ランダム位相マスク法を用いた角度多重ホログラフィックメモリ記録容量の向上 角度多重記録を用いた体積型デジタルホログラフィックメモリの記録容量は一枚の画像のもつ情報量と多重度の積で与えられる。一般にフーリエ変換型ホログラムでは画像の情報量は記録媒質の断面積で決まり、角度多重度は結晶の厚さと屈折率格子の周期で決まる。従来のデジタルホログラフィックメモリでは、記録画像のクロストークにより生じるビットエラーを小さくするため、隣接の記録画像からのクロストークが最小となる角度刻み幅で記録する。本研究では二重ランダム位相マスクによる原画像の暗号化を導入することにより、最小角度刻み幅を小さくし、角度多重記録容量の向上を試みた。試作した実験システムでは,原画像を入力面とフーリエ面に置かれた2枚のランダム位相マスクにより白色雑音化した後、平面波参照光との干渉により、ホログラムとして記録する。個々の入力画像に対して異なるランダム位相マスクを用いる。再生時には、正しいマスクによる再生像の他に隣接記録画像が再生される。この隣接画像からのクロストークは白色雑音化されているため、クロストークノイズは統計的平均となる。従って、クロストークが存在する場合でも、しきい値処理により原画像を回復することが可能である。計算機シミュレーションにより、角度多重ホログラフィックメモリの記録容量は約5倍向上することが可能であることがわかった。また実験により記録容量向上の可能性を示した。 本研究では、ホログラフィックメモリシステムに光暗号化技術を導入し、実用的に安全な光メモリシステムを構築した。入力物体として振幅、位相、偏光分布を用い、それぞれに対して光暗号化法を適用し、システムの開発を行なった。その結果、最も安全性の高いシステムは、偏光入力・二重ランダム偏光暗号化法を用いたシステムであることがわかった。システム構築の簡便性・記録容量に関しては、振幅入力・二重ランダム位相暗号化法の組み合わせが最も有望である。また、位相入力物体を用いた光メモリシステムは従来にない新しいホログラフィックメモリシステムであり、研究の進展が期待される。本研究で得られた成果により、暗号化光メモリシステムは次世代の光通信網におけるデータベースなどへの利用が期待できる。 | |
審査要旨 | 次世代の大容量、高速アクセス光メモリーの候補のひとつとしてホログラフィック光メモリーの研究が進められている。現行の光ディスクやハードディスクは情報を平面上に2次元的に記録するのに対し、ホログラフィーは媒体内に3次元的に記録する点に特徴があり、このため大容量化が達成できる。また、ホログラフィック光メモリーでは情報を画像化し、ビット列を2次元的に配列したページ単位で記録・読み出しが行われる。並列アクセスの導入によりデータの入出力の高速化が可能となる。 一方、高度情報化社会を迎え、個人情報や商取引情報がインターネットを経由して大量に伝えられるようになり、通信情報のセキュリティの確保が重大な関心事となっている。デジタル情報通信の暗号化は通常、通信文とキー情報を代数学的に演算することによって行われる。しかし、ホログラフィック光メモリーでは、光学的な手段を用い、容易に、かつ、解読のほとんど不可能な暗号化を行うことができる。本論文は、このホログラフィック光メモリーの光学的暗号化技術について研究成果をまとめたものである。 本論文は7つの章からなる。 第1章「緒言」(Introduction)では、本研究の背景と目的、および、論文の構成が述べられている。 第2章「フォトリフラクティブ結晶を用いたホログラフィック光メモリー」(Holographic storage using photorefractive crystal)では、書換え可能な位相型ホログラフィック材料であるフォトリフラクティブ結晶を用いたホログラフィック光メモリーについて、動作原理、多重記録の方法、記録容量など装置の諸特性、システム構成の概要や開発の現状などが述べられている。 第3章「情報セキュリティの光学的な方法」(Optical techniques for data security)では、2次元画像に対する光学的暗号化法についてこれまでの研究を紹介し、本研究の位置づけを与えている。 光学的暗号化は、光路の途中に厚さがランダムに分布したマスクを挿入することにより行われる。いわばすりガラスを通して物体を見るようなもので、像は白色雑音化し元の情報を判読することはできない。通常の結像光学系では、像を撮るときに位相の情報が失われてしまうから、像から物体を復元することは不可能である。ところが、ホログラフィーでは位相情報も記録されるから、ランダム位相をキャンセルする位相マスクを用意すれば元の情報を復元することが可能となる。実際には読み出し時に位相共役再生を行い、書込み時のランダム位相マスクと同一のマスクを通して結像することにより暗号化された原情報を復元できる。とくに本研究では二重ランダム位相マスク法を基礎としている。これはホログラフィー光学系の物体面とフーリエ面にランダム位相マスクを起き信号を暗号化する方法であり、安全性の高いことが知られている。 第4章「位相暗号化を用いたセキュリティホログラフィック光メモリー」(Secure holographicstorage that uses fully phase encryption)では、ホログラムに記録する情報を位相コード化することにより、安全性が一層高められることを述べている。情報を光強度でコード化する従来の場合は、暗号化に2つのランダム位相マスクを用いても、解読にはフーリエ面上のランダム位相マスクのみが必要であり、像面上のランダム位相マスクは不要である。ところが、位相コード化では、物体面上のランダム位相マスクも解読に不可欠である。このため、暗号解読の複雑度が2乗倍増え、セキュリティを向上できる。しかし最終出力段階で位相を強度に換えるため干渉計が必要となり、装置が複雑になるという欠点がある。本章では、ニオブ酸リチウムをホログラフィック記録媒体とした実験結果およびそのシミュレーション結果が述べられている。 第5章「偏光コード化を用いたセキュリティホログラフィック光メモリー」(Secure holographic storage with polarization encoding)では、直交する2つの偏光を用い、デジタル情報を偏光でコード化し、さらに、位相遅れがランダムに分布したランダム偏光マスクを用いて暗号化する方法が提案されている。このシステムの実現には、偏光状態も含めて位相共役波を発生するベクトル位相共役鏡が必要になる。本論分では、バクテリオロドプシンが、光の強度分布のみならず、偏光状態分布も記録再生できることに着目し、これをベクトル位相共役鏡として用いている。こうして、偏光コード化に基づく暗号化とその解読を実験的に確認した。 第6章「二重ランダム位相暗号化によるホログラフィック光メモリーの記録密度の向上」(Improvement on holographic storage capacity by use of double random phase encryption)では、暗号化によりホログラフィック記録の多重度を向上できることが述べられている。ホログラフィック光メモリーでは、複数のページを多重記録したものから、ブラッグ回折の選択性を利用し、特定のページを読み出す。しかし多重度を上げるとページ間の分離が不十分となり、隣接するページが部分的に再生されるクロストーク雑音が発生する。クロストークもデジタル信号で構成されるから、データの0と1の判定に対する影響は大きく、読み取りエラーの大きな要因となっている。 そこで、各ページを異なるマスクで暗号化すると、隣のページからのクロストークは正しいキーを使って再生されていないので、白色雑音となり、データの判定に対する影響を軽減できる。この方法は雑音そのものを減らすわけではないが、雑音の性質を変換し、記録性能を向上できることを示したものである。 第7章「結語」(Conclusions)では本論文のまとめが述べられている。 以上を要するに、本研究は、ホログラム記録時にランダムマスクを挿入することによりセキュリティ機能を持たせたホログラフィック光メモリーシステムの開発に関するもので、著者は、振幅、位相、偏光といった光の諸属性を上手に使うことにより、安全性を飛躍的に高められることを実験的および理論的に実証した。本研究は、年々高度化する情報社会に有用な技術を提供するものであり、物理工学の進歩に対する寄与は大きい。よって、博士(工学)の学位請求論文として合格であると認める。 | |
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