学位論文要旨



No 116120
著者(漢字) 堂脇,清志
著者(英字)
著者(カナ) ドウワキ,キヨシ
標題(和) ガス化プロセスによるバイオマスエネルギーシステムのライフサイクル分析
標題(洋)
報告番号 116120
報告番号 甲16120
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4957号
研究科 工学系研究科
専攻 地球システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 石谷,久
 東京大学 教授 六川,修一
 東京大学 助教授 茂木,源人
 東京大学 助教授 松橋,隆治
 東京大学 講師 定木,淳
内容要旨 要旨を表示する

 バイオマス資源をエネルギーとして利用する場合には、現在の主要なエネルギーである化石エネルギー資源と違って、非枯渇性(再生可能)であり、また再植林等の適切な管理によって利用することにより、正味CO2排出量はゼロとなる。このため、地球温暖化ガスの1つであるCO2削減と、また同時に、恒久的なエネルギー資源として将来的に非常に期待されている。バイオマスエネルギーの利用は将来的には主要なエネルギー源の1つとして期待されているが、実際の導入を目的とした、また持続可能な条件でのバイオマス資源の供給条件を含めた包括的かつ具体的なシステム評価については、ほとんど行われていないのが現状である。従って、本研究ではCDM(Clean Developing Mechanism)プログラムによる発展途上国へのバイオマスエネルギーシステムの導入を念頭にして、モデル対象国を選定し、当該国におけるバイオマス調査を実施し、当該国に自生している早生樹種にプランテーションを設計する。また、対象とするバイオマスを利用したエネルギーシステムの設計及び評価を基礎的な化学実験の実施を含めた検討を行う。さらに、システム全体におけるLCAによる評価を行い、また植林及びプラント建設に係る経済性効果についても評価することとし、今後の発展途上国へのエネルギー開発事業の1つの具体例となることを目的とする。

 本研究では、Papua New Guinea国をモデル地域とし、20,160haのEucalyptus degluptaによるプランテーションを7年サイクルで連続的に伐採・生産する原料供給プロセスの設計を行った。原料である原料供給プロセスにおけるLCAでは、原料の伐採・生産に係るCO2のみならず、持続可能な条件を維持するために降雨や地形傾斜によって損失する養分が質的に化学肥料と同等なものが補填されるとして分析を行った。なお、Eucalyptusdegluptaの成長特性及び土壌等に含まれる養分等については、すべて現地調査を実施し分析に必要な条件の設定を行った。

 また、エネルギー変換プロセスにおいては高効率なバイオマス発電システムの1つであるバイオマスガス化コンバインドサイクル発電システム(Biomass Gasification Integrated Combined Cycle:BIGCC)を設計し、プラントから回収される養分をプランテーションにリサイクルした場合の効果についても検討を行った(図1参照)。

 特に、ガス化プロセスについては、キューリーポイントパイロライザー及び熱天秤による熱分解反応特性及びCharのガス化特性について検討した。その結果、空気吹き及び酸素吹きBIGCCシステムのプラント性能については表1に示す結果が得られた。

 以上の原料供給プロセス及びエネルギー変換プロセスにおける評価結果から、バイオマスエネルギーシステムのLCA結果として、エネルギー収支比、LCCO2(Life Cycle CO2)及び石炭によるIGCC(Integrated Gasification Combined Cycle)システムを基準としたCO2削減費用について以下の知見が得られた。

(1)バイオマスガス化プロセスは、本研究で行った基礎実験の範囲については、十分に実証することができる。また、実験結果を利用したガス化シミュレーションにおいては、空気吹き及び酸素吹きの冷ガス効率は、それぞれ67%(HHV基準)及び71%(HHV基準)となる。なお、これまでの欧州における実証事例及び我が国における石炭ガス化をはじめ、廃プラスチックや重油等のガス化プロセスの実績を勘案しても、本研究で得られたガス化成績を十分に得ることができると想定される。

(2)また、航空機転用型の高効率バイオマス専焼ガスタービンの開発が既に米国で行われていることから、BIGCCシステムについては、既に実用化の水準に到達しつつあると判断される。本研究におけるバイオマス専焼ガスタービンの設計パラメータを利用したシミュレーションでは、空気吹きの及び酸素吹きの場合で、それぞれ34%(LHV基準)及び32%(LHV基準)となる。

(3)ガス精製システムにおいては、養分としてのNH3、P2O5及びK2Oの回収が可能である。特に、P2O5及びK2Oについては原料中に含まれる各量の100%の回収が見込まれるが、NH3の回収について原料中N分の10%程度である。なお、原料中に含まれるN分の回収については、灰分中には含まれる可能性がある。養分のリサイクルの効果としては、LCCO2で数%の改善効果が期待でき、N分の回収率を上げることによってより一層の改善を図ることができる。

(4)BIGCCシステムのプラント性能は、空気吹き及び酸素吹きのいずれの場合も40%(HHV基準)程度となった。BIGCCシステムのエネルギー収支比はプランテーションの地形傾斜角の影響を大きく受け約1.5〜7.6の範囲にあり、IGCCシステムと比べると最高値の場合でも約4割程度低くなる。一方、LCCO2については、IGCCシステムが約750g.CO2/kWhであるが、BIGCCシステムの場合には、最大排出量の場合でも約110g.CO2/kW11程度であり、IGCCシステムに比して優れていることが予想される。

(5)発電単価については、IGCCシステムが約6円/kWhとなり、一方、BIGCCシステムにおいては、空気吹き及び酸素吹きの場合で9〜12円/kWh程度となり、IGCCシステムに比べると発電単価が高くなる。なお、この理由は年経費に占める燃料(原料)費の割合が大きいこと及び養分損失に伴う肥料投入量に係る経費が地形傾斜角によって大きくなることが主な原因である。

(6)最後にCO2削減費用については、BIGCCシステムでは、空気吹きの場合で約15,000円/t-C〜約34,000円/t-C、酸素吹きの場合で約14,000円/t-C〜約31,000円/t-Cとなり、IGCCシステムにCO2回収装置を設置した場合でも約31,000円/t-Cとなることから、植林の地形条件にもよるが概していずれのシステムもそのメリットが大きいといえる。

図1 BIGCC基本システム構成図

表1 BIGCCにおけるプラント全体の性能

審査要旨 要旨を表示する

 本論文では、将来的に主要なエネルギー源の1つとして期待されているバイオマスエネルギーの利用について、実際の導入を目的とした、また持続可能な条件でのバイオマス資源の供給条件を含めた包括的かつ具体的なシステム評価に焦点をあて、CDMプログラムによる発展途上国へのバイオマスエネルギーシステムの導入可能性についての検討が行われている。特に、本論文においては、モデル対象国にパプアニューギニアを選定し、当該国におけるバイオマス調査を実施し、当該国に自生している早生樹種についてエネルギープランテーションを設計する。また、当該バイオマス資源を利用したエネルギーシステムの設計及び評価を基礎的な化学実験の実施を含めた検討を行い、最終的にシステム全体におけるCO2削減効果についてLCAによる評価及び経済性効果について評価し、今後の発展途上国へのエネルギー開発事業の1つの具体例となることを目的とした検討を行うものである。

 まず、この第1章では、本論文の序論として、研究の意義、周辺研究の動向、研究目的及び研究概要が紹介されている。

 第2章では、本論文で対象とするモデル対象国(地域)及び樹種の選定とバイオマス資源をエネルギー資源に利用することへの有望性について述べられている。特に、モデル対象となる国(地域)の将来的なエネルギー需要及びCO2排出量について検討し、バイオマスエネルギーシステムをCDMプログラム等による可能性を検討について述べられている。

 第3章では、研究全体で評価する内容及び範囲について示されている。特に、第2章の検討結果を受け、バイオマスエネルギーシステムにおけるCO2削減効果を検討する指標としてLCAの考え方について説明されている。また、本論文におけるバイオマスエネルギーシステムにおけるLCAについて、その概要について説明されている。なお、本論文におけるバイオマスエネルギーシステムにおける全体プロセスは、2つのサブプロセス(原料供給プロセス、エネルギー変換プロセス)から構成されるものとする。

 第4章では、第3章で設定したバイオマスLCAの評価範囲のうち、バイオマスの生産過程における原料供給プロセスについて、モデル地域におけるバイオマス調査結果について示されており、その調査結果をもとにしたバイオマスプランテーションの設計が行われている。また、持続的なエネルギー資源の供給の条件を検討するために、植林運営に係る土壌影響や士壌分の養分循環に関する評価を行うともに、電力安定供給の観点から原料供給の安定化を目指した新たな植栽・伐採システム等の具体的な検討が行われている。特に、植林から伐採までの期間中に損失する養分については、肥料として補われることを想定し、その補填分についてもLCAによって評価されている。

 第5章では、第4章に引き続きバイオマスのエネルギー変換プロセスについて検討されている。特に、欧州等の技術的な背景を勘案し、空気吹き加圧型流動床ガス化炉とコンバインドサイクル発電システムとを組み合わせた発電システム(Biomass Integrated Gasification Combined Cycle、「BIGCC」)を中心に、より高効率な発電プラントの設計が行われている。特に、ガス化プロセスについては、基礎的な熱分解実験及びチャーのガス化実験を行うことによって、加圧型流動床ガス化炉のシミュレーションプログラムを作成し、その他の発電プロセスについては設計パラメータを与えることによって、システム全体の効率計算が行われている。また、養分損失によるCO2負荷軽減策として、灰分及びN(窒素)回収のための方策についても検討されている。なお、その他想定されるバイオマスのエネルギー変換技術として、酸素吹き加圧型流動床ガス化炉を利用したケース及び直焚きによるエネルギー変換システムがあり、これらのシステムについても併せて評価されている。

 第6章では、総合的な評価としてCO2削減効果を検討するために、当該国の新規エネルギー需要に対応する発電プラントとして経済的に有利な石炭火力発電プラントを基準ケースにして、この基準ケースに対して原料供給プロセス及びエネルギー変換プロセスから排出されるCO2排出量(Life Cycle CO2、「LCCO2」)についてLCAによる評価が行われ、発電方式別に整理されている。特に、養分回収による効果及び課題等について説明されている。また、投資効率の観点からそれぞれの発電システムケースにおける経済分析についても述べられている。

 最後に第7章では、本論文における成果をまとめて、今後の導入方策及び課題等について整理されている。

 以上の論旨より、本論文では将来的に導入が期待されているバイオマスエネルギーシステムにおける導入方策及び温暖化ガスの1つであるCO2の削減効果について、化石エネルギーシステムとの比較を交えながら詳細に言及しており、本論文で提案したバイオマスエネルギーが具体的なCO2削減技術の1つとなり得る等、一定の成果を上げており、地球システム工学の発展に寄与するものと認められる。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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