学位論文要旨



No 116121
著者(漢字) 陳,慶華
著者(英字)
著者(カナ) チン,ケイカ
標題(和) 坑内充填採掘の多期間生産計画に関する研究
標題(洋) Multi-period Production Planning for Underground Cut-and-fill Operations
報告番号 116121
報告番号 甲16121
学位授与日 2001.03.27
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4958号
研究科 工学系研究科
専攻 地球システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 山冨,二郎
 東京大学 教授 金田,博彰
 東京大学 助教授 茂木,源人
 東京大学 助教授 加藤,泰浩
 東京大学 助教授 松橋,隆治
内容要旨 要旨を表示する

 操業開始・開山から生産終了・閉山に至る鉱山開発プロジェクト全体の利益を最大化するような生産計画の作成は鉱山経営者にとって重要な課題である。これまでに適切な生産計画を作成するために数多くの手法が開発されてきた。しかしその多くは,鉱床の品位や期間ごとの生産コスト,生産量等生産計画に大きな影響を及ぼすパラメータが全て確定値であると仮定されている。本研究では,品位の推定及び生産コストの計算も含めた多期間坑内掘生産計画の作成について研究を行った。また,今まで無視されてきた品位,生産量の不確実性に注目し,これらの不確実性を考慮した生産計画の作成を行った。

 本研究では,中国のある銅鉄鉱山について,地球統計学を用いた銅・鉄の品位推定を行い,その手法の検討を行った。まず,全てのサンプルデータに対して,銅・鉄品位分布の正規性及び対数正規性を検定した。次に,対象となる鉱体の地質状況を鑑み,最も代表性がある三つの方向,すなわち鉱体走向,傾斜方向,厚さ方向を選択して,三次元バリオグラムモデルを構築し検定した。これらの銅・鉄のバリオグラムモデルに基づき,Lognormal Ordinary Krigingを用いて銅のブロック品位を推定し,Normal Ordinary Krigingを用いて鉄のブロック品位推定を行った。

 次に,その鉱山のある年の生産経営データを用いて,採掘から精鉱の出荷に至るまでの生産コストモデルを,生産要素を含めた連関表を用いることによって構築した。また様々な不確実性要因,例えば品位やズリ混入率,選鉱実収率,材料購入価格等が生産コストに及ぼす影響を明らかにするために感度分析を行った。その結果から,鉱石品位と選鉱実収率の変動が精鉱生産コストに大きな影響を与えることが分かった。一方,ズリ混入率,鉱石損失率,ズリ/鉱石比率や購入材料・電気価格等の変動が精鉱生産コストに与える影響は小さいことが明らかになった。

 計画生産量,採鉱ブロックの採掘容量,坑内運搬容量,巻揚容量,選鉱処理容量を制約条件とし,プロジェクトの総利益の現在価値を最大化するような多期間坑内掘生産計画モデルを構築した。具体的には,動的計画法を用いて全採掘期間から得られる総利益の現在価値を最大化するために,精鉱計画生産量あるいは金属量が規定された場合の最適な採掘順序を求める坑内掘生産計画作成アルゴリズムを提案し,ケーススタディを行った。動的計画法を用いた生産計画の結果を,鉱山経営者がよく考えるシナリオ,すなわち立坑から鉱体周辺境界へ向う採掘順序(advance mining sequence)及び鉱体周辺境界から立坑へ戻る採掘順序(retreat mining sequence)と比較し,本研究において導かれた生産計画法はより大きな総利益の現在価値をもたらす採掘順序を得ることが明らかになった。

 最後に,今まで無視されてきた鉱床品位や精鉱生産量などの不確実性に注目し,不確実性を考慮した坑内掘生産計画モデルを構築した。ここでは,以下のような三つのケース,すなわち精鉱計画生産量の変動を許容するケース,推定品位の不確実性を考慮するケース及び推定品位と精鉱計画生産量の二つの不確実性を考慮するケースに対して,それぞれに鉱山経営者のリスクに対する選好規準に見合った生産計画シミュレーションを実行した。具体的には,まずCbance-constrained計画法を用い確率変数が含まれる確率制約を確実性等価制約に変換した。次に,確実性等価制約の付いたモデルを求めるため動的計画法を用いた坑内掘生産計画作成アルゴリズムを提案した。得られる総利益の現在価値の期待値を最大化する採掘順序を,確率制約が満たす確率である信頼度を変動させて求めた。これらのシミュレーションから,各々の信頼度を変化させた場合の総利益の現在価値は安全水準として指定する信頼度の増加とともに低下するという関係が見られた。これによって,リスクに対する選好規準を考慮に入れた最適生産計画を提示することが可能となった。

審査要旨 要旨を表示する

 論文提出者は,坑内掘鉱山における生産計画の最適化手法として,ダイナミックプログラミング(DP)に基づく手法を開発し,さらには,鉱床の品位推定に含まれる誤差や,生産量の変動などの不確実性を考慮した生産計画を可能にする手法を開発し,実規模充填採掘式坑内掘鉱山に応用し,その妥当性を明らかにした。

 研究の対象とした鉱山は,中国に実在する銅鉄の大規模鉱山で,その中の坑内掘で操業を行っている部分だけが選ばれた。著者は,実際に,この鉱山を何度か訪問して,鉱床評価に用いられた探査ボーリングの結果,操業に関するコストデータを収集した。

 長さ780m,幅580m,深さ512mの領域に対して実施された124本の探査ボーリングのデータ(銅と鉄の品位)を,著者は現地で集めた。そのデータを整理して,銅品位は対数正規分布(平均銅品位は1.16%),鉄品位は正規分布(平均鉄品位は28.5%)で表現できることをまず明らかにし,実験バリオグラムを作成した。さらに,鉱体の走向方向,傾斜方向,厚さ方向の三方向を主軸に選び,三方向の実験バリオグラムに球モデル(数学モデル)をあてはめ,そのパラメータ(Nugget Effect,Sill Value,Range)を定めた。次に,得られた三次元バリオグラムの数学モデル(球モデル)の妥当性を,Jack-knifingとあだ名される手法を使ってチェックした。要は,一つの品位データを取り除き,残りの品位データを使ってクリッギングにより,取り除いたデータを採取した場所の品位推定を行う。これを,すべてのデータに対して行い,実測値とJack-knifingによる推定値の関係に偏りがなく,推定誤差が最小となることを確認した。三次元球バリオグラムとクリッギングを使って,鉱体を採掘する際の最小単位となるスライスに品位割り当てを行い,最適生産計画に使用した。

 次に,当該鉱山の採鉱一選鉱プロセスに必要な,主な資材費(爆薬・鋼材・充填用セメントなど),電力費・用水費・労務費などのデータを,現地で収集した。論文提出者は,鉱石1トンを採掘するのに要するコスト,銅精鉱・鉄精鉱を生産するのに要するコストを明らかにするとともに,生産量の変動によって,全体のコストがどのように変化するかをプロセス連関の手法を使って求めた。これらを使って,例えば,銅品位が標準値から上下することによって,銅精鉱生産コストがどれだけ変化するかを明らかにする感度分析を行った。その結果,鉱石品位と選鉱実収率が精鉱生産コストに最も大きな影響を与えることがわかった。一方で,ズリ混入率・残鉱率・ズリ/鉱石比・電力費は大きな影響を生産コストに及ぼさないことがわかった。これらの分析結果を,不確実性を考慮した最適計画策定に使用した。

 資金が有する時間価値と操業に関わる様々な制約条件を考慮した多期間最適生産計画を,動的計画法を基に求める手法を開発した。鉱体は28の採鉱ブロックに分割され,それぞれの採鉱ブロックはさらに,厚さが4.0mである15個のスライスから構成される。10年間で28個の採鉱ブロックを採掘するものとし,各年(合計で10期)には,その期間に生産を義務づけられている銅生産量(5000トン〜2500トン,精鉱中の含有銅量)が割り当てられているものと仮定した。ただし,ある年の精鉱生産量に余裕が生まれた場合には,翌年に持ち越せるものとし,逆に,ある年の生産量が目標値に達せなくても,前年のストックでカバーできることも可能とした。さらに,採鉱ブロックの年間生産容量は68,000トン,鉱石とズリをあわせた坑内運搬量と巻上量は年間800,000トンと1,000,000トンに制約され,選鉱場の年間処理能力は1,200,000トンであると設定した。また,採鉱法の制約として,隣り合った採鉱ブロックを同時には採掘できないという条件も与えた。まず,簡単なモデルで,アルゴリズムの妥当性を検証し,実際の鉱体について,計算を実施し,DPによる最適化を組み込まなかった場合とも計算結果を比較した。その結果,開発した手法は有効であり,実用的な価値も高いことを確認した。

 最後に,不確実性を考慮したDPによる最適計画法(Chance-constrained計画法)を提案した。鉱山経営・操業は様々な不確実性を抱えている。その中には,技術的なものばかりではなく,経済・社会的な要因も含まれるので,不確実性を考慮することは実用上,非常に有意義である。本研究では,精鉱生産量の変動と品位推定の誤差を考慮し,これらが単独に影響を持つ場合,複合して影響を持つ場合の解析を行った。そして,生産量の変動・品位推定の誤差を危険率で代表させ,危険率を組み込んだ制約条件式を導き,計算に使用した。ある危険率を想定した場合に,それがどれだけ操業全体の収益性に影響するか,その関係を,DPとChance-constrained計画法を組み合わせたアルゴリズムを開発して明らかにした。これによって,鉱山経営者が持つリスク選好基準にマッチした最適生産計画が可能となり,工学上の意義は非常に大きい。

 著者の研究は,極めて数学的にもエレガントでありながら,実用上の価値が評価できるものである。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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