No | 116122 | |
著者(漢字) | 頼,勇 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ライ,ユウ | |
標題(和) | 中国中央部,桐溝金鉱床の流体包有物に関する研究,特に包有物に記録された鉱化作用時の造構的事件と地化学的進化 | |
標題(洋) | Studies on fluid inclusions in Tonggou gold deposit,central China,especially for their implication to tectonic events and geochemical evolution in mineralization | |
報告番号 | 116122 | |
報告番号 | 甲16122 | |
学位授与日 | 2001.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第4959号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 地球システム工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 小秦嶺地域は中国で最も重要な金鉱床地帯の1つであり、その産金量と埋蔵量は中国全体の1/4を占める。また、近年においても毎年のように新しい金鉱床が発見されており、今後更に新しい鉱床が発見される可能性が高い。 桐溝金鉱床は小秦嶺地域における代表的な中型金鉱床である。ところが、鉱山開発を急ぐがあまり、基礎的なデータ、例えば探査手法の構築のために必要な地質学的、地化学的データの蓄積は極めて乏しい。そこで、本研究では、坑内での地質調査と試料採集、室内での光学顕微鏡による鉱石組織の観察、粉末X線回折による鉱物同定、EPMAによる鉱石鉱物の化学分析、流体包有物の観察と温度、および塩濃度の測定、レーザーラマン分光法による包有物流体の組成分析などにより、鉱床の地質学、地化学的特徴を抽出した。 桐溝金鉱床は、先カンブリア時代の変成岩中に発達する破砕帯の一部をなす引っ張り割れ目に沈殿した石英脈である。鉱体およびその近傍の母岩、すなわち変成岩は、1)珪化、2)黄鉄鉱化、3)セリサイト化、4)炭酸塩化、5)緑泥石化などの変質作用を受けている。 鉱右を構成する主な鉱石鉱物は、黄鉄鉱、黄銅鉱、方鉛鉱、閃亜鉛鉱と金(エレクトラム)で、脈石鉱物は石英および少量の方解石である。鉱石中には、特に、テルル化鉱物が多く存在する。テルル化鉱物は主にカラベライト(AuTe2)、ヘッサイト(Ag2Te)、テルル金銀鉱(Ag3AuTe2)、テルル鉛鉱(PbTe)、テトラディマイト(Bi2Te2S)テルロビスミタイト(Bi2Te3)およびルックリッジァイト((BiPb)3Te4)である。 野外観察により、鉱化作用は、1)黄鉄鉱−石英期、2)石英−多金属硫化鉱物期、3)石英−黄鉄鉱−炭酸塩期に大別できる。金の鉱化作用は主に第2期に認められる。また、黄鉄鉱など硫化鉱物、テルル金銀鉱などテルル化鉱物および自然金の分析値を、地球化学的に検討すると、金が沈殿した時のfs2とfte2条件はそれぞれ10-12〜10-14と10-9〜10-11atmと推定される。 石英脈から試料を定方位で採収し、加熱および冷却顕微鏡で流体包有物を観察するとともに、さらにユニバーサルステージで、流体包有物を胚胎する面の方向を測定した。流体包有物は、CO2の含有量によって、CO2の体積が50%以上のCO2主体型、それ以下の含CO2型、およびCO2をほとんど含まない無CO2型に分けられる。また、流体包有物の形態および産状を考慮すると、初成、擬二次、二次の包有物に分けられる。 初成包有物は石英結晶中にランダムに分布し、ほとんど無CO2型と含CO2型である。初成包有物はその生成温度により、2世代に分けられる。すなわち、第一世代は均質化温度Thが280〜370℃で、塩濃度が4.9〜12(NaC1相当wt%)、第二世代はThが180〜270℃で、塩濃度が0〜3(NaC1相当wt%)である。 擬二次包有物は石英の結晶成長途上で生成した割れ面に沿って生成した。擬二次流体包有物は主にCO2主体型と無CO2型包有物であるが、含CO2型もある。このうち、CO2主体型包有物を含む面は石英脈の両盤にほぼ平行である。一方、無CO2型包有物を含む面はほぼ垂直である。また、含CO2型包有物を含む面は両者に斜交する。石英脈の両盤に平行に並ぶCO2主体型流体包有物の均質化温度は230〜340℃であり、液体CO2の消失温度は18〜27℃である。一方、無CO2型流体包有物の均質化温度は200〜370℃である。塩濃度は両方とも3.3-10.1(NaC1相当wt%)である。CO2主体型包有物の25℃におけるCO2の体積から推定されるCO2のモル分率は16〜53%である。また、CO2主体型包有物のCO2の密度は0.28〜0.39g/cm3であり、これより鉱化作用時の圧力は300〜400MPaと推定される。 CH4を含む流体包有物は1217mレベルの試料に認められた。その気泡の体積は包有物全体の30〜80%を占める。レーザーラマン分光によると、流体包有物のガス成分としてCO2とCH4が確認された。CH4/CO2モル比は、0.010〜0.105で、CO2の量が圧倒的に多い。 流体包有物の生成過程はその特徴から、2っの段階に分けられる。段階1では、まず造構運動によって形成された引っ張り割れ目の自由空間に石英の結晶が成長した。生成鉱物で割れ面が閉塞されると、熱水の圧力が上り、水圧破砕が発生した。このとき、石英結晶中に脈壁に平行な割れ目が形成された。この微小割れ目に熱水が侵入して、擬二次包有物が生成した。これがCO2主体型流体包有物である。段階2では、剪断応力の増加にともなって、剪断破壊が発生した。このとき、流体も圧力が開放され、静岩圧が水圧より大きくなった。このため、石英結晶中に脈壁に垂直な微小割れ目が形成された。この割れ目に熱水が捕獲されて無CO2型流体包有物が生成した。 | |
審査要旨 | 本論文は,中国中部,小秦嶺地域に存在する桐溝金鉱床から系統的に試料を採取し,それらを光学顕微鏡による鉱石組織の観察,粉末X線回折による鉱物同定,EPMAによる鉱石鉱物の化学分析,流体包有物の観察と温度,および塩濃度の測定,レーザーラマン分光法による包有物流体の組成分析などによって詳細にキャラクタライズするとともに,その結果にもとづいて,鉱床生成時における造構運動と地化学的進化を明らかにした. 鉱化作用は,1)黄鉄鉱−石英期,2)石英−多金属硫化鉱物期,3)石英−黄鉄鉱−炭酸塩期に大別できる.このうち,主な金の鉱化作用は第2期である.この時期に金とともに沈殿した黄鉄鉱など硫化鉱物およびテルル金銀鉱などテルル化鉱物の分析値によると,金鉱化時の硫黄フガシティとテルルファがシティはそれぞれ10-12〜10-14と10-9〜10-11atmと推定される. 流体包有物は,CO2の含有量によって,CO2の体積が50%以上のCO2主体型,それ以下の含CO2型,およびCO2をほとんど含まない無CO2型に分けられる.また,流体包有物の形態および産状を考慮すると,初成,擬二次,二次の包有物に分けられる.初成包有物は石英結晶中にランダムに分布し,ほとんど無CO2型と含CO2型である.初成包有物はその生成温度により,2世代に分けられる.すなわち,第一世代は均質温度Thが280〜370℃で,塩濃度が4.9〜12(Nacl相当wt%),第二世代はThが180〜270℃で,塩濃度が0〜3(NaCl相当wt%)である. 擬二次包有物は石英の結晶成長途上で生成した割れ面に沿って生成した.擬二次流体包有物は主にCO2主体型と無CO2型包有物であるが,含CO2型もある.このうち,CO2主体型包有物を含む面は石英脈の両盤にほぼ平行である.一方,無CO2型包有物を含む面はほぼ垂直である.また,含CO2型包有物を含む面は両者に斜交する.石英脈の両盤に平行に並ぶCO2主体型流体包有物の均質化温度は230〜340℃であり,液体CO2の消失温度は18〜27℃である.一方,無CO2型流体包有物の均質化温度は200〜370℃である.塩濃度は両方とも3.3-10.1(NaCl相当wt%)である.CO2主体型包有物の25℃におけるCO2の体積から推定されるCO2のモル分率は16〜53%である.また,CO2主体型包有物のCO2の密度は0.28〜0.39g/cm3であり,これより鉱化作用時の圧力は300〜400MPaと推定される. CH4を含む流体包有物は1217mレベルの試料に認められた.その気泡の体積は包有物全体の30〜80%を占める.レーザーラマン分光によると,流体包有物のガス成分としてCO2とCH4が確認された.CH4/CO2モル比は,0.OlO〜0.105で,CO2の量圧倒的に多い. 流体包有物の生成過程はその特徴から,2つの段階に分けられる.段階1では,造構運動によって形成された引っ張り割れ目に石英の結晶が成長した.この石英結晶中に脈壁に平行な割れ目が形成され,そこに熱水が侵入して,CO2主体の擬二次包有物が生成した.段階2では,剪断破壊によって石英結晶中に脈壁に垂直な微小割れ目が形成され,そこに熱水が捕獲されて無CO2型流体包有物が生成した. よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. | |
UTokyo Repositoryリンク |