学位論文要旨



No 116133
著者(漢字) 遠藤,剛
著者(英字)
著者(カナ) エンドウ,タケシ
標題(和) 層状物質におけるナノ相転移並びに超伝導トンネル分光に関する研究
標題(洋)
報告番号 116133
報告番号 甲16133
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4970号
研究科 工学系研究科
専攻 応用化学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 北澤,宏一
 東京大学 教授 内野倉,國光
 東京大学 教授 前田,康二
 東京大学 助教授 藤岡,洋
 東京大学 助教授 花栗,哲郎
 東京大学 助教授 渡邊,聡
内容要旨 要旨を表示する

1. 緒言

 走査型トンネル顕微鏡(STM)は原子分解能を達成する顕微鏡法であるだけでなく、探針-試料間のバイアス電圧を掃引してトンネル電流を測定することで、局所的な電子状態密度(LDOS)を知ることができるおそらく唯一の方法である。しかしながら、興味深い物性の多くは、基本的に低温で発現し、また、トンネル分光の分解能が〜kBTで表される熱揺らぎによって制限されるため、STMを物性研究のツールとして用いるには、低温においての測定が不可欠である。STM観察においては探針と試料を〜1nmにまで接近させる必要があり、精密な位置制御が要求されるので、防振には最も注意を払わなければならない。一方で、低温に冷却するためには、低温部との熱接触が重要であり、防振の条件とは簡単には両立できるものではない。さらに、低温特有の問題として、気体分子の試料表面への物理的・化学的吸着の問題がある。気体分子が表面に吸着されると、表面の電子状態が変化し、得られるスペクトルは、もはや真正表面のそれではなくなってしまう。そこで、超高真空という条件もこれに付け加えなければならない。これら、防振・低温・超高真空という条件を全て満たすことは高度な技術が要求されるため、物性研究のツールとして用いることのできるSTM装置はまだまだ少ないのが現状である。

 本研究では、試料温度を液体ヘリウム温度にまで冷却できるように、超高真空STM装置の改良を行うとともに、物性研究ツールとしてのSTM応用として、次の研究を行った。

a. 1T-TaS2-xSexにおけるCDW異常ドメイン構造のSTM観察

 1T-TaS1.7Se.03単結晶試料において、室温で網目状の特異なドメインが生じていることを初めてSTM観察した。バイアス電圧依存性やドメインの詳細な観察により、この構造が第2層を反映したモアレ構造であることを明らかにした。

b. 1T-Ta1-xS2における金属一絶縁体転移温度制御と転移機構の考察

 単結晶育成時のS圧を制御することにより、金属一絶縁体転移温度の異なる試料を作り分けた。これらの結晶の化学組成を精密に調べ、また、低温におけるSTM観察から、この系における金属一絶縁体転移がTa/S組成比よりはむしろ層間のCDW積層秩序の乱れに影響されることを明らかにした。

c. STM用超伝導Nb探針の製作とその特性評価

 超伝導体をプローブとして用いて、Andreev反射現象を利用すると局所スピン偏極度を知ることができる。このような応用に用いることのできるプローブとして、鋭利なNb探針を電解研磨法により製作し、超高真空中で加熱処理条件を最適化することにより、原子分解能を達成し、かつ、超伝導特性を持つ探針を得ることに成功した。

2.1 T-Ta(S,Se)2系におけるCDW異常ドメイン構造のSTM観察

 遷移金属ダイカルコゲナイド(TMDC)はCDW物質の典型例として、良く知られている物質である。1T-TaS2-2xSexはTMDCの中でも、特に、CDWが温度により、多様な相を示すことが知られている。室温においては、1T-TaS2(x=0)ではニアリ・コメンシュレート(NC)-CDW相を示し,降温時、180Kで最低温相であるコメンシュレート(C)-CDW相へと転移する。C-CDW相では、CDWは〓構造を構成し、均一な六方格子となる。一方、NC-CDW相では、CDWは基本的に〓構造であるが、ヘキサゴナル・ドメイン構造と呼ばれる超構造を構成する。一方、1T-TaSe2(x=2)では、室温において、C-CDW相を示す。従って、室温において、1T-TaS2からSeの比率を増やしていくと、NC-CDW相からC-CDW相への転移が観察されると予想されるが、報告されている抵抗率測定の結果では不連続には変化していない。つまり、2つの相は連続的に移り変わることが示唆される。そこで,本研究では、室温で、中間組成におけるドメイン構造の変化を観察する目的で、1T-TaS2-xSexのSTM観察を行い、x=0.3の組成を持つ試料において、ヘキサゴナル・ドメインと異なる新種のドメインを観察した。

 1T-TaS2-xSexの単結晶試料はヨウ素気相輸送法により調製した。試料の組成はEPMAを用いて決定され、X線回折により、1T相が得られているのを確認した。直流抵抗率は面内方向で4-300Kの温度範囲で測定した。STM観察は、機械研磨したPt/Ir(80:20)ワイヤを探針に用い、7×10-9Paの超高真空下で行った。

 面内電気抵抗率測定から、抵抗率のヒステリシス幅はxを増やすと増大する傾向にあり、すべての試料において、180K付近で金属−絶縁体転移する様子が分かった。また、X線回折によるc軸長測定から、c軸長はSe組成xに対し線形に変化し、不連続には変化していないことがわかった。これらの結果はこれまでの報告と一致している。

 しかしながら、x=0.3の試料に対して、STM観察を行った結果、10nm程度の大きさの暗い領域が、網目状の明るい部分に囲まれた、これまでに報告例のない新しいドメイン構造が観察された。x=0の試料においては、これまでの報告通り、直径8.2nmのドメインからなるヘキサゴナル・ドメイン構造が明瞭に観察されている。この網目状ドメイン構造は、ヘキサゴナル・ドメインが単純に歪んだだけのものではなく、次のように全く別のものであると考えられる。ドメイン構造を横切る方向でトポグラフを比較してみると、ヘキサゴナル・ドメインでは、ドメイン内部ではトポグラフの振幅が最大で、境界付近では最小となっているが、バックグラウンドは場所に依存していない。一方、網目状ドメイン構造のトポグラフの場合、トポグラフの振幅は場所に依存していないが、バックグラウンドがドメイン内部で弱くなり、ドメイン境界で強くなる。この網目状ドメイン構造は試料バイアス電圧が100mV以上の場合にのみSTM観察可能であった。このことは、STM像が表面のトポグラフを反映しているのではなく、フェルミ準位付近の電子構造を反映していることを示している。

 以上から、網目状ドメイン構造の起源について考察を行った。単純な解釈はSe-richな部分とSe-deficientな部分に相分離しているために電子状態が不均一になっているという解釈である。確かに、SをSeに置換していくとフェルミ準位付近の局所状態密度が変化することが過去に報告されており、この考えを支持している。しかしながら、このモデルでは次にあげる疑問が生じる。まず、抵抗率測定からは180K近傍の転移は十分鋭く、試料の均一性を支持している。また、低温の絶縁体相では、不均一な電子構造に基づく網目状の構造は観測されていない。

 一方、網目状ドメイン構造は層間相互作用の空間変化として理解することができる。Seの置換により、空間的に乱雑なポテンシャルを生み出し、CDWをピン止めする可能性や、電子構造にナノメートルオーダーの揺らぎを生み出す可能性が考えられる。このようなことがあると、CDWは不規則に歪むと考えられるが、実際に、観察されたSTM像でもCDWは不規則に歪んでいる様子がうかがえる。このような歪みがある場合には、CDWが層間でピークとピークで重なる領域とピークとボトムで重なる領域がナノメートルオーダーで共存するため、モアレ像を作り出すことが可能となる。層間の電子的な相互作用が両者で異なっていれば、電子構造の空間変化として観察されうる。このモデルでは、金属−絶縁体転移点で網目構造が消失することは、CDWが再配置されることによって説明できる。しかも、Seは空間的に均一に分布していることを仮定しているので、180K近傍の転移は十分鋭いことも理解できる。

 以上から、相分離説は完全に否定することはできないものの、モアレ構造説が非常に有力であると結論された。

3.1 T-Ta1-xS2における金属一絶縁体転移温度制御と転移機構の考察

 室温においては、1T-TaS2(x=0)では、降温時、約180KでNC-CDW相-C-CDW相転移に伴い、金属−絶縁体転移が起こる。この金属−絶縁体転移温度TMIは結晶育成条件の違いにより大きく変化することが知られている。本研究では、本金属−絶縁体転移の機構解明を目的として、単結晶育成時におけるS圧をパラメータとして変化させ、数種類の結晶を得た。これらの結晶をEPMAにより組成を定量したところ、予想に反し、S圧を減らすと結晶中のTa/Sが減少するという結果を得た。また、熱天秤による燃焼法で組成の原点を定めたところ、すべての結晶でTa/Sは0.5より少ないことが分かった。この一見奇妙な振る舞いは熱力学的平衡論からはまったく理解できない。しかしながら、Schaferの報告にあるように、Sによる輸送現象が生じているとすれば、説明が可能である。Sによる輸送は化学反応式で、

 TaS2+3/2S2=TaS5(発熱)

 TaS2+3/8S8=TaS5(吸熱)

と表せる。気相中の硫黄分圧が高くなるほどS8の分率が増え、後者の反応の寄与が大きくなる。したがって、高温から低温への輸送が加速され、その結果、結晶育成速度が大きくなり、化学量論組成をもつ準安定な結晶が生成されると考えられる。

 これらの結晶の抵抗率測定から、Taの非化学量論性の大きな試料ほど金属一絶縁体転移温度は上昇していることが分かった。化学組成の測定結果から考えると、最もTMIの高い試料で〜3%のTa欠損があることから、1つのCDWクラスタあたり、最大で1.6個のホールが導入されると考えられる。この分析結果は、1T-TaS2における金属一絶縁体転移はキャリヤドーピングに対して鈍感であることを意味し、Fazekas-TosattiのMott転移描像からは理解できないことが分かった。一方、結晶中の欠損に対して知見を得るために、抵抗率測定からは転移が認められなかったTa/S〜0.5の試料のSTM観察を行ったところ、低温で網目状ドメイン構造が観察されたことから、層間方向に欠陥の多い試料であることが判明した。このことから、1T-TaS2の金属−絶縁体転移においては層間方向のCDW配置が重要な役割を果たしていることが示唆された。

4. Nbを用いた超伝導体探針の製作と特性評価

 超伝導体一通常金属界面では、アンドレーエフ反射に伴うコンダクタンスの増加が観察される。このコンダクタンスGの増加は、界面の障壁高さが0である理想的な接合の場合、超伝導ギャップ値Δ以下のバイアス電圧に対して、G/G0=2(1-P)の関係でスピン偏極度Pと結び付けられる。ここで、G0は超伝導体が常伝導状態にあるときの障壁のコンダクタンスである。

 この原理を用いて局所磁性の実空間マッピングができると期待される超伝導体探針STMの可能性を検討した。超伝導材料としては単体金属最高の超伝導臨界温度(Tc=9.3K)を有するNbを用いた。超伝導性を有するNb探針を作成したとする報告はこれまでに数例あるが、これらの探針処理法はSTMに応用するには不適切であると考えられるので、まず、再現性の良い作製法の確立を重点におき、研究を進めた。実験としては、電解研磨で探針先端形状制御を行った上で、超高真空中で電子衝撃法によりアニールすることで表面酸化膜除去を試みた。

 まず、φ0.508mmのNb線をHF:HNO3=1:1混合液中に浸し、電解研磨条件の最適化を行った結果について述べる。対陰極としてはφ10mmのPtリングを用いた。浸漬長L、および、対陰極との間の印加電圧Vについて最適化を行った。その結果、L=2mm、V=1.2Vの条件で最も再現性よく鋭利な探針が得られることを見出した。

 引き続いて、超高真空中でのアニール条件の最適化を行った。室温・大気中では、Nb表面に5nm程度の絶縁体酸化膜が形成されることが知られている。この酸化膜は高温に加熱すると、NbOxとして揮発除去できることが知られている。しかしながら、高温での加熱はNb自身の蒸気圧も高くなってしまうため、長時間のアニールは探針を丸めてしまう。そこで、1800〜2000℃の間で、温度とアニール時間について最適化を行った。その結果、2000℃、10秒の条件で先鋭な探針を保ちつつ、酸化膜を除去することに成功した。このようにして得られた探針は、金薄膜に対して1eV程度の高い仕事関数を示すことから、探針先端にNb金属が出ている事がわかった。また、この探針を用いてHOPGを観測した結果、原子像が観察された。これらのことから、先端の先鋭性を保ちつつ、探針先端を清浄にすることに成功したといえる。

 この探針を用いて、液体ヘリウム温度で、金薄膜のトンネルスペクトルを測定した結果、超伝導ギャップ構造を観測することに成功した。フィッティングの結果、Δ=1.52meV、T=5.7Kの時に最もよく実測値を再現した。超伝導ギャップ値はNbに対する文献値とよく一致している。また、制御電流値を増大させることにより、Andreev反射と思われる構造を観察した。

 以上の結果は、Nbを用いたSTM用超伝導体探針の再現性よい作製法を提案するものであり、スピン偏極度の局所マッピングに用いることのできる新たな機能性プローブとしての応用が期待される。

5. まとめ

 本研究では、STMを物性測定のツールとして用いることにより、次の知見を得た。

 ・1T-TaS1.7Se0.3単結晶試料において、網目状の特異なドメイン構造を初めて観察し、この構造が第2層を反映したモアレ像として解釈できることを示した。

 ・1T-TaS2単結晶試料において、結晶育成時S雰囲気を制御することにより、金属−絶縁体転移温度を制御し、精密な化学組成分析を行い、非化学量論性の観点からこの転移機構を考察した。また、低温STM観察により、局所相転移相を観察し、この転移がCDW3次元秩序の欠陥によって左右されていることを示した。

 また、機能性プローブの一つである超伝導体Nbを用いたSTM探針の作製法として、電解研磨法および超高真空アニール法を用いた方法を実践し、再現性を確認した。また、液体ヘリウム温度での超伝導特性を確認した。

 以上の結果は、STMを物性測定のツールとして用いることにより、他の方法では知り得なかった新たな知見を得ることができることを示したものであり、物性ツールとしてのSTMの有用性を明らかにするものである。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、「層状物質におけるナノ相転移並びに超伝導トンネル分光に関する研究」と題し、走査型トンネル顕微鏡(STM)のナノ物性探索ツールとしての応用として、(1)層状化合物1T-Ta(S,Se)2におけるドメイン構造のSTM像観察、(2)1T-TaS2における金属・絶縁体転移の試料依存性、(3)Nbを用いた超伝導体探針の作製と特性評価、の3点について実験を行い、検討を加えている。

 本論文は7章から構成されている。

 第1章は、序論であり、STMの基本原理となるトンネル現象の物理について概観し、STMに応用可能なスピンプローブについてまとめている。

 第2章は、本論文で、探索する物性の一例として取り扱った層状物質1T-TaS2における電荷密度波(CDW)、金属−絶縁体転移についてまとめている。

 第3章では、本論文で使用したSTM装置について述べられている。論文提出者は本論文の研究目的を達成するために、独自の設計思想に基づきSTM装置を構築したが、本章ではその設計思想について説明がなされている。

 第4章では、論文提出者が新規に発見した網目状ドメイン構造のSTM観察結果と網目状ドメイン構造の形成機構が論じられている。層状物質1T-TaS2においては、電子系の2次元性のため、多様な相をもつCDWを生じる。室温においては、ヘキサゴナルドメイン構造と呼ばれる超周期構造をもつNCCDW相が現れる。NCCDW相では電子系は金属的であるが、冷却に伴い、約180Kでヘキサゴナルドメイン構造が消失し、絶縁体相であるCCDW相へと転移する。この金属−絶縁体転移機構はこれまで議論されてきたが、決着していない。論文提出者は、1T-TaS2のSを一部Seで置換した1T-TaS1.7Se0.3において、転移温度直上でSTM探針誘起局所相転移現象が報告されていることに着目し、室温において、その前駆現象を観測するために、STM観察を行った。その結果、論文提出者は1T-TaS1.7Se0.3において、網目状ドメイン構造を初めて観測した。この網目状ドメイン構造は不規則に歪んだ構造であり、ドメイン内部が落ち込んで観測される点で、ヘキサゴナルドメイン構造とは本質的に異なる。また、CDW列も不規則に歪められ、網目状ドメイン構造は正の特異的な試料バイアス電圧で観測されたことから、論文提出者は、この構造がCDWのピンニングに起因した、表面下第2層を反映したモアレ構造であることを結論している。

 第5章では、層状物質1T-TaS2における金属−絶縁体転移の試料依存性について検討している。層状物質1T-TaS2における金属−絶縁体転移が試料依存を示すことは、従来から多数報告されているが、議論は収束していない。論文提出者は、この問題に対して、単結晶育成時の雰囲気S量(msex)を制御して単結晶を育成することで、金属−絶縁体転移温度を制御し、得られた単結晶試料に対し、化学組成分析、X線回折によるキャラクタリゼーションと電気抵抗率測定による物性評価、STMによる表面観察を組み合わせ、試料依存性の起源を検討した。まず、msexを増加させると金属−絶縁体転移が抑制される傾向が見いだされ、特に、msex=8.3mg/cm3と最も雰囲気S量が多い試料で転移が消滅した。また、雰囲気S量とTa組成との関係は概ね負の相関を示しており、単結晶育成時には熱力学的平衡が成り立っていない。転移の消滅した試料におけるSTM観察で低温において網目状ドメイン構造と探針誘起局所相転移現象を観測したことにより、CDWが大きく変調を受けていることが判明した。これらのことから、1T-TaS2における金属−絶縁体転移の試料依存性は単結晶育成時に導入された欠陥により、CDWの3次元秩序形成を阻害することによると結論している。

 第6章では、Nbを用いた超伝導体探針の作製と特性評価について述べられている。超伝導体探針は局所スピン偏極度を見積もる機能性プローブとして応用が期待されているが、研究例が少なく、データの蓄積が重要な分野である。論文提出者は、フッ酸、硝酸の等量混合液を用い、Nb線を電解研磨する事により、鋭い探針を得た。この際、パラメーターとして、Nb線の浸漬長と直流電圧を最適化し、再現性良く鋭利な探針を得ている。そして、引き続いて超高真空中でアニール処理条件を最適化し、自然酸化膜を除去し、かつ、探針先端を鋭利に保つ条件を確立した。この様にして得られた清浄な探針を用いて、液体ヘリウム温度で、金試料に対して測定されたトンネルスペクトルは超伝導ギャップを示し、バルクと変わらない超伝導性を有していることが判明した。一方、探針を試料に接近させるとアンドレーエフ反射が観測されたが、BTK理論から見積もられるスペクトル形状とは異なっている。この結果は、アンドレーエフ反射が探針形状に依存することを示唆しており、興味深い結果である。

 第7章は、総括であり、本論文の成果をまとめ、今後の展望を述べている。

 以上、本研究において、STMのナノ物性探索ツールとしての応用が検討され、層状物質1T-TaS2におけるCDW相転移において、3次元秩序形成が重要であることが示されるとともに、超伝導体STM探針作製、特性評価が行われた。以上の成果は、物性測定ツールとしてのSTMの応用範囲を広げるものと思われる。

 よって本論文は、博士(工学)の学位申請論文として合格と認められる。

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