学位論文要旨



No 116139
著者(漢字) 金,範沫
著者(英字)
著者(カナ) キム,ボムス
標題(和) 排水のオゾン処理における細胞毒性の変化に関する研究
標題(洋)
報告番号 116139
報告番号 甲16139
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4976号
研究科 工学系研究科
専攻 化学システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 鈴木,基之
 東京大学 教授 中尾,真一
 東京大学 教授 山本,和夫
 東京大学 教授 迫田,章義
 東京大学 助教授 松村,幸彦
 東京大学 講師 酒井,康行
内容要旨 要旨を表示する

 水処理プロセス内で変化する毒性の評価へのバイオアッセイの適用はもっと安全な水質管理・水源確保につながると考えられ、水処理の中で物質変化が激しくおこる酸化処理にバイオアッセイを適用し、処理による物質・毒性の変動を数理モデルで既述し、処理条件などによる毒性削減を予測する手法を提案した。バイオアッセイ手法の導入のため種々の農薬のオゾン処理における毒性変動測定の結果から、ヒト細胞毒性試験の導入によりもっと信頼できる毒性が評価できる結果が得られ、細胞毒性試験を毒性評価手法として導入した。処理対象水としては有機リン系農薬のひとつであるDDVPと埋立地浸出水をのオゾン酸化処理のモデルケースとした。DDVP原体は低濃度オゾン、酸性条件下で完全に分解されたが、オゾン直接反応で炭素二重結合の単離から予想される炭素1分子とCl-2分子だけが検出された。細胞毒性は原水の半分までしか削減できなかったため、PO43-含有分解中間体をDDVP'とした。DDVP'はOHラジカル反応で更に分解されたが、DDVP'から炭素1分子が除去され、毒性がその半分になった分解中間体DDVP"を経て、PO43-の単離と共に完全に分解された。次に、これら原体と分解中間体の分解・生成は、簡単な数理モデルによって良好に記述された。また、その3成分からの毒性の寄与を総合して総括毒性を表現したところ、その消長をある程度正確に記述することができた。さらに、これらの数理モデルを用いて、現実的に問題となるDDVPの基準値近傍での毒性削減過程において、オゾン濃度や処理水のpH、オゾン処理時間などの操作パラメータの総括毒性の削減への影響を予想することができた。提示した方法論は、処理対象水と排出基準毒性とが与えられた場合において、毒性低減効果を指標とした処理プロセス選定やその操作条件の最適化を行う場合に広く役立つと期待された。埋立地浸出水に対して模擬的なオゾン処理を行った結果、オゾン処理により毒性は増加した。毒性同定評価のため分子量分画を行い300分オゾン処理で生成された強い毒性を示す低分子分画はホルムアルデヒドと判明された。また、その低分子分画除去時の毒性が予測・実測され、未知毒性原の除去判断に細胞毒性試験の応用可能性が得られた。原水の毒性を表す物質群をL、処理初期段階に生成される毒性物質群をL'そして処理後期にホルムアルデヒドで現れる物質群をL"に想定し、この3物質群が酸化処理で変化する数理モデルを構築し、全体の濃度変化が既述できた。その3物質群からなる総括の毒性も良好に既述された。更にこれらの数理モデルを用いて、原水の濃度とオゾン濃度の変化による総括の毒性削減過程が予測された。この研究で得られた手法は既存の排出管理手段に加えより適切な処理プロセスの選定や操作条件の設定等への寄与が期待された。オゾン吸着剤を用いた新規の処理プロセスについて、この研究で得られた数理モデルを活用し、包括的毒性削減の観点から最も効果的なプロセスが設計・提案された。

図1 DDVPの分子構造。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は「排水のオゾン処理における細胞毒性の変化に関する研究」と題し、オゾンによる水処理過程で、原水中に含まれる農薬類がオゾン処理過程における分解に伴って細胞毒性がどのように変化するかをヒト細胞を用いて評価し、毒性変化を記述する数理モデルを提案し、このモデルを用いた計算によって、毒性削減に有効な処理操作および処理プロセスを判断する手法を提示したもので6章からなっている。

 第1章は緒論として、水環境の安全性の評価系として用いられているパイオアッセイ及び水処理における毒性削減の評価法について既往の研究を整理し、本論文の目的、構成を述べている。

 第2章においては、環境基準における監視項目に指定されている7種類の農薬に関してオゾン処理を行い、その処理過程における変異原性の変化とヒト細胞(TIG-1)で評価した細胞毒性の変化を詳細に比較し、変異原性のみではなく細胞毒性もオゾン処理の評価に用いることの必要性と妥当性を示している。

 第3章においては、有機リン系の農薬であるDichlorvos(DDVP)をモデル物質として、そのオゾン処理における細胞毒性の変化を分解反応の機構を考察しつつ検討を加えていや。DDVPのオゾンによる分解反応はオゾンとの直接の反応により反応中間体を生成する第一段目の反応、この反応生成物のOHラジカルによる分解で第二の中間体を生成する第二段目の反応、この中間体が分解して無機リンを生成する第三段目の反応からなるとするモデルにより反応過程の溶存有機物濃度、細胞毒性濃度の変化を説明可能であることを示している。この反応モデルを記述する数理モデルを用いて種々の条件下の細胞毒性の予測が可能となり、細胞毒性を基準とする最適処理条件の選択が可能であることとしている。

 第4章では、不特定多成分の有機物を含む実排水の例として埋立地浸出水をモデルとし、このオゾン処理における毒性の変化について検討している。オゾン処理約300分経過後に強い細胞毒性を示す低分子有機物が生成することが明らかとなり、この分画の化学分析および容量作用曲線の比較から、この成分がホルムアルデヒドであることを推定している。浸出水のオゾン処理過程についても有機物濃度、細胞毒性の変化を3段階反応モデルを用いて記述し、細胞毒性を低減するために最も有効な因子は処理オゾン濃度であることを示している。

 第5章においては、第3章・第4章の結果をふまえて、オゾンを濃縮保持する固体吸着剤をオゾン処理と組み合わせることによりDDVPを速やかに無害化する反応プロセスの有効性を示す簡易実験を行っている。第3章で示されたDDVPの完全分解による無害化までの反応とオゾン反応器からの残留オゾンの流出防止を同時に達成できるプロセス構築の可能性が示されている。

 第6章は総括として、本論分の全体をまとめ、今後の課題について記している。

 以上要するに、本論分は排水のオゾン処理における毒性の変化を多段階反応モデルにより記述し、このモデルに基づいて毒性削減をするための条件探索の手法を示すとともに、新しい処理プロセスの提案も行っており、環境化学工学、および化学システム工学の進展に貢献するところ大である。

 よって本論分は博士(工学)の学位請求論文として合格であると認められる。

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