学位論文要旨



No 116157
著者(漢字) 長澤,純人
著者(英字)
著者(カナ) ナガサワ,スミト
標題(和) 工学的再構成による昆虫の嗅覚情報処理モデルの評価
標題(洋)
報告番号 116157
報告番号 甲16157
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4994号
研究科 工学系研究科
専攻 情報工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 下山,勲
 東京大学 教授 井上,博允
 東京大学 教授 田中,英彦
 東京大学 教授 武市,正人
 東京大学 教授 合原,一幸
 東京大学 助教授 神崎,亮平
内容要旨 要旨を表示する

 本論文の目的は,カイコガの嗅覚情報処理系を生物学・生理学的知見に基づいてモデル化し,ロボット・システムとして工学的に再構成することで,その評価を行うことである.

 本論文の意義として以下の2つを考えている.

 1.昆虫の行動発現に関する神経行動学的仮説を実証するための手法の確立.

 2.昆虫の神経系を模擬することで,複雑な実環境下で特定の目的を達成できる,単純で安価なセンサ・ベースの小型ロボット・システムの構築.

 昆虫の行動の発現機構は,生物学的手法による解析的研究が行われてきた.しかし仮説立証に生物を使うため,感覚入力の条件を揃えることは困難である.この仮説を工学的システムで再構成できれば,全く純粋な形で仮説の実証ができる.また,昆虫サイズの小型ロボット・システムの構築には新しい設計パラダイムが必要とされている.昆虫の神経系を模擬した制御は,多少非効率でも複雑な実環境下で特定のタスクを達成する工学システムの実現に繋がる.

 本論文で対象とする昆虫の行動は,カイコガ(bombyx mori)の定位行動である.この行動はカイコガの雄が,雌の性フェロモン刺激によって雌の位置まで定位する行動である.雄はこのフェロモン刺激に対して特化しており,フェロモン刺激を受容しない限り,殆ど行動を発現しない.またフェロモン刺激を受容するとFigure 1 Aに示すような明確な-連の行動パターンを発現する.この嗅覚情報処理系は神経細胞の細胞内記録や構造解析などの神経行動学的手法により,詳細が明らかになりつつある.触角で受容されたフェロモン刺激は,第一次嗅覚中枢である触角葉(AL:Antenna1 Lobe)の大糸球体で検出・識別などの処理を受けた後,最終的に行動のパターンが生成される前・中大脳領域のLAL(Lateral Accessory Lobe)-VPC(Ventral Proto Cerebrum)に投射される.本論文ではFigure l Bに示すように嗅覚情報処理モデルを「触角電位モデル(EAG:ElectroAntennoGramn model)」と「定位行動発現モデル(behavior model)」に分け各々のモデルを構築し,評価を行った.

 まず,触角電位モデルを構築した.本論文では触角両端に発生する触角電位(ElectroAntennoGram)をフェロモン刺激の検出に利用した.この触角電位は,電気的には非常に微弱で不安定な信号であり,計測には生体信号計測の技術が要求される.触角電位モデルは,この計測が難しい触角電位を用いてフェロモン刺激の強度(濃度),タイミング,受容期間などを正確に検出するためのモデルである.

 嗅覚受容細胞の構造から,受容器電位(これは触角電位に比例する)と受容膜で開口するイオン・チャネル数の関係式を導かれている.また,この受容器膜で起こる化学反応より,イオン・チャネルの開口数とフェロモン刺激強度の関係が調べられている.この2つの関係式からイオン・チャネル開口数を消去することによって,フェロモン強度と触角電位振幅の関係がミハエリスーメンテンの関係になることを示し,実測値より同定パラメータを算出した(Figure2A).これにより,計測された触角電位の振幅より,フェロモン刺激強度を算出することができる.

 フェロモンの受容器膜で起こっている化学的現象のうち,触角電位発生に特に影響があると思われるものだけを考察することによって,単純な逐次反応で触角電位の発生過程を近似した.これによって3つの同定パラメータを決めれば触角電位の動特性をある程度類推することができる.例えば,Figure2Bに示すように,同一強度のフェロモン刺激でも,高頻度で刺激すると触角電位は慣化を起こして振幅が一時的に減衰する.このような場合でも触角電位の発生モデルを用いれば,受容した正しいフェロモン強度を類推することができる.

 次に定位行動発現モデルを構築した.定位行動のパターンは前・中大脳のLAL-VPC領域で生成される.この領域の出力である下降性介在ニューロンの信号は,その細胞内記録によってFigure3に示すようにカイコガの定位行動と一対一に対応することが報告された.反対側からLAL-VPC領域を通って胸部神経節への縦連合を下降するGroup-1と同側から下降するGroup-IIに大きく分類され,その出力の組み合わせが行動要素に対応する.この信号が胸部神経節でどのように処理されるかは明らかにされていないが,これを左右のモータ出力と仮定するとちょうど行動と一致する.Group-IIにはFigure3 A,Bのように行動に同期したFlip-Flop応答を示すものの他に,フェロモン刺激に対して一過性の応答を示すFigure3Cが観測されている.これが発火しているときには他のA,Bの出力はマスクされると考えれば,この期間をSurgeと考えることができる.

 定位行動発現モデルを構築するのに用いた,生物学的知見を以下に示す.

 1.フェロモン刺激の入力は左右どちらの触角で受容されても両側のLAL-VPC領域に入射される.左右どちらで受容したかで時間遅れを生じる.

 2.LAL領域において神経修飾物質であるセロトニンが,定位行動パターンの生成に影響を及ぼすことが報告されている.LAL内の特定の領域にセロトニンを注入すると長期応答が観測される.

 3.両側のLAL間には横連合があり,神経伝達物質GABAが関与しているため,抑制性の相互結合であることが知られている.

 4.Group-IIに属する下降性介在ニューロンに,フェロモン刺激に対して一過性の応答を示すものが報告されており,これをSurgeに対応させる.

 定位行動は数十秒間続くために,なんらかの長期応答を発現させる仕組みが必要になる.この長期応答の原因として神経修飾物質の影響を導入した.これ以外にもLAL-VPC領域の神経集団が統計的性質として長期応答を示すという考え方もあるが,神経修飾物質が関与しているという報告と,その応答が長期応答であること,記述の容易さから,本論文では神経修飾物質が長期応答を生成する原因とした.触角により受容されたフェロモン刺激によって,LAL-VPC領域内に神経修飾物質がある濃度で放出されると考える.この神経修飾物質は領域の平均膜電位を上昇させる働きをし,一定の速さで拡散・減衰していくものとする.Figure4に示すように,フェロモン刺激は左右どちらの触角で受容されても両側のLAL-VPC領域に投射されるが,経路の違いによって左右の領域に神経修飾物質が放出されるタイミングに時間差が生じるものとする.簡単のため,この神経修飾物質の拡散・減衰を単純な一次遅れ系として記述する.左右各領域での神経修飾物質の濃度をsi(iはlまたはrで左領域と右領域を示す)として,

で表される.ただし,t=tstimでフェロモン刺激を受容したとき,

として,受容側iは時間遅れを400ms,反対側iは更に320ms遅れるとした.

 次にLAL-VPC領域の動特性を考える.巨視的変数を平均膜電位Ui(t),平均活動度Xi(t)として,幾つかの簡単化を仮定することで,単純な神経素子として

と記述した.ただし,Xi(t)は

であり,Figure5に示すように各領域の下降性介在ニューロンの出力である.ここで出力関数は0,1の2値を取る,連続時間−離散値モデルである.右辺第2項は互いに他方の領域の発火によって抑制を受けることを示している.これは,Figure5に示すようにLAL間の横連合(PBN:Protocerebral Bilateral Neuron)が抑制性の結合を持つためである.このような相互抑制性結合を持つ2つの神経素子の振るまいは良く調べられており,疲労の効果を考慮することで振動を起こす.hi(t)は閾値であるが,定数でなく時変として疲労の効果を記述した.閾値は

で,その動特性が表される.ここで,時定数τh(Ui)は,平均膜電位Uiが高くなるほど小さな値を取る単調減少関数とした.これは膜電位が高くなるほど早く疲労を起こすことを表したものであり,直感的に自然な定義である.また,一過性の下降性介在ニューロンを考慮することでSurgeを発現させる.

 これら全ての知見を統合したモデルがどのようなダイナミクスを示すかをFigure6に示す.左触角がフェロモン刺激を受容したとすると,まず400ms遅れて左LAL-VPC領域に神経修飾物質が放出され,この領域全体が興奮する.さらに320ms遅れて右領域にも神経修飾物質が放出されるが,左領域の発火によって強力に抑制されるために発火しない.時間経過に伴い左領域が疲労して閾値が増加し,この値が膜電位に達したところで疲労限界となり左領域の発火は停止する.これによって抑制がなくなるため,右領域がすぐに発火する.やがて右領域も疲労で発火が休止し,左領域が再び発火する.このように領域間で振動が起こるが,フェロモン刺激直後は膜電位のレベルが高いため,各領域は早く疲労し高頻度で交番する.徐々に膜電位レベルが下がっていくことで交番はゆっくりになり,Zigzag-TurnやLoopが発現する.最終的に両領域のレベルが十分下がると行動は停止する.また途中で新たなフェロモン刺激を受容すれば,神経修飾物質が再び放出され行動はリセットされる.

 t=0で,左触角に刺激が受容されたとしたときのLAL-VPC領域動特性のシミュレーション結果をFigure7に示す.左右領域間で振動が起こり,その周期が徐々にゆっくりになって最終的に停止していることが確認できる.

 構築したモデルの評価として,風洞を使った一様なフェロモン流れ場の中で,カイコガとこのモデルを組込んだロボットを行動させ,行動を計測する.この行動を統計的解析手法を用いて比較解析する.このため,まずボール・トラッキングを用いた行動解析装置でカイコガの行動を記録し,統計的手法でその行動解析を行った.各行動要素の前進や回転速度,持続時間などの分布,平均値,分散などを求めることによって,それぞれの行動要素の統計的特徴が明らかになり,統計的手法で比較解析が可能であることを確認した.

 実際にこの定位行動発現モデルを小型移動ロボットに組み込み,風洞内の一様フェロモン場で定位行動を発現させた.ロボット・システムの構成をFigure9Aに示す.ロボットがリアルタイム(40ms毎)に取得したフェロモンセンサ情報はシリアル通信でホストコンピュータに送られ,ホスト側で定位行動発現モデルの連立微分方程式を数値的に解いている.この結果,次の行動が決定されロボットに送り返される.ホストは時々刻々のフェロモンセンサ情報と,ロボットの内部状態の変数をファイルに記録する.ロボットの行動はカメラによって記録されており,後でカイコガとの統計的行動解析に用いた.ロボット上面には同期LEDが設置され,10秒に一回点灯すると同時にホスト側にも同期データを送信する.これによってカメラで記録された行動データと,シリアル通信で記録された情報との同期がとれる.ロボットはFigure9Bに示すように,周囲のフェロモン環境をカイコガと同じにするためにカイコガとほぼ同サイズに作られている,また,フェロモンセンサにはカイコガの触角を一対取り付けるが,この間隔や高さは実際のカイコガと同じになるように設計した.

 ロボットは風洞内の一様フェロモン流れ場において,一連の定位行動パターンを発現することに成功した.また,フェロモン源から15cm程度離れた距離から,フェロモン源までの定位に成功した.これは,フェロモン源定位にはフェロモン刺激によって駆動される内因性のジグザグ・パターン生成だけで実際のフェロモン場で定位できることを示す結果であり,生物学で提唱されている風向きの検出や視覚情報などがフェロモン源定位に必ずしも必要とされないことを示す結果である.また,ロボットの行動を,カイコガの行動と統計的に比較解析を行った.要素の持続時間に関してカイコガとロボットの行動を比較解析した結果をFigure10に示す.ロボットの行動のサンプル数が少ないため統計的性質が明確になっていないが,最も長い持続時間を示すはずのLoopが比較的早期のうちに新しい刺激の受容でキャンセルされ易いことや,Zigzag-Turnが2峰性を持つ(これはZigzag Turnの1回目のターンと2回目のターンのピークが見えているものと思われる)こと,またSurgeがロボットの方だけばらつきが少ないことなど,類似点や相似点が見受けられる.Surgeは,フェロモン刺激を受容している間だけ起こるということも言われており,これを考慮するとよりカイコガの行動に近い結果が得られる可能性がある.

 本論文の結論を以下に示す.

 嗅覚情報処理モデルとして触角電位モデルと定位行動発現モデルの2つを構築した.嗅覚受容細胞の構造とその受容器膜での化学的現象を考察することでフェロモン刺激強度と触角電位振幅の関係を導出した.これにより,触角電位の計測からフェロモン刺激強度(濃度)の推定ができることを示した.また,触角電位の時間波形に関して,3つのパラメータで実際の計測結果にフィッテング可能なモデルを構築した.これにより触角電位の時間波形テンプレートを利用した精度の高い触角電位の検出が可能になった.これらの関係を実験によって確認し,構築した触角電位モデルの妥当性を示した.

 前・中大脳にある両側のLAL-VPC領域の活動度が,神経修飾物質の持つ時定数によってゆっくり振動し,行動パターンの長期応答を形成するダイナミクス・モデルを構築した.フェロモン刺激によって与えられる非常に短い(数百ms)一過性の刺激によって,一連の定位行動パターンが生成されることをシミュレーションで確認した.さらにこのモデルを小型移動ロボットの行動制御モデルとして組み込み,実際のフェロモン場で定位行動パターンを発現させた.更にロボットはフェロモン源から15cm程度離れた場所から,フェロモン源まで定位して到達することに成功し,モデルの妥当性が確認された.統計的手法によってロボットの行動をカイコガの行動と比較解析して類似点,問題点を明らかにし,モデル評価を行った.

Figure 1 カイコガの定位行動と嗅覚情報処理系

Figure 2 触角電位モデル

Figure 3 下降性介在ニューロンの出力と行動要素の対応

Figure 4 フェロモン刺激と神経修飾物質の時間遅れ

Figure 5 LAL-VPC領域の巨視的振るまいとSurgeの発現

Figure 6 定位行動発現モデルのダイナミクスの定性的説明

Figure 7 LAL-VPC領域の動特性のシミュレーション

Figure 8 統計的手法による行動解析

Figure 9 小型移動ロボットとカイコガのサイズ比較

Figure 10 カイコガ(上段)とロボット(下段)の行動要素持続時間の比較

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は「工学的再構成による昆虫の嗅覚情報処理モデルの評価」と題し、5章から構成される。本論文の目的は、カイコガの嗅覚情報処理系を生物学・生理学的知見に基づいてモデル化し、工学的システムとして再構成することで、その評価を行うことである。

 本論文ではカイコガ(Bombyx morj)の雄が行う定位行動(性フェロモンを検知して雌の場所まで定位する行動)を対象とし、触角によりフェロモン刺激を検知してから一連の定位行動が発現するまでの嗅覚情報処理系をモデル化した。従来、生物の感覚情報処理系のモデルは、神経の細胞内記録やその構造解析などの生物学的解析手法によって立てられている。その立証には一般に対象となる生物が用いられるが、生物は様々な感覚受容系を持つため、どの感覚受容によって応答や行動が発現したのかを厳密に論じるのは困難である。これに対し、工学的システムとしてそのモデルを再構成することで、対象とする感覚情報処理だけを純粋に考察できる。本論文では、このような工学的再構成を用いた感覚情報処理系のモデル評価の一例として、カイコガの嗅覚情報処理系を生物学的知見に基づいてモデル化し、ロボットに組み込んでその妥当性を検証した。これにより工学的再構成による感覚情報処理系のモデル評価手法の有効性を示した。特にフェロモン場のような数式での記述が困難な実環境では、本手法は有用である。

 第1章「序論」では、研究の目的、背景を述べた後、目的達成のためには、1.フェロモン刺激の検知、2.定位行動パターンの生成モデルの構築、3.モデルの評価手法の確立、4.実機へのモデルの組込み・評価、という各フェーズを行う必要があることを述べた。

第2章「嗅覚情報処理モデル」では、フェロモン刺激検知から定位行動パターンの発現までの一連の嗅覚情報処理系を、「触角電位モデル」と「定位行動発現モデル」の2つに分けてそれぞれモデル構築を行った。「触角電位モデル」では、フェロモン刺激の検知に用いている触角電位の発生機構を考察し、フェロモン刺激強度と触角電位振幅の関係、触角電位の時間波形をモデル化した。時間波形モデルによりフェロモン刺激の検出精度を向上させ、触角電位振幅からフェロモン刺激強度の類推が可能であることを示した。また「定位行動発現モデル」では、生物学的知見に基づいて定位行動パターンを実際に生成するダイナミクス・モデルを構築した。数百msの一過性のフェロモン刺激によって数十秒も持続する定位行動を発現させるために、本モデルでは神経修飾物質を考慮することで長期応答を生成させており、定位行動パターンの基本となる「Flip-Flop」と「Reset」機能を自然な解釈で実現したモデルになっている。

 第3章「モデル評価手法」では、第2章で構築したモデルに関して客観的な評価を行うための手法を検討した。本論文では同一環境中でカイコガが行った行動と、組み込んだモデルによってロボットが発現した行動を、統計的手法を用いて比較解析を行った。まず風洞を用いた同一環境の整備を行い、この同一環境が昆虫とロボットに行動発現を起こさせるのに十分な性能を持つことを確認した。また、トラッキング・ボールを用いた行動計測装置を用いてカイコガの行動を計測し、その統計量から各行動要素の統計的特徴が判別可能であることを示した。

 第4章「実機による実験と評価」では、構築されたモデルを小型移動ロボットにインプリメントし、第3章で検討した同一環境内で行動を発現させた。ロボットは周囲のフェロモン場を極力カイコガと同一にするために、カイコガと同サイズまで小型化した。特にフェロモン刺激を検出するのに用いている触角は、ロボットに取り付けられた状態で、カイコガの触角と同じ幅・高さになるように設計した。ロボットにモデルを組み込む際の技術的問題を解決しつつ、同一環境内でのロボットの行動発現に成功した。更にロボットは15cmほど離れた位置から定位行動を発現しながらフェロモン源まで到達することに成功し、構築したモデルが実環境においてフェロモン源定位の機能を有することが確認された。このときのロボットの行動とカイコガの行動を統計的手法で比較解析し、モデルの問題点も明らかにした。

 第5章「結論」では、本研究で得られた結果を述べた。生物学的知見に基づいて構築された感覚情報処理系のモデル評価手法として、モデルをロボット・システムとして工学的再構成し、実際の生物と統計的に比較解析することでモデル評価を行う手法を提案した。その一例としてカイコガの嗅覚情報処理系を扱った。構築したモデルを組み込んだロボットは実際のフェロモン場で定位行動を発現し、フェロモン源まで定位・到達することに成功した。このときの行動記録から、構築したモデルの評価を行い、モデルの妥当性と問題点を明らかにし、このモデル評価手法の有効性を示した。

 本研究のように工学的システムを生物学的モデルの評価手法として利用することは新しい試みであり、ロボット・システムのアプリケーションとしても独創的な研究といえる。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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