学位論文要旨



No 116163
著者(漢字) 浅井,博紀
著者(英字)
著者(カナ) アサイ,ヒロノリ
標題(和) 樹脂・窒化アルミニウムセラミックス複合パッケージの開発に関する研究
標題(洋)
報告番号 116163
報告番号 甲16163
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5000号
研究科 工学系研究科
専攻 先端学際工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 須賀,唯知
 東京大学 教授 林,宏爾
 東京大学 教授 相澤,龍彦
 東京大学 助教授 市野瀬,英喜
 東京大学 助教授 伊藤,寿浩
内容要旨 要旨を表示する

 これまでセラミックパッケージおよびプラスチックパッケージは個々の特性を生かして小型化・高密度化する方向で発展してきた。しかし、パッケージに求められる機能が半導体素子の特性向上に伴って変化し、さらに同時に多くの機能を満足することが要求されるにつれ、従来の概念の枠内でパッケージを作製することに限界が生じてきている。本論文ではこうした課題を解決するための研究を行った。本論分は大きく分けて二つの主題より構成される。第一は、優れた電気特性・小型・薄型・高放熱性といった機能を同時に有しかつ低価格で製造できる新しいパッケージを提案し、その特性を測定することである。樹脂部品とセラミックス基板とを積層した新しいキャビティアップ構造のパッケージ(PCLP;Plastic and Ceramica Laminated Package)を提唱し、その最適な材料として液晶ポリマ(LCP)と窒化アルミニウム(AIN)を選択している(図1参照)。

第二の主題は、新しいパッケージの製造や特性向上の鍵となるAINの要素技術に関する研究を深耕することである。研究対象として,

1)焼結助剤の検討、2)メタライズ方法の検討、3)高強度接着方法の検討

である。これらの研究結果から、新たなパッケージを実用化していく上で、有用な知見を得ることとなった。

 本研究がモチーフとしたパッケージ仕様は動作周波数300-500MHz、消費電力は2-5W、入出力パッド数200-600程度、厚さが2mm以下のBGAパッケージである。PCLPでは、電気特性の確保を樹脂部品とバルク銅配線を用いた配線部材により、また、放熱性め確保を高放熱性セラミックスとパッケージのキャビティアップ構造に達成した。パッケージの薄型化はAINセラミックス厚さを薄くし、さらにパッケージの小型化は、放熱特性と同様、キャビティアップ構造の採用により実現した。パッケージの製造方法は、従来から用いられている簡便で一括処理が可能な印刷やプレスといった方法を採用することが可能で、低コスト化にも対応が可能である。

 試作したパッケージは表層352配線、裏面664パッドのキャビティアップ構造のPCLPである。異種材料の積層体ではあるが反りは60μm以下であり、冷熱サイクル試験(TCT)で1000サイクル及び高温・高湿試験で1000時間を実施しても、配線電気抵抗に殆ど変化は認められなかった。電気抵抗は、従来の高熱伝導性セラミック基板タイプと比較して約1/13に低下し、500MHzの信号に対しても使用可能であった。放熱特性は、キャビティダウン構造のパッケージと比べて、熱抵抗が約2℃/W(自然空冷)低かった。

 樹脂・AIN複合パッケージ特性向上の研究では、AIN基板を常圧焼成する際に最も一般的な焼結助剤である酸化カルシウム(CaO)と酸化イットリウム(Y203)のどちらが適切であるか研究した。耐薬品性試験を実施したところ、CaO・AINの方がY203-AINよりも早く、多く重量減少を生じた。CaO-AINでは粒界相が欠落していることが確認され、このことが基板表面部の基板強度の劣化につながった。また、CaO-AIN粒子の形状は球形に近く、粒界相とAIN粒子の濡れ性がよく、2面角が小さいため、AIN粒子同士の結合割合が小さくなり、表面近傍の粒界相の欠如による強度の劣化が顕著になった。一方、Y203-AINでは粒界相の溶解は検出されず、ピン引張り強度、ピン曲げ試験の結果は良好で、TCT,PCTの信頼性試験後も強い強度を維持した。これらの結果から、樹脂・AIN複合パッケージおいては、AIN粒子の耐薬品性だけでなく基板粒界相の耐薬品性と粒界相のAINとの濡れ性も重要であることがわかり、焼結助剤としてY203が適切であることが判明した。

 次にパッケージの放熱特性を向上させるため、AIN基板の最高熱伝導率270W/[m・K]を有するAIN基板上に、印刷法でパターン形成が可能なメタライズ方法を研究した。アルミナ基板ではモリブデン(Mo)-マンガン法のような粒界相成分を利用したメタライズ法が一般的である。しかし、粒界相を持たないAIN基板にはこの方法が適用できないことから、窒化チタン(TiN)をメタライス主成分として用い、これにMoを加えたメタライズ方法を研究した。引張り強度の最高値はTiNが80vol%の際に得られ、このときの破壊モードは基板破壊とメタライズ層破壊の混合モードであった。メタライズ基板の接合断面を分析した結果、AIN基板とメタライズ層間に反応層は認められず、AINとTiNが直接接合していることが判明した(図2参照)。このMo-TiNメタライズ法は、粒界相を有する熱伝導率の低いAIN基板にも適用可能で、基板の熱伝導率が低い方が引張り強度は高くなる傾向が認められた。この傾向は、基板内粒界相がメタライズの際に再度液相化して、メタライズ層内に移動したために、メタライズ強度が向上したことによるものと考えられる。Mo-TiNメタライズ基板の諸特性評価を行ったが、TCTによる接合蜂度の変化はなく、メッキ後の表面も、ワイヤーボンディング性、半田濡れ性は良好でメタライズ基板として十分な特性が得られた。

 AIN基板と樹脂部品との積層には接着剤を使用する。ここでは、PCLPに適した流れ性の低いエポキシ変性ポリアミノビスマレイミド接着剤との接着性について研究した。引剥し強度は基板を研磨し、基板表面を粗くし表面積を大きくした方が引剥し強度は向上することがわかった。次いで低価格で高接着強度を実現するため、研磨によらない表面処理とAIN基板の引剥し強度の関係について研究した。ほう酸カリウム(K20・n(B203))水溶液に浸漬することで、基板粒子表面に高さ30-100nm程度の微小突起を形成すること可能になり、これにより引剥し強度を向上させることができた(図3参照)。また、基板表面に極性基を増やすことで引剥し強度が向上することもわかった。この知見を生かし、基板に酸素プラズマを60秒間照射し、K20・n(B203)水溶液に3分以上浸漬したところ、引剥し強度は、TCT800サイクルを経ても1.1N/mmの引剥し強度が実現できる接着を得ることができた。酸素プラズマ照射やK2O・n(B203)水溶液への浸漬は、AIN基板表面の分散性のCHxを減らし、極性のCOO,C=OやC-Oを増加させることに寄与し、また表面に微細突起を形成できた。

図1。放熱性及び電気特性に優れた樹脂・セラミックス複合パッケージの断面図(キャビティアップ構造・ワイヤーポンディング接続タイプ)

図2 AIN/TiN界面のTEM像

図3 K20・n(B203)水溶液したときの浸漬時間による基板粒子形状の差を示す、AIN基板の平面AFM像及び断面形状。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文では、優れた電気特性・小型・薄型・高放熱性・低価格という機能を同時に満たす樹脂・窒化アルミニウムセラミックス複合パッケージを提唱し、実際に液晶ポリマと窒化アルミニウムを用いて試作し、その特性を評価している。また、パッケージの特性維持・向上のための研究として、1)AINの焼結助剤と基板表面強度の関係、2)270W/(m・K)AIN基板への印刷法によるメタライズ方法の開発、3)AINと接着剤の高強度接着法の開発、の3点を深耕している。

 本審査会では、そうした内容が、論文提出者により、適切な発表資料を用い、制限時間内に分かりやすく、かつ予備審査時との違いを明確にしながら発表が行われた。発表に対する審査委員の主なコメントには、パッケージのコンセプトとして個々に最適な機能を有する部材を接着して一体化するアイデアは今後の高機能化には大切な考え方であるとの意見、AIN/TiNの接合メカニズムが興味深い結果であるとの意見、エッチングによる粒子表面形状の変化が興味深い知見であるとの意見等が出された。また、予備審査の段階で指摘されていた事項については、再実験および再検討がなされており、本論文及び発表形式が、その結果を踏まえた上で適切に訂正されていることを確認した。本審査時の主な質議は以下の点である。1)表記の統一やグラフの分かりやすさ、2)通過特性での損失に関する事項、3)AINのK20・n(B203)水溶液によるエッチングに関する事項、4)接着強度が向上したメカニズムに関する事項、5)AINとメタライズ層との接合に関する事項、6)本研究成果が今後活かされる領域に関する事項である。質問に対し、直接事例を持って回答できるものに関しては、資料や数値、論文を引用して回答し、直接回答が出来ない事象については、他の材料系での事例を引用して、その類似性からの考察事項が述べられた。特に、6)に関しては、今後の半導体素子の動作周波数や消費電力の動向を調査した最新の調査文献の引用から、本研究で得られた成果が、今後も幅広く用いられていくことが期待できることを、別資料を用いた発表として付加された。本研究に関する論文の投稿は、IEEE Transaction(英文)に4件・JIEP論文誌(和文)に1件掲載(予定も含む)されている。

 論文中では、本研究の成果がどのような領域で今後も広く活かされていくかについて、必ずしも明記されていないことから、質議における回答内容を、論文の「将来展望」で述べることを審査結果として指示した。指示された内容が直ちに論文中に反映されたことを後日確認した。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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