学位論文要旨



No 116167
著者(漢字) 長田,礼子
著者(英字)
著者(カナ) オサダ,レイコ
標題(和) ディジタル画像コンテンツのための著作権保護技術 : マルチメディア世紀のセキュリティ技術
標題(洋)
報告番号 116167
報告番号 甲16167
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5004号
研究科 工学系研究科
専攻 先端学際工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 安田,浩
 東京大学 教授 Kneller,Robert
 東京大学 教授 廣瀬,通孝
 政策研究大学院大学 教授 青木,保
 東京大学 助教授 森川,博之
 東京大学 助教授 相澤,清晴
内容要旨 要旨を表示する

 近年のインターネットやモバイル通信の普及により、工業社会から情報社会への移行は加速してきている。そして、個人レベルによる全世界への情報発信が可能になり、ボーダーレス化が進展し、人々のビジネスや暮らしの構造が急速に変わってきている。21世紀はこうしたIT(Information Technology)革命によって、人類を取り巻く環境が大きく変化していく時代である。このような中、インターネットの主要アプリケーションのひとつとしてコンテンツ配信が注目を集めているが、その実現には成りすましやコンテンツの不正コピー防止をはじめとするセキュリティ技術が重要である。本研究の背景として、多々あるセキュリティに関係する研究のうち、大きなポイントはアクセス保護技術と著作権保護技術の2点であるということを述べ、これらに関する新しい技術を提案し、その効果を実証する。

 ディジタルコンテンツを用いた共通の課題として、ネットワークを経由する場合、相手が直接見えないこと、簡単にコピーができ、しかもオリジナルとコピーを区別できないことである。また、改竄された情報についても改竄されたという事実自体を検出することが極めて困難、もしくは不可能である。つまり、本人に成りすますことや偽造行為が極めて容易である。したがって、認証つまり、相手が本物であることを証明する方法、そして、ディジタルコンテンツの不正利用を防ぐ方法が重要になる。

 そこで本論文では、アクセス保護技術として秘密情報とバイオメトリクスを兼ね備える今までにない、手指の動きを利用した個人認証方式の提案をする。一方、ディジタル画像コンテンツの著作権保護として、電子透かしの他に変形に強い保護方式が必要であり、変形に耐性のある特徴量を与える符号化として、ベクトル符号化の自然画像への適用が適切であることを述べる。さらにベクトル符号化された自然画から特徴量を抽出し、比較することにより著作権判定を行う新手法を提案する。

 本論文では第1〜3章でアクセス保護と著作権保護に関する新しい方式の提案をしている。また、第4章では秘密情報とバイオメトリクスを兼ね備え、成りすましが困難な、手指の動きを利用した個人認証を提案する。そして第5〜7章では、電子透かしでは保護できなかった変形も劣化なく保護する方式として、自然画像を対象とした特徴量比較による著作権保護を提案する。最後に第8章でまとめと今後の課題について述べる。以下に、各章を紹介する。

 第2章ではディジタルコンテンツ流通の全体像とセキュリティに関する主要な技術を紹介する。さらに、ディジタルコンテンツ流通のセキュリティ技術の中でも本研究では現在技術的に不十分な、アクセス保護、著作権保護を取り上げ、従来研究の紹介と問題点をまとめる。

 第3章では、はじめにアクセス保護技術、著作権保護技術を主題とした本研究の全体像を述べる。次にアクセス保護技術として秘密情報とバイオメトリクスを兼ね備える今までにない、手指の動きを利用した個人認証方式の提案をする。一方、ディジタル画像コンテンツの著作権保護として、電子透かしの他に変形に強い保護方式が必要であり、変形に耐性のある特徴量を与える符号化として、ベクトル符号化の自然画像への適用が適切であることを述べる。さらにベクトル符号化された自然画から特徴量を抽出し、比較することにより著作権判定を行う新手法を提案する。

 第4章では、同じパターンの手指の動きにも個人の特徴があることを実際の動画像と、類似度データから確認する。その手指の動き特徴を利用して、個人認証をPCと近赤外線カメラのみでリアルタイムに実現する手法を提案する。提案する新方式は、秘密情報とバイオメトリクスを兼ね備えるが、秘密情報がアタッカーに知られているという前提のもとで、バイオメトリクスの部分のみで評価実験を行っても、本研究で提案したプロトタイプの個人認証システムが高い認証率が得られることを実証する。

 第5章では、実際に変形・改竄を段階的に施した自然画像を用いて、コンテンツ権利者、利用者の立場でアンケートを行う。その結果より、権利者がかなり高い変形レベルまで権利を主張したいことが分る。このような権利者の権利を守るためには電子透かしでは不十分であり、変形に強い著作権保護技術が必要で、その技術の実現のためにはまず、変形に耐性のある特徴量を与えるベクトル符号化を自然画に適用する必要がある根拠を述べる。

 第6章ではまず、ベクトル符号化は拡大縮小や編集処理に耐性があるため情報流通に適した符号化であるが、自然画に適用すると膨大なデータ量になるためこれまで使用されなかったという背景に触れる。本研究では、自然画像にベクトル符号化を用いるために、輝度値境界輪郭線の類似変化を利用しデータ量圧縮を行う新方式を提案する。符号化の過程では、画像の特徴量が抽出し易い滑らかな成分の低周波数成分と、高周波数成分に分けて符号化する。また、領域分割では関数曲線を適切に当てはめられるように、画像の性質を利用して分割を行う。さらに、評価実験により、提案手法で実用的なレベルまで符号量圧縮が実現できたことを示す。

 第7章では、符号量圧縮ベクトル符号化された画像より特徴量を抽出し、比較することで著作権判定を行う、新たな著作権保護技術を提案する。特徴量として、特徴的輝度断面、Branch構造、ポイントパターンマッチングによる輝度値の比較をあげる。評価実験により、本提案手法は従来の電子透かし技術では保護することのできなかったレベルの変形にも耐性があることを実証する。また、特徴量を抽出する手法のため原画像の劣化も生じないという利点もある。さらに、著作権特徴データ量もわずかであり、判定時間も実用的であることを実証する。

 最後に第8章で、アクセス保護として手指動によるリアルタイム個人認証を、著作権保護として符号量圧縮ベクトル符号化による特徴量比較著作権保護を新たに開発したことを述べ、研究成果をまとめる。さらに、システムの実現に登録型著作権保護を掲げ、これまでの自然発生型の著作権ではなく、保護したい部分の特徴量を登録するという新しい概念により、コンテンツ流通の円滑化が可能となることを述べ、その可能性について議論する。

審査要旨 要旨を表示する

 「ディジタル画像コンテンツのための著作権保護技術−マルチメディア世紀のセキュリティ技術−」と題された本論文は、21世紀コンテンツ流通世紀を見据えて、ディジタル画像コンテンツに対する新しい符号化方式とそれを活用した著作権保護方式及びコンテンツ盗難防止のための動的生体情報認証方式について提案し、検証したものである。ネット流通における著作権保護はまず盗まれないようにすること、次にネットワーク転送中の事故を防ぐこと、購入者に渡ったあと不正コピーを抑止することが重要3課題である。このうちネットワーク転送中の事故は暗号システムによりすでにかなり安全になっており、残る2点の対処が強く求められてきている。盗難防止のための動的生体情報認証方式および画像の色々な処理(拡大-縮小、変形、雑音付加等)に強い符号化によりコンテンツを傷つけずに簡単に特徴抽出しこれを保護のために使用する方式について、以下の八章に渡って述べている。

 第1章序論では、21世紀はコンテンツ配信が社会の鍵となっており、コンテンツの不正コピー防止を始めとするセキュリティ技術の強化が本研究の背景であり、たくさんあるセキュリティに関係する研究のうち、大きなポイントはアクセス制御と著作権保護技術の2点であるということを述べる。

 第2章では現状および関連研究調査を述べている。まず、ディジタルコンテンツ流通の主要な技術を紹介する。さらに、ディジタルコンテンツ流通のセキュリティ技術の中でも本研究に関係ある従来研究の紹介として、アクセス保護、符号化技術、著作権保護を取り上げ、問題点をまとめる。

 第3章ではアクセス保護技術と著作権保護技術への新しい提案を行っている。アクセス保護技術、著作権保護技術を主題とした本研究の全体像を述べる。次にアクセス保護技術として生体情報である動的署名の優位性を論じ、手指の動きを利用した個人認証の提案をする。また、ディジタル画像コンテンツの著作権保護として、主観評価実験をもとに、編集処理に強いベクトル符号化の自然画への適用を提案し、さらにベクトル符号化された自然画から特徴量を抽出し、登録する新手法を提案する。

 第4章では手指動によるリアルタイム個人認証方式について検証している。同じパターンの手指の動きにも個人の特徴があることを利用して、個人認証をPCと近赤外線カメラのみでリアルタイムに実現する手法を解説する。実験により、本研究で提案したプロトタイプの個人認証システムでも高い認証率が得られることを実証する。

 第5章では自然画像ディジタルコンテンツの主観評価実験を行い、実際に改竄を段階的に施した自然画像を用いて、コンテンツ権利者、利用者の立場でアンケートを行う。その結果より、改竄に適した符号化としてベクトル符号化を挙げ、その符号化の性質を活かして特徴量比較型著作権保護技術を提案する。

 第6章では自然画像を対象とした符号量圧縮ベクトル符号化について提案している。ベクトル符号化は拡大縮小や編集処理に耐性があるため情報流通に適した符号化であるが、自然画には膨大なデータ量になるため使用されなかった。ここでは、自然画ヘベクトル符号化を用いるために、輝度値境界輪郭線の類似変化を利用しデータ量圧縮を行う。

 第7章では自然画像を対象とした特徴量抽出による比較型著作権保護方式を検証している。ベクトル符号化した自然画から適切な特徴量を抽出して比較することで、「電子透かし技術」の欠点を補う著作権保護技術が可能なことを検証する。

 第8章では本論文の研究成果をまとめ、これまでの研究の問題点や今後の課題について整理する。

 以上、本論文は、21世紀に日本を支える巨大ビジネスとなるコンテンツ流通の鍵たる動的生体情報認証方式とディジタル画像に傷をつけずにIDを形成し、著作権保護を容易ならしめる関数符号化方式とそれを用いた特徴量比較型著作権保護システムを提案・実証したものであり、21世紀の大量情報消費時代における情報流通や情報配信技術の分野に寄与するところ大である。

 よって著者は東京大学大学院先端学際工学研究科における博士(工学)の学位論文審査に合格したものと認める。

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