学位論文要旨



No 116171
著者(漢字) 宮脇,陽一
著者(英字)
著者(カナ) ミヤワキ,ヨウイチ
標題(和) 生体信号計測による初期及び中次視覚情報処理過程の研究
標題(洋)
報告番号 116171
報告番号 甲16171
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5008号
研究科 工学系研究科
専攻 先端学際工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 舘,すすむ
 東京大学 教授 武田,常廣
 東京大学 教授 石川,正俊
 東京大学 助教授 眞渓,歩
 東京大学 講師 前田,太郎
内容要旨 要旨を表示する

 本研究の目標は、階層並列性をその最たる特徴としたヒト脳内の初期一中次視覚情報処理過程を、非侵襲脳活動計測の一手法である視覚誘発電位計測を用いて特に時間的側面から明らかにし、その背後に潜む神経機構を解明することである。

 視覚系では、情報処理の階層性と各領野間の結合構造にある程度の相関を見ることができる。これは、解剖学的観察や、対応領野における神経細胞の反応選択性あるいは特異な振る舞いを調べることで、いわば「機能の座」を求めてきた、従来の多くの神経生理学実験の大きな成果である。しかし、それはあくまで視覚系の静的な側面を中心的に扱ったものにすぎず、入力から知覚の生成に至るまでの動的な側面の理解につなげるには不十分な点も多い。実際、近年の実験結果では、従来広く受け入れられていた階層性に関する知見は、情報の到着と反応の発現タイミングという観点からは正しくないことが指摘されている。また、単一領野内の神経細胞の受容野構造でさえ時間的に変化するというごく最近の知見から考えても、視覚系における処理過程を時間方向へと展開して議論することが、その本質を理解する上で極めて重要であることは明白である。

 視覚系が持ついくつかの重要な機能のうち、本論文では、特に両眼立体視及びそれに伴う図地分離過程の解析に着目する。両者は、三次元空間で行動する人間にとって、根幹を担う重要な機能であり、これまでに心理学、生理学、計算理論の観点から数多くの研究がなされてもきている。しかし、意外なことに、これまで得られている知見は、その多くが静的な範疇での機能の説明を試みたものに過ぎず、両眼への刺激の入力から知覚の生成に至るまでの、情報処理の推移過程を時間に着目して議論された例はそれほど多くない。

 ヒト脳内での反応過程を実験的に解析する際、心理物理学的手法に加え、脳活動の非侵襲計測は有効な手段となりうる。特に、反応の時間推移に着目する場合には、神経細胞の電磁気的な活動を、極めて高い時間分解能で頭皮外から直接測定可能な、誘発電位もしくは脳磁場計測が適当である。時間分解能の観点からは両者に本質的差異はないため、本論文では、システムが安価に構成可能、実験課題の設定が容易、ノイズに強い等の利点をもつ誘発電位計測に着目した。

 両眼立体視の研究では、単眼的な手掛り全くなしに、両眼視差のみを提示可能なRandom-Dot Stereogram(RDS)が用いられることが多い。立体視時の誘発電位に関する従来の研究も、その例にもれない。しかし、このRDSのデモンストレーションの強力さゆえか、これまでのRDS刺激時における誘発電位計測実験においては、潜時約200ms前後に出現する陰性反応を単一の成分として扱い、両眼視差検出時の応答とのみ関連付けて一面的に論じられることがほとんどであった。しかし、奥行き再構成に至るまでに辿る多くの過程を考えれば、そこから得られる誘発電位も、異なる性質をもつ複数の成分に分離できたとして不思議ではない。従来の実験のさらなる問題点として、刺激提示視野範囲の狭さも挙げられる。両眼視差の弁別能力は視野が約45°より狭くなると低下することが知られているが、先行研究のほとんどは約10°前後の狭い提示視野角での実験であった。このような狭い提示視野での実験では、刺激を提示可能な視野位置も、当然、限定されてしまう。

 そこで、本論文では、従来、一面的に捉えられていた立体視時誘発反応には、局所的な視差の検出から、立体的な面の知覚に至る様々な処理段階の反応成分が重畳しているはずであるとする仮説に基づき、これらの反応成分を、刺激条件の変化に対する異なる潜時帯での応答差から同定することを第一の目標とした。

 プロジェクタを用いた投影方式により、約4C°前後の広視野刺激提示を実現し、両眼視差刺激を様々な視野位置に提示することで、誘発電位が受ける影響を調べた。その結果、従来には報告されていなかった、刺激後潜時約100-200msと、約200-300msで逐次的に発生する二つの陰性成分を確認した。 この二つの陰性成分は、刺激条件の変化に対して大きく異なる性質を示した。まず、両眼視差刺激の提示位置の左右周辺偏位に対し、第一成分は変化を示さなかったが、第二成分はその振幅値を優位に減少させた。また、領域内の両眼視差を除去し、両眼非対応領域のみで構成したエッジ刺激の場合でも、第二成分のみが顕著な潜時遅れを示した。さらに、両眼視差刺激を全面に付加し、形状特徴のない均一な刺激を提示した場合には、第二成分のみが選択的に抑制された。

 広視野提示にしたことにより、視野の局所特性の大きく異なる周辺視野へも両眼視差刺激が及んでしまうが、ここでみられた第二成分は、単なる周辺視野での反応遅延を表しているわけではない。なぜなら、周辺視野のみに提示した両眼視差刺激は、この第一、第二成分間の潜時差よりもはるかに大きな潜時遅れを示しており、刺激面積の増加は、むしろ潜時を短縮させる傾向にすらあったからである。また、提示視野を変更して行った対照実験においても、同様の二峰性陰性反応が確認された。つまり、この反応傾向は、刺激提示視野角に依存したものではなく、両眼視差刺激時に普遍的に存在する一般性を持った反応であることが立証された。

 続いて、この二峰性反応に対応する潜時帯における活動部位の推移を、電流双極子追従法に基づいて推定した。推定活動源数は主成分分析の結果から各成分の累積寄与率を求めることにより決定した。その結果、第一成分の潜時帯では活動源は鳥距溝付近に限局性高く推定され、その後、一旦広範な部位に展開したあと、再び頭頂、後頭部付近に収束する現象が見られた。

 第一成分は刺激条件間での共通な要因により惹起される成分であること、及びその活動部位も初期視覚野付近に推定されたこと等から考えて、局所的視差の検出過程との関連が示唆された。一方、第二成分は、両眼視差の提示位置やその空間分布に影響をうけること、均一刺激における選択的抑制効果を示すこと、及びその反応部位が背側有線外野付近に多くみられたことなどから考えて、比較的高次の立体視の過程を反映していることが示唆された。

 そこで、次に、この遅延性の第二成分の詳細な由来を特定するため、図地分離過程との関係に着目した。その主たる根拠は、上述の二峰性反応と、近年報告された図地分離刺激時の誘発電位との類似性にある。それら報告の多くでは、図と地の領域が分離した状態の刺激に対しては、初期反応から約50-100ms遅れた潜時帯でのみ反応増強が観察され、図と地の分離のない均一な刺激では、この反応は確認されないという。また、テクスチャの大域的分離度に応じた潜時変化が観察されるのも、この遅延潜時帯のみであるという。

 さらに、この遅延反応を生じせしめている神経機構として、古典的受容野外変調に着目した。これは、神経細胞の受容野が、狭小な図の領域内部にあったほうが反応が大きく、一方、均一な地の領域においては反応が消失するという、ごく近年電気生理学的に確認された現象のことである。この現象のもう一つの特徴は、刺激入力に対する初期反応から約100ms前後の遅延を伴って発生することであるが、この相対遅延量は上述の遅延性の第二成分のそれとほぼ同程度のものである。

 RDS刺激時の第二成分、図地分離、古典的受容野外変調の三者の関係を検証するために、刺激内に定義された矩形閉領域(“図”)の面積を背景領域(“地”)の面積に対して相対的に制御するという実験設定を採用した。この実験設定の利点は、領域の分離一非分離の二状態間における反応を内挿することが可能になる点である。図地分離に関連した従来の実験はそのほとんどが、刺激がチェッカーボード状に分離する条件と、領域分離のない均一な二条件間の差異を扱ったものであった。本実験設定の採用により、領域分離状態すなわち背景に対する刺激領域が狭小である条件から、非分離状態すなわち刺激領域が全体的に均一な条件までに対応した、刺激の図地属性に対する誘発電位の連続的変化を捉えることができた。

 一方で、もし第二成分が図地分離と相関のある反応ならば、任意の局所手掛りに対しても同様の反応傾向を示すはずである。したがって、ここでは矩形閉領域を定義する局所手掛りとして、これまでの交差視差に加え、両眼競合、方位線分テクスチャの三種類を用意し、同様の実験を行うことで、各条件下での誘発反応を比較した。

 これまで同様に、二峰性の陰性電位が同潜時帯で確認された。第一成分は、交差視差刺激および両眼競合刺激時に、両眼視差刺激を付加した領域の面積の増加に伴ってその振幅を増大させた。この傾向はあくまでも両眼視差刺激を与えた面積の絶対量のみに依存し、背景との相対量には依存しなかった。また、この反応傾向は後頭部に強く限局しており、前述の双極子推定の結果とも一致する性質であるといえる。パターン切り替えを伴わないDynamic RDS刺激法においても、この第一成分の顕著な誘発および振幅変化傾向が見られたこと、さらに刺激条件間、被験者間で誘発潜時にほとんど差異が見られなかったことなどから考えても、第一成分の潜時帯での反応は局所視差の検出過程を反映していることが支持されよう。

 一方、第二成分は、矩形閉領域の面積増加に従って振幅が徐々に減少し、背景に対して均一となった条件で最小値を示した。均一条件で第二成分が完全に消失する場合すらあった。この反応傾向は、刺激の絶対量には依存せず、背景面積との相対量で特徴付けられており、また交差視差、両眼競合、線分方位テクスチャ、いずれの局所手掛りに対しても同様に観察された。これらの結果は、第二成分が顕著に誘発されるためには、矩形領域が背景面積に対してある程度狭小、つまり“図”として分離されていることが重要であることを示している。同時に、これまでの非侵襲計測では示されていなかった、“図”と“地”の二状態間の属性変化に対する、神経活動の連続的状態変化が存在することを示すことにも成功したといえる。

 ところで、狭小な図の領域は視覚的注意を強く引きつけることが知られている。視覚的注意は、神経活動を様々なレベルで修飾し、その影響は誘発電位として計測可能なほどでもある。したがって、図の領域の面積に依存した第二成分の振幅変調は、視覚的注意による副次的効果によりもたらされたとする可能性も考えうる。ここでは、文字弁別の二重課題を同時に用いることで、視覚的注意の空間位置を独立に制御し、両者の関連を検証した。その結果、視覚的注意の空間位置により、第二成分の振幅変調強度には影響が見られるものの、面積依存性の変調傾向自身は依然として確認された。すなわち、第二成分の発生に関わる神経機構は、注意状態により影響は受けるが、それとは基本的に独立の過程であることが示唆された。

 第二成分が示したこれらの結果は、全て、図地分離との関連を示すものであると同時に、古典的受容野外変調が示す典型的な性質と合致するものである。したがって、立体視時に出現する第二成分、いいかえれば、立体視誘発電位における後期潜時帯では、両眼視差を手掛りとした図地分離を反映する成分を同定可能であり、またその反応の生成機序には、古典的受容野外変調が深く関わっている可能性が示された。従来の図地分離刺激時の誘発電位計測実験においても、古典的受容野外変調との類似性を示唆するものはあったが、遅延陰性成分の連続的振幅変化を明示的に、かつ多側面から示した例は他には見られない。

 RDSにおいてもこの第二成分の振幅変調が見られたという事実は、同時に、両眼融像/競合の過程が第二成分の潜時帯以前にある程度完了していることを示唆する。なぜなら、単眼手掛りの全くないRDSにおいて、領域の分節に関わる反応が生じるためには、それより前に純粋に両眼視差のみに基づいた領域の差別化が必須であり、これは両眼融像/競合の過程ぬきには実現されえないからである。第二成分の潜時は、被験者間で差異がみられ、また交差視差刺激時より両眼競合刺激時の方が遅れていたが、これも第二成分発現以前に内在する両眼融像/競合過程における処理遅延の差に起因するものとして説明可能であり、上記仮説と整合する結果である。

 以上の議論より、主として立体視とそれに付随する図地分離過程において発生する誘発電位成分の解析から、両者の各処理段階に対応する潜時帯、そしてそれらの逐次的な推移を明らかにした。立体視に関わる初期から中間段階の視覚情報処理の推移過程を非侵襲的に捉え、その背後に潜む神経機構を明らかにするという本論文の目的は、ここにおいて達成されたといえよう。同時に、視覚誘発電位という極めてマクロな神経活動の計測結果と、単一細胞レベルで確認された現象との類似性が多側面より確認できたということは、依然大きな隔たりのある両計測手段のギャップを埋める上で、重要な示唆を与えるものである。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は「生体信号計測による初期及び中次視覚情報処理過程の研究」と題し、6章からなる。

 両眼立体視とそれに伴う図地分離の過程は人間の基本的な初期及び中次の視覚過程であるが、その機序の全貌はまだ明らかにされておらず、特に時間的階層性ともいうべき側面からの解明が必要とされている。本論文は、誘発電位という非侵襲的脳活動計測手法に基づき、人間の初期一中次視覚情報処理過程の時間的側面に関し、立体視とそれに伴う図地分離過程において発生する視覚誘発電位の解析より、二峰性反応という新しい現象を発見し、各反応成分の機能的意味付けを行い、その結果をもとに各処理段階に対応する潜時帯を求め、その逐次的反応過程に介在する神経生理現象を同定して、その背後に潜む神経機構を明らかにするための手がかりを得たものである。

 第1章は序論で、視覚情報処理における階層性と処理の流れについて概観し、古典的な意味での解剖学的な領野間結合や受容野構造ではなく、それらの間の時間的反応推移こそが、視覚情報処理の本質を理解するのに重要であることを述べ、その中でも特に立体視過程に着目することの意義、および解析手法として視覚誘発電位計測を利用することの有効性に関して論じて、立体視に伴う視覚情報処理過程を時間的側面から明確化し、その背後に潜む神経機構を明らかにするという、本研究の目的と立場と意義を明らかにしている。

 第2章は、「立体視と視覚誘発電位」と題し、ランダムドットステレオグラム(RDS)による両眼視差刺激提示時の従来単峰性を示すとされていた誘発電位が、潜時約100-200msで発生する初期陰性成分と、潜時約200-300msで遅れて発生する後期陰性成分の二峰性を示すことを精密な実験により明らかにしている。第二の成分は、刺激偏位に依存した振幅変調を示し、交差視差を除去した非対応領域刺激で潜時が遅れ、交差視差を全面に付加した形状特徴のない刺激で抑制されるのに対して、第一成分は、いずれの刺激に対してもほとんど変化を示さないことを実験から導き、これらの結果より、第一成分は局所輝度パターンの変化あるいは局所視差の検出過程に、そして第二成分は高次の立体視過程に起因すること強く示唆しているとしている。

 第3章は「二峰性誘発電位の一般性」と題し、この二峰性陰性波の一般性と再現性に関して論じている。従来の実験設定との最大かつ唯一の相違点である刺激提示視野角が及ぼす影響について検討し、刺激提示視野角が与える誘発電位への影響を、刺激提示の総量(面積)と局所視野特性の不均一性という二点から捉え、二峰性の反応傾向との因果関係を調べ、その結果、たとえ見かけ上顕著な二峰性の反応を示していなくとも、刺激提示視野条件に関わらず、立体視誘発電位には逐次的に発生する二つの成分が内在していることを明らかにしている。続いて、これら二峰性反応に対応する脳内活動部位の推定を電流双極子追従法を適用して試み、第一成分の潜時帯では、鳥距溝付近に限局性高く活動部位が見出され、その後、一旦広範な部位に展開したあと、第二成分の潜時帯において、再び後頭一頭頂部付近に収束する傾向があることを見出している。これらの実験及び解析を通して、本論文で捉えられた二峰性反応が立体視に伴う逐次的な反応推移に対応する現象であることを示している。

 第4章は「遅延性誘発電位と図地分離過程」と題し、二峰性反応の後期潜時帯における陰性成分(第二成分)と図地分離過程との関連について議論している。図地属性の連続的な変化と対応した第二成分の反応変化を取得すべく、単一閉領域の背景領域に対する相対面積比を連続的に変化させるという実験の枠組みのもとで、交差視差手掛かりに加え、両眼融像できない両眼性手掛かり(両眼競合性の手掛かり)、および線分方位テクスチャパターンで定義された単眼性手掛かりを用いることにより、交差視差及び両眼競合刺激時には、刺激面積の増加に伴って第一成分の振幅値が顕著に増加することを見出し、従ってダイナミックRDS刺激による実験であることを考慮すれば、第一成分潜時帯の陰性反応が局所視差検出過程を反映していることを示しているとしている。一方、第二成分は、いずれの局所手掛りに対しても同様に、矩形領域面積の増加に従ってその振幅を減少させ、領域が背景をすべて覆う条件下で最小値を示し、さらにこの傾向が、矩形領域面積の絶対量には依存せず、背景との相対量で特徴付けられていたことから、第二成分が顕著に誘発されるには、矩形領域がある程度狭小であること、すなわち背景に対しで“図”として分離していることが重要であり、かつ第二成分の潜時帯以前には両眼融像/競合過程がある程度完了している必要があることを結論し、第二成分が両眼立体視のみに限定されたものではなく、一般的な図地分離の過程を反映したものであることを立証している。

 第5章は「二峰性陰性波誘発における神経機構」と題し、二峰性反応誘発の生理学的背景について論じている。本論文における一連の実験において示される第二成分の性質と、古典的受容野外変調のそれとが極めて酷似したものであることを示している。しかしながら、同様の反応傾向は視覚的注意の副次的効果によっても引き起こされる可能性が指摘されるため、前章までの実験結果のみでは、第二成分と古典的受容野外変調との同一性を立証するに十分ではないことから、視覚的注意の空間位置を二重弁別課題によって強制的かつ独立に制御する実験を行って、第二成分が示す代表的性質において視覚的注意状態が支配的要因ではないことを立証し、この成分が刺激の局所特徴抽出の後、遅延性の古典的受容野外変調が発現するまでの反応推移過程を、頭皮上からマクロに捉えたものである可能性が高いと結論している。

 第6章は結論で、本論文をまとめ、今後を展望している。

 以上これを要するに、本論文では、立体視とそれに伴う図地分離過程において発生する視覚誘発電位の解析により、二峰性反応という新しい現象を発見し、その各反応成分の機能的意味付けを行い、その結果をもとに各処理段階に対応する潜時帯を求め、その逐次的反応過程に介在する神経生理現象を同定することにより、初期一中次視覚情報処理過程の時間的側面を非侵襲的に捉え、その背後に潜む神経機構を明らかにするとともに、非侵襲計測法である視覚誘発電位というマクロな神経活動の計測結果を利用しながらも、単一細胞レベルで確認された現象との類似性を多側面より確認し検証するという方法論の有用性を示したものであり、脳科学や神経工学の発展に寄与できると考えられ、計測工学及び脳神経科学に貢献するところが大である。

 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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