学位論文要旨



No 116215
著者(漢字) 櫻井,倫
著者(英字)
著者(カナ) サクライ,リン
標題(和) 機械化集材作業システムの構築に関する研究
標題(洋)
報告番号 116215
報告番号 甲16215
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 博農第2245号
研究科 農学生命科学研究科
専攻 森林科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小林,洋司
 東京大学 教授 箕輪,光博
 東京大学 助教授 酒井,秀夫
 東京大学 教授 仁多見,俊夫
 森林総合研究所生産技術部 作業技術科長 豊川,勝生
内容要旨 要旨を表示する

 日本林業の衰退が叫ばれて久しい。我が国の国土は6割以上を山地が占め、さらにその山地も急峻であるため、林内への森林作業用機械の進入は難しく、集材作業は林道と架線を軸に発達してきた。しかし高規格の林道の建設費用は高く、平成10年度末で開設延長約13万kmにとどまっている。

 平成12年度改訂の「高性能林業機械化促進基本方針」では急傾斜地にはタワーヤーダ・プロセッサによる作業システムが提示されているが、この作業システムが効率良く稼働するためには林道の整備が必要であり、提示されている林道密度の目標値はおよそ25m/haとなっている。そして林道を補完する物として低規格の集材路を用いたフォワーダによる小運材をはさんだ作業システムが用いられるようになっている。

 本論文では低規格の集材路を用いたタワーヤーダ・プロセッサ・フォワーダという急傾斜地向けの作業システムについて、シミュレーションシステムを構築し、作業功程・作業コストの分析を行い、効率の良い作業システムを提示することを目的とする。

 本論文は6章から成る。第1章では現在の日本林業の現状と集材作業システムについて概観し、本論文の位置付けを行った。

 第2章では本研究で用いるシミュレーションの全体像について検討し、シミュレーションの理論的モデルを構築した。現在森林利用学分野において構築されるシミュレーションは研究者のツール段階にとどまっているが、一般の林業事業体においてもシミュレーションがためにも、汎用性を有すること目指した。そのためには、機械や作業システム、地形条件が容易に変更できる必要がある。そこで、構築するシミュレーションは作業システム全体を統轄するメインルーチンと各機械の個別のシミュレーションから構成されるようにした。タワーヤーダ、プロセッサ、フォワーダの各作業を表現したルーチンは独立させ、条件変数やパラメータの参照も各作業のシミュレーション相互間では行わず、メインルーチンを介してやり取りするようにした。

 各作業のシミュレーションの手法は以下のようにした。すなわち、作業を要素作業に分割し、時間観測より得られた実際の作業時間のデータをもとにして、要素作業ごとに作業時間を求める理論式を求め、要素作業の作業時間を積み上げて作業全体の時間を求めた。要素作業時間を求める理論式は基本的に対数正規分布にあてはめ、Pearsonの適合度検定で棄却される場合は正規分布にあてはめた。正規分布に適合しない要素作業や観測数が少ない要素作業については2次多項式までの回帰式の中で最も残差が少ない物を用いた。

 要素作業の移り変わりについては、タワーヤーダやフォワーダのように基本的な流れが存在する作業についてはその流れの中に他の作業を割り込ませるものとし、プロセッサのように分岐を多く含むものは観測結果から要素作業の遷移確率を求め、求めた確率を元に作業の流れを再現した。

 第3章では各作業および作業システム全体について実際の観測データを元に具体的なシミュレーションを行った。作業人数は2人から4人とし、作業人数に応じて各機械の動作開始および停止を定めた。

 構築したシミュレーションを用いて、タワーヤーダ・プロセッサ・フォワーダの作業システムについて、タワーヤーダを路網の補完として使用した場合の低規格集材路とタワーヤーダ架線の分担比について検討した。

 60年生スギ間伐林を想定して計算した結果、例えば大形プロセッサを用いた場合は3人作業でタワーヤーダの架線長を100m〜150mとしたときに最もコストが低くなることがわかった。また小形プロセッサでは伐区が既存の林道に近ければ3人作業でタワーヤーダ架線長を短くするほどコストが低くなり、伐区が林道から離れていれば4人作業でタワーヤーダの架線長を出来るだけ長くするのが有利となることなどが明らかとなった。

 第4章ではシミュレーションにGISデータを導入して、シミュレーションを実際の地形に適用できるようにした。タワーヤーダの集材作業範囲もGISデータより求めることができる。GISデータは、本研究では道路配置、林分のデータなどはラスタデータを用い、架線の配置、土場の位置などはベクタデータを用いた。ラスタのメッシュ間隔は東西・南北とも10mとし、ベクタデータの座標系と一致するようにした。

 GISデータの作成にはTNTmipsを用い、森林基本図、施業計画図などはスキャナで読み込み、森林簿はGISのデータベースに属性値として入力した。GISソフトウェアのV-R変換機能を使用して標高や伐倒木の密度などのラスタデータを作成した。

 要素作業時問が距離に影響されるタワーヤーダの搬器の走行、索引出し、巻上げといった要素作業に関しては、GISデータをもとに搬器の移動距離、横取り距離を算出し、作業時間の計算を行った。またGISのラスタデータとして与えられた伐倒木の密度を用いて1メッシュ内の集材回数も設定した。 GISデータに対応したシミュレーションを用いて、集材路とタワーヤーダの架線配置について矩形のモデル伐区を用いて検討を行い、作業コストなどを求めた。シミュレーションの結果、伐区が大きいほど集材路を奥の方まで作設した方が有利であること、タワーヤーダの架線長を100m〜200mの範囲に設定するのが有利であること、が明らかとなった。

 第5章では上記の結果を元に路網形成に関して具体的検討を行った。

 栃木県粟野町における作業道計画においては、道路規格による建設単価の違いと作業時間・使用機械の違いによって生じる作業コストの違いをシミュレーションにより求め、その結果道路を集材路にしてフォワーダを用いた作業を行った方が低規格になることや路線の一部を作業道で建設するよりも全線作業道として建設した方がコストが低くなることがあることが確認された。

 また東京大学秩父演習林のナメ沢・ワサビ沢上方における路網配置計画にシミュレーションを適用した結果、循環型作業道とした場合と突っ込み型とした場合、突っ込み型の方が作業コストが低くなった。タワーヤーダの到達範囲を越える部分について集材路を追加した場合、出材積は増加したものの作業コストは上昇した。

 第6章は各章で得られた結果をまとめて総括を行った。本研究によって開発したシミュレーション手法によって、効率的な集材路の配置や作業システムが明らかとなった。また作業道を作設する場合よりもフォワーダの方がコストが低廉となることが明らかとなった。またコストの面だけを取り上げると循環路のメリットは少ないことが明らかとなった。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、低規格の集材路を用いたタワーヤーダ・プロセッサ・フォワーダという急傾斜地向けの機械化集材作業システムについてシミュレーションを構築し、作業功程・作業コストの分析を行って効率の良い作業システムを提示するとともに、構築する集材作業シミュレーションは、林業事業体で実際の集材作業の計画立案に用いることができるように、機械や作業システム、地形条件が容易に変更でき、汎用性を有するものを開発しようとしたものである。

 第1章は現在の日本林業の現状と集材作業システムについて概観し、第2章では、本研究で構築する集材作業シミュレーションを検討し、理論モデルを考究し、時間観測結果をもとにした要素作業ごとに作業時間を求める理論式を求め、積み上げて作業全体の時間を求めた。要素作業時間を求める理論式は、作業時間の分布を対数正規分布にあてはめ、Pearsonの適合度検定で棄却される場合は、正規分布を当てはめた。正規分布に適合しない要素作業や観測数が少ない要素作業については、多項式による回帰式や指数関数・対数関数の中で最も残差が少ない方式を用いている。要素作業の移り変わりは、プロセッサのように分岐を多く含むものは、観測結果から要素作業の遷移確率を求め、作業の流れを再現し、また作業人数は2人から4人とし、作業人数に応じて各機械の動作開始および停止時間を定めた。

 第3章では、各作業および作業システム全体を実際の観測データを元にタワーヤーダ・プロセッサ・フォワーダ作業のシミュレーションを行い、この結果からKP-40プロセッサを用いた場合には・作業人数は3人が最も効率的であり、集材路を伐区に接するまで作設するのが基本的に最も有利であること、またRN-45プロセッサを使用し、伐区が林道に近い場合には、作業土場を伐区に接するように作設し、3人作業を行うのが有利であり、伐区が林道に遠い場合には作業上場を伐区からできるだけ離して4人作業により集材を行ったときに最も効率が良いことを示した。

 第4章では、地理データの概念を導入して集材作業シミュレーションを実際の地形に適用できるようにした。架線の張り替えを含め、集材路の作設延長に応じた架線のパターンごとにコストを比較したところ、伐区が0.5ha以下と小さい場合には、集材路を伐区よりも手前まで作設してタワーヤーダのスパンをやや長くすると有利であること、伐区が大きくなると集材路を伐区に隣接するまで作設してスパンを短くすることが有利であることを明らかにした。

 第5章では、GISソフトウェアを用いて現実の地形からデータを作成し、集材作業シミュレーションを現実の地形に適用して検討した。第一に栃木県粟野町における作業道計画は、道路を低規格の集材路にしてフォワーダを用いた作業を行った方が低コストになることや、路線のうち枝線の一部を作業道で作設するよりも全線作業道として作設した方がコストが低くなることがあることを示した。

 また東京大学秩父演習林のナメ沢・ワサビ沢上方における路網配置計画を対象に、集材路を循環型にした場合と路線を二つに分割して突っ込み型とした場合、架線が届かない林分を対象に集材路を追加した場合について、集材作業のシミュレーションを行った。その結果、循環路網を開設してもシステムの作業功程はほとんど変わらないため、路網作設延長が短い分だけコストが低くなった。次に茨城県大子町における集材作業予定地に、林分に新たに集材路を作設することは、集材路の作設コストが作業時間の短縮によるコスト低減を上回り、作業コストはかえって上昇することを明らかにした。

 以上要するに本論文は、開発した集材作業シミュレーションにより、低規格集材路を用いたタワーヤーダ・プロセッサ・フォワーダという機械化集材作業システムの効率的な構成を明らかにしたこと、また本集材作業シミュレーションは、集材作業を行う機械の交換や作業条件の変更が容易であり、汎用性が高いもので、学術上、応用上貢献するところが少なくない。よって審査委員一同は、博士(農学)の学位論文として十分な価値を有するものと判断した。

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