No | 116241 | |
著者(漢字) | 竹本,基嗣 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | タケモト,モトツグ | |
標題(和) | ホットメルト型接着剤の相構造と接着特性 | |
標題(洋) | Phase Structure and Adhesive Properties of Hot Melt Adhesives | |
報告番号 | 116241 | |
報告番号 | 甲16241 | |
学位授与日 | 2001.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(農学) | |
学位記番号 | 博農第2271号 | |
研究科 | 農学生命科学研究科 | |
専攻 | 生物材料科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | ホットメルト型接着剤は、冷却後固化する性質を利用して溶融状態で基材上に塗布することで、製本や縁張りなどに広く用いられている。ホットメルト型接着剤とは主剤、粘着付与剤、可塑剤などからなるポリマーブレンドである。主剤としては熱可塑性ポリマー、中でもエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)が工業的に最もよく用いられていることから、これまでに大きな理論的かつ実験的注目を集めてきた。EVAは構造的に不飽和結合を持たないことから、柔軟かつ熱的に安定である。EVAはエチレンと酢酸ビニルのランダム共重合体であり、後者の割合が異なる様々なものの入手が容易である。粘着付与剤は、EVA系のホットメルト型接着剤にとっては主剤の次に重要な成分である。ポリマーブレンドの性質を考察するに当たっては、接着剤としての性質を含め、そのブレンドの相溶性を調べることが不可欠である。なぜなら、相溶性は相の構造や物理的性質、また全体として発揮される特性に大きく影響しているからである。我々を含め、多くの研究者がEVA・粘着付与剤ブレンドの粘弾性と接着特性の関わりについて検討してきた。しかしながら、それらの相溶性と接着特性の関係について系統的に研究した例は少ない。我々はこの状況に鑑み、この相溶性と接着特性の関係を明らかにしようと考えた。本研究では、様々なEVAと粘着付与剤の相溶性を相図として表わし、ブレンドの熱的性質を検討した。そして、古典的フローリー・ハギンズの理論に基づいて相図を定性的に分析した。次に、これらのブレンドのうちのいくつかを用いて引張り接着強さとはく離強さを測定し、相溶性との関係を考察した。最後に、ブレンドの相構造がその接着特性に影響を与えて証拠を得るために、相構造を固定してその構造とはく離強さの関連を検討した。 実験 市販のエチレン酢酸ビニル共重合体と粘着付与剤を用いた。EVAは酢酸ビニル含量が10〜47Wt%のものを、粘着付与剤はロジン系、テルペン系を中心に用いた。 ● 相溶性の測定 EVAと粘着付与剤をクロロベンゼンに溶かし、ブレンドの重量比が9:1、7:3、5:5、3:7、1:9になるようにガラス板上にキャストした。これらを24時間一定温度で真空乾燥し、透明性を基準に相溶性を目で観察した。この手順を60〜180℃の温度範囲で繰り返し、相図に表わした。またブレンドをテフロンシートに挟み、140℃でホットプレスしてフイルム成形した後、放冷した。このとき、スペーサーを用いてフィルム厚をO.3mmとした。こうして調製したフィルムを、熱的性質の測定等に用いた。 ● 熱的性質と粘弾性の測定 示差走査熱量測定(DSC)はパーキン・エルマーDSC7を用い、ヘリウム雰囲気下、昇温速度毎分20℃でガラス転移温度Tgと融点Tmを測定した。いくつかのブレンドについて、パーキン・エルマーDMA5を用いて動力学的分析(DMA)を行い、窒素雰囲気下、測定周波数10Hz、3点支持モード、昇温速度毎分3℃で測定を行った。 ● 接着強さの測定 (1)クロスラップ引張接着試験 カバ材を被着材として用いた。接着温度と圧力は160℃、1MPaである。接着剤が完全に平衛状態になるように測定を行う一週間前から20℃、65%相対湿度下に置いた。引張り接着強さの測定はオリエンテック製テンシロンUCT-5Tを用い、クロスヘッドスピード50mm/minで-20〜60℃の温度範囲で行った。測定結果は同じ条件で測定した5個の測定結果の平均である。 (2)T型はく離試験 ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを被着材として用いた。はく離試験片はスペーサーを用いて厚さ0.3mmで調製した。接着温度と圧力は140℃、80kgf/cm2(7,87MPa)である。接着剤が完全に平衛状態になるように測定を行う一週間前から20℃、65%相対湿度下に置いた。はく離強さの測定は島津製オートグラフを用い、はく離速度200mm/minで20〜120℃の温度範囲で行った。試験結果は同じ条件で測定した5個の測定結果の平均である。 ● 相構造の固定 最初に、液体窒素中にてわずか数秒間で試験片の調製温度(140℃)から−200℃まで急冷することにより、140℃における相構造が固定されたはく離試験片を作り出すことを試みた。これらのはく離強さを測定することで、急冷しない場合との比較を行った。引張り接着試験については急冷処理を試みなかったが、これは被着材である木材が急冷するには厚すぎること、接着剤と被着体の熱膨張率の違いにより試験片が破壊される可能性を考慮したためである。相図の臨界温度が試験片調製温度である140℃より低温側に位置するような、試験片作成温度と実際の測定温度で相構造が異なるブレンドを用いた。はく離試験の結果を比較し、相溶性とはく離強さ、またその絶対値の関係を考察した。急冷処理時間を5秒、はく離強さを測定する急冷後の経過時間を10分、6時間、24時間、48時間1OO時間、200時間とした。 結果と考察 ● 相溶性 様々なエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)と粘着付与剤の相溶性を相図に表した。これらを(1)相溶型、(2)下限臨界共溶温度(LCST)型、(3)上限臨界共溶温度(UCST)型、(4)非相溶型の4種類に分類すると、EVAとロジン系粘着付与剤のブレンドはLCST型の、EVAと石油樹脂系粘着付与剤のブレンドはUCST型の相図を持つ傾向がみられた。また、相図の酢酸ビニル含有率の増加に伴う系統的変化を古典的フローリー・ハギンズ理論を用いて解釈することが可能であることがわかった。 ● 相溶性と引張接着強さ 測定温度において相溶である系では、引張り接着強さが極大となる温度がブレンド中の粘着付与剤が増加するにつれて高温側へ移動する傾向がみられた。これは粘着付与剤の割合が増加するにつれてガラス転移温度が上昇する事実と対応している。ブレンド中の粘着付与剤の割合が30-50%のとき、引張り接着強さは20℃以下で大きく、40-60℃以上では非常に弱かった。これは粘着付与剤のTgが高いためであろう。一方、相溶性が引張り接着強さの絶対値に影響している証拠はみられなかった。 ● 相溶性とはく離強さ 測定温度において相溶である系では、はく離強さが極大となる温度がブレンド中の粘着付与剤が増加するにつれて高温側へ移動する傾向がみられた。この傾向は、粘着付与剤の割合が増加するにつれて貯蔵弾性率曲線や、tanδの極大値が高温側へ移動する事実と対応している。また100℃以上の高温域では、全ブレンドで引張り接着強さの温度依存性曲線にはみられなかった2個目のはく離強さの極大値がみられた。試験片の破壊形態は60℃付近で界面破壊から凝集破壊へと変化した。ブレンドの粘着付与剤の割合が30-50%のとき、はく離接着強さが60℃以下で大きく、80℃以上で非常に弱かった。これは粘着付与剤のTgが高いためであろう。一方、相溶性がはく離強さの絶対値に影響している証拠はみられなかった。 ● 相構造とはく離強さ 今回の実験を行った限りでは、液体窒素を用いたブレンドの相構造の固定効果については意図したような結果が得られず、疑問が残った。しかしながらこの急冷処理により、全ブレンドで急冷しない場合よりもはく離強さが高く、結果的にはく離強さを強める効果があることが示され、特にいくつかのブレンドではこの効果が顕著にあらわれた。これはEVA中のエチレンが急激な冷却によって凝集し、結晶化したことにより、EVAの弾性率が上昇したことを示していると考えられる。一方本研究で得られた結果を相溶性と粘着剤特性の関係についての報告と比較すると、ホットメルト型接着剤においては相溶性あるいは相構造ははく離強さの絶対値に影響を及ぼす主たる要因ではなく、水と油のような極端な相分離系でない限り、ホットメルト型接着剤としての性能にはそれほど影響しないものと推測される。 | |
審査要旨 | ホットメルト型接着剤は冷却後固化する性質を利用して溶融状態で基材上に塗布するものであり、木材工業などにおいて広く用いられている。これは、鎖状高分子の主剤と粘着付与剤などから成るポリマーブレンドである。主剤の熱可塑性ポリマーとしてはエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)が工業的に最もよく用いられてきた。ポリマーブレンドであるホットメルト型接着剤は、多くの溶液型接着剤やゴム系高分子と粘着付与剤のブレンド系である粘着剤同様、成分間の相溶性が最終的な材料特性に最も大きな影響を与えていると推測される。例えば天然ゴム・粘着付与剤系粘着剤の場合、相溶系では粘着力が大きく、非相溶系では粘着力が小さいことがわかっている。しかし、EVAを主剤とするホットメルト型接着剤の特性については、粘弾性と接着特性に関する研究はあるものの、相溶性との関係を系統的に考察した研究はなされていない。本研究では、ホットメルト型接着剤の相溶性と接着特性の関係を明らかにし、粘着剤に関する結果と比較、考察することにより、ブレンド系接着剤の体型化を試みることを目的としている。本論文は六章より構成されている。 第一章において研究の背景と目的を述べた後・第二章においては、酢酸ビニル含有率の異なるEVAとロジン系を中心にテルペン系および石油樹脂系粘着付与剤とのブレンドの相溶性を相図により明らかにしている。この結果、EVAとロジン誘導体樹脂のブレンドは下限臨界共溶温度型の、EVAと石油系樹脂のブレンドは上限臨界共溶温度型の相図を示す傾向があること確認し、EVA中の酢ビ含有率の増加にともなう相図の系統的変化を、フローリー・ハギンズ理論のχパラメータで説明している。そして、実際の相図にきわめて近い相溶・相分離曲線をχパラメータから求めることができることで、古典的フローリー・ハギンズ理論によりEVA・粘着付与剤系ホットメルト型接着剤の相図を定性的に解釈できることを論じている。 第三章においては、第二章で扱った相図のうちの典型的なものを取り上げ、カバ材を用いて引張り接着試験を行い、相溶系ではブレンド中の粘着付与剤の割合が増加するに従ってブレンドのガラス転移温度が上昇し、同時に引張り強さの極大値もより高温側へ移動する傾向を見出している。また、非相溶系においてはブレンド中の粘着付与剤の割合が増加しても各ブレンド成分のガラス転移温度は変化せず、引張り強さの極大値はある程度相溶系と同様の傾向を示すことも明らかにした。接着強さの絶対値に関しては、相溶性依存性を認めていない。 第四章においては、第二章で扱った相図のうちいくつかを取上け、ポリエチレンテレフタラートフイルムを用いたT型はく離試験を行い、第三章の引張試験との対比を行っている。そして、引張り強さの極大値はある程度相溶系と同様の傾向を示すことを明らかにした。しかし、はく離強さにおいては引張り強さには観察されなかった第二のはく離強さの極大値がどのブレンドについても存在し、ブレンドのガラス転移温度の変化に依存せず、100℃付近にとどまる傾向を認めている。はく離強さの絶対値に関しては、相溶性の違いによる傾向の違いは観察しておらず、第三章との関連性を指摘している。 第五章においては、はく離試験片をブレンドの相分離構造を示す温度から液体窒素温度まで急冷することでその相構造を保持し、相溶系である測定温度ではく離強さに対する相構造の違いの効果を考察している。そして、相分離構造である試験片が急冷処理によりはく離強さを一様に増加させる効果があることを観察し、相の構造および処理条件と接着特性の間に何らかの関係があることを微結晶生成の観点から明らかにしている。 以上本研究では、相図の系統的変化を古典的フローリー・ハギンズ理論から解釈することが可能であること、またブレンドの相浴性の違いはガラス転移温度の変化の違いとして現れるものの、引振り接着強さと引張り強さの絶対値に関わる主な要因ではなく、他の要因の影響を考察する必要があることを、EVAを主剤とするホットメルト型接着剤について明らかにした。 この成果はポリマーブレンド系接着剤の相溶性と実用特性に関して、接着剤設計などの観点から今後の進展に大きく寄与することか明らかである。よって、審査委員一同は、本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。 | |
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