No | 116301 | |
著者(漢字) | 久野,慎司 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | クノ,シンジ | |
標題(和) | 分裂酵母の姉妹染色分体対合の確立とDNA損傷に対する耐性に関与する因子rvu1+ | |
標題(洋) | Fission yeast rvu1+ is involved in establishing sister chromatid cohesion and DNA damage resistance | |
報告番号 | 116301 | |
報告番号 | 甲16301 | |
学位授与日 | 2001.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第1696号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 分子細胞生物学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 染色体の不安定性は癌細胞の特徴の一つであり、原癌遺伝子の活性化や癌抑制遺伝子の不活性化を引き起こす主要な原因となっている。紡錘体チェックポイントの破綻が、染色体の不安定性を引き起こす原因として注目されているが、紡錘体チェックポイントが正常な癌細胞もあり、これだけで染色体の不安定性を説明することは不可能である。近年、姉妹染色分体の対合に関与する因子がいくつか発見され、それらの因子の機能不全によって癌細胞に見られるような核の不等分裂が認められることから、姉妹染色分体の形成不全が染色体の不安定性の原因となる可能性が浮かび上がった。 姉妹染色分体を架橋する因子はコヒーシンと呼ばれ、出芽酵母では少なくとも4つの因子(Smc1,Smc3,Scc1,Scc3)からなる複合体である。出芽酵母では、姉妹染色分体の対合はEco1(Ctf7ともいう)という遺伝子によってS期にDNA合成直後に形成され、M期の中期から後期に移行する際に、コヒーシンを分解するPds1(セパリン)が、その阻害因子であるEsp1(セキュリン)のAPC/C(分裂後期促進複合体/サイクロソームともいう)による分解によって、活性化されて、姉妹染色分体が分離する。 分裂酵母でも、これらの出芽酵母の相同遺伝子が見つかっており、Esolは出芽酵母のRad30(DNAポリメラーゼη)とN末側が相同で、Ecol/Ctf7とC末側が相同な融合蛋白で、N末側は紫外線によってDNAに生じたチミンダイマーの相補部分のDNAを伸長する働きがあり、C末側はDNA複製で生じた姉妹染色分体の対合を確立する働きをする。その他、分裂酵母のRad21,Cut1,Cut2はそれぞれ出芽酵母のScc1,Esp1,Pds1に対応する因子である。また、我々の研究室でeso1+の温度感受性変異株の多コピー抑圧遺伝子として見つかった,Emc1も、姉妹染色分体対合の確立と維持に重要な役割を果たしている。 私は、分裂酵母の姉妹染色分体の対合を確立するeso1+の温度感受性変異株の多コピー抑圧遺伝子であるrvu1+を単離し、その機能を調べた。 Rvu1は533アミノ酸からなる推定分子量61KDaの蛋白質で、N末側にzincfingerとRING-fingerをもつ種間でよく保存された領域を持ち、C末側にN-アセチルトランスフェラーゼの非触媒サブユニットに弱い相同性を持つ領域(NATNS)を持つ。C末側のNATNS部分のみでeso1+の温度感受性株を抑圧する。rvu1+破壊株は致死で、N末側のzinc fingerとRING-finger部分が生育に必須である。NATNS部分のみの破壊株は、紫外線やBleomycinなどによるDNAの障害に感受性を増す。NATNS破壊株の紫外線に対する感受性は、emc1+を過剰発現させることで抑圧できる。一方、NATNS破壊株とeso1+温度感受性株の二重変異株は、核の不等分裂を起こすため致死となるが、さらにemc1+を破壊すると致死でなくなるので、Eso1による姉妹染色分体対合の確立をEmc1を介してRvu1が制御している可能性が示唆された。 他方、Eso1はEmc1を介して、いろいろな種類のDNA損傷に対して、生存率を上げる役割を果たしている。Emc1はコヒーシンの構成因子であることから、それ自身DNA修復因子とは考えにくい。従って、これまで知られていないDNA修復を制御する機構の存在の可能性も示唆された。 | |
審査要旨 | 本研究は、染色体の安定性を維持する機構の一つである、姉妹染色分体の対合に関与する因子を同定する目的で、遺伝学的手法が駆使できる分裂酵母を用いて、rvu1+という新たな遺伝子を単離してその性質を解析したものであり、次のような結果を得ている。 1.rvu1+は、分裂酵母の姉妹染色分体の対合を確立する因子eso1+の温度感受性変異株のmulticopy suppressorとして単離され、そのcodeする533アミノ酸からなるタンパク質Rvulp(推定分子量61kDa)は、N末側2/3の、zinc finger motifとRING finger motifからなる種間で良く保存された領域と、C末側1/3の、出芽酵母のN-acetyltransferaseのnon-catalytic subunit(NATNS)であるARD1に弱い相同性を持つ領域とからなる。 2.Rvu1pのC末側のNATNS部分のみの過剰発現で、eso1+の温度感受性変異株の致死性を抑圧するのに、必要十分である。 3.rvu1+の破壊株は致死で、Rvu1pのN末側2/3のzinc fingerとRING fingerを含む領域が、生育に必須である。 4.NATNS部分の破壊株(ΔNATNS)は、生育や形態は正常だが、紫外線照射やBleomycin,MMS,4NQOなどによるDNAの損傷に対して感受性がある。DNA損傷時のcheckpoint機構は正常である。 5.ΔNATNSとeso1+の温度感受性変異株との二重変異株は、核の不等分裂を起こして致死となる。また、姉妹染色分体を対合させる複合体cohesinの一因子であるrad21+の温度感受性変異株と、ΔNATNSとの二重変異株も致死であり、姉妹染色分体の対合を強固にする因子mis4+の温度感受性変異株と、ΔNATNSとの二重変異株は、制限温度が低下する。これらのことから、Rvu1pのNATNS部分は、姉妹染色分体の対合に関与していることが示された。 6.ΔNATNSとeso1+の温度感受性株との二重変異株の致死性は、cohesinの一因子であり姉妹染色分体対合の確立と維持の両方に関与する因子emc1+の破壊によってrescueされる。従って、Rvu1pのNATNS部分は、姉妹染色分体の対合の確立にEmc1pを介して関与していると考えられる。 7.ΔNATNSとemc1+の破壊株(Δemc1)との二重破壊株は、紫外線やBleomycin,MMS,4NQOなどによるDNAの損傷に対して、Δemc1と同程度の感受性がある。また、ΔNATNSにEmc1pを過剰発現すると、紫外線感受性は低下するが、Δemc1にRvu1pを過剰発現しても紫外線感受性は変わらない。従って、Rvu1pのNATNS部分はEmc1pを介して、DNA損傷からの回復に関与していると考えられる。また、これらの姉妹染色分体の対合に関与する因子が、それ自身DNAの修復因子とは考えにくく、これまで知られていないDNA修復を制御する機構の存在の可能性も示唆された。 以上、本論文は、分裂酵母における、姉妹染色分体の対合に関与する新しい因子Rvu1pの同定と解析から、この因子が、姉妹染色分体の対合の確立とDNA損傷に対する耐性にEmc1pを介して関与していることを明らかにした。本研究は、これまであまり知られていなかった姉妹染色分体の対合に関与する因子の一つを発見し、姉妹染色分体対合の機構だけでなく、癌の染色体不安定性の解明や、DNA修復の制御機構の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
UTokyo Repositoryリンク |