学位論文要旨



No 116323
著者(漢字) 木場,篤司
著者(英字)
著者(カナ) キバ,アツシ
標題(和) 血管新生因子VEGF-ENZ7のトランスジェニックマウス及びキメラ変異蛋白を用いた機能解析
標題(洋) Functional analysis of novel angiogenic factor VEGF-ENZ7 protein in the transgenic model and in the receptor interaction
報告番号 116323
報告番号 甲16323
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1718号
研究科 医学系研究科
専攻 病因・病理学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 清木,元治
 東京大学 教授 吉田,進昭
 東京大学 助教授 佐藤,典治
 東京大学 助教授 仙波,憲太郎
 東京大学 客員教授 横田,崇
内容要旨 要旨を表示する

背景

 血管新生は個体の多様な生理現象において、重要な役割を演じている。血管新生は、Vasculogenesis(脈管形成)とAngiogenesis(狭義の血管新生)の二つに分けられる。脈管形成とは胎生前期における血管形成で、狭義の血管新生とは既存の血管から新たに誘導される血管形成である。成熟した個体では性周期に応じた黄体形成・子宮内膜の一過性の増殖・創傷治癒といった状態に血管新生が強く関係している。また、様々な病的な状態においても血管新生が与える影響が大きく、例えば、糖尿病性網膜症、リュウマチ様関節炎、乾癬などで血管新生が過剰に誘導され、また癌の進展と血管新生の密接な関係も明らかになってきた。

 血管内皮細胞を特異的に増殖させる因子として同定された血管内皮増殖因子(VEGF)は血管新生において主要な役割を果たすことが示されている。VEGF蛋白は約20kDのサブユニットが二量体を形成する分泌型の因子である。その一次構造は血小板由来因子(PDGF)と相同性を示し、8個のシステインが同間隔で保存されている。これらシステイン間のジスフィルド結合に制御され、VEGFとPDGFの3次構造は高い類似性を示すことが結晶構造解析により明らかにされた。

 VEGF受容体としてFlt-1/VEGFR-1とKDR/VEGFR-2 (以降それぞれVEGFR-1とVEGFR-2)が報告されている。どちらも、チロシンキナーゼタイプの受容体であるが、その作用は大きく異なる。VEGFR-2に比べて、VEGFR-1が約10倍のVEGF結合活性を有するが、シグナル伝達活性は逆にVEGFR-2で非常に強く、VEGFの生物学的作用は、主にVEGFR-2を介していると考えられている。VEGFとその受容体VEGFR-1とVEGFR-2が、発生過程の血管新生において欠かせないことが、ノックアウトマウスの解析で示された。VEGFのノックアウトマウスでは、(-/+)マウスでも血管形成が未熟で胎生11日頃で死亡する。受容体については、VEGFR-1(-/-)マウスで、内皮細胞の過剰な増殖が見られ、血管構築の異常により、胎生8.5-95日で死亡した。VEGFR-2(-/-)マウスでは、内皮細胞の形成が誘導されず、VEGFR-1の場合と同時期の胎生8.5-9.5日で死亡した。

 これまでVEGF関連因子として、Placenta growth factor(PlGF),VEGF-B,VEGF-C,VEGF-D,VEGF-E等が報告されている。PlGFとVEGF-BはVEGFR-1に特異的に結合し、弱い血管内皮細胞増殖活性を示す。VEGF-CとVEGF-Dの特異的レセプターとして、Flt-4/VEGFR-3が報告されている。VEGFR-3はリンパ管内皮細胞に特異的に発現しており、このことからVEGF-CとVEGF-Dの生理的作用が血管内皮に対してよりも、主にリンパ管内皮に対して働くことが示唆された。

 VEGF-EはParapoxウイルス属のOrfウイルスのゲノム上に見出されたopen reading frameにコードされる蛋白である。これまで、3つの関連因子が報告されており、それぞれウイルス株にちなんでVEGF-ENZ7,VEGF-ORFVNZ2/VEGF-ENZ2,VEGF-E1701と呼ばれている。小川らの最近の報告によると、VEGF-ENZ7蛋白はVEGFR-2特異的にVEGF-Aと同等の強さで結合し、その下流のシグナル伝達を活性化した。また、VEGF-ENZ7蛋白はin vitroで血管内皮細胞の増殖活性を示し、更に血管透過性亢進も誘導した。VEGF-ENZ2とVEGF-E1701については、VEGF-ENZ7と同等の活性を持つことが他のグループにより示された。

 本研究では、更にVEGF-ENZの生物学的機能を解析するために、トランスジェニックマウスを作製した。また、同蛋白質のキメラ変異体を用いて、受容体結合に関する生化学的機能解析を行った。1.トランスジェニックマウスにおけるVEGF-E-NZ7の生物学的機能解析

背景と方法 VEGF-ENZのトランスジェニックマウスを作製し、生物学的機能を解析した。プロモーターとしてヒトkeratin 14 promoterの発現ベクターを用いて、目的のVEGF-ENZ7遺伝子の発現を皮膚特異的に誘導した。この発現ベクターはこれまで、様々な因子の発現に使われてきた。VEGF-Eと関連性の高いものでは、VEGF-A、VEGF-C、Angiopoietin 1の解析に用いられ、それぞれ血管やリンパ管に関連した強い表現形が示された。VEGF-ENZ7のトランスジェニックマウスでも、同様な方法で強い表現形が導かれることが予想された。VEGF-ENZ7がVEGFR-2に特異的に結合することから、その対照としてVEGFR-1のリガンドであるPlGF-IIのトランスジェニックマウスも本研究で作製、解析した。

結果と考察

 導入遺伝子VEGF-ENZ7の初代マウスのうち発現が最も高いマウスを用いて、繁殖実験を行った。VEGF-ENZ7トランスジェニックマウスは、誕生し繁殖可能であった。しかし、興味深いことにトランスジェニックマウスでは皮膚の露出した部分、即ち、耳、鼻周辺、尾において、正常の同腹子に比べ、明らかに赤い色を呈していた。皮膚の切片のヘマトキシリン&エオシン染色では、皮膚の真皮のうち表皮に近い部分において管腔を持つ多数の血管様の構造がみられた。同様の皮膚の切片を血管内皮細胞特異的なマーカーである第八因子関連抗原、von Willebrand factor(vWF)に対する抗体で免疫染色すると、予想通り管腔を囲む部分が染色され、これらが血管内皮細胞であることが示された。またRT-PCRにより、VEGF-ENZ7の発現が皮膚特異的であることも解った。次に、誘導された血管の微細構造を透過型電子顕微鏡で解析したところ、内皮細胞間の接着構造に異常は見られず、また内皮細胞の側に周皮細胞の存在も認められた。以上の結果から、VEGF-ENZ7トランスジェニックマウスでは、皮膚特異的に発現するVEGF-ENZ7により血管網が誘導され、その血管は機能・構造共に正常であることが示された。VEGFR-1特異的リガンドであるPIGF-IIのトランスジェニックマウスでは、血管の誘導が若干観察された。次に、これら血管誘導の表現形における、他の血管新生に関連する因子の関与を調べる目的で、耳の組織についてbasic FGF,VEGF-A,Ang 1,Ang 2,VEGFR-2遺伝子のmRNAの発現解析をRT-PCRにより行った。VEGF-ENZ7トランスジェニックマウスではbasic FGF,VEGF-Aの発現に変化はなかったが、Ang 1とAng 2の発現が上昇していた。また、血管誘導を反映して、VEGFR-2の発現が強く上昇していた。PIGF-IIトランスジェニックマウスでもVEGF-Aの発現に変化は無かったが、basic FGF,Ang 1,Ang 2については、発現の上昇が見られた。VEGF-ENZ7とPIGF-IIのトランスジェニックマウスで、それぞれの血管新生に関わる機構が異なる可能性が示唆された。

 以上の結果から、VEGF-ENZ7とPlGF-IIはそれぞれの特異的受容体を活性化することで血管新生を誘導することが示された。また、VEGF-ENZ7による血管新生誘導が極めて強いことから、その受容体VEGFR-2は個体レベルの条件でも血管新生を誘導するシグナル伝達に使われる比重が高いことが示されたが、VEGFR-1による血管新生誘導のメカニズムについても興味深い結果が得られた。

2.VEGF-ENZ7キメラ変異蛋白を用いた受容体結合に関する機能解析

背景と方法

 これまで、VEGR-AのVEGFR-2への結合に重要な領域およびアミノ酸残基が、アラニン置換法や結晶構造解析により明らかにされてきた。これらの重要なアミノ酸残基は、VEGF-A分子が形成する3つのループのうち、ループ1とループ3に存在しており、これらのループ構造の重要性が示唆された。また、興味深いことに、VEGF-ENZ7蛋白はVEGF-Aと同様にVEGFR-2に結合するが、VEGF-Aにとって重要なアミノ酸残基がVEGF-ENZ7において保存されていない。更に、VEGF-ENZ7には、他のVEGFファミリーには無い特異的な8アミノ酸残基の挿入がループ3領域に見られた。これらのことから、VEGF-ENZ7によるVEGFR-2への結合のメカニズムが、VEGF-Aとは異なる可能性が示唆された。本研究では、VEGF-ENZ7のVEGFR-2への結合に重要な領域を同定する目的で、VEGF-ENZ7とPlGFのキメラ変異体のシリーズを作製し、変異が受容体結合能に与える影響を解析した。PIGFはVEGFR-1の特異的リガンドであり、VEGFR-2には結合しない。PIGFも同じくVEGFファミリーに特徴的なシステインモチーフを持つことから、キメラ変異蛋白分子の基本骨格に与える影響は、最小限に抑えられると予想された。解析の方法として、VEGFR-2と125I-VEGF-Aの結合における競合阻害実験、VEGFR-2の自己リン酸化実験、内皮細胞増殖実験、管腔形成実験を行った。

結果と考察 全般的に、VEGFR-2への結合能を失ったキメラ変異蛋白は、同じく生物学的活性にも著しい低下が見られた。VEGF-Aでは、ループ1とループ3にVEGFR-2結合に重要なアミノ酸残基が存在したが、VEGF-ENZ7のキメラでもループ1とループ3を変異したものに、結合能や他のVEGFR-2を介した生物学的活性に著しい低下が見られた。また、この結果は、ループ領域のみを特異的に置換した変異蛋白でも確認された。以上のことから、アミノ酸配列の相同性は低いがVEGF-ENZ7においてもVEGR-Aと同様に、ループ1とループ3の二つのループが揃っていることが重要であることが示された。また、VEGF-Aのループ1とループ3の領域の一部を別々にVEGF-ENZ7に導入したキメラ蛋白では、活性の著しい低下が見られたが、両部位を同時に導入すると内皮細胞増殖活性と関腔形成活性で回復が若干見られた。次に、VEGF-ENZ7に導入するVEGF-Aの領域を一部から全ループ1と全ループ3にまで延長した。また、同様にして、VEGF-ENZ7のループ領域をPIGFに導入した。どちらのキメラ蛋白でも、予想通り受容体結合活性や他の生物学的活性に回復がみられた。以上のことから、VEGF-AとVEGF-ENZ7はアミノ酸配列での相同性は低いが、それぞれのループ1と3がVEGFR-2に結合する条件を満たすために重要な役割を果たす、というメカニズムにおいて非常に近いことが示された。また、アミノ末端、カルボキシル末端ペプチドは活性に関与しないことから、これらをPIGFなどのヒト由来ペプチドへ置換することにより、VEGF-ENz7の潜在的な抗原性の減少が期待される。VEGF-ENZ7の臨床応用へ向けて有用な情報が得られた。

審査要旨 要旨を表示する

 血管内皮増殖因子(VEGF)ファミリーの新規のメンバーのVEGF-ENZ7はParapoxウイルス属のOrfウイルスNZ7株のゲノム上に見出されたopen reading frameにコードされる蛋白である。VEGF-ENZ7蛋白はVEGFR-2特異的にVEGF-Aと同等の強さで結合し、その下流のシグナル伝達を活性化する。また、VEGF-ENZ7蛋白はin vitroで血管内皮細胞の増殖活性を示し、更にMiles assayにより血管透過性亢進を誘導することも示されている。

 本研究では、更にVEGF-ENZの生物学的機能を解析するために、トランスジェニックマウスを作製した。 また、同蛋白質のキメラ変異体を用いて、受容体結合に関する生化学的機能解析を行い、以下の結果を得ている。

PART 1.トランスジェニックマウスにおけるVEGF-ENZ7の生物学的機能解析

1.VEGF-ENZ及びPIGF-IIのトランスジェニックマウスの作製

 プロモーターとしてヒトkeratin 14 promoterの発現ベクターを用いて、VEGF-ENZ7とPIGF-II遺伝子の発現を皮膚特異的に誘導したマウスを作成した。これらの遺伝子産物はそれぞれKDR/VEGFR-2とFlt-1/VEGFR-1に特異的なリガンドであるため、個体レベルでのそれぞれの受容体の機能も解析できることが期待された。トランスジェニック初代マウスを用いて繁殖実験を行ったところ、どちらのトランスジェニックマウスも、誕生し繁殖可能であった。またRT-PCRにより、導入遺伝子の発現が皮膚特異的であることも示された。

2.VEGF-ENZ7及びPIGF-IIのトランスジェニックマウスに誘導された血管新生

VEGF-ENZ7トランスジェニックマウスでは皮膚の露出した部分、即ち、耳、鼻周辺、尾において、正常の同腹子に比べ、明らかに赤い色を呈していた。皮膚の切片のヘマトキシリン&エオシン染色では、皮膚の真皮のうち表皮に近い部分において管腔を持つ多数の血管様の構造がみられた。これらは血管内皮細胞特異的なマーカーである第八因子関連抗原、von Willebrand factor(vWF)に対する抗体により免疫染色され、これらが血管内皮細胞であることが示された。次に、誘導された血管の微細構造を透過型電子顕微鏡で解析したところ、内皮細胞間の接着構造に異常は見られず、また内皮細胞の側に周皮細胞の存在も認められた。以上の結果から、VEGF-ENZ7トランスジェニックマウスでは、皮膚特異的に発現するVEGF-ENz7により血管網が誘導され、その血管は機能・構造共に正常であることが示された。PIGF-IIのトランスジェニックマウスは、VEGF-ENZ7よりも弱い表現形であるが、血管の誘導が若干観察された。

3.トランスジェニックマウスにおける血管新生因子の発現のRT-PCR法による解析

 次に、これら血管誘導の表現形における、他の血管新生に関連する因子の関与を調べる目的で、耳の組織におけるbasic FGF,VEGF-A,Ang 1,Ang 2,VEGFR-2遺伝子のmRNAの発現解析をRT-PCRにより行った。VEGF-ENZ7トランスジェニックマウスではbasic FGF,VEGF-Aの発現に変化はなかったが、Ang 1とAng 2の発現が上昇していた。また、血管新生誘導を反映して、VEGFR-2の発現が強く上昇していた。PlGR-IIトランスジェニックマウスでもVEGF-Aの発現に変化は無かったが、basic FGF,Ang 1,Ang 2については、発現の上昇が見られた。

VEGF-ENZ7とPlGF-IIのトランスジェニックマウスで、それぞれの血管新生に関わる機構が異なる可能性が示唆された。

 以上の結果から、VEGF-ENZ7とPlGF-IIはそれぞれの特異的受容体を活性化することで血管新生を誘導することが示された。また、VEGF-ENZ7による血管新生誘導が極めて強いことから、その受容体VEGFR-2は個体レベルの条件でも血管新生を誘導するシグナル伝達に使われる比重が高いことが示されたが、VEGFR-1による血管新生誘導のメカニズムについても興味深い結果が得られた。

 PART 2.VEGF-ENZ7キメラ変異蛋白を用いた受容体結合に関する機能解析

 これまでの報告によると、VEGF-AのVEGFR-2への結合に重要な領域およびアミノ酸残基が、VEGF-A分子が形成する3つのループのうち、ループ1とループ3に存在しており、これらのループ構造の重要性が示唆された。興味深いことに、VEGF-ENZ7蛋白はVEGF-Aと同様にVEGFR-2に結合するが、VEGF-Aにとって重要なアミノ酸残基がVEGF-ENZ7において保存されていない。更に、VEGF-ENZ7には、他のVEGFファミリーには無い特異的な8アミノ酸残基の挿入がループ3領域に見られた。これらのことから、VEGF-ENZ7によるVEGFR-2への結合のメカニズムが、VEGF-Aとは異なる可能性が示唆されていた。本研究では、VEGF-ENZ7のVEGFR-2への結合に重要な領域を同定する目的で、VEGF-ENZ7とVEGFR-1の特異的リガンドでありVEGFR-2には結合しないPIGFのキメラ変異体のシリーズを作製し、変異が受容体結合能に与える影響を解析した。

1.PlGFも同じくVEGFファミリーに特徴的なシステインモチーフを持つことから、キメラ変異蛋白分子の基本骨格に与える影響は、最小限に抑えられると予想された。精製した変異蛋白について還元、非還元状態においてウエスタンブロッティングで解析したところ、全ての蛋白で少なくとも二両体形成に異常は見られなかった。また、全般的に、キメラ変異蛋白のKDR/VEGFR-2への結合能はその他の生物学的活性と相関関係にあった。

2.VEGF-ENZ7の全領域のうちPlGFの配列を置換しても活性に影響が見られなかった領域は、第一システインよりアミノ末端の領域、その下流のα-ヘリックス領域、ループ2領域、第八システインよりカルボキシル末端の領域であった。これらの領域はVEGF-ENZ7の活性に直接関与しない可能性が示された。

3.ループ1やループ3の領域をPIGFに置換すると活性が失われた。また、興味深いことに、同じ領域をKDR/VEGR-2に結合するVEGF-Aと置換しても、活性が失われていた。以上のことから、アミノ酸配列の相同性は低いがVEGF-ENZ7においてもVEGF-Aと同様に、ループ1とループ3の二つのループが揃うことが活性に必要であることが示された。

4.VEGF-Aのループ1とループ3の領域の一部を別々にVEGF-ENZ7に導入したキメラ蛋白では、活性の著しい低下が見られたが、両部位を同時に導入すると内皮細胞増殖活性と関腔形成活性で回復が若干見られた。次に、VEGF-ENZ7に導入するVEGF-Aの領域を一部から全ループ1と全ループ3にまで延長した。また、同様にして、VEGF-ENZ7のループ領域をPIGFに導入した。どちらのキメラ蛋白でも、予想通り受容体結合活性や他の生物学的活性に回復がみられた。

以上のことから、VEGF-AとVEGF-ENZ7はアミノ酸配列での相同性は低いが、それぞれのループ1と3がVEGFR-2に結合する条件を満たすために重要な役割を果たす、という共通したメカニズムを持つことが示された。また、アミノ末端、カルボキシル末端ペプチドは活性に関与しないことから、これらをPIGFなどのヒト由来ペプチドへ置換することにより、VEGF-ENZ7の潜在的な抗原性の減少が期待される。 VEGF-ENZ7の臨床応用へ向けて有用な情報が得られた。

 以上、本研究ではPART1で、トランスジェニックマウスを用いて解析した結果、VEGF-ENZ7はKDR/VEGFR-2を介して強い血管新生を、PlGF-IIはFlt-1/VEGFR-1を介して弱い血管新生を誘導することが明らかとなった。次にPART2で、VEGF-ENZ7のキメラ変異体を用いてKDR/VEGFR-2への結合能や生物学的活性の解析を行った結果、VEGF-ENZ7のループ1とループ3の両方が同時に存在することが不可欠であることが示された。従って、本研究はVEGF-ENZ7やPlGR-II蛋白、その受容体KDR/VEGFR-2やFlt-1/VEGFR-1の個体レベルでの血管新生誘導機構の解明に、またKDR/VEGFR-2リガンドに共通する受容体結合機構の解明に大きく貢献したと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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