学位論文要旨



No 116337
著者(漢字) 李,翔
著者(英字)
著者(カナ) リ,ショウ
標題(和) CD57+HLA-DRbrightナチュラル.サプレッサ-細胞に由来する胃癌及び白血病細胞死誘導物質の研究
標題(洋) Studies on human gastric carcinoma and leukemia cell death by apoptosis inducing nucleosides from CD57+HLA-DRbright natural suppressor cell line
報告番号 116337
報告番号 甲16337
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1732号
研究科 医学系研究科
専攻 病因・病理学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 谷口,維紹
 東京大学 教授 深山,正久
 東京大学 教授 廣川,信隆
 東京大学 教授 脊山,洋石
 東京大学 教授 森,茂郎
内容要旨 要旨を表示する

 ナチュラル・サプレッサー(NS)細胞は骨髄に由来し、主にリンパ系の反応を制御していると考えられてきた。このNS細胞は大顆粒球性リンパ球(LGL)に属し、その特徴はナチュラルキラー(NK)細胞と類似している。NS細胞はマウスにおいてはWGAレクチンに対するレセプターを持ち、ヒトではCD57の糖鎖マーカーを有し、明らかに免疫T、B細胞、マクロファージとは異なった細胞群である。機能としてはMHC−非拘束性にマイトジェンによるリンパ球の分裂反応や混合リンパ球反応(MLR)を抑制する。つまりリンパ球分裂反応の強力な抑制機能を持っている。最近では、NS細胞はがん細胞の分裂を抑制する機能を持っていると報告されている。しかし、NS細胞のこのような免疫抑制作用、がん細胞増殖抑制作用を司るエフェクター物質については現在のところまったく不明である。一方、最近の生殖免疫学的研究によって、母性胎盤組織である脱落膜層におけるLGL細胞の局所免疫作用が解明され、この脱落膜層LGL細胞が母系の胎児に対する免疫反応を制御すると同時に胚性胎盤組織である栄養膜細胞の子宮内膜壁への増殖浸潤も制御していることが判明してきた。本研究室ではヒトの脱落膜組織に由来したCD57陽性HLA-DR強陽性のNS細胞株(57.DR-NS)をクローニングし、この細胞が産生するアポトーシス誘導物質(AINs)を分離、精製した。このAINsは構造解析の結果、新規な構造を含む一連の修飾ヌクレオシドであった。本研究では、このAINsによるヒト胃癌細胞(GCIY)と丁白血病細胞(Molt4)へのアポトーシス誘導能と抗がん効果をin vitroとin vivoで検討し、このアポトーシス誘導の分子作用機序の解明を行った。

I. 57.DR.NS細胞株の産生するアポトーシス誘導物質によるヒト胃癌細胞(GCIY)とT白血病細胞(Molt4)の細胞死と坦癌マウスでの治療効果の検討

1. 57.DR.NS細胞とGCIY/Molt4あるいはヒト胎児肺組織由来正二倍体細胞WI-38との共培養を行うと、57.DR-NS細胞はGCIY/Molt4悪性細胞に対してはアポトーシスを誘導したがWI-38正常細胞に対してはアポトーシスは誘導しなかった。

2. 57.DR.NS細胞の培養上清からC18preparative column,TLC,最終的にはC18逆相HPLCによって分離した六種類の一連の修飾ヌクレオシドの活性物質(AINs)を得た。この分離したAINsをGCIY/Molt4/WI-38細胞に作用させた効果は、アポトーシス誘導能をDNA断片化及びTUNEL法で、細胞増殖抑制能を3H-チミジンの取り込みで検討した。その結果、GCIY/Molt4悪性細胞に対してはアポトーシスを誘導したが、WI-38正常細胞に対してはアポトーシスは誘導しなかった。

3. AINsによるGCIY/Molt4坦癌SCIDマウスにおける治療効果を、腫瘍径の縮小と腫瘍組織におけるアポトーシスの誘導を測定して検討した。坦癌SCIDマウスにAINsを投与するとアポトーシスによる細胞死を誘導し、腫瘍の増殖を著しく抑制した。

II. 57.DR-NS細胞株の産生するアポトーシス誘導物質によるGCIY/Molt4細胞の細胞死誘導の分子作用機序の解明

1. AINsによってGCIYやMolt4細胞に誘導したアポトーシスでは、DNA strand brcak assayで調べたところ、核DNAがBreak downして傷害された。

2. このDNA Break downのシグナルはおそらくP53の活性化につながり、最終的にはカス-パ.ゼ.カスケ-ドの活性化をひきおこし、カスパ-ゼ-3(CPP32)によるエンドヌクレア-ゼのインヒビタ-の分解によってエンドヌクレア-ゼの活性化をもたらすと推測された。そして、核DNAが切断され、核DNA及び細胞が断片化することによりアポトーシスに至ると考えられた。実際、AINsによってGCIYとMolt4細胞に誘導したアポトーシスの過程でカスパ-ゼ-3活性化を調べたところ、Flow cytometryによって、活性化したカスパ-ゼ-3によってその基質(Ac-DEVD-AMC)の切断により生じる蛍光色素(AMC)の分離が認められ、さらにWestem blot法で、活性型のカスパ-ゼ-3の20KDa,11KDaのbandの生成を確認した。

3. AINsによるGCIYとMolt4細胞のアポトーシス誘導はカスパ-ゼ-3阻害剤(Ac-DEVD-CHO)を反応系に添加し、Flow cytometry,DNA断片化及びTUNEL法で検討したところ、いづれも著しく阻害された。

 以上、本論文では、ヒト・ナチュラル・サプレッサー細胞株(57.DR-NS)の産生する六種類のアポトーシス誘導活性物質(AINs)を分離、精製した。これをGCIY胃癌細胞とMolt4白血病細胞に作用させ、アポトーシスによる細胞死を誘導することを示した。また、AINsによるGCIY/Molt4坦癌SCIDマウスに対する腫瘍の増殖抑制効果について述べた。さらに、AINsの悪性腫瘍細胞に対する初期作用段階の分子機序を解明した。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究では、CD57陽性HLA.DR強陽性ナチュラル.サプレッサ-細胞(57.DR-NS細胞)株の産生するアポトーシス誘導物質(Apoptosis Inducing Nucleosides、AINs)によるヒト胃癌細胞(GCIY)及びヒト丁白血病細胞(Molt4)の細胞死の誘導とこの細胞死誘導の分子作用機序について検討を行い、以下の結果を得た。

1) 57.DR-NS細胞から分泌された六種類の活性AINsはGCIYやMolt4悪性細胞のアポトーシスを誘導したが、WI-38胎児性正常細胞のアポトーシスは誘導しなかった。

2) AINsをGCIYやMolt4坦癌SCIDマウスに投与すると腫瘍の増殖を抑制し、アポトーシスによる細胞死を誘導した。

3) この細胞死誘導の分子作用機序については、まず、AINsによって標的細胞のDNA double strand breakを引き起こし、caspase-3を活性化した。最終的には、活性型.CADの誘導によってDNAの断片化をもたらすと考えられた。

 以上本論文では、AINsによる抗癌効果を判定し、その細胞死誘導機構を解明した。これらの知見は理想的な抗癌剤の開発にも通じる可能性があり、学位の授与に値するものと考えられる。

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