No | 116340 | |
著者(漢字) | 井端,啓二 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | イバタ,ケイジ | |
標題(和) | ゴルジ体及び神経突起内の小胞又は小器官に局在するシナプトタグミンIV分子の解析 | |
標題(洋) | Localization of synapto tagmin IV at the Golgi and vesicle/orgahelle located in the neurites. | |
報告番号 | 116340 | |
報告番号 | 甲16340 | |
学位授与日 | 2001.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第1735号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 脳神経医学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | (目的) 我々の体を構成する細胞は数多くの膜系(細胞内小器官)より成り立っており、その間のやりとりは小胞膜輸送により行われている。小胞輸送には構成的なものと調節的なものの2種類が存在しており、その基本的輸送メカニズムにSNAREタンパク質が重要な役割を果たしている。最近SNAREタンパク質だけで構成的な膜融合を起こすことが明らかにされつつあるが、調節的な膜融合にはSNAREタンパク質以外のタンパク質力不可欠であると考えられている。例えば、カルシウム依存的な神経伝達物質の放出を例にとると、シナプトタグミン1(SytI)と呼ばれるタンパク質がシナプス小胞上に存在し神経伝達物質放出の際のカルシウムセンサーとして働きシナプス小胞とプレシナプス膜との膜融合を制御することが知られている。 シナプトタグミンファミリーはマウスにおいて12種類のアイソフォームが存在しており、このうちSytIに関しては詳細に解析されているが、他のアイソフォームに関してはその局在、機能がほとんど明らかになっていない。シナプトタグミンファミリーの1つであるシナプトタグミンIV(syt4)は膜脱分極刺激によりmRNA量が増大するimmediate earlygeneとしてクローニングされたが、その局在、機能に関してはこれまで全く明らかではなかった。従って本実験ではまず、SytIVに対する特異的な抗体を作製し、PC12細胞および海馬初代培養細胞におけるSytIVの局在、また免疫電顕法を用いて発達期のマウスの脳切片におけるSytIVの局在を検討した。特にSytIVは神経特異的に発現することからシナプス小胞上に存在するSytIの局在との違いに重点をおいてと観察を行った。さらに高カリウム刺激やフォルスコリン刺激によるSytIVのタンパク質量及び局在の変化についても検討を行った。 (結果と考察) SytIVのC2Aドメインに対する抗体を作成した結果、この抗体(anti-SytIV)はSytIVアイソフォームだけを特異的に認識する事が明らかになった。この抗体を用いてPC12細胞および末成熟な海馬初代培養細胞を免疫染色したところ細胞体の核の近傍の構造物及び神経突起の先端の小胞または小器官に局在することが判明した。また、成熟した海馬初代培養細胞では核の近傍の構造物にはSytIVは良く発現していたが、樹状突起、軸索ではあまり発現が見られなかった。核の近傍の構造物においてはSytIVはトランスゴルジネットワーク(TGN)のマーカーであるTGN38とよく共在していたが、免疫染色を用いた実験ではゴルジ体、TGN及びエンドソームを正確に区別することが困難なので、以下の2種類の薬剤を用いてSytIVが局在する核の近傍の構造物の同定を試みた。ゴルジ体とTGNを分離する薬剤、ブレフェルジンAを用いた場合、SytIVとTGNのマーカーであるTGN38は共在しなかった。また、エンドソームとゴルジ体+TGNを分離する薬剤ワートマニンを用いた場合、SytIVとTGN38は共在したままであった。これに対し、ゴルジ体に局在するGOS28とSytIVはブレフェルジンAを投与した後でも共在していた。従ってanti-SytIVで染色される核の近傍の構造物はゴルジ体であると結論できた(Fig.1.)。 PC12細胞および未成熟な海馬初代培養細胞ではSytIVは突起の先端にも局在するが、SytIも突起の先端のシナプス小胞と有芯小胞に局在することが知られている、そこで、SytIVとSytIの共染色をおこなったところ、神経突起の先端においてほとんどは共在しなかった(Fig.2.)。また、脳組織より調製したシナプス小胞画分にはSytIVは存在していなかった。従って、SytIVはSytIとは異なり通常のシナプス小胞及び有芯小胞の融合には関与していないと推察された。 SytIVは発達過程の脳内で顕著に発現していたので、発達期のマウスの脳切片の免疫組織染色を行ったところ、大脳新皮質の2/3層と5層及び海馬のCA3とCA1領域で良く発現していることが明らかになった。特に大脳新皮質の2/3層と5層においてもっとも強い発現が見られたのでこの領域について金コロイドを用いた免疫電顕を行った。その結果、SytIVのシグナルは細胞体のゴルジ体、軸索、樹状突起、及びスパイン内に局在した(Fig.3)。固定による膜の保存性の問題が有り全ての金コロイド粒子が膜系に局在しているわけではなかったが、いくつかのシグナルは樹状突起内の小胞又は小器官に局在していた(Fig.4.)。これに対し、神経終末のシナプス小胞のシグナルは皆無に等しかった。従って、培養細胞だけでなく脳組織においてもSytIVはゴルジ体と神経突起内の小胞又は小器官に局在することが明らかになった。以上の結果からSytIVはゴルジ体と神経突起内の小胞又は小器官の両方で調節的な膜輸送に関わっていると考えられる。 syt4はimmediate early geneであり、神経活動によってその発現が調節されている。そこで高カリウム及びフォルスコリン刺激によるSytIVのタンパク質量及び局在の変化について検討した。その結果、両刺激の投与5時間後にSytIVのタンパク質量がそれぞれ6倍及び10倍増加していた。この増加はプロテインキナーゼAの阻害剤で抑えられた。さらに、高カリウム又はフォルスコリン刺激後の細胞ではタンパク増加に伴ってゴルジ体と神経突起内のSytIVが増加していた(Fig.5.)。成熟した海馬初代培養細胞では通常anti-SytIVで神経突起内のSytIVを検出できなかったが、フォルスコリン刺激によって神経突起内の小胞又は小器官上でSytIVが顕著に増加していた(Fig.6.)。 本研究により、SytIVはゴルジ体と神経突起内の小胞又は小器官に局在することが明らかになった。SytIとは共在しないことから、SytIVはシナプス小胞と有芯小胞以外に存在する初めての神経特異的シナプトタグミンアイソフォームであることが示された。高カリウム及びフォルスコリン刺激によるSytIVの増加にはプロテインキナーゼAが関与していることから、SytIVはプロテインキナーゼAもしくはcAMP依存的な神経の可塑的変化に関与している可能性が考えられる。SytIVを含んでいる小胞または小器官の性質(カーゴ分子など)はまだ明かになっていないが、SytIVはゴルジ体から突起の先端に輸送される小胞または小器官の、出発点であるゴルジ体からの出芽または終点である突起の形質膜との融合に関わっているものと推察している。 Fig.1. PC12CElls SytIVはゴルジ体に局在していた。 Fig.2. NGF-treated PC120 eells SytIVはSytIはほとんど共在しなかった。 Fig.3. 免疫電顕の結果、生後6日齢のマウスの大脳新皮質II/IIIとV層においてSytIVはゴルジ体、樹状突起、軸索に局在していた。 Fig.4. SytIVは突起内の小胞又は小器官に局在していた。 Fig.5. 4DIV Hippocampal Neurons High-KCI刺激によって突起の先端のSytIVの量が増加した。 Fig.6. 21DIV Hippocampal Neurons Forskolin刺激によって突起内の小胞又は小器官に局在するSytIVの量が増加した。 | |
審査要旨 | 本研究は調節的な膜輸送に関与していると考えられているタンパク質であるシナプトタグミンファミリーのアイソフォームの一つであるシナプトタグミン4(SytIV)の神経細胞に於ける細胞内局在、及び細胞への刺激によるSytIVの発現、局在の変化を明らかにするために、SytIVに対する特異的な抗体を作製し、PC12細胞および海馬初代培養細胞、発達期のマウスの脳切片におけるSytIVの局在を、シナプス小胞と有芯小胞上に存在するが知られているSytIとの比較に重点を置いて検討、さらに高カリウム刺激やフォルスコリン刺激によるSytIVのタンパク質量及び局在の変化についても検討を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1. SytIVに対する抗体を作成した結果、この抗体(anti-SytIV)はSytIVアイソフォームだけを特異的に認識する事が示された。この抗体を用いてPC12細胞および未成熟な海馬初代培養細胞を免疫染色したところ細胞体の核の近傍の構造物及び神経突起の先端の小胞または小器官に局在すること、また、成熟した海馬初代培養細胞では核の近傍の構造物にはSytIVは良く発現し、樹状突起、軸索ではあまり発現が見られない事が示された。 2. SytIVが局在する核の近傍の構造物の同定が試みられた。ゴルジ体とトランスゴルジネットワーク(TGN)を分離する薬剤、ブレフェルジンAを用いた場合、SytIVとTGNのマーカーであるTGN38は共在しなかった。また、エンドソームとゴルジ体+TGNを分離する薬剤ワートマニンを用いた場合、SytIVとTGN38は共在していた。そして、ゴルジ体に局在するGOS28とSytIVはブレフェルジンAを投与した後でも共在していた。従っでanti-SytIVで染色される核の近傍の構造物はゴルジ体であると結論された。 3. SytIVとSytIの共染色をおこなったところ、神経突起の先端においてほとんど共在しない事が示された。また、脳組織より調製したシナプス小胞画分にはSytIVは存在しない事が示された。従って、SytIVはSytIとは異なり通常のシナプス小胞及び有芯小胞の融合には関与していないと推察された。 4. SytIVは発達過程の脳内で顕著に発現していたので、発達期のマウスの脳切片の免疫組織染色を行ったところ、大脳新皮質の2/3層と5層及び海馬のCA3とCA1領域で良く発現している事が示された。大脳新皮質の2/3層と5層の領域について金コロイドを用いた免疫電顕を行ったところ、SytIVのシグナルは細胞体のゴルジ体、軸索、樹状突起、及びスパイン内に局在しており、いくつかのシグナルは樹状突起内の小胞又は小器官に局在している事が示された。これに対し、神経終末のシナプス小胞でのシグナルは皆無に等しかった。従って、培養細胞だけでなく脳組織においてもSytIVはゴルジ体と神経突起内の小胞又は小器官に局在する事が示された。 5. syt4はimmediate early geneであり、神経活動によってその発現が調節されている。そこで高カリウム及びフォルスコリン刺激によるSytIVのタンパク質量及び局在の変化について検討した。その結果、両刺激の投与5時間後にSytIVのタンパク質量力が増加する事が示された。この増加はプロテインキナーゼAの阻害剤によって抑えられる事が示された。さらに、タンパク増加に伴ってゴルジ体と神経突起内のSytIVが増加する事が示された。成熟した海馬初代培養細胞では通常anti-SytIVで神経突起内のSytIVを検出できなかったが、フォルスコリン刺激によって神経突起内の小胞又は小器官上でSytIVが顕著に増加する事が示された。 以上、本論丈でSytIVはゴルジ体と神経突起内の小胞又は小器官に局在することが明らかになった。ゴルジ体は細胞にとって基本的な細胞内小器官である。SytIとは共在しないことから、SytIVはシナプス小胞と有芯小胞以外に存在する初めての神経特異的シナプトタグミンアイソフォームである事が示された。高カリウム及びフォルスコリン刺激によるSytIVの増加にはプロテインキナーゼAが関与していた事から、SytIVはプロテインキナーゼAもしくはcAMP依存的であると考えられている長期的な神経の可塑的変化に関与している可能性が考えられる。本研究は、神経活動依存的に調節される細胞内膜輸送の役割の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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