学位論文要旨



No 116356
著者(漢字)
著者(英字) BENGULESCU,RADU
著者(カナ) ベングレッスク,ラドゥ
標題(和) 診療所における電子カルテのためのJAVAとXMLを用いた新しいシステム設計に関する研究
標題(洋) A New System Design using Java and XML for the Document-based Computerized Patient Record in General Practice
報告番号 116356
報告番号 甲16356
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1751号
研究科 医学系研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大橋,靖雄
 東京大学 助教授 馬場,一憲
 東京大学 助教授 五十嵐,徹也
 東京大学 講師 山脇,昌
 東京大学 講師 佐藤,元
内容要旨
審査要旨 要旨を表示する

本研究の目的は、ルーマニアの開業医が利用できる最新で安価なプログラミング技術を利用した柔軟な電子カルテを開発することである。それに伴い、開業医用電子カルテの実装方法としてドキュメントマークアップ言語とJavaプログラミング言語の可用性を検討、評価し、以下の結果を得ている。

ルーマニアの開業医が診療業務プロセスを行う際のモデルを分析し、それにもとづいて我々はその領域を記述する主たるオブジェクト群とそれらの相互関係から構成された高レベルなオブジェクト指向モデルを構築した。次にXMLレコードの論理的構造を記述する文書型定義(DTD)を作成し、これらオブジェクトとそれらの関係をDTDの要素と属性にマップした。XML(eXtensible Markup Language)レコード内部の要素の内容と属性値に関する処理はJavaによって記述された文書型照合パーサを用い、文書オブジェクトモデル(DOM)を操作することによって行った。ここで、問い合わせはXQL(extended Query Language)によって実行され、画面への整形表示はXSL(eXtended Stylesheets Language)スタイルシートによって行う方法を用いた。また電子カルテのアプリケーションは、ユーザーインターフェイス部はSwingコンポーネントを用い、ビジネスロジックとXMLプロセス部分はJava Beansを用いて、いずれも完全にJavaのみで記述されている。

アプリケーションは幾つかのモジュールから構成される。これらモジュールはすべてが独立なJava Beansであり、これらが一連のXML文書(患者レコード、診断リスト、患者受診リスト)に対して作用することにより、相互に通信を行う。メインモジュールはデータ入力を受け持ち、各要素と属性の内容を更新するGUIコンポーネントから成る。個々のXML文書はアクセス時間の記録を持ち、同時に識別属性を持つ。このため、時間に関連したレコードの問い合わせを行うことができる。ユーザーは個々のレコード要素に対して適切なビュー属性(現状概観、投薬情報、退院時メモなど)を選択することにより、表示されるデータをビューごとに別々に定義することができる。診断コードは、ICPC(International Classification for Primary Care)コードをXMLファイルから読み込み、これを患者ごとに固有なXMLリストに転送する特別なモジュールを通じて実行される。 この診断リストは個々の受診時に更新される。

診療データの保存フォーマットとしてXMLそのものを利用した取り組みは、他の事例ではわずかに2件を認めたのみである。そのどちらも、プラットフォームに依存した技術を利用しており、かつXML文書に対して直接に更新を行えるものではなく、他の文書をXML形式に変換する形態のものである。我々はまた、HL7の電子カルテ(PRA)モデルの可用性に関しても検討したが、異なるDTDを採用しているにもかかわらず、PRAのモデルフォームを用いることにより、我々が使用しているほとんどの要素はPRAにマップすることができる。

我々の方法のキーポイントは、DTD構造のデザインとアプリケーションアーキテクチャの両者に関連する。DTD構造のデザインとは、例えば各要素の階層構造が「問題点-診療エピソード-受診」構造にマップされることや、ユーザー定義ビューにおける属性選択機構であり、アプリケーション構造とは、DOMノードの操作を通じてモジュール群が統合され、要素と属性内容の修正を通じてデータ入力が行われることを指す。我々はこのアーキテクチャが柔軟で、実装や維持が容易であり、プラットフォームやOSに依存せず、パブリックドメインとして使用できるため費用効率が高いことなどにおいて優位であることを強調する。これは現在のXML標準の仕様と、実装時に使用可能であったXML/XQLツールに関連する。例えばXML文書が大きいとXMLパーサーの処理速度は低下する。そのため、ひとつのプロブレムに対して単一のレコードを使う代わりに、それを患者受診ごとに別々のファイルに分割せざるを得なかった。また、我々が使用したXQLツールは複数ファイルに対する検索を同時に行うことができないため、検索を行う際にはそれらを一時フォルダに保存しなくてはならなかったことなどである。

以上、本論文はXMLマークアップとJavaの技術を利用することによって、患者記録を電子カルテとして実装する、柔軟で安価かつ十分に実現可能な方法を提案するものであり、学位を授与するに値するものと考えられる。

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