学位論文要旨



No 116365
著者(漢字) 米倉,克紀
著者(英字)
著者(カナ) ヨネクラ,カツノリ
標題(和) ポジトロンCTによる骨格筋糖代謝率の臨床的評価
標題(洋) Clinical Evaluation of Skeletal Muscle Glucose Utilization Rate with Positron Emission Tomography
報告番号 116365
報告番号 甲16365
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1760号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大友,邦
 東京大学 助教授 後藤,淳郎
 東京大学 助教授 川久保,清
 東京大学 講師 竹中,克
 東京大学 講師 門脇,孝
内容要旨 要旨を表示する

研究1. 大腿部骨格筋糖代謝率は、動脈採血なしで測定することが可能である。

背景 最近インスリン抵抗性が、虚血性心疾患発病に強く寄与することが示唆され、その重要性が強く認識されてきている。インスリン抵抗性には、骨格筋糖代謝率(skeletal muscle glucose utilization rate;SMGUR)の低下、末梢血流量の低下、肝臓における糖新生の亢進、血漿中の遊離脂肪酸濃度の増加などの因子が関与しているが、SMGURの低下が臨床的に最も重要であると考えられている。従来からSMGURの測定は、[18F]2-fluoro-2-deoxy-D-glucose (18FDG) PETを用いて行われているが、頻回の動脈血採血を必用とするパトラック法により計算をしており手技が繁雑であることなどから、一部の施設のみで検査が行われているのが現状である。そこで我々は、心筋糖代謝率を計算するときに使用されている下行大動脈のtime-activity curveと静脈血採血のデータから得られた入力関数を用いる方法を応用することによりSMGUR測定法の簡便化が可能であるかどうかを検討することにした。

方法と結果 対象は、糖尿病4人、高脂血症2人、両者の混合型4人、高血圧症1人の計11人(男性8人、女性3人)である。インスリンクランプ下で血糖値を100mg/dl程度に安定させた後、大腿部18FDG PET撮像を60分45秒施行した。入力関数は動脈採血のデータから求め、パトラック法により大腿部SMGUR-Aを求めた。また、これと同時に、下行大動脈のtime-activity curveと静脈血採血のデータから得られた入力関数のanalogueとして後半の7点、4点、3点を静脈採血から得られたデータで置換した入力関数を利用した大腿部骨格筋糖代謝率(各々SMGUR-V7,SMGUR-V4,SMGUR-V3)、撮像開始後45分45秒と60分45秒の骨格筋・静脈血比(各々SMGUR-M/B45,SMGUR-M/B60)、standardized uptake value(各々SMGUR-SUV45,SMGUR-SUV60)を求め、パトラック法から得られた値と比較し、相関係数を求めた。大腿部SMGUR-V7(0.047±0.031μmol/min/g)・V4(0.045±0.030μmol/min/g)・V3(0.045±0.029μmol/min/g)は全て大腿部SMGUR-A(0.049±0.029μmol/min/g)と有意な相関を認めた(各々r=0.995,p<0.0001・r=0.997,p<0.00Ol・r=0.992,p<0.0001)。さらに、大腿部SMGUR-M/B45・M/B60は、各々大腿部SMGUR-Aと有意な相関関係を示した(各々r=0.758,p=0.0069・r=0.696,p=0.Ol74)。また、大腿部SMGUR-SUV45(r=0.839,p=0.0012)・SUV60(r=0.838,p=0.0013)も各々大腿部SMGUR-Aと有意な相関を示した。

結論 大腿部SMGUR-V系列は大腿部SMGUR-Aとの相関が高く、下行大動脈のtime-activity curveと静脈採血のデータを組み合わせた入力関数を使用すれば動脈採血をしなくても大腿部SMGURの測定が可能であること、さらに静脈採血の回数を少なくできる可能性が示された。SMGUR-M/B・SUVはこれに比べると精度は落ちるものの、動脈採血が不要なこと、18FDG PETのダイナミック撮像が不要なこと、撮像時間の短縮が可能なことから実用性が高いと考えられた。

研究2. 背部骨格筋糖代謝率は、大腿部骨格筋糖代謝率と同等に全身のインスリン抵抗性評価に有用である。

背景 研究1において大腿部SMGURは動脈採血なしで測定できることが示された。もし、胸部18FDG PET 撮像において、同部位に存在する骨格筋、例えば固有背筋、を利用できれば背部SMGURの測定が可能になると思われる。しかし、大腿部と背部のSMGURの相異点、特に全身のインスリン抵抗性との関連については明らかにされていない。そこで、研究2では、背部SMGUR、大腿部SMGUR、インスリンクランプ法から求めた全身糖利用率(Whole-body glucose uptake;WBGU)を比較し、背部SMGURがインスリン抵抗性の指標として使用可能かどうかを検討した。さらに、インスリン感受性改善薬であるトログリタゾンによるWBGU・SMGURの変化をインスリン非依存性糖尿病(NlDDM)患者において検討し、in vivoにおける同薬品の作用を観察することとした。

方法と結果 インスリンクランプ下に37分間の胸部18FDG PET 撮像と22分間の大腿部18FDG PET 撮像を34人の冠危険因子をもつ患者群に施行した。同様に、17人のNIDDM群のトログリタゾンによる治療前後、そして12人の年齢を一致させた健常群の撮像も行った。固有背筋の同定は、CTやMRIの画像を参考にして行われた。背部・大腿部SMGURを計算し、WBGUと比較することにより各々の相関関係を求めた。また、背部・大腿部SMGUR-M/B、SMGUR-SUVの計算も行った。背部SMGUR(0.0697±0.0336μmol/min/g)と大腿部SMGUR(0.0567±0.0416μmol/min/g)は有意な相関を示し(r=0.620,p<0.0001)、さらに両者ともWBGUと有意に相関していた(各々,r=0.610,p=0.00O1・r=0.713,p<0.0001〉背部SMGUR-M/BとWBGU(r=0.746,p<0.00O1)・背部SMGUR(r=0.708,p<0.0001)は各々有意な相関を示した。大腿部SMGUR-M/BもまたWBGU(r=0.810,p<0.0001)・大腿部SMGUR(r=0.875,p<0.0001)と各々相関していた。背部・大腿部SMGUR-SUVについても同様にWBGU(各々r=0.495,p=0.0029・r=0.697,p<0.0001)、背部・大腿部SMGUR(各々r=0.543,p=0.0009・r=0.793,p<0.0001)と各々有意に相関していた。さらに、NDDM群では、WBGU(19.89±9.83μmol/min/kg)は健常群(55.56±16.50μmol/min/kg)に比較して有意に低下し(p<0.Ol)、背部SMGURも同様の結果を示した(MIDDM群0.0328±0.0217μmol/min/g,健常群0.0828±0.0483mg/min/100g,p〈0.O1)。治療後,WBGUと背部SMGURは有意な改善を示した(各々29.33±14.56μmol/min/kg,p<0.05・0.0506±0.0211μmol/min/g,p<0.05)。

結論 背部SMGURは、大腿部SMGURと比較するとWBGUとの相関は弱い傾向があるものの、インスリン抵抗性の指標として使用可能であること、背部・大腿部SMGUR-M/Bは、簡便なインスリン抵抗性の指標として有望であることが示された。さらに、トログリタゾン治療によりNIDDM患者において、SMGURの改善とともにWBGUも改善することを臨床的に確認することができた。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は、虚血性心疾患発病に強く寄与することが示唆されるインスリン抵抗性に関連して、ポジトロンCT(PET)を用いて骨格筋糖代謝率(skeletal muscle glucose utilization rate;SMGUR)の解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。

1. 大腿部骨格筋糖代謝率は、動脈採血なしで測定 することが可能である。

従来からSMGURの測定は、[18F]2-fluoro-2-deoxy-D-glucose(18FDG) PETを用いて行われているが、頻回の動脈血採血を必用とするパトラック法により計算をしており手技が繁雑であることなどから、一部の施設のみで検査が行われているのが現状である。そこで我々は、心筋糖代謝率を計算するときに使用されている下行大動脈のtime-activity curveと静脈血採血のデータから得られた入力関数を用いる方法を応用することによりSMGUR測定法の簡便化が可能であるかどうかを検討し、下行大動脈のtime-activity curveと静脈採血のデータを組み合わせた入力関数を使用すれば動脈採血をしなくても大腿部SMGURの測定が可能であることが示された。

2. 背部骨格筋糖代謝率は、大腿部骨格筋糖代謝率と同等に全身のインスリン抵抗性評価に有用である。

胸部18FDG PET撮像において、同部位に存在する骨格筋、例えば固有背筋、を利用できれば背部SMGURの測定が可能になると思われる。しかし、大腿部と背部のSMGURの相異点、特に全身のインスリン抵抗性との関連については明らかにされていない。そこで、背部SMGUR、大腿部SMGUR、インスリンクランプ法から求めた全身糖利用率(whole-body glucose uptake;WBGU)を比較し、背部SMGURがインスリン抵抗性の指標として使用可能かどうかを検討し、背部SMGURは、大腿部SMGURと比較するとWBGUとの相関は弱い傾向があるものの、インスリン抵抗性の指標として使用可能であることが示された。

3. トログリタゾンによる治療効果の確認

 インスリン感受性改善薬であるトログリタゾンによるWBGU・SMGURの変化をインスリン非依存性糖尿病(NIDDM)患者において検討し、in vivoにおける同薬品の作用を観察した。その結果,SMGURの改善とともにWBGUも改善することを臨床的に確認することができた。 以上,本論文はPETによる骨格筋糖代謝率の測定によりインスリン抵抗性をin vivoで確認できることを初めて示したものであり、学位の授与に値するものと考えられる。

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