学位論文要旨



No 116366
著者(漢字) 金田,秀昭
著者(英字)
著者(カナ) カネダ,ヒデアキ
標題(和) 日本人におけるヘムオキシゲナーゼ-1のプロモーター部位の遺伝子多型と冠動脈疾患
標題(洋) Association of home oxygenase-1 gene promoter polymorphism with coronary artery disease in Japanese patlents
報告番号 116366
報告番号 甲16366
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1761号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大内,尉義
 東京大学 教授 木村,哲
 東京大学 助教授 重松,宏
 東京大学 助教授 後藤,淳郎
 東京大学 講師 平田,恭信
内容要旨 要旨を表示する

【背景】ヘムオキシゲナーゼ(HO)はヘムをビリベルジンと一酸化炭素と鉄イオンに変換する酵素でビリベルジンはビリルビンに還元される。誘導型のHO-1は酸化ストレスに対する防御機構の一つとして知られ、ビリルビンと一酸化炭素は動脈硬化を防ぐ機構として重要であるとされている。HO-1はプロモーター部位に遺伝子多型(GT repeat)を認める。その遺伝子多型が喫煙者の肺気腫の発症と関連し更にGT repeatの数が転写活性と関連することが報告された(Yamada,Am J Hum Genet,2000)。即ちGT reprat数が少ない遺伝子では多いものより酸化ストレスによる転写活性が有意に高い。HO-1遺伝子の発現がプロモーター部位のGT repeatの数により影響されるなら、その遺伝子多型が酸化ストレスの関連する冠動脈疾患に関連すると考えられる。

【方法結果】冠動脈造影を行った577例に対しHO-1のプロモーター部位のGT repeat数を32Pを使用したPCR法で測定した。主要冠動脈にAHA分類で75%以上の狭窄を認めるものを冠動脈疾患とした。冠動脈疾患を持たない群を第1群、以外を第2群と定義した。GT repeat数の分布は二峰性であり、repeat数が24以下をS群、25以上をL群とした。全体の第1群、第2群間ではGT repeat数の分布に差を認めなかったが、高脂血症患者(図1、表1)や糖尿病患者(図2,表2)においては第2群と比較し第1群でS群が多い傾向があった。

通常の冠動脈危険因子を含めた多変量解析では高脂血症患者(表3)や糖尿病患者(表4)においてはHO-1のプロモーター部位の遺伝子多型は冠動脈疾患に有意に関連した。

【考察結論】高脂血症は酸化ストレスの増加する病態であり過酸化脂質を増加させる。酸化LDLはサイトカイン、成長因子の生成等を通じ動脈硬化の原因の中心とされている。糖尿病も高血糖に伴う過剰な酸化ストレスが動脈硬化につながるとされている。今回の研究では、酸化ストレスに対する防御機構の一つであるHO-1のプロモーター部位の遺伝子多型が高脂血症患者や糖尿病患者の冠動脈疾患と関連した。即ち当部位のGT repeat数の少ない患者群に冠動脈疾患の発症が少なかった。以前報告されたGT repeat数が少ない遺伝子では酸化ストレスによる転写活性が高いことと併せて、GT repeat数の少ない患者群ではHO-1の誘導が増加し動脈硬化の抑制に働いた可能性が示唆された。

図1 HO-1遺伝子のプロモーター部位のGT repeat数の分布(高脂血症患者)

表1 高脂血症患者の遺伝子型の分布

図2 HO-1遺伝子のプロモーター部位のGT repeat数の分布(糖尿病患者)

表2 糖尿病患者の遺伝子型の分布

表3 高脂血症患者の冠動脈疾患に対する多変量解析

表4 糖尿病患者の冠動脈疾患に対する多変量解析

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は冠動脈疾患の発症における酸化ストレスの役割を調べるため、酸化ストレスに対する防御機構の一つとして知られている酵素であるヘムオキシゲナーゼ(HO)の遺伝子多型と冠動脈疾患の発症の関連を調べたもので、下記の結果を得ている。

 32Pを使用したPCR法でHO-1のプロモーター部位のGT repeat数を測定した。GT repeat数の分布は二峰性であり二群に分類し、冠動脈疾患の発症との関連を調べたところ、全患者では関連を認めなかったが、高脂血症患者または糖尿病患者においてはHO-1のプロモーター部位の遺伝子多型は冠動脈疾患の発症と関連した。通常の冠危険因子である年齢、性別、高脂血症、糖尿病、高血圧、喫煙を含めた多変量解析でHO-1のプロモーター部位の遺伝子多型は独立した危険因子と示された。以前の研究で酸化ストレスによる転写活性が有意に高い、即ち酸化ストレスに対し防御的と示されたGT repeat数が少ない遺伝子を持つ群では冠動脈疾患の発症は少なかった。以上より酸化ストレスが冠動脈疾患の発症に重要な役割を果たしている事が示唆された。

 以上、本論文は酸化ストレスに対する防御機構の一つであるHO-1のプロモーター部位の遺伝子多型が高脂血症患者や糖尿病患者の冠動脈疾患の発症と関連する事を明らかにした。本研究は冠動脈疾患の発症における酸化ストレスの重要な役割を示唆した点で、今後の冠動脈疾患の診断、治療、予防に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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