学位論文要旨



No 116375
著者(漢字) William,Rengifo
著者(英字)
著者(カナ) ウィリアム,レンヒフォ
標題(和) 大腸癌におけるC-terminal Src Kinase (CSK) 活性とpp60c-src活性の逆相関
標題(洋) Reduced C-terminal Src Kinase (CSK) Activity is inversely correlated with pp60c-src activity in Colorectal Cancer
報告番号 116375
報告番号 甲16375
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1770号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 名川,弘一
 東京大学 教授 上西,紀夫
 東京大学 助教授 真船,健一
 東京大学 助教授 岡崎,具樹
 東京大学 助教授 北村,聖
内容要旨 要旨を表示する

はじめに

 Srcファミリータンパクのキナーゼ活性はチロシンキナーゼ残基のリン酸化と脱リン酸化によって調節されている。このチロシンキナーゼ残基は(末端の近くにあり、humanのpp60c-srcの場合はチロシン530に相当する。

最近の知見では、Csk(C-terminal Src kinase)は細胞室のチロシンキナーゼタンパクであり、in vitroでSrcファミリーゼをチロシンキナーゼ不活性化する。Cskは特異的にpp60C-Srcのチロシン530をリン酸化することにより、キナーゼ活性を抑制する。

大腸癌ではpp60c-srcのキナーゼ活性が高いということが示されているが、チロシンキナーゼ活性が高い理由は明らかではない。

対象

大腸癌患者とcell lineにおけるCskとpp60c-srcの活性の状況を決定する。

方法

 臨床検体は手術中に得られた24検体(男性11検体、女性13検体で平均年齢は66±9歳で47歳から79歳であった。)

大腸癌のcell line、LoVo,LS-174-T,HCT 116,HT 29,HCT 15,SW48,SW837とWiDrを検討して、正常のCCD 841Conと比較した。pp60c-src,pp60c-src[pY530]とCSkのWeStern blotを特異的な抗体を用いて行った。

キナーゼ活性の測定

a)pp60c-src活性。免疫沈降のpp60c-srcキナーゼのphosphotransferase活性をアッセイキットを用いて測定した。そのキットはpp60c-scrの特異的なsubstrate peptide(KVEKIGEGTYGWYK)のリン酸化を測定する。

b)Csk活性。免疫沈降されたタンパクはpolyaminoacids, poly(Glu,Tyr)とincubationして、SDS-PAGE(sodiumduodecyl sulphate-polyacrylamide gel electrophoresis)で電気泳動し、レントゲンまたはBAS2000で解析した。

結果

大腸癌の臨床検体

-pp60c-srcタンパク:24検体のpp60c-srcタンパクの平均レベルは、近くの正常粘膜と比較して2.6±0.13倍に上昇した。

-pp60c-src活性:大腸癌のpp60C-Src活性は、近くの正常粘膜と比較して7.8±0.55倍に上昇した。

ヒト大腸癌の特異的なpp60C-Srcキナーゼ活性(全pp60c-scrキナーゼ活性/pp60c-scrタンパク量)は正常粘膜と比較して3.04倍高かった。-PP60C-Srcのリン酸化:癌組織におけるPP60C-Scrのリン酸化の平均値は、正常粘膜と比較して低かった(relative ratio 0.50±0.08)。-Cskタンパク:腫瘍組織のCskタンパクの平均レベルは、近くの正常粘膜と比較して低かった(0.53±0.08倍)。

-Csk活性:腫瘍におけるP32のpoly(Glu,Tyr)への取り込み率は、近くの正常粘膜と比較して低かった(0.53±0.09倍)。

Csk活性は8検体(33%)では著しい低下(正常粘膜と比較して20%以下)が見られ、7検体(29%)では低下(正常粘膜と比較して20%から60%)が見られた。9検体(38%)では正常粘膜と比較して有意な変化はなかった。

CSkとpp60c-srcの相関:Csk活性はCskタンパク量と相関して(r=0.96,P<0.001)、pp60c-srcのリン酸化レベルにも相関した(r=0.96,P<0.0001)。しかし、臨床検体の大腸癌のCskキナーゼ活性とpp60c-srcキナーゼ活性は逆相関した(r=-0.71,P<0.0001)。

臨床ステージの評価:Dukes Cの臨床検体のCsk活性はDukesBと比較して有意差はなかった。または、lympho-meta“+“の臨床検体のCsk活性はlympho-meta“-“と比較して有意差もなかった。

大腸癌のcell line

-pp60c-srcタンパク:pp60c-srcタンパクの平均レベルはCCD 841 CoNと比較して1.86±0.28倍に上昇した。

-pp60c-src活性:pp60c-src活性は、正常の大腸上皮のcell lineであるCCD 841 CoNと比較して、すべての大腸癌のcell lineでは7.39±1.22倍に上昇していた。

-PP60c-srcのリン酸化:大腸癌のcell lineにおけるPP60c-srcのリン酸化においては、正常の大腸上皮のcell lineであるCCD 841 CoNと比較して、0.41±0.15倍と低かった。

-Cskタンパク:Cskタンパクの平均レベルは、正常の大腸上皮のcell lineであるCCD 841 CoNと比較して、0.54±0.13倍と低かった。

-Csk活性:Csk活性の平均レベルは、正常の大腸上皮のcell lineであるCCD 841 CoNと比較して、0.52±0.11倍と低かった。

考察

これまで大腸癌ではpp60c-srcキナーゼ活性の上昇が報告されている。これらの組織でpp60c-srcキナーゼ活性が上昇するメカニズムはいまだ分かっていない。ヒトの大腸癌では、pp60c-srcの特異的な活性の平均値が、正常の大腸粘膜組織と比較して3倍高値であった。大腸癌におけるpp60c-srcのキナーゼ活性は、pp60c-srcタンパクの発現増加だけでなく、pp60c-src固有の活性増加でも説明できる。

また、ヒトの癌に関して、我々が報告した肝細胞癌以外では、Cskの役割が明らかになっていない。

我々の実験では、大腸癌の60%でCskのチロシンキナーゼ活性が減少していた。さらにCskタンパク発現は、大腸癌のcell linesにおいても減少していた(LoVo,LS174-T,HCT 116,HCT 15,とWiDr)。これまでCsk活性がどのように調節されているか明らかではなかった。ヒト大腸癌組織を用いた実験の結果は,Csk活性は、Csk蛋白量と相関していた。一方、Cskキナーゼ活性は、pp60C-Srcリン酸化と相関していた。しかしpp60c-srcのキナーゼ活性は、Cskキナーゼ活性と逆相関していた。Csk活性減少はpp60c-src活性を増加させ、大腸癌の発癌過程と深く関与している可能性がある。

このことは、pp60c-srcの活性を制御するうえで、Cskが重要な役割を果たしていることを示している。

結論

Cskタンパクとそのキナーゼ活性は60%の大腸癌で低下しており、pp60c-srcキナーゼ活性のレベルとは逆相関があることが分かった。

審査要旨 要旨を表示する

 この研究ではCskとSrcのタンパクレベル、或いはキナーゼ活性を大腸癌の臨床検体と大腸癌のcell lineで測定して、近くの正常粘膜と正常の大腸上皮のcell lineであるCCD841CoNと比較した。加えて、癌組織と大腸癌のcell lineのpp60c-srcのリン酸化も測定した。キナーゼ活性とwestern blotの実験を行い、以下の結果を得た。

1)pp60c-srcタンパク:大腸癌の臨床検体24個のpp60c-srcタンパクの平均レベルは、近くの正常粘膜と比較して2.6±0.13倍に上昇した。大腸癌のcell lineではpp60c-srcタンパクの平均レベルはCCD 841 CoNと比較して1.86±0.28倍に上昇した。

2)pp60c-src血活性:大腸癌の臨床検体24個のpp60c-src活性は、近くの正常粘膜と比較して7.8±0.55倍に上昇した。ヒト大腸癌に特異的なpp60c-srcキナーゼ活性(全pp60c-srcキナーゼ活性/pp60c-srcタンパク量)は正常粘膜と比較して3.04倍高かった。大腸癌のcell lineではpp60c-src活性は、正常の大腸上皮のcell lineであるCCD 841 CoNと比較して、すべての大腸癌のcell lineでは7.39±1.22倍に上昇していた。

3)pp60c-srcのリン酸化:癌組織におけるpp60c-srcのリン酸化の平均値は、正常粘膜と比較して低かった(relative ratio O.50±0.08)。大腸癌のcell lineにおけるPP60c-srcのリン酸化においては、正常の大腸上皮のcell lineであるCCD 841 CoNと比較して、0.41±0.15倍と低かった。

4)Cskタンパク:腫瘍組織のCskタンパクの平均レベルは、近くの正常粘膜と比較して低かった(0.53±0.08倍)。大腸癌のcell lineではCskタンパクの平均レベルは、正常の大腸上皮のcell lineであるCCD 841 CoNと比較して、0.54±0.13倍と低かった。

5)Csk活性:腫瘍におけるP32のpoly(Glu,Tyr)への取り込み率は、近くの正常粘膜と比較して低かった(0.53±0.09倍)。Csk活性は8検体(33%)では著しい低下(正常粘膜と比較して20%以下)が見られ、7検体(29%)では低下(正常粘膜と比較して20%から60%)が見られた。9検体(38%)では正常粘膜と比較して有意な変化はなかった。大腸癌のcell lineではCsk活性の平均レベルは、正常の大腸上皮のcell lineであるCCD 841 CoNと比較して、0.52±0.11倍と低かった。

6)Cskとpp60c-srcおの相関:Csk活性はCskタンパク量と相関し(r=0.96,P<0.0001)、pp60c-srcのリン酸化レベルにも相関した(r=0.96,P<0.0001)。しかし、臨床検体の大腸癌のCskキナーゼ活性とpp60c-srcキナーゼ活性は逆相関した(r=-0.71,P<0.0001)。

以上、この研究ではCskタンパクとそのキナーゼ活性は60%の大腸癌で低下しており、pp60c-srcキナーゼ活性のレベルとは逆相関があることが明らかになったことにより、学位の授与に値するものと考えられる。

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