学位論文要旨



No 116393
著者(漢字) 正田,絵里子
著者(英字)
著者(カナ) ショウダ,エリコ
標題(和) 慢性骨髄単球性白血病由来CD34陽性細胞株の樹立と樹状細胞への分化
標題(洋)
報告番号 116393
報告番号 甲16393
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1788号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 中原,一彦
 東京大学 助教授 北村,聖
 東京大学 講師 楠,進
 東京大学 講師 林,泰秀
 東京大学 講師 本田,善一郎
内容要旨 要旨を表示する

 慢性骨髄単球性白血病(CMML)骨髄異形成症候群(MDS)の一型で、MDSは多能性幹細胞のクローン増殖による疾患である。従ってMDSにおける血球異常は各系統にみられる。感染症はMDS患者に頻繁にみられ、死因の約35%を占める。易感染性は好中球減少と好中球機能異常がその主な原因であると考えられているが、単球系の機能異常が関与しているという見方もある。しかしMDSにおける単球・マクロファージ系の機能異常についてはほとんど報告がない。

 マクロファージ(MΦ)は貧食、殺菌、抗原提示、腫瘍細胞傷害、分泌、骨の形成と吸収、脂質の代謝作用など多様な機能を持ち、生体の防御機能や恒常性の維持に重要な役割を担っている。これら全身に存在するすべてのMΦは骨髄内の前駆細胞から分化成熟した血中単球(Mo)に由来すると考えられている。

 ヒトMoを granulocyte-macrophage colony-stimulating factor(GM-CSF)やmacrophage colony-stimulating factor(M-CSF)存在下で培養すると、MΦへの分化が誘導される。GM-CSFとM-CSFで誘導されたMΦ(それぞれGM-MΦ、M-MΦと称す)は形態や細胞表面抗原の発現が異なる。GM-MΦはヒト肺胞MΦと形質が似ており、一方M-MΦはその形質からヒトの腹腔MΦに似ている。また樹状細胞(DC)は抗原提示のプロフェツショナル細胞として免疫応答に重要な細胞である。とくに一次免疫応答におけるT細胞活性化はDCのみで誘導され、MΦやB細胞では誘導されない。ヒトMoをGM-CSFとinterleukin-4(IL-4)共存下で培養すると、DCの分化が誘導される。この細胞は細胞突起を有する浮遊性の細胞で、骨髄球系DCに特徴的であるCDlaを強く発現している。

 さらに単核のMoやMΦが融合して形成される多核巨細胞はさまざまな感染、異物反応、癌、サルコイドーシス、リウマチなどの炎症の場や骨吸収にかかわる破骨細胞として存在する。ヒトMoをM-CSFとIL-4共存下に培養すると2〜3核から10数個の核を有する多核巨細胞(MGC)が形成されることがわかっている。

 ヒトMoは分化能において柔軟性のある細胞であり、種々の炎症の場で形質の異なるMΦ、DC、あるいはMGCに分化し免疫応答の調節や病態の発現にかかわっている。第一部ではCMML-Moについて、その分化能や機能について調べる。

 MDSは後に高率に白血病化することが知られている。その多くは骨髄性白血病であるが、骨髄性白血病は骨髄球系分化過程の早い段階で分化が止まっているものと定義されている。近年正常なDCの分化過程がわかってきて、DCとMoはmonocyte-DC colony-forming unit(mono-DC-CFU)と呼ばれる前駆細胞からGM-CSFとtumor necrosis factor-α(TNFα)の影響下で分化することが証明された。また白血病細胞からDCができることが知られるようになり、白血病細胞由来DCは通常のDCと同様の形質と機能を有し、同種丁細胞の活性化だけでなく自己丁細胞を活性化して細胞障害活性を誘導できることがわかり、腫瘍免疫療法の開発に役立つものと期待されている。さらにCD34+白血病細胞からのDCへの誘導や細胞株の樹立により、DCの免疫における機能や骨髄球系分化の早い段階でのDC前駆細胞の追求と、このDC前駆細胞から最終分化段階に至る経路を詳細に解析できる可能性がある。

 今回mono-DC-CFUと同様の方法でCD34+白血病細胞から白血病細胞由来DCを得ることができた。そしてこのCD34+白血病細胞から細胞株を樹立することに成功した。第二部ではCMML経過中に白血病化した患者のCD34+白血病細胞から樹立した細胞株を用いて、白血病細胞および細胞株のDCへの分化について検討する。

1.CMMLのMo/MΦ系細胞の分化や機能について

 末梢血から単核球(PBMC)を分離し、磁気細胞分離システム(MACS)でCD14ポジティブセレクションをしてMoを分離した。CMML-Moの細胞表面抗原の発現は、正常Moと同様にCD13、CD33、HLA-DR、FcγR I、FcγR IIを認めた。しかし正常Moでは約10%程度FcγR皿(CDl6)が発現しているが、このCMML-MoはFcγRIIIがほとんど発現していなかった。CD14+/CDl6+Moはより分化した形質を有しているといわれており、従ってCMML-Moは未分化な細胞といえる。CMML-Moは正常Moと同様にMΦやDCに分化したが、MGC形成は全く認めなかった。また分化したMΦも正常のそれと形態が大きく異なっていた。CMMLの場合異常クローン由来であること、それによるサイトカイン産生の違いや産生量の多少が影響を及ぼしている可能性がある。

 MΦの細胞表面抗原は、CMML-M-MΦは正常M-MΦと同様HLA-DR+CD14+だが正常と異なりCD71が発現し、CMML-GM-MΦは正常と異なりCDl4の発現が高い。両MΦとも正常MΦと比べてFcγレセプター(FcγR)の発現が異なり、両MΦでFcγR Iの発現が弱く、FcγR IIIの発現がほとんど認められなかった。しかしFcγRが不完全であるにもかかわらず、感作ヒツジ赤血球の貧食が認められFcγR相互の役割を示唆するものと考えられる。

 Mo/MΦの感染防御に対して重要なエフェクター分子である活性酸素(02)産生能をPMAとzymosan刺激で調べた。正常MoではPMA優位のQ2産生を認めたが、CMML-Moは産生が低く、M-MΦは正常でもMoより産生は低いが、CMML-M-MΦではほとんど認めなかった。このO2産生は細胞内蛋白のp47phoxとp67phoxに依存しているので、これらをWesten blot analysisでMoとM-MΦについて調べたところ正常、CMMLとも検出された。CMMLの02産生障害は個体差もあるが、NADPHoxidaseを構成する他の分子の欠損や活性化シグナルの異常が考えられる。

 DCの細胞表面抗原の発現は正常DCとCMML-DCでほとんど変化がなく、その大部分がCDla+、HLA-DR+で、共刺激分子のCD80やCD86陽性、正常DCと同様T細胞を活性化した。正常CDl4+MoのうちCD2+のもの(約3分の1)がDCに分化することが知られている。CMML-MoはそのほとんどがCD2+でDC前駆細胞といえる。

2.白血病細胞のDCへの分化と細胞株の樹立

 白血病細胞がCD34陽性であることを利用して、PBMCをMACSでCD34ポジティブセレクションした。CD34陽性白血病細胞はそのほとんどがc-kit+で多能性幹細胞としての形質を有したが、同時にHLA-DR、CD71、CD38、CD33、CD13も発現し骨髄球系へのコミットメントを示した。骨髄球系DCに発現するCDlaは陰性で、また幼若細胞に発現しているCD7は陽性、ヒト末梢血のDC前駆細胞の抗原といわれるCLA(cutaneous lymphocyte-associated antigen)やCD11c、CD11bは陽性で前駆細胞の形質を有していると考えられた。

 この白血病細胞をGM-CSFとTNFα共存下にDCへ分化誘導した。14日後に得られたDCは培養開始時の20〜35%だった。このDCはHLA-DR、CDlaが強発現し、CD80、CD86、CD40、CD54、CD83、E-cadherinおよびランゲルハンス細胞のBirbeck穎粒に反応するLag抗体も陽性だった。

 次にこの白血病細胞を細胞株を樹立する目的で様々なサイトカインを添加して培養したが増殖しなかった。このためこの白血病細胞をOP9をストローマ細胞として共培養した。この際サイトカイン無添加のものと、GM-CSFを添加した条件で培養を開始した。増殖した細胞を限界希釈法で11週後に細胞株を得た。これらの細胞の形態はサイトカイン無添加の細胞が円形〜涙形で、GM-CSF添加の細胞の方がやや大きく円形であった。二倍増殖時間はそれぞれ130時間、144時間だった。ごの細胞株はもとの白血病細胞と同様にCD34、c-kit、HLA-DR、CD71、CLAの発現は保持されているものの、CD38、CDllcは陰性化した。これらの結果より樹立した細胞株はもとの白血病細胞と比較した場合分化段階が若干違ってきていると考えられた。

 しかしこれらの細胞株はもとの白血病細胞と同じ分化誘導条件でDCに分化した。どちらの細胞株も分化誘導開始時の細胞より得られたDCの方が少なく、他の細胞は死んでいた。すなわちこの細胞株の中のある-群がDCの前駆細胞であることが予想された。

 現在までにDCの前駆細胞はマウスでc-kit+骨髄造血前駆細胞、ヒトで末梢血のCD34+CLA+細胞、CD34+33+11b+14-細胞、CD1a+CD11c+細胞、ヒト骨髄中のCD34+86+細胞などが知られている。今回樹立した細胞株からはCD7+分画よりもCD7-分画からより多くのDCが得られることがわかった。

 またstem cell factorやFlt3/flk2-ligandはGM-CSFとTNF-αによるDCの分化誘導を増強し、TGFβ-1がランゲルハンスDCへの分化誘導に重要な役割を担うことが示されている。今後DC前駆細胞を細胞表面抗原で分画し限定していく作業やサイトカイン付加条件を変えていくことにより、大量のDCを得る方法およびDC分化の分子機構を検討する予定である。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は慢性骨髄単球性白血病(CMML)由来の細胞の分化能や機能について調べることにより、正常の血球分化モデルとの差異を解析する試みとして行われたもので、下記の結果を得ている。

1.CMML患者より分離した単球(Mo)はFcγレセプターIIIがほとんど発現していない。またコロニー刺激因子(M-CSF)で誘導したマクロファージ(MΦ)もFcγレセプターIIIの発現は認められないことがわかった。またCMML-Moはコロニー刺激因子によるMΦおよび多核巨細胞への成熟は、正常Moと比べて完全ではなかった。しかし樹状細胞への分化は正常とほぼ同じことが示された。

2.CMML-MΦはFcγレセプターが不完全にもかかわらず、このFcγレセプターを介する貧食は正常と変わりなかった。これはFcγレセプターの相互の役割を示唆するものと考えられた。またCMML-Mo/MΦにおいては感染防御に対して重要なエフェクター分子の活性酸素(02-)の産生は、PMAやzymosan刺激では正常Mo/MΦより低下していた。これがCMMLの易感染性の原因のひとつであることが示された。しかし02-産生にかかわるNADPH oxidaseを構成する細胞内蛋白 p47phox、p67phoxは正常およびCMMLの Mo/MΦで検出され、Q2-産生障害は他の分子の欠損や活性化シグナルの異常が考えられた。

3.正常Moはその約3分の1がCD2+で樹状細胞に分化することが知られているが、CMML-MoはそのほとんどがCD2+で樹状細胞の前駆細胞ととらえることができた。

4.CMMLを4検体調べたが、上記1.2.3については同様の結果が得られた。

5.CMMLから白血病化した白血病細胞はCD34+で、正常CD34+細胞と同様の方法つまりGM-CSFとTNFαを添加することにより樹状細胞へ誘導された。

 誘導された樹状細胞は正常CD34+細胞から誘導した樹状細胞と表面抗原やT細胞刺激活性化能は同じだった。

6.用いた白血病細胞をストローマ細胞と共培養することで、細胞株を樹立した。樹立した細胞株は、もとの白血病細胞と表面抗原は少し違うが同様の方法で樹状細胞へ誘導された。得られた樹状細胞はその表面抗原やT細胞刺激活性化能は、もとの白血病細胞と同じだった。この細胞株は、CD34+樹状細胞前駆細胞の細胞株として最初の報告になる

 以上、本論文は慢性骨髄単球性白血病の単球・マクロファージ系の分化や機能について正常との差異を明らかにした。またCD34+白血病細胞から細胞株を樹立し、これはCD34+樹状細胞前駆細胞の細胞株として世界で初めての報告になる。本研究は血球分化とくにマクロファージ・樹状細胞分化の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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