No | 116400 | |
著者(漢字) | 孫,華龍 | |
著者(英字) | SUN,HUALONG | |
著者(カナ) | ソン,カリュウ | |
標題(和) | 新版 TEG 中国語版の標準化及び中国人における自我状態の特徴 | |
標題(洋) | Development of the Chinese Version of the Tokyo University Egogram(TEG)and Ego State Characteristics in Chinese | |
報告番号 | 116400 | |
報告番号 | 甲16400 | |
学位授与日 | 2001.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第1795号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 内科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 心身症では体の症状が認められるが、その発症や経過に対人関係などの問題も含んだ心理社会的ストレスが関与することが認められている。交流分析法は自己啓発や対人関係改善の手段として活用され、心身医学的治療の一つになっている。Ego state は、Eric Berne が交流分析とゲーム分析を確立するために考案したものである。Berne は親 (parent)、大人 (Adult)、子ども(Child)の3つの Ego State をさらに細かく5つに分け、すなわち、批判的な親の Ego State(Critical Parent,CP)、養育的な親の Ego State(Nurturing Parent,NP)、大人の Ego State(Adult,A)、自由な子供の Ego State(FreeChild,FC)、順応した子供の Ego State(Adapted Child,AC)である。 1972年Eric Berne の弟子john M.Dusay は Ego State の間に流れている心のエネルギーの給付状況をグラフ化することを試みた。そして、これをエゴグラム(Egogram)と名付けた。東大式エゴグラムは、Dussay の発想を元に開発された、高い信頼性と妥当性をもった質間紙エゴグラムである。1984年に第1版を、さらに、1993年には第2版 TEG を発刊し、1998年に新版 TEG が開発された。TEG が発刊され、今日まで臨床を始めとする様々な場面で用いられてきた。今まで中国系人において Ego State に関する研究があったが、これまで中国において、Egogram は存在していない。そして、新版 TE Gが作成されたのと同時に、新版 TEG 作成時に使用されたオリジナル項目を用いて、東大式エゴグラムの中国語版を作成した。エゴグラムを中国に導入し、新版 TEG の中国語版の信頼性と妥当性を検討することが、この研究の目的である。 [方法] ・新版TEG 中国語訳の作成 まず、115項目の質問によって構成されていた新版 TEG の原案を中国語訳する作業を行い、中国語の表現の修正と新版 TEG の中国語訳の日本語に訳し直すことは日本で10年以上生活している日本語が堪能なそれぞれの中国人2名により行われた。そして、最後に、新版 TEG 中国語版の日本語訳がオリジナルのものと内容的に一致するか否かを、東京大学心療内科で新版 TEG の開発に当たった日本人医師が判断した。 ・対象者 平成11年2〜10月に、中国と日本で、一般健常中国人419名に調査票への記入を依頼し、359名より有効回答が得られた(85.7%)。回答者は男女とも幅広い学歴、職業であった。内訳は、男性208名 (31.5±11.3歳、18〜73歳)、女性151名 (32.6±14.1歳、19〜80歳) であった。対象者の90.2% は漢民族であった。調査票は、人口統計学情報、新版 TEG の中国語訳とSCL-90-R (Symptom Checklist-90-Revised)から構成された。 ・測定 新版 TEG の中国語訳:CrttiCal Parent(CP)、Nurturing Parent(NP)、Adult(A)、Free Child(FC)、Adapted Child (AC) の 5尺度に関しては、合計115項目からなる質問紙を用いた。回答は、3件法(はい 2点、どちらでもない 1点、いいえ 0点)で行った。 SCL-90-R(Symptom Checklist-90-Revised): この質問紙は somqtization、obsessive-compulslve interpersonal sensitivity、depression、anxiety、hostility、phobic anxiety、paranoid ideation、psychoticism の9尺度、合計90項目から構成されている。解析した時、上記9尺度以外、全体的苦痛指数 global severity index(GSI)(総得点/90)も用いた。SCL-90)-R の中国語版は標準化されており、新版 TEG 中国語版の併存的妥当性を検定するため、並行テストとして用いた。 ・項目の抽出 CP、NP、A、FC、ACの5下位尺度に関しては、各下位尺度とも、item-remainder test を繰り返し、相関の低いものから順に削除していき、最終的に、20項目から10項目を抽出し、各10項目からなる5下位尺度を作成した。 ・信頼性の検討 信頼性の検討は以下の 2通りで行った。 1). Cronbach の α係数(内的整合性を表す信頼性係数のひとつ); 2). 各下位尺度を潜在変数 (構成概念)、各項目を観測変数とみなし、共分散構造分析の下位モデルである測定方程式モデルによる解析を行った。 ・構成概念妥当性の検討 5下位尺度全体を潜在変数、各項目を観測変数とみなし、共分散構造分析の確認的因子分析を用いて、構成概念妥当性の検討を行った。本研究の対象者は359名であったが、共分散構造分析の確認的因子分析を行う際に、各尺度10項目として50変数全て用いると、対象人数に比べて項目数が多くなりすぎ、解析結果が不安定になる恐れがあるため、item-remainder test を繰り返し、それぞれ 5項目を抽出した後、解析を行った。 ・併存的妥当性の検討 新版 TEG 中国語版と SCL-90-R 中国語版の測定を同時に行い、TEG の各下位尺度を説明変数、SCL-90-Rの9下位尺度と全体症状苦痛指数 (GSI) を目的変数とみなし、2つの質問紙の関連を Stepwise 法により重回帰分析を用いて検討した。 ・弁別的妥当性の検討 1)年齢, 教育, 職業による ego state の差異 (1)年齢におけるego state 中国に住む 273名対象者を 18-24歳、25-34歳、35-44歳、45歳以上の四つのグループに分けたところ、それぞれ 114名、51名、51名、57名であった。 (2)教育レベルにおける ego state 対象者を低教育レベル(小学校と中学校)、中教育レベル(高校と職業高校)、高教育レベル(3年制専門学校以上)の 3つのグループに分けたところ、それぞれ 74名、53名、146名であった。 (3)職業における ego state 中国四川省成都市に住んでいる技術者 26名、管理者 19名、農民 16名、工場労働者 34名、大学生 44名、小学教師 22名を解析対象とした。 2) 慢性 B 型肝炎における Ego state 肝炎患者の精神状態が注目され、精神的ストレスが大きいことが示されている。40名の慢性 B 型肝炎患者(41.35±8.82歳、18-61歳)に調査票への回答を求めた。一方、上海、成都に住む 152名の一般健常者から 47名(36.68±12.82歳、20-61歳)を無作為に抽出し、コントロールグループとした。 3)文化変容による Ego State の差異 移住後の文化変容、ライフスタイル変化への適応に関して、生理、精神的変化を検討した多くの先行研究がある。86名 の東京に住む中国人を募集し、在日期間により、短、中、長期の3つのグループに分けたが、それぞれの人数は 29、28、29名であった。-方、上海、成都などの都会に住む中国人 152名から 61名(19-62歳)を無作為に抽出し、コントロールグループとした。 [結果] 5尺度の Cronbach の α 係数は、0.60〜0.76と十分に高い値が得られた。さらに、共分散構造分析の下位分析である測定方程式モデルによる信頼性を検討した結果は、各尺度とも、モデルのあてはまりの良さの指標となる GFI(Goodness of Fit Index 適合度指標)が0.90〜0.97と十分高い値が得られ、十分な信頼性を有することが確認された。 構成概念妥当性の結果、GFI は0.90となり、新版 TEG 中国語版の構成概念妥当性が認められた。 CP、AC は、それぞれ厳格で批判的な傾向と、周囲に気を遣い劣等感に陥りやすい傾向を意味し、その結果は精神神経症状が多くなることが予想される。SCL-90-R 中国語版の多数の尺度と GSI は、新版 TEG 中国語版の CP、AC 尺度と有意に強い正の相関を示し(P<0.01-0.001)、新版 TEG 中国語版の併存的妥当性が支持された。 18-24歳、25-34歳、35-44歳、45歳以上の四つのグループ間では、45 歳以上の対象者は他の対象者より A 尺度の得点が高く、18-24歳、25-34歳の対象者より NP 尺度の得点が有意に高く、18-24歳の対象者より AC 尺度の得点が低値であった。高年齢者の方が養護的、受容的、客観的、冷静であり、青年の方が協調的が高いという結果で予想された通りであった。 低教育グループは、NP、A と FC 尺度の得点が他のグループより有意に低く(P<0.05)、A (尺度の得点が高教育グループより有意に低値であった (P<0.05)。これらの結果は、低教育レベルの対象者が、養護的、受容的、客観的、冷静、明るい面、協調的が少ないことが示され、これも予想された通りであった。 教師、技術者と管理者は NP、Aと FC尺度の得点が農民、工場労働者より有意に高く(P<O.05)、農民は工場労働者以外の対象者より FC 尺度の得点が有意に低いであった(P<0.05)。農民は中国において教育レベルが最も低く、彼らの Ego States の特徴は低教育グループの結果と共通するものである。これらの結果により新版 TEG 中国語版の弁別的妥当性が確認された。 慢性肝炎患者はコントロールグループより FC尺度の得点が有意に低く(P<O.Ol)、新版 TEG 中国語版の弁別的妥当性をさらに確認した。 文化変容による Ego State の差異の結果としては、TEG の CP尺度の得点は中期と長期グループがコントロールグループより有意に高く、FC尺度の得点は短期が中期グループより有意に高値であった。これらの結果は、在日中国人は来日後、文化変容、ライフスタイルの変化などのために、Ego State の変化を示していると考えられ、ここでも、新版 TEG 中国語版の弁別的妥当性を確認した。 [新版 TEG 中国版の標準化] 標準化を行うに際して、有効回答者の人口年齢分布に偏りが認められたため、1998年8月中国人人口の年齢性別構成(中国人口統計年鑑)に従って、有効回答者の各年齢層(15〜24歳、25〜34歳、35〜44歳、45歳〜)から 189名対象者を無作為抽出した。各尺度の男女別平均値および標準偏差が得られ、また、女性は男性より NP 下位尺度の得点が有意に高かったという結果が見られた。各尺度に男女における得点分布が異なるため、相対累積度数からパーセンタイル値を求め、男女別の得点配置図を作成した。挙げられた一般健常人と精神心身疾患患者のエゴグラム・パターンの例は新版 TEG 中国語版が日本語版のような有用性があると示唆される。 [結語] ・新版 TEG の中国語版を作成し、十分に高い信頼性と妥当性を確認した。 ・SCL-90-R を平行検査として、新版 TEG の中国語版の併存的妥当性が確認された。 ・年齢・教育・職業の各階層、慢性 B 型肝炎、在日中国人のデータに基づいて、新版 TEG 中国語版の弁別的妥当性を確認した。 ・一般健常人と精神心身疾患患者のエゴグラム・パターンの例より新版 TEG 中国語版が日本語版のような有用性が見られた。 ・新版 TEG の中国語版を完成させた。 | |
審査要旨 | 1. 研究の背景と目的 心身症では体の症状が認められるが、その発症や経過に対人関係などの問題も含んだ心理社会的ストレスが関与することが認められている。交流分析法は自己啓発や対人関係改善の手段として活用され、心身医学的治療の一つになっている。東大式エゴグラム(Tokyo University Egogram,TEG)は、交流分析を基に開発された、高い信頼性と妥当性をもった質問紙エゴグラムである。TEGが発刊され、今日まで臨床を始めとする様々な場面で用いられてきた。これまで中国において、Egogram は存在していない。そして、新版 TEG が作成されたのと同時に、新版 TEG 作成時に使用されたオリジナル項目を用いて、東大式エゴグラムの中国語版を作成した。エゴグラムを中国に導入し、新版 TEG の中国語版の信頼性と妥当性を検討することが、この研究の目的である。 2.方法と結果 まず、ll5項目の質問によって構成されていた新版 TEG の原案の中国語訳を作成し、平成 ll年 2〜10月に、中国と日本で、一般健常中国人419名に調査票への記入を依頼し、359名より有効回答が得られた(85.7%)。内訳は、男性 208名、女性 151名であった。SCL90-R(Symptom Checklist-90-Revised) の中国語版は新版 TEG 中国語版の併存的妥当性を検定するため、並行テストとして用いた。 TEG の CP、NP、A、FC、AC の5下位尺度に関しては、各下位尺度とも、item-remainder test を繰り返し、相関の低いものから順に削除していき、最終的に、20項目から10項目を抽出し、各10項目からなる5下位尺度を作成した。 信頼性の検討は以下の 2通りで行った。5尺度の Cronbach のα係数(内的整合性を表す信頼性係数のひとつ)は、0.60〜0.76と十分に高い値が得られた。さらに、各下位尺度を潜在変数(構成概念)、各項目を観測変数とみなし、共分散構造分析の下位モデルである測定方程式モデルによる解析を行い、各尺度とも、モデルのあてはまりの良さの指標となる GFI(Goodness of Fit Index 適合度指標)が 0.90〜0.97と十分高い値が得られ、十分な信頼性を有することが確認された。 5 下位尺度全体を潜在変数、各項目を観測変数とみなし、共分散構造分析の確認的因子分析を用いて、構成概念妥当性の検討を行い、GFI は 0.90 となり、新版 TEG 中国語版の構成概念妥当性が認められた。 併存的妥当性の検討としては、TEG の各下位尺度を説明変数、SCL-90-R の 9下位尺度と全体症状苦痛指数 (GSI) を目的変数とみなし、2つの質問紙の関連を Stepwise 法により重回帰分析を用いて検討した。 CP、AC は、それぞれ厳格で批判的な傾向と、周囲に気を遣い劣等感に陥りやすい傾向を意味し、その結果は精神神経症状が多くなることが予想される。SCL-90-R 中国語版の多数の尺度と GSI は、新版 TEG 中国語版の CP、AC 尺度と有意に強い正の相関を示し (P<0.01-0.001)、新版 TEG 中国語版の併存的妥当性が支持された。 弁別的妥当性の検討としては、年齢・教育・職業の各階層、慢性B型肝炎、在日中国人のデータに基づいて、T-TESTと多重比較分析を行い、ego states の差が見られ、新版 TEG 中国語版の弁別的妥当性を確認した。 新版 TEG の中国語版の標準化を行い、各尺度の男女別平均値および標準偏差が得られ、各尺度に男女における得点分布が異なるため、相対累積度数からパーセンタイル値を求め、男女別の得点配置図を作成した。挙げられた一般健常人と精神心身疾患患者のエゴグラム・パターンの例は新版 TEG 中国語版が日本語版のような有用性があると示唆される。 以上、本論文では、新版 TEG の中国語版を作成し、十分に高い信頼性と妥当性を確認した。一般健常人と精神心身疾患患者のエゴグラム・パターンの例より新版 TEG 中国語版が日本語版のような有用性が見られた。本研究では、共分散構造分析を用いて、中国において初めての Egogram の質問紙を開発し、中国において心身医学の発展および TEG の国際化をめざして民族的比較研究に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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