学位論文要旨



No 116403
著者(漢字) 江村,隆起
著者(英字)
著者(カナ) エムラ,タカキ
標題(和) 割髄症、重複脊髄症の動物実験モデルの開発と解析
標題(洋)
報告番号 116403
報告番号 甲16403
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1798号
研究科 医学系研究科
専攻 生殖・発達・加齢医学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 中村,耕三
 東京大学 助教授 上妻,志郎
 東京大学 助教授 真船,健一
 東京大学 講師 榊原,洋一
 東京大学 講師 金森,豊
内容要旨 要旨を表示する

【緒言】

 割髄症は、脊髄があるレベルで骨性、軟骨性あるいは結合組織性の隔壁により縦に分離されている疾患である(図1)。割髄症の発生病態のに対して、これまで鳥類、両性類などを用いた研究が幾つかなされているが、割髄症を引き起こすことに成功しておらず、発生病態を説明するための動物実験モデルとして充分なものでない。そこで従来の実験動物では為し得なかった実験を可能にするため、現在医学研究においてほとんど用いられていない動物であるが、有尾両生類のイモリ胚を用いた割髄症動物実験モデルの開発を試みた。

【方法】

 イモリ神経胚(神経板が誘導された時期のイモリ胚)の神経板の予定脊髄領域(神経板の尾部約1/3)を小切開し、その部位で原腸(卵黄嚢)と培養液を交通させる瘻孔を作成した(図2)。図2はイモリ神経胚を上方より撮影したもので、左が神経板の頭側で右が尾側である。このように作成した瘻孔を有する奇形胚を実体顕微鏡下で観察しながら培養飼育した。培養飼育期間後、固定・染色(ヘマトキシリンエオジン染色、一部アルシアンブルーPAS重染色)の後、組織学的検索を行った。

【結果】

1. イモリ神経胚期の神経板正中に瘻孔が存在する奇形胚は、発生が進むと割髄症を引き起こした。

2. 神経管(脊髄)の分離に脊索の分離を伴う症例(図3c)と、脊索は分離していない症例(図3b)が見られた。図3aに術後14日目のコントロールの組織標本(ヘマトキシリンエオジン染色)を示した。神経板正中の瘻孔が神経管形成後さらに24時間以上持続した全症例で、神経管・脊索の分離が認められた。

3. 割髄症イモリは全例で側弯症(図4b)を合併していたが、その程度は神経板正中の瘻孔の持続期間に比例していると思われた。図4bは術後14日目の症例であり、図4aに術後14日目のコントロールを示した。

4. 割髄症イモリは、皮膚陥凹(図6c)、皮膚洞(図6c)、皮下嚢胞(図6c)、神経腸管嚢胞(図6c)、背側腸管瘻、側弯症(図4b、図5。ただし図4bは術後14日後、図5は術後14週後の割髄症イモリ)、二分脊椎(図6c)、椎体奇形(図6c)、脊柱管拡大(図6b)と多くの合併症を認めた。図6aに術後14週のコントロールの組織標本(アルシアンブルーPAS重染色)を示した。なお図6cは図5に示した割髄症イモリの組織標本である。

5. 神経板正中の瘻孔が消失する過程により、様々な程度の縫合不全症の症状を引き起こした。割髄症の合併症の種類とその頻度において、ヒト割髄症とイモリ割髄症は類似していた(表1、2)。

【考察】

 神経胚期において、神経板正中に瘻孔が存在する奇形胚に割髄症が発生した。しかし神経板正中の瘻孔が、神経化が終了するまでに消失した場合には、瘻孔を作成した胚でも割髄症を引き起こさず、正常に発生が進んだ。

 ヒト胚発生の胎生第3週から第4週において、神経板正中に出現する神経腸管(図7)は、原始窩を通して羊膜腔と卵黄嚢を交通し、羊膜腔と卵黄嚢の圧差を調節しているといわれている。それゆえ神経腸管による水圧調節作用が充分に機能しない時、卵黄嚢と羊膜腔間の水圧差が異常に上昇する可能性がある。その様な場合に、神経板正中が部分的に破裂すれば、実験的に作成した瘻孔と同一の構造となる。つまり神経腸管の機能異常により卵黄嚢、羊膜腔間の水圧上昇が起こり神経板の部分破裂生じた場合に割髄症が発生する可能性があると、実験結果より推測された。

【結語】

 神経板正中の瘻孔は割髄症を引き起こすことを明らかにした。また発生病態の検討から割髄症と神経腸管の異常との関連が示唆された。

表1 髄症の臨床像*

表2 モリ割髄症の合併症

図1

図2

図3

図4(a)

図5

図6(a)

図6(b)

図6(c)

図7

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は割髄症、重複脊髄症の発生病態を明らかにするため、イモリ胚を用い割髄症、重複脊髄症を外科的(機械的)方法による作成を試みた。そして作成されたイモリ割髄症を検討し、下記の結果を得ている。

1. イモリ神経胚期の神経板正中に瘻孔が存在する奇形胚は、発生が進むと割髄症を引き起こした。ただし、神経板正中の瘻孔が神経化が終了するまでに消失した場合には割髄症となることなく、正常に発生が進んだ。

2. 神経管(脊髄)の分離に脊索の分離を伴う症例と、脊索は分離していない症例が見られた。ただし、神経板正中の瘻孔が神経管形成後さらに24時間以上持続した全症例で、神経管・脊索の分離が認められた。

3. 割髄症イモリは全例で側弯症を合併していたが、その程度は神経板正中の瘻孔の持続期間に比例していると思われた。

4. 割髄症イモリは、皮膚陥凹、皮膚洞、皮下嚢胞、神経腸管嚢胞、背側腸管瘻、側弯症、二分脊椎、椎体奇形、脊柱管拡大と多くの合併症を認めた。神経板正中の瘻孔が消失する過程により、様々な程度の縫合不全の症状を引き起こすものと考えられた。合併症の頻度と種類において、ヒト割髄症とイモリ割髄症で大きな相違は見られなかった。

5. ヒト胚発生の胎生第3週から第4週において、神経板正中に出現する神経腸管は、原始窩を通して羊膜腔と卵黄嚢を交通し、羊膜腔と卵黄嚢の圧差を調節しているといわれている。それゆえ神経腸管による水圧調節作用が充分に機能しない時、卵黄嚢と羊膜腔間の水圧差が異常に上昇する可能性がある。その様な場合に、神経板正中が部分的に破裂すれば、実験的に作成した瘻孔と同一の構造となる。つまり神経腸管の機能異常により卵黄嚢、羊膜腔間の水圧上昇が起こり神経板の部分破裂生じた場合に割髄症が発生する可能性があると、実験結果より推測された。

 以上、本論文はイモリ胚を用いて、神経胚期の神経板正中の瘻孔が割髄症を引き起こすことを明らかにした。また発生病態の検討から割髄症と神経腸管の異常との関連が示唆された。本研究は割髄症・重複脊髄症の発生病態の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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