No | 116404 | |
著者(漢字) | 織田,克利 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | オダ,カツトシ | |
標題(和) | p53依存性アポトーシスを仲介するp53AIP1遺伝子の単離及びSer46のリン酸化を受けたp53による発現制御 | |
標題(洋) | p53AIP1, a Potential Mediator of P53-Dependent Apoptosis, and Its Regulation by Ser46-phosphorylated p53 | |
報告番号 | 116404 | |
報告番号 | 甲16404 | |
学位授与日 | 2001.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第1799号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 生殖・発達・加齢医学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 〔緒言〕 p53蛋白はDNAに傷害が生じた時に賦活化され、細胞周期停止やアポトーシスを誘導する。p53が細胞周期停止とアポトーシスをどのように選別しているかは依然解明されていないが、N末端領域(アミノ酸43-63または64-92)がアポトーシス誘導に不可欠であることが示唆されている。一方、p53蛋白にみられるリン酸化やメチル化は、p53の生理機能の調節に重要である。Ser-15やSer-20のリン酸化により、p53は活性化されるが、アポトーシスに関連する上記領域にもSer-46などリン酸化を受ける候補部位がいくつか検出されている。 p53の生理機能の大部分は、標的遺伝子の転写活性化を通してもたらされる。すでに多数のp53標的遺伝子が単離されており、p21WAF1は細胞周期停止に、p53R2はDNA修復促進に重要な役割を果たす。アポトーシス誘導に関わる因子としては、Bax、PIG遺伝子等いくつかの候補があげられてきたが、単独で発現させた時にアポトーシスを誘導する遺伝子はみつかっていない。 新規p53標的遺伝子単離法として、p53を外因性に発現させた細胞株を用いるdifferential display法とp53特異的結合配列の単離を目的としたenhancer trap system法の2種類のストラテジーがあげられる。 本研究では、後者の方法より単離した新規p53標的遺伝子p53AIP1(p53-regulated Apoptosis lnducing Protein 1)が、p53依存性アポトーシス誘導に関与することを報告するとともに、p53のSer-46のリン酸化が、p53AIP1の転写活性化を調節し、アポトーシス誘導の選択に重要な役割を果たしていることを示す。 〔結果〕 1.p53結合配列と推測されるTCTCTTGCCCGGGCTTGTCGを含む190bpのDNA断片が、Yeast enhancer trap systemにより単離された。コスミドライブラリースクリーニングにより、この配列を含む約40kbのヒトゲノムDNAが単離され、染色体11q24にマップされた。このコスミドの全塩基配列を決定し、コンピュータープログラムにより、エクソン候補領域を同定した。RT-PCRにより、新規遺伝子p53AIP1のcDNA断片が得られた。 Northern blot解析の結果、0.8kbと2.7kbの転写産物が、p53過剰発現により強く発現誘導されたが、正常組織では胸腺以外で発現はみられなかった。cDNAライブラリーをスクリーニングし、p53AIP1のcDNA全長を単離したところ、選択的スプライシングにより、3つのtranscripts(α、β、γ)が同定された。α、β、γはそれぞれ124、86、108アミノ酸をコードしていたが、相同性の高い既知の蛋白はみられなかった。p53結合配列はイントロン1に存在し、ゲルシフトアッセイ、レポーターアッセイにより、p53がこの配列に結合し、転写を活性化することが証明された。 2. 免疫細胞染色の結果、p53AIP1の細胞内局在はミトコンドリアであった。 正常型p53を有するNHDF細胞では、γ線照射やアドリアマイシン投与により、内因性のp53AIP1の発現誘導が強くみられたが、正常型p53を欠失した大腸癌細胞株SW480では発現誘導はみられなかった。p53AIP1の発現誘導は、p21WAF1に比し遅れてみられており、異なる発現誘導機序の存在が考えられた。 TUNEL法、FACS解析により、p53AIP1を強制発現させた細胞でアポトーシス誘導がみられた。免疫細胞染色により、p53AIP1発現細胞においてミトコンドリア膜電位(ΔΨm)の低下が確認された。 グリオーマの細胞株U373MGに、p53AIP1のアンチセンスオリゴヌクレオチドを導入するとp53過剰発現によって誘導されるアポトーシスがほぼ完全に抑制された。 以上より、p53AIP1はp53依存性アポトーシス誘導に不可欠なmediatorであることが示唆された。 3. p53リン酸化部位特異的ポリクローナル抗体(anti-P-Ser-15,20 and 46)を用いて、DNA傷害時のp53のリン酸化につき検討した。乳癌細胞株MCF-7に、紫外線、γ線、アドリアマイシンによりDNA傷害を起こすと、Ser-15、Ser-20のリン酸化に比べて、Ser-46のリン酸化は常に遅れて出現した。また、紫外線量を変える実験では、Ser-15、Ser-20のリン酸化に比べ、Ser46のリン酸化は強い線量を必要とした。また、p21WAF1は弱い線量でも発現が誘導されたが、p53AIP1は強い線量でのみ発現誘導され、Ser-46のリン酸化がその発現を制御している可能性が考えられた。 p53を発現するアデノウィルスベクターをp53を欠失した肺癌細胞株H1299に導入した時も、Ser-46のリン酸化はSer-15、Ser-20より遅れて生じ、p53AIP1の発現もp21WAF1より遅れて観察された。また、感染濃度を変えた時にも、Ser-46のリン酸化、p53AIP1の発現誘導に相関がみられた。 p53 Ser-46をAlaに変えたmutant(p53S46A)をmicroinjection法で導入したところ、コドン46のリン酸化もアポトーシス誘導も認められなかった。また、p53S46A発現ベクター導入によって、標的遺伝子の中でp53AIP1のみ、ほとんど発現が誘導されなかった。ゲルシフトアッセイやレポーターアッセイでも、p53AIP1のpromoterへのaffinityが著明に低下していた。 〔考察〕 本研究により、p53AIP1はp53依存性アポトーシスをmediateする有力な候補遺伝子であることが明らかとなった。ミトコンドリアの膜電位(ΔΨm)の低下は、p53依存性アポトーシスとの関与が知られており、このプロセスにp53AIP1が介在している可能性が考えられる。 p53蛋白のSer-46のリン酸化とp53依存性アポトーシスとに相関がみられたこと、p53AIP1の発現誘導が常にp21WAF1より遅れていることより、p53蛋白の修飾が、標的遺伝子の結合配列への結合能を左右しているのではないかと推測した。実際にSer-46の変異によって、p53AIP1の結合配列に対する結合能の低下が確認された。 今回提唱するモデルは以下のように要約される。DNAに傷害が起こると、初期の段階ではp53のSer-15、Ser-20等のリン酸化が起こり、細胞周期を停止させる遺伝子(p21WAF1他)やDNA修復遺伝子(p53R2他)等の発現が誘導される。もし、DNA損傷が重度で修復不能な時には、その後Ser-46がリン酸化を受け、p53AIP1の発現を誘導し、アポトーシスを引き起こす。 p53の変異による高次構造の変化が、p53のDNA結合能に影響することはこれまでにも示唆されているが、今回の実験でも、Ser-121Pheの変異では、p53AIP1の発現レベルが同等であるのに対し、Mdm2やp21WAF1の発現レベルは低下することが示された。 p53のSer-46リン酸化のキナーゼとしては、p38MAP kinaseは否定的で、別のキナーゼが存在すると考えられる。その同定により、p53依存性アポトーシスのpathwayはさらに解明されるであろう。 〔実験方法〕 a.プラスミド;pCAGGSベクターを発現ベクターとして使用。 b.Transfection:lipofectamine2000を用いて、発現ベクターを細胞に導入。 c.半定量的RT-PCR;細胞より抽出したtotal RNAよりcDNAを合成、15〜30サイクルの条件でPCRを施行。 b.DNA傷害の誘導;アドリアマイシン(0.2μg/ml or 3μM)、γ線(14Gy)、紫外線(〜50J/m2)を使用。 e.Microinjecdtion;p53発現.ベクターをEppendorf microinjector及びmicromanipulatorを用いて細胞の核内に注入。 f.細胞免疫染色;固定、プロッキング、1次抗体による反応後、2次抗体としてFITCまたはrhodamineを使用し、発色。 g.アポトーシスの検出;FACS、TUNEL法、DNAラダー法にてそれぞれ検出。 h.Recombinant Adenovirus及びその感染;pAxCAwtコスミドにp53AIP1α又はβのcDNAを挿入、293細胞に感染させ、回収、精製。ウィルス液を、37℃、60分にてインキュベートし、感染。 i.Immunoblot解析と抗体;抽出した蛋白をSDS-PAGE後、Western blot法で解析。ラビットを用いて、抗p53AIP1及び抗p-Ser-46ポリクローナル抗体を作製。 j.アンチセンスオリゴヌクレオチド;p53AIP1の塩基配列をもとに設計し、1μMを細胞に導入。 k.EMSA;p53を強制発現させた細胞の核抽出液を回収。アニールにより2本鎖とし、32P標識したp53結合配列のオリゴマーと反応させ、4%ポリアクリルアミドゲルにて泳動。 〔まとめ〕 1.新規p53標的遺伝子p53AIP1は、ミトコンドリア膜電位の変位を介して、アポトーシスを誘導する。 2.p53はSer-46のリン酸化によって、アポトーシス誘導を調節しており、Ser-46のリン酸化はp53AIP1を含む特定のアポトーシス関連遺伝子の転写活性化に重要である。 | |
審査要旨 | 本研究は、新規p53標的遺伝子の単離とその機能解析を通して、癌抑制遺伝子p53によるアポトーシス誘導機序の解明を試みたものである。Yeast enhancer trap system法を用いることによって得られたp53特異的結合配列をもとに新規p53標的遺伝子p53AIP1(p53-regulated Apoptosis Inducing Protein 1)を単離し、この遺伝子がp53依存性アポトーシス誘導に関与すること、さらにp53のSer-46のリン酸化が、p53AIP1の転写活性化を調節し、アポトーシス誘導の選択に重要な役割を果たしていることを下記の実験結果より証明した。 1. Yeast enhancer trap systemによりp53特異的結合配列と推測されるTCTCTTGCCCGGGCTTGTCGを含む190bpのDNA断片を単離し、この配列を含む約40kbのヒトゲノムDNAの全塩基配列をもとに新規遺伝子p53AIP1のcDNA断片を同定した。cDNAライブラリーをスクリーニングし、p53AIP1のcDNA全長を単離し、選択的スプライシングにより、3つのtranscripts(α、β、γ)が存在することを明らかとした。α、β、γはそれぞれ124、86、108アミノ酸をコードしていたが、相同性の高い既知の蛋白はみられなかった。p53結合配列はイントロン1に存在し、ゲルシフトアッセイ、レポーターアッセイにより、p53がこの配列に結合し、転写を活性化することを証明した。 2. 正常型p53を有するNHDF細胞にγ線照射やアドリアマイシン投与を行い、内因性のp53AIPの発現誘導がおこることをRT-PCRで示した。一方、正常型p53を欠失した大腸癌細胞株SW480では発現誘導はみられなかった。 免疫細胞染色により、p53AIP1の細胞内局在がミトコンドリアであり、ミトコンドリアの膜電位を低下させることを確認した。 グリオーマの細胞株T98Gにp53AIP1の発現ベクターを導入し、FACS解析、TUNEL法により、アポトーシスが誘導されることを示した。 p53AIP1のアンチセンスオリゴヌクレオチドを導入するとp53依存性アポトーシスがほぼ完全に抑制されることが、グリオーマの細胞株U373MGで示された。以上より、p53AIPはp53依存性アポトーシス誘導に不可欠なmediatorであると考えられる3.乳癌細胞株MCF-7に、紫外線、γ線、アドリアマイシンによりDNA傷害を起こすと、Ser-15、Ser-20のリン酸化に比べて、Ser-46のリン酸化は常に遅れてみられる。また、紫外線量を変える実験で、Ser-15、Ser-20のリン酸化に比べ、Ser-46のリン酸化は強い線量を必要とし、線量依存性にアポトーシス細胞が増加することを示した。また、p21に比べ、p53AIP1は強い線量でのみ発現が誘導された。 p53を発現するアデノウィルスベクターをp53を欠失した肺癌細胞株H1299に導入した時も、Ser-46のリン酸化はSer-15、Ser-20より遅れて生じ、p53AIP1の発現もp21より遅れて観察された。また、感染濃度を変えた時にも、Ser-46のリン酸化、p53AIP1の発現誘導に相関を認めた。 p53 Ser-46をAIaに変えたmutant(p53S46A)を導入したところ・コドン46のリン酸化もアポトーシス誘導も認められず、また、p53標的遺伝子の中でp53AIP1だけがほとんど発現誘導されなかった。 本研究が、p53による細胞周期停止とアポトーシス誘導の選択について提唱するモデルは以下のように要約される。DNAに傷害が起こったとき、まずp53はp21を発現誘導し、細胞周期を止めると同時にDNA修復を試みるが、損傷が高度で修復不能な時には、Ser-46のリン酸化を介してp53AIP1等の発現を誘導し、アポトーシスを引き起こす。 p53によるアポトーシス誘導機序の解明において、本研究は重要な貢献をしているのみならず、p53AIP1遺伝子を導入することによる、新たな遺伝子治療の可能性も提唱しており、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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