学位論文要旨



No 116406
著者(漢字) 兵藤,博信
著者(英字)
著者(カナ) ヒョウドウ,ヒロノブ
標題(和) 赤血球Rh抗原のvariantとその遺伝子解析
標題(洋)
報告番号 116406
報告番号 甲16406
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1801号
研究科 医学系研究科
専攻 生殖・発達・加齢医学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 徳永,勝士
 東京大学 教授 堤,治
 東京大学 教授 五十嵐,隆
 東京大学 助教授 馬場,一憲
 東京大学 助教授 岩田,力
内容要旨 要旨を表示する

 赤血球型にはABOをはじめとする23種類が知られている。Rhは非常に多くの抗原からなる最も複雑な赤血球型であり、45種類の抗原が確認されている。そのなかでも主要な抗原が、D,C,c,E,eである。一般的に“Rh+”と言われるのはD抗原陽性のことであり、免疫原性が非常に強く、ABOと同様、輸血などの際には必ずスクリーニングされる最も重要なRb抗原である。C/cやE/eは、Dと比べると免疫原性は20〜100分の1だが、輸血や妊娠により感作され、不規則抗体検査で時折見受けられる。

 Rh抗原の蛋白は2つの異なる遺伝子でコードされる。D抗原の蛋白はRHD遺伝子が、C/cやE/e抗原の蛋白はRHCE遺伝子が主にコードしている。RHD遺伝子とRHC遺伝子は非常に相同性が高く、90%以上共通の塩基配列を持っている。共に10個のexonで構成され、1251塩基から成る。コードされる蛋白はともに417アミノ酸からなる蛋白で、N末端、C末端とも細胞質内にあり、細胞質を12回通過して細胞外に6つのドメインを持っていると考えられている。

 通常、“Rh+/-”、すなわちDの陽性陰性はRHD遺伝子の有無で決まる。1RHD遺伝子には対立遺伝子は存在せず、少なくとも1本のRHD遺伝子があればD抗原を発現する。RHCE遺伝子には4種類の対立遺伝子があり、Ce, cE, ce, CEの4種類のgenotypeの組み合わせによりphenotypeはCCee(C+c-E-e+; Ce-Ce)やCcEe(C+c+E+e+; Ce-cE or ce-CE)などとなる。

 さて、RhD抗原があるにもかかわらず抗D抗体を持つような個体から、一部のRhD抗原のエピトープ(epD)を欠くpartial D(D variant)が発見された。欠けているエピトープと、反応する抗D抗体の種類から、8つのカテゴリーに分けられたが、その後、モノクローナル抗体の技術の発達により、100以上の抗D抗体により10以上のカテゴリーに細分化されている。同様にして、Cやc、Eやeのvariantも発見されている。これらのvariantは通常のタイピングでは「陽性」と判定されるため、予期せぬ不適合を起こす可能性がある。

 これらのvariantは、現在数多くのモノクローナル抗体を用いた血清学的手法によりタイピングされているが、熟練した技術が要求され、なおかつ、判定条件が一定しにくいなどの欠点がある。簡便で判定の下しやすいDNAタイピングを可能にし、さらに抗原決定部位を同定するために、Rh variantのRH遺伝子の塩基配列を解析した。

 いくつかのRh variantの遺伝子配列解析の結果、新しい配列や、新しいvariantが見つかった。D variantのカテゴリーVaは、epD1と5を欠くもので、これまでに2種類の塩基配列が報告されていたが、同じ血清学的反応でありながら異なる塩基配列のものが2種類見つかった。さらにVaとよく似ているものの、epD1と5だけでなく2および6/7の一部も欠けている新たなvariant、DYOが見つかった。VaやDYOは、変異がすべて1RHD遺伝子のexon 5で起きており、Vaは一部あるいは全部が」RHCE遺伝子の相同部分と置き換わるような変異が、DYOは1ヶ所だけユニークな変異があった。4種類のVaすべてに共通しているアミノ酸配列の特徴は、233番のグルタミン酸がグルタミンに換わっていることである。他の、223番、238番、245番などは換わっていてもいなくても血清学的に差は出ない、ということがわかった。また、DYOでは、233番でグルタミン酸がリジンに換わっていた。つまり、233番のグルタミンがないと、epD1と5が欠けてしまい、そしてDYOのように、換わったものがグルタミンでなくリジンであればさらにepD2や6/7の一部まで欠けてしまうと考えられた。これら、VaやDYOをPCR using Sequence Specific primer(PCR-SSP)で判別する方法を開発した。

 D variantのカテゴリーIVbは、これまでにRHD遺伝子のexon 7の途中から9までRHCE遺伝子の相同部分と置き換わっているという報告があったが、我々が調べたIVb(J)は、血清学的反応はIVbと同じであるが、RHD遺伝子のexon 7の先頭からexon 9までRHCE遺伝子の相同部分と置き換わっており、IVbとは少し異なっていた。さらにIVb(J)のRHD遺伝子のintron 6を調べると、361 baseまではRHD遺伝子で、967 base以降はRHCE遺伝子であった。この間は、DとCEの配列は同じであり、この部分でgene conversionが起きていると考えられた。IvbとIvb(J)の遺伝子配列が異なる部分、すなわちexon 7の前半は、RHD蛋白の細胞膜内に位置する部分にあたると考えられる。

 E variantのEKKについても遺伝子解析を行った。EKKはcEのタイプのRHCE遺伝子のexon 1〜3がRHD遺伝子に置き換わっていた。さらに注目すべきことに、EKKの他のRH遺伝子を調べたところ、RHD遺伝子の1本はexon 1〜3がcEのタイプのRHCE遺伝子と置き換わるvariantであった。Family studyを行ったところこの2本のvariant遺伝子は1本の染色体上にあると考えられ、1個体内での1度のgene conversion eventにより生じたものと考えられた。

 Rh variantは、赤血球膜の外側に位置すると予想されるアミノ酸に1つ以上変異がみつかっており、これが血清学的反応性の変化を生じていると考えられる。RHDとRHCE遺伝子との間の遺伝子変換(short segment gene conversion-like event)により生じたものと、点突然変異(point mutation)により生じたものがあると考えられる。今回解析を行ったものでは、前者がDVa、DIVbそしてEKK、後者がDYOである。また、EKKの解析により、RH遺伝子の組み替え、さらにはHLAなどの他のHomologyの高い遺伝子集合体における多型形成機構の解明にもつながる可能性がある。

 Rh variantは頻度としては稀であるが、それぞれのvariantに対するDNAタイピングが可能となり、血清学的手法を補完する判定手段として非常に有用である。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は輸血および血液型不適合妊娠において重要なRh抗原のvariantについて、抗原性の変化とアミノ酸変換の関係を明らかにするため、RH遺伝子の解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。

1. epD1と5を欠くDVaは、これまでに報告のある2種類に加え新たに2種類の塩基配列を同定した。さらにDVaと類似の、2および6/7の一部も欠けている新たなvariant、DYOを同定した。DVaやDYOは、変異がすべてRHD遺伝子のexon 5で起きており、DVaは相同部分と置き換わるような変異が、DYOは1ヶ所だけユニークな変異があった。4種類のDVaに共通しているアミノ酸配列は、E233がQに換わっていることで、他は換わっていてもいなくても血清学的に差は出ない、ということがわかった。また、DYOでは、E233がKに換わっていた。つまり、E233が欠けるとepD1と5が欠けてしまい、換わったものがQでなくKであればさらにepD2や6/7の一部まで欠けてしまうと考えられた。また、これらDVaやDYOをPCR using Sequence Specific primer(PCR-SSP)で判別する方法を開発した。

2. DIVb(J)は血清学的反応はDIVbと同じであるが、RHD遺伝子の塩基配列がexon 7の途中でなく先頭からexon 9までRHCE遺伝子の相同部分と置き換わっていた。さらにintron 6の361 baseまではDの配列で、967 base以降はCEの配列であり、この間でgene conversionが起きていると考えられた。DIVbとDIVb(J)で塩基配列が異なる部分、すなわちexon 7の前半は、細胞膜内に位置する部分に相当するため、血清学的には差が出ないものと考えられた。

3. E variantのEKKは、RHcE遺伝子のexon 1〜3がRHD遺伝子に置き換わっていた。他は、normalなRHD遺伝子とRHCe遺伝子、そしてRHD遺伝子のexon 1〜3がRHcE遺伝子と置き換わるvariantであった。Family studyによって、この2つのvariant遺伝子は1本の染色体上にあると判明し、一個体内での1度のgene conversion eventにより生じたものと考えられた。

 以上、本論文は赤血球Rh抗原のvariantの遺伝子解析から、variantの抗原性は赤血球膜の外側に位置するアミノ酸の変異によるもので、RHDとRHCE遺伝子との間の遺伝子変換により生じたものと点突然変異により生じたものがあることを明らかにし、さらにvariantのDNAタイピング法を開発した。本研究は今後、RH遺伝子やHLAなどの他のHomologyの高い遺伝子集合体における多型形成機構の解明にも貢献すると考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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