学位論文要旨



No 116418
著者(漢字) 多田,敬一郎
著者(英字)
著者(カナ) タダ,ケイイチロウ
標題(和) Smad4のMad homology 2領域αHelix3-4loopの機能解析;多量体形成と転写活性
標題(洋) Region between α-helices 3 and 40 of the Mad homology 2 domain of smad4 : functional roles in oligomer formation and transcriptional activation
報告番号 116418
報告番号 甲16418
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1813号
研究科 医学系研究科
専攻 外科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 中原,一彦
 東京大学 教授 名川,弘一
 東京大学 助教授 菊地,かな子
 東京大学 助教授 横溝,岳彦
 東京大学 講師 高橋,悟
内容要旨 要旨を表示する

SmadsはTGFβスーパーファミリーの細胞内情報伝達物質であり、これまでホ乳類では8種類同定されている。

Smadはその構造および機能の点からさらに3つのグループに分類される。すなわち、特異型Smad、共有型Smad、そして抑制型Smadである。Smad2とSmad3は特異型Smadであり、TGF-β/Activinのシグナルを伝達する。Smad1、Smad5、Smad8はBMPのシグナルを伝達する。Smad4は共有型Smadであり、Smad6とSmad7は抑制型Smadである。リガンドがレセプターに結合すると、結果としてセリンスレオニンキナーゼであるレセプターが活性化する。このレセプターによって特異型Smadがリン酸化をうけ、特異型Smadが活性化される。活性化した特異型Smadは共有型Smadと複合体を形成し、細胞質内から核内へ移行し、直接DNAに結合したり、他のDNA結合タンパクと複合体を形成することで、さまざまな標的タンパクの転写を調節する。一方、抑制型Smadは主にレセプターレベルで特異型Smadの活性化を抑制し、また特異型Smadと共有型Smadが複合体を形成するのを抑制することで、リガンドの作用に対して、抑制的に働くのである。

Smadは原則的に、N端側にあるMH(Mad Homology)1領域、C端側にあるMH2領域、および両者をつなぐLinker領域という3つの領域からなりたっている。MH1領域とMH2領域はSmadの間で特に相同性の高い領域である。MH1領域はDNAにSmadが結合するのに重要な領域である。またMH1領域はc-JunやビタミンDリセプターなどの核内蛋白に結合するのにも重要である。

一方、MH2領域は、リセプターとの結合や、Smadの多量体の形成、ある種のDNA結合蛋白との結合、転写活性の調節で重要である。

Smads Familyを概観すると、Smad4はきわめて特徴のあるSmadであることがわかる。まず機能の上では、Smad4はMammalianでは唯一の共有型Smadである。またSmad4は癌抑制遺伝子としても重要である。Smad4はもともと膵癌の癌抑制遺伝子として、ポジショナルクローニングの手法で‘DPC4’の名前で同定され、構造上の類似性からSmadのFamilyの重要な一員となったのである。さらに、Smad4は膵癌のほか、胆道癌においても関係が示唆されている。構造の上ではSmad4は、他のSmadに比較して、2つの特徴がある。まず1つ目レセプターのリン酸化部位であるSSXSの配列をC端持たないことである。そして、2つ目にはSmad4のMH2領域に35アミノ酸のシーケンスが挿入されていることである。これはショウジョウバエの共有型SmadであるMEDEAや線虫の共有型SmadであるSma4でも保存されている。この領域はHelix3とHelix4に挟まれているので、私は、この領域のことをH3/4loopと命名した。またH3/4loopがSmad4の立体構造における位置を検討すると、Smad4の表面に突出している部分にある。この特徴的な領域について現在までその機能的意義は明らかにされていなかった。

そこで私は以下のようなキメラ蛋白とDeletion Mutantを作成し、H3/4loopの機能解析を試みた。すなわち、Smad4のH3/4loopを含んだ領域をSmad2の相同領域と置換したキメラ蛋白を作成した。これをSmad4HL2と命名した。同様に、Smad4のHelix3/4LoopをSmad1におきかえたSmad4HL1、Smad4のH3/4loopをSmad6におきかえたSmad4HL6を作成したさらにH3/4loopをdeleteさせたΔHLも作成した。

最初にSmad2とSmad4はリセプターの刺激で3量体を形成するが、この中にSmad4が占める割合をIP-Western法を用いて検討した。その結果、Smad2の発現量を変化させてもSmad4同士の結合は認められなかった。in vitroではSmad4同士の結合やSmad4の3分子による三量体の形成の可能性も報告されているが、一方で、Smad4同士の結合力は非常に弱く、3量体を形成するSmad4の割合も少ないことが報告されている。今回、Smad4は活性型Smad2との3量体の中でも1分子しか存在しないことが示唆された。

次に、先に作成したconstructを使い、Luciferase Assayをおこなった。Reporter Geneとしては、TGFβにResponseすることで有名なp3TP-Luxをもちいた。Wild type Smad4を発現させても、わずかしかp3TPの転写活性は上昇しない。しかし、Smad4HL2はdose dependentにp3TPの転写活性を上昇させた。Smad4HL1も同様にp3TPの転写活性を上昇させた。HL6およびΔHLでは、転写活性はほとんど上昇していなかった。

Smad4HL2の転写活性能を転写因子であるTFE3の存在化でも検討したが、相乗効果は認められず、Smad4HL2の転写活性能はTFE3とは独立していることが考えられた。

次にSmad2存在下でp3TP-Luxの転写活性能を検討した。しかし、Smad2存在する場合、さらにはレセプターで活性化したSmad2が存在する場合でも、Wild-typeとHL2の間に転写活性に差は認められなかった。つまり、Smad4HL2はSmad2がなくともp3TPの活性を上昇させられるものの、Wild-type Smad4の様にSmad2と協調することはできなかった。Smad4HL6はSmad2の転写活性能に全く影響を与えなかった。

Smad4HL2の作用をpAR3-Luxでも検討したが、Smad4HL2による高い転写活性能は認められなかった。これはARF複合体がDNAに結合するのは同複合体中のFAST1が主であり、SmadのpAR3に対する結合は転写活性にほとんど影響を与えないためと考えられた。

Smad4HL2によるp3TP-Lux活性のメカニズムの解明のため、Smad4 chimera蛋白がHomo-oligomer形成するかの検討を行った。FLAGのtagのついたSmad4と6MycのtagのSmad4をCOS7細胞にCo-transfectionした。つぎに、Cell lyseteをFLAGの抗体で免疫沈降して、Mycの抗体でBlotした。Smad4HL2でWild typeに比較して、強いHomo-oligomerのシグナルがみられた。

ΔHLではWild typeと同程度のHomo-oligomerの形成がみられるが、Smad4HL6ではほとんどHomo-oligomerの形成はみられなかった。すなわち、転写活性を有するSmad4は多量体として存在していることが示唆された。

次にSmad4のDNAに対する結合をゲルシフトアッセイで検討した。DNAは3TP promoterの一部であるAP-1を使用している。Wild typeではDNAに対する結合はほとんどみられない。しかし、Smad4HL2ではDNAに対する結合は認められた。さらに、Smad4HL2に抗体を加えると、Bandのsupershiftも認められた。

 Smad4のDNA結合能をDNA-affinity precipitation Assayでも検討した。FLAG-Smad4をCOS7細胞にtransfectionした。その後Cell lyseteをビオチン化したDNAとincubateしたのち、avidinで沈降して、FLAGの抗体でBlotした。

 Smad4HL1とSmad4HL2のDNAに対する結合能がWild typeに比較して強く、Smad4HL6のに対する結合能が弱いことが示唆された。

 以上、まとめると、活性化したSmad複合体は2分子のSmad2と1分子のSmad4から形成されることを示した。in vivoでSmad4がhomo-oligomerを形成する可能性はあるものの、その数は圧倒的に少ない。Smad4がhomo-oligomerを効率的に形成できないのはH3/4loopのためではないかと考えられた。Smad1やSmad2のH3/4loop相同部分はhomo-oligomer形成に重要だが、C端のSSXS motifによってマスクされている。homo-oligomerを形成したSmadはDNAに結合して、転写活性を調節しうる。Smad4HL2の転写活性能はTβR-1(TD)ほどではないものの、Smadのconstitutively acitive formの作成に将来的に役立つものと考えられた。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究はTGFβスーパーファミリーの細胞内情報伝達物質であり癌抑制遺伝子でもあるSmad4の機能を明らかにするために、主に他のSmadとのキメラ蛋白を作成する系をもちいて機能解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。

1. Smad2とSmad4はリセプターの刺激で3量体を形成するが、この中にSmad4が占める割合をIP-Western法を用いて検討した。その結果、Smad2の発現量を変化させてもSmad4同士の結合は認められなかった。すなわち、Smad4は活性型Smad2との3量体の中でも1分子しか存在しないことが示唆された。

2. H3/4loopと命名されたSmad4のMH2領域に認められるに特異的な構造に着目して、他のSmadとのキメラ蛋白とDeletion Mutantの合計4種類を作成した。これらを用いて、Luciferase Assayをおこなった。Reporter Geneとしては主にp3TP-Luxをもちいた。ここで、Smad2とのキメラ蛋白であるSmad4-HL2はdose dependentにp3TPの転写活性を上昇することは認められた。

3. 次にSmad2存在下でp3TP-Luxの転写活性能を検討した。Smad4-HL2はSmad2と協調することはできないことが示された。さらにSmad4-HL2の作用をpAR3-Luxでも検討したが、Smad4-HL2による高い転写活性能は認めないことが示された。

4. Smad4HL2によるp3TP-Lux活性のメカニズムの解明のため、Smad4 chimera蛋白がHomo-oligomer形成するかの検討をIP-Western法を用いて行った。この結果、転写活性を有するSmad4-HL2は多量体として存在していることが示唆された。

5. 次にSmad4-HL2のDNAに対する結合をゲルシフトアッセイとDNA-affinity precipitation Assayで検討した。この結果Smad4HL2のDNAに対する結合能がWild typeに比較して強いことが示された。

 以上、本論文は、活性化したSmad複合体は2分子のSmad2と1分子のSmad4から形成されることを示し、さらにSmadのconstitutive active formであるSmad4-HL2を作成し、そのメカニズムを明らかした。本研究はこれまで未知に等しかったSmad4のMH2領域αhelix3/4loopの機能解明とTGFβスーパーファミリーの関連疾患に対する遺伝子治療に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

UTokyo Repositoryリンク