No | 116422 | |
著者(漢字) | 石原,聡一郎 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | イシハラ,ソウイチロウ | |
標題(和) | ヒト肝リンパ球のα-glycosylceramidesによる抗腫瘍細胞障害活性 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 116422 | |
報告番号 | 甲16422 | |
学位授与日 | 2001.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第1817号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 外科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 背景 糖脂質の一種であるα-galactosylceramide(α-GalCer)やα-glucosylceramide(α-GlcCer)などのα-glycosylceramides(AGC)はマウスの様々な癌モデル、特に大腸癌肝転移モデルで、NKT細胞と呼ばれる特殊なリンパ球集団の活性化を介する抗腫瘍免疫を誘導することが示されており、ヒト癌治療、特に転移性肝癌の免疫療法への応用が期待されている。マウスNKT細胞はレクチン型NK受容体であるNKR-P1C(NK1.1)を発現するT細胞で、肝や骨髄に特異的に集積しているリンパ球である。マウスNKT細胞は、特異的に発現しているVα14 T細胞受容体(TCR)を介し、抗原提示細胞上のCD1d分子に提示されたAGCにより選択的に活性化する。活性化したNKT細胞は、様々なサイトカインを産生し、また強い抗腫瘍細胞傷害活性を発揮することが示されているが、AGCによる抗腫瘍免疫の正確な機序は不明な点が多く、またヒトにおいてもマウス同様に抗腫瘍免疫が誘導されるかどうかは十分検討されていない。 ヒト末梢血中にはマウスVα14 TCRの相同物であるVα24 TCRを発現し、また、マウスNKR-P1Cの類似物であるNKR-P1Aを発現したT細胞が、極めて少数であるが存在する。これらの細胞はマウスNKT細胞と同様にVα24 TCR-CD1d拘束性にAGCによって特異的に活性化することが示されている。しかしながら、これらのマウスNKT細胞に対応する細胞集団がマウス同様にヒト肝へ集積しているかどうかについてはいまだ十分解析されていない。 本研究の目的は、(1)ヒト肝リンパ球(HL)におけるNKR-P1A+T細胞のphenotypeと機能を解析し、(2)AGCによりHLの抗腫瘍細胞傷害活性の増強がみられるかをin vitroで検証することである。 方法 (1) まず、ヒト肝切除標本(大腸癌肝転移4例、胃癌肝転移1例、原発性肝細胞癌1例および健常ドナー肝1例)の正常部肝組織から単核球を分離し、フローサイトメトリーによるphenotypeの解析を行い、患者末梢血単核球と比較した。抗腫瘍細胞傷害活性は、HL中のT細胞(HT)をNKR-P1A+細胞とNKR-P1A-細胞に分けて、4時間51Cr放出法により測定・比較した。サイトカイン産生能は、pholbol 12-myristate 13 acetate(PMA)およびionomycinで活性化し、HTおよび健常人末梢血T細胞(PBT)による腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、インターフェロン-γ(IFN-γ)、インターロイキン-4(IL-4)およびインターロイキン-2(IL-2)の産生を細胞内染色法で染色、フローサイトメトリーで測定・比較した。 (2) 次に、4例の肝癌切除標本(症例1;原発性肝細胞癌、症例2;胃癌肝転移、症例3および症例4;大腸癌肝転移)から得られた肝単核球をAGC(α-GlcCerまたはα-GalCer)あるいはvehicleのみ(0.1% dimethylsulfoxide;DMSO)と共に7日間培養し、抗腫瘍細胞傷害活性および培養細胞中におけるVα24 TCR+細胞の割合を測定した。抗腫瘍細胞傷害活性における直接のエフェクター細胞を同定する為に、培養肝リンパ球をCD3、Vα24 TCRおよびCD56について陽性細胞と陰性細胞に分離し、それぞれの抗腫瘍細胞傷害活性を測定・比較した。また、AGCによる抗腫瘍細胞傷害活性増強効果におけるCD1d分子およびVα24 TCR+細胞の関与を調べるために、特異的抗CD1dおよびVα24 TCR抗体による阻害実験を行った。 結果 (1) HL中におけるNKR-P1A+CD3+細胞の割合は33.2±7.4%で、末梢血リンパ球中における3.6±2.0%より有意に高値であった。HNTの80.2±11.1%がCD8+細胞であった。HNT中におけるVα24 TCR+細胞の割合は、0.4±0.5%と非常に低率であった。また、89.9±9.6%ものHNTが活性化マーカーであるCD69を発現していた。 HNTは種々の腫瘍細胞株に対し、HCTよりも強い細胞傷害活性を示した。また、活性化HTは活性化PBTよりも強いTNF-α、IFN-γ産生能を示した。両者はIL-2産生能においてほぼ同等で、IL-4の産生はほとんどみられなかった。 (2) 肝単核球の抗腫瘍細胞傷害活性は、全症例でAGC(α-GlcCer>α-GalCer)によって増強した。全症例でVα24 TCR+細胞はAGCによって著明に増殖したが、症例3ではα-GlcCerによるVα24 TCR+細胞の増殖はみられなかった(α-GalCerによる増殖はみられた)。 α-GlcCerと共に培養したHL中のCD3-細胞はCD3+細胞よりも著明に強い抗腫瘍細胞傷害活性を示した。また、CD56+細胞はCD56-細胞よりも著明に強い抗腫瘍細胞傷害活性を示した。Vα24 TCR+細胞にはほとんど抗腫瘍細胞傷害活性がみられなかった。 抗CD1d抗体を培養中に添加すると、α-GlcCerによる抗腫瘍細胞傷害活性増強およびVα24 TCR+細胞増殖の両方が阻害された。一方、抗Vα24 TCR抗体は、α-GlcCerによるVα24 TCR+細胞増殖を完全に阻害したが、抗腫瘍細胞傷害活性増強には影響を与えなかった。 総括 (1)の結果から、ヒト肝にはNKR-PlA+T細胞の特異的かつ著明な集積が認められたが、HNTの大多数はCD8+細胞で、Vα24 TCR+細胞の頻度は非常に低く、phenotypeにおいてHNTとマウスNKT細胞は大きく異なっていた。しかし、(2)の結果からAGCはHLの抗腫瘍細胞傷害活性を増強した。直接のエフェクター細胞はCD3- CD56+NK細胞で、Vα24 TCR+細胞ではなかった。また、症例3のHLでα-GlcCerはVα24 TCR+細胞を増殖させなかったが、抗腫瘍細胞傷害活性を増強したという結果と、CD1dおよびVα24 TCRの阻害実験の結果から、AGCによるヒト肝CD3- CD56+NK細胞の活性化において、Vα24 TCR+細胞を必要としない経路の存在が示唆された。 以上から、AGCはヒト肝CD3- CD56+NK細胞の抗腫瘍細胞傷害活性を増強することにより、マウス癌モデルと同様にヒト肝癌(原発性および転移性)に治療的効果をもたらす可能性が示された。 | |
審査要旨 | 本研究はα-glycosylceramides(AGC)のヒト転移性肝癌免疫療法における有効性を検討するために、マウスの系で重要な働きをすると考えられている、肝NKR-P1+ T細胞のphenotypeおよび機能の解析を行うと共に、AGCによるヒト肝リンパ球の抗腫瘍活性増強効果について解析を行ったものである。以下の結果を得ている。 1. NKR-P1A+ T細胞はヒト肝に特異的に集積していたが、CD8+細胞が優勢で、Vα24 T細胞受容体(TCR)+細胞の頻度は非常に低く、マウスNK1.1+ T細胞(マウスNKT細胞)とはphenotypeにおいて非常に異なっていた。また、肝NKR-P1A+ T細胞の大多数が活性化早期のマーカー(CD69)を発現していた。 2. 肝NKR-P1A+ T細胞はNKR-P1A- T細胞よりも、種々の腫瘍細胞株に対して強い細胞傷害活性を示した。 3. AGCにより肝リンパ球の抗腫瘍細胞傷害活性は著明に増加した。肝リンパ球中のVα24 TCR+細胞は著明に増殖したが、抗腫瘍細胞傷害活性の直接のエフェク夕ーはCD3- CD56+ NK細胞であった。K562およびColo201腫瘍細胞株に対するVα24 TCR+細胞の抗腫瘍細胞傷害活性は非常に弱かった。 4. CD1dおよびVα24 TCRの阻害実験から、AGCによるCD3- CD56+ NK細胞の活性化にはVα24 TCR+細胞の活性化を介さない経路が存在する可能性が示唆された。 以上、本論文はAGCがヒト肝CD3- CD56+ NK細胞を活性化することにより、ヒト転移性肝癌に対して治療的効果をもたらす可能性を示唆しており、癌免疫療法の基礎的研究に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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