学位論文要旨



No 116426
著者(漢字) 菅谷,誠
著者(英字)
著者(カナ) スガヤ,マコト
標題(和) 表皮内樹状細胞と角化細胞の相互作用
標題(洋)
報告番号 116426
報告番号 甲16426
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1821号
研究科 医学系研究科
専攻 外科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 波利井,清紀
 東京大学 教授 森,茂郎
 東京大学 助教授 森田,寛
 東京大学 助教授 中村,哲也
 東京大学 講師 吉村,浩太郎
内容要旨 要旨を表示する

 マウス表皮にはランゲルハンス細胞(以下LC)、表皮樹状T細胞(以下DETC)などの樹状を呈する免疫担当細胞が存在する。これらの樹状細胞は、表皮角化細胞(以下KC)の間に存在し、相互にサイトカイン、共刺激分子などを介して接触皮膚炎などの免疫反応が惹起されると考えられている。著者はパンニング法によってDETC、LCを95%以上の純度で精製し、その機能について検討し、KCとの相互作用について解析した。

 まず著者は、主に活性化T細胞が発現すると考えられていたCD40リガンド(CD40L)をLCが発現するか否かについて検討した。Balb/cマウスから精製したLCがCD40Lを発現することをWestern blotting、FACSにて確認した。また新鮮、培養LCのCD40L mRNAの発現をRT-PCRにて確認した。さらにLCの48時間培養上清中に可溶化CD40Lが存在することをWestern blottingにて確認した。LC培養上清中の可溶化CD40Lはマウスマクロファージ株であるJ774.1のCD86の発現を亢進した。またCD40Lノックアウトマウスから精製したLCは、共刺激分子の発現は野生型マウスと同じであったが、IL-12p40の産生が低下していた。以上よりLCがCD40Lを発現し、培養上清中に機能的な可溶化生成物が存在することが示された。

 次にKCとLCが産生することが近年報告された、インターロイキン(IL)-18、IL-12が、DETCのインターフェロンγ(IFNγ)産生を誘導、亢進するかどうかを検討した。C57BL/6マウスのDETCを無刺激で培養した場合には、IFNγは検出されなかった。また、このDETCの培養系にIL-18、IL-12を単独で加えた場合、IFNγ産生は認められなかった。しかしIL-18とIL-12を同時に加えて培養すると、これらのサイトカインによる協調的なDETCのIFNγ産生の誘導及び亢進が認められた。このDETCのIFNγ産生はmRNA、蛋白レベル共に刺激後12時間後より亢進していた。次にIL-18、IL-12刺激下におけるDETCのIFNγ産生量を、同週齢の異なるマウスストレインで比較した場合、Balb/cマウスのDETCによるIFNγ産生はC57BL/6マウスのそれと比較して有意に低値であった。DETCの産生するIFNγはマウスKC株であるPam212細胞のMHC class II抗原の発現を亢進した。以上よりDETCのIFNγ産生はIL-18、IL-12の刺激により誘導され、亢進すること、このIFNγはKCのMHC class II抗原の発現を亢進することが明らかとなった。

 以上のことからマウスの接触皮膚炎においては、感作相においてLCが抗原刺激によってCD40Lを産生し、自らの遊走、サイトカイン産生を亢進すると共に、周囲の細胞にCD40を介するシグナルを送ると考えられた。また惹起相ではKCやLCがIL-18、IL-12を産生し、それらが浸潤してきたT細胞やDETCのIFNγ産生を促進し、炎症反応が進むと考えられた。

審査要旨 要旨を表示する

 マウス表皮には表皮樹状T細胞(以下DETC)、ランゲルハンス細胞(以下LC)といった樹状を呈する免疫担当細胞が存在する。これらの樹状細胞と角化細胞(以下KC)の間にはサイトカイン、共刺激分子などを介する様々な相互作用が存在し、それによって接触皮膚炎などの免疫反応が惹起されると考えられている。本研究はマウス皮膚よりLC、DETCを95%以上の純度で精製し、以下の結果を得た。

 1. 精製したLCのCD40L蛋白及びmRNAの発現を、Western blotting、FACS、RT-PCRにて確認した。

 2. LC48時間培養上清中に可溶化CD40Lが存在することをWestern blottingにて確認した。

 3. LC培養上清中の可溶化CD40Lはマウスマクロファージ株であるJ774.1のCD86の発現を亢進した。

 4. CD40Lノックアウトマウスから精製したLCは、共刺激分子の発現は野生型マウスと同じであったが、IL-12p40の産生が低下していた。

 5. IL-18、IL-12はそれぞれ単独ではDETCのIFNγ産生を亢進しなかったが、同時に加えるとDETCのIFNγ産生を協調的に亢進した。

 6. DETCの産生したIFNγはマウスKC株であるPam212のMHC class IIの発現を亢進した。

 以上のことからマウスの接触皮膚炎においては、感作相においてLCが抗原刺激によってCD40Lを産生し、自らの遊走、サイトカイン産生を亢進すると共に、周囲の細胞にCD40を介するシグナルを送ると考えられた。また惹起相ではKCやLCがIL-18、IL-12を産生し、それらが浸潤してきたT細胞やDETCのIFNγ産生を促進し、炎症反応が進むと考えられた。このように本研究において判明したLCによるCD40Lの発現及びIL-18, IL-12によるDETCのIFNγ産生は、マウスの接触皮膚炎において重要な役割を果たしており、接触皮膚炎の治療へ重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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