学位論文要旨



No 116427
著者(漢字) 多田,弥生
著者(英字)
著者(カナ) タダ,ヤヨイ
標題(和) ランゲルハンス細胞におけるIL-12産生調節機構
標題(洋)
報告番号 116427
報告番号 甲16427
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1822号
研究科 医学系研究科
専攻 外科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 木村,哲
 東京大学 教授 田原,秀晃
 東京大学 助教授 森田,寛
 東京大学 助教授 中村,哲也
 東京大学 講師 武内,巧
内容要旨 要旨を表示する

 IL-12は主に抗原提示細胞により産生されるサイトカインで、T細胞やNK細胞を活性化してIFN-γの産生を誘導する。さらに、このIFN-γの産生誘導とも関連してnaive T細胞をTh1系へと強力に誘導し、様々な免疫反応におけるTh1/Th2バランスを制御する。ランゲルハンス細胞(LC)においては、最近、ヒトランゲルハンス細胞がIL-12を産生することが報告されたが、その産生調節機構についてはいまだ不明な点が多い。そこで、我々は抗I-Ad抗体を用いたパンニング法によりBALB/cマウス皮膚から高純度のLC(>95%)を精製し、そのIL-12産生調節機構について検討したので報告する。まず、ELISAを用いた解析で、この精製したLCがIL-12 p40を産生し、また、抗CD40抗体とIFN-γによる刺激が、他の抗原提示細胞と同様に、その産生を亢進することを確認した。次に、特にLCの分化、成熟に重要なGM-CSFとTGF-βに注目してLCのIL-12産生調節機構について解析した。驚くべきことにGM-CSFは抗CD40抗体/IFN-γ刺激下LCのIL-12p40産生を強く抑制した(抑制率=97.0±0.9% : GM-CSF 1 ng/ml)。また、IL-12に反応性のT細胞クローンである2D6細胞を用いたbioassayでは、IL-12p 40の結果が実際のIL-12活性の変化を反映したものであることを確認した。皮膚においてGM-CSFの主な産生細胞はケラチノサイト(KC)であるので、実際にKCにより産生されたGM-CSFがLCのIL-12 p40産生を抑制できるかどうかを調べた。予想通り、KCの48時間培養上清もLCのIL-12 p40産生を抑制し、この抑制は抗GM-CSF抗体により中和された。IL-1α(1 ng/m)刺激下KCは無刺激下KCと比較しGM-CSFの産生が亢進しており(60.9±0.2pg/ml vs 20.9±1.7pg/ml)、その培養上清はより強力に抗CD40抗体/IFN-γ刺激下LCのIL-12 p40産生を抑制した(抑制率=89.4±1.4% vs 58.2±8.3%)。KCにより産生されるGM-CSFがLCのIL-12産生を強く抑制するという今回の結果は、Th2系疾患であるアトピー性皮膚炎(AD)患者のKCではGM-CSFの産生が亢進しているという事実と照らし合わせ、その病態を考えるうえで大変興味深いと思われた。

 次にTGF-βによるLCのIL-12産生調節機構につき検討した。まず、半定量的RT-PCRによってはじめてLCがKCとともにTGF-βII型受容体を有することを証明した。続けて、TGF-β1がLCのCD40発現を抑制するにもかかわらず、抗CD40抗体/IFN-γ刺激下LCのIL-12 p40産生を促進することを観察した。2D6細胞を用いたbioassayは、この結果が実際のIL-12生理活性を反映したものであることを示した。さらに、GM-CSFとTGF-βの両者の量的バランスがLCのIL-12産生量を決定するという重要な知見を得た。

 以上、我々は皮膚微小環境において、GM-CSFとTGF-βがTh1/Th2バランスを決定する重要なサイトカインであることを示した。これら2つのサイトカインの皮膚での産生機序、量的バランスを検討することは、様々なTh1系、Th2系の皮膚疾患の病態の理解と治療につながると考える。

審査要旨 要旨を表示する

 IL-12はTヘルパー細胞亜集団バランスをTh1寄りに制御する重要な因子であることが知られている。本研究はマウスランゲルハンス細胞(LC)のIL-12産生に及ぼすGM-CSFとTGF-βの影響を検討したものであり、下記の結果を得ている。

1. ELISAを用いた解析で、パンニング法により精製されたLCがIL-12 p40を産生し、また、抗CD40抗体とIFN-γによる刺激が、その産生を亢進することが示された。

2. GM-CSFが抗CD40抗体/IFN-γ刺激下LCのIL-12 p40産生を強く抑制し、また、IL-12に反応性のT細胞クローンである2D6細胞を用いたbioassayで、IL-12 p40の結果が実際のIL-12活性の変化を反映したものであることが示された。

3. 皮膚におけるGM-CSFの主な産生細胞であるケラチノサイト(KC)の培養上清もLCのIL-12 p40産生を抑制し、この抑制が抗GM-CSF抗体により中和されたことより、KCの産生するGM-CSFがLCのIL-12産生を抑制することが示された。

4. 半定量的RT-PCRによってLCがKCとともにTGF-βII型受容体を有することが証明された。また、TGF-βがLCのCD40発現を抑制するにもかかわらず、抗CD40抗体/IFN-γ刺激下LCのIL-12 p40産生を促進することが示された。2D6細胞を用いたbioassayにより、この結果が実際のIL-12生理活性を反映したものであることが示された。さらに、GM-CSFとTGF-βの両者の量的バランスがLCのIL-12産生量を決定することが示された。

 以上、本論文は皮膚微小環境において、GM-CSFとTGF-βがTh1/Th2バランスを決定する重要なサイトカインであることを明らかにした。本研究は、様々なTh1系、Th2系の皮膚疾患の病態の理解と治療につながると考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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