学位論文要旨



No 116432
著者(漢字) 高柳,広
著者(英字)
著者(カナ) タカヤナギ,ヒロシ
標題(和) 慢性関節リウマチ骨破壊における破骨細胞の形成機構と制御に関する研究
標題(洋)
報告番号 116432
報告番号 甲16432
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1827号
研究科 医学系研究科
専攻 外科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 山本,一彦
 東京大学 教授 谷口,維紹
 東京大学 教授 高戸,毅
 東京大学 助教授 朝戸,裕貴
 東京大学 助教授 菊池,かな子
内容要旨 要旨を表示する

 慢性関節リウマチ(RA)の治療の重大な課題は、骨破壊の制御である。そこで、リウマチ滑膜における骨破壊のメカニズムを検討し、新たな治療アプローチに結びつけることを目的として研究を行った。

 第1章においては、滑膜細胞培養系を用いて滑膜における破骨細胞形成を証明し、この分化誘導にはTNFファミリーに属する膜タンパクであるRANKL(receptor activator of NF-KB ligand)を介していることを明らかにした。この結果は、滑膜組織が破骨細胞を積極的に誘導することで、RA骨破壊において非常に重要な役割を果たすことを示唆している。

 第2章では、さらに、この結果をふまえ、RA骨破壊のeffector phaseで重要な役割をはたす滑膜細胞と破骨細胞をターゲットとして骨破壊を直接防止する新たな遺伝子治療をラットの実験的関節炎を用いて検討した。破骨細胞機能に不可欠であると同時に、滑膜細胞の増殖や転写亢進に重要な役割をはたすSrc型チロシンキナーゼに注目し、その活性を負にコントロールするチロシンキナーゼであるCsk(c-terminal Src kinase)をアデノウイルスを用いて遺伝子導入することでSrcの細胞内シグナル伝達系をブロックし、関節炎性骨破壊を制御することを試みた。

 第3章では、免疫系の活性化が破骨細胞分化を誘導する機構をさらに解析した。T細胞による破骨細胞分化制御機構を詳細に調べることで、T細胞が産生するインターフェロン-γ(IFN-γ)がRANKのアダプター分子であるTRAF6(tumor necrosis factor receptor associated factor 6)の分解促進を介して破骨細胞分化を抑制し、炎症性骨破壊に防御的効果を持つことを明らかにした。これらの結果から、RA骨破壊は、RANKLとIFN-γのバランスに立脚した免疫系による骨吸収制御機構の異常の結果引き起こされており、その制御が重要な治療アプローチとなることが明らかとなった。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は、慢性関節リウマチ(RA)における主要な症状の一つであり、治療上も大きな問題となる骨の破壊の病態を明らかにし、その治療に役立てるために、滑膜における破骨細胞の形成機構とその分化制御について詳細に検討したものであり、下記の結果を得ている。

1. RA滑膜細胞を活性化ビタミンD3およびマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)存在下で2-3週間培養することにより、他のストローマ様細胞の共存なしで、破骨細胞が形成された。また、RA滑膜線維芽細胞と末梢血単球の共存培養でも破骨細胞が形成された。滑膜線維芽細胞は、活性化ビタミンD3の刺激によって、破骨細胞分化因子RANKL mRNAの発現が亢進した。この誘導能は、RANKLの阻害受容体OPG(osteoprotegerin)により消失したことから、滑膜線維芽細胞による破骨細胞分化誘導はRANKLを介していることが明らかになった。RA滑膜組織は、RANKLを発現して活発に破骨細胞を誘導する組織であることが示された。

2. チロシンキナーゼSrcの活性を抑制するキナーゼであるCskをアデノウイルスベクターを用いてRA滑膜細胞に発現させると、滑膜細胞増殖率は急激に低下し、BrdUの取り込み細胞率は非感染細胞のほぼ10%以下となった。また、Cskにより、滑膜細胞によるIL-6産生も強く抑制された。滑膜細胞から誘導された破骨細胞による吸収窩の形成は、Cskの発現により用量依存性に強力に抑制された。さらに、Cskウイルスの関節内への注入によりRA動物モデルの一つであるラットアジュバント関節炎における足関節浮腫率、関節炎スコアは有意に改善し、病理組織学的にも骨破壊の抑制効果が示された。このように、Cskによるc-Srcシグナルの阻害は関節炎および破骨細胞性骨吸収の抑制に有効であった。RA等の関節炎性骨破壊において、破骨細胞を標的とした治療が有効であることが示された。

3. IFN-γ受容体欠損マウスにおいて、LPSによる炎症性骨破壊は増悪し、破骨細胞形成の亢進が見られた。IFN-γは、T細胞性免疫反応による骨破壊において防御的に作用していることが示唆された。活性化T細胞は、細胞数に依存して破骨細胞分化を抑制したが、IFN-γ受容体欠損マウスのマクロファージに対しては、活性化T細胞による破骨細胞分化抑制効果は見られなかった。IFN-γは破骨細胞前駆細胞に直接作用して強力に破骨細胞分化を抑制した。IFN-γは、RANKLによるNF-KBおよびJNKの活性化をともに抑制していた。これは、これらの上流に位置するシグナル分子であるTRAF6のタンパク発現量の低下に起因しており、レトロウイルスベクターによってTRAF6を過剰発現させることによってIFN-γによる破骨細胞分化の抑制がレスキューされた。さらに、IFN-γはユビキチン・プロテアソーム系を活性化することで、TRAF6タンパク分解を促進していることが示され、IFNシグナルとTNFシグナルの新たなクロストークが明らかとなった。IFN-γは、炎症性組織破壊に保護的に作用することが明かとなり、この作用の標的分子であるTRAF6を抑制することで、骨破壊抑制に選択的な効果をもつ治療法の開発が可能となることが示された。

 以上、本論文は、慢性関節リウマチ骨破壊の病態を詳細に検討し、破骨細胞が形成される機構をT細胞免疫系による骨代謝制御の異常という新たな観点で解析し、破骨細胞を標的とした治療の可能性を開いたと考えられ、リウマチ学および骨免疫学に重要な貢献をなし、学位の授与に値するものと考えられる。

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